【第三話:都忘れ】

紬「あら?梓ちゃん?」

梓「あ……この前の!」

まさかこんな所でむったんの恩人に会えるとは思っとみなかった。


紬「私に仕事を依頼した人と待ち合わせしてるの~」

奇遇だ。

梓「私も待ち合わせしているんです!」

紬「もしかして男の人と……」

梓「ち、違います!」

私が待ち合わせしてる人は憂だ。
この前の事がきっかけで私達はお互い良い友人となった。

紬「男の人じゃないのね!よかったわぁ~」

何がよかったのかよく分からないが……ここは触れないようにしておこう。

憂「あ!梓ちゃん……と紬さん?」

梓「あ、憂!」

紬「憂ちゃん!」

私達はお互いに目を合わせた。

憂「あれ?何で紬さんが……」

紬「待ち合わせしてたから~」

憂「あ、あれ?明日じゃ……」

紬「明日は雨の予感がするから今日貴女の探し物を探したいの!」

唯「ワン!」

今日探し物をするって……憂が来なかったらどうしてたんだろこの人。

梓「と言うか紬さんも憂と待ち合わせしてたんですね」

紬「そうよ~あ、団子三つ下さいな」

純「は~い」

梓「唯、こんにちは」

唯「ワン!」

紬「で憂ちゃん探し物の件なんだけど……」

憂は何かを無くしたらしい。
何を無くしたんだろう。

ん?よく見れば唯の首に巻き付けられていた都忘れの花柄の布が無い。

唯「ワン!」

梓「唯、首に巻いてた布はどうしたの?」

紬「それを今から探すのよ~」

梓「あぁ、そうなんだ」

紬さんに頼む程あの布は大事な物らしい。
私はただ可愛いと言う理由で唯に付けていただけだと思っていた。

憂「紬さんお願いしますね!」

紬「えぇ!任せて!」

紬「それじゃあ探しましょ?」

憂「え?でも梓ちゃんと遊ぶ約束が……」

梓「ううん、大丈夫だよ。それに私も一緒に探すから」

憂「本当!?」

唯「ワン!」

紬「随分と友達思いなのね~ただの売れない絵師だと思っていたわぁ!」

またこの人はそんな事を言う。
凄く意地悪奴め!

紬「憂ちゃん何処で無くしたか分かる?」

憂「分かりません……」

紬「分からないのね」

私の猫を簡単に探して見せた紬さんでも今回ばかりはそうも行かないらしい。

長く考えた末、言った一言が……。

紬「神社で神様に見付かるようにお願いしましょ!」

唯「ワン!」

神社へと神頼みをしに来た紬さんと憂はすぐに賽銭箱に金を入れ手を合わせ祈った。

お金なんて持ち合わせていない私は祈るだけだったけど……。

憂はこの神社で和さんと言う人と二人で住んでいる。

社から少し離れた所にある寺子屋。
ここで憂は子供達に字の読み書きを教えていると言う事をこの前聞いた。

紬「あら?梓ちゃんは賽銭箱にお金を入れないの?」

梓「うっ……!」

紬「お金を納めず神様に頼み事をするなんて浅はかね~」

梓「うぅっ!」

紬「物事には必ず犠牲が付き物なのよ?私達はお金と言う犠牲を払って憂ちゃんの探し物を探そうとしているのに梓ちゃんと来たら……やれやれだわぁ~」

何と言う性格の悪さ。
黙っていれば美人なのに……あぁ、勿体ない。

梓「お金を入れればいいんでしょ!もう!」

チャリン……はぁ今日の晩飯はまた沢庵だけか……米が食べたい。

和「あら?賽銭ありがとうございます」

憂「あぁ!和さん!」

唯「ワン!」

紬「この人はどなた?」

憂「ここの神社の神主さんの和さんです」

紬「それはそれは、こんにちはぁ~」

和「こんにちは」

梓「…………はぁ」

和「梓ちゃんどうしたの?ため息なんてついて」

梓「うぅ……何でも無いです」

紬「梓ちゃんそんな顔しないの神様が見てるわよ」

こっちは無い金を賽銭箱に入れたのによく言うよ。

憂「あの……見付かりました?」

和「いいえ。社の中には無いわね」

憂「そうですか……」

紬「あ、そう言えばどうして無くなったのかまだ聞いて無かったわね。憂ちゃん話してみて?」

憂「はい……お姉ちゃんと散歩をして神社に帰ってお姉ちゃんの首を見たら無くなってました」

梓「じゃあ散歩していた道を探れば!」

紬「風で飛ばされて無いんじゃない?」

和「そうよね……」

梓「私の猫を探した時みたくすぐに見つけられないんですか?」

紬「無理だわ」

梓「そうですか……」

紬「街を網羅してる私でも行動が分からない物を探すのはとっても苦労するの~」

梓「え?物は行動したないですよ」

紬「風で飛ばされたり人が持ち帰ったりで行動するでしょう?」

梓「あぁ、そっか」

憂「……やっぱり無理なんですか?」

紬「いいえ!物事は何でもやってみないと分からないわ。必ず憂ちゃんの探し物を見付けるから安心して」

憂「……はい」

紬さんは私には言いたい事をずけずけと言うのに憂が相手だと随分優しい。

紬「じゃあ神社の周辺を探しましょう?」

憂「そうですね!」

梓「あ……唯の鼻を頼りに探して見たらどうですか?」

紬「それが出来たのならもうやってるわ。今朝、雨が降ったのよ?匂いは消えてるわ」

梓「そっか……」

唯「ワン!ワン!」

梓「はぁ~無いですね」

紬「そうね~日が落ちそうだし明後日にする?」

憂「はい……」

何だか元気が無い。
彼女の沈んでる顔を見るとこっちまで気分が沈みそうだ。

梓「憂……必ず見付かるから元気だして……ね?」

憂「うん……うん……」

憂「…………うぅっ」

梓「ど、どうしたの?」

憂「ぐすっ……お姉ちゃんの……大事な物なのに……無くしちゃった……ううっ」

憂は泣いていた。
本当に大事な物を無くした時……人はこうなるだろう。

憂はただ泣いて唯にひたすら謝っている。
ごめんね……ごめんね……と。

唯「クゥーン……」

紬「明日も探すわ……」

憂「……え?」

紬「明日も探す」

憂「ほ、本当ですか?ぐすっ」

紬「えぇ」

彼女とは短い付き合いだが分かった事が二つある。

一つは自分の言った事は絶対に曲げない事。
二つは人が涙く姿を見れば自分の言った事を曲げる事。

彼女が憂に甘い理由が何となく分かったよ。

梓「じゃあ私は帰るから。明日絶対見付けようね!」

憂「うん……梓ちゃんありがとう」

紬「私も今日は帰るわ」

憂「紬さんもありがとうございます」

紬「いいのよ」

梓「じゃあ憂さようなら」

憂「うん!さようなら」

私達は別れた。
この後、憂を神社まで送っていれば……あんな事にはならなかったのに。
この日の事を私は強く悔やんでいる。


第三話
おわり



4
最終更新:2010年10月17日 22:00