【第四話:別れ】
痛い……痛い……。
憂「うわぁああぁあああやめて……やめてぇええええ」
三人の男によって臓腑が掻き乱される。
憂「あぐっ助けてぐふぅっ……お姉ちゃん助けてぇえええ!」
憂「お姉ちゃん……あぁぐっお姉ちゃん、ぐっ助け……助けて」
お姉ちゃん何時ものように……私を助けて……。
……
梓「……え?」
和「だから憂は昨日貴女達の出掛けてから帰っていないの」
紬「それは本当なの?」
和「えぇ……貴女達憂に何か言ったりした?」
梓「い、いえ……何も言ってません……」
どう言う事だ。
憂が昨日、私達と出掛けてから帰っていない?
彼女に何かあったのだろうか……。
紬「とりあえず憂ちゃん達を探してみない?」
梓「は、はい……そうですね」
和「本当に……何があったのかしら……」
梓「…………」
紬「梓ちゃん行くわよ」
梓「……はい」
和「私は……寺子屋の子供達に読み書きを教えないといけないから……」
紬「分かってますよ。憂ちゃんは私達で必ず探してみせますから」
和「お願いね……」
…
梓「憂ぃー!憂ぃー!」
紬「どうして帰らなかったのかしら?」
梓「……え?道が分からなくなったとか……?」
自分でもため息が出るぐらいの憶測だ。
紬「和ちゃんは昨日帰らなかったと言っていたわ……どうして?」
梓「分かりませんよ……」
紬「考えられる事は一つよね……」
梓「何か分かるんですか?」
紬「恐らく……私達と別れた後も憂ちゃんは布を探し続けていたと思うわ」
梓「無くなってしまったのを泣いて悔やむぐらい大事な物ですからね……そりゃあ探し続けますよ」
紬「日が沈み……暗くなるまで探していた……」
梓「まさか……誘拐されたとか……」
紬「多分……そうだと思うわ」
梓「だったら吉原に行きましょう!あそこならいるかも知れません!」
紬「無理だわ……女は吉原には入れないわ。吉原は男の為だけの場所……私達が誘拐されない限り絶対に入れない」
梓「じゃあ憂は……」
私達と別れ日が沈んだ後……誘拐され吉原の遊女屋に売られた?
梓「そんな……酷い」
紬「だから男は嫌いなのよ……」
梓「あ、唯は何処に行ったんですかね?」
紬「分からないわ……犬が集まりそうな場所は知っているけど此処からは遠いし唯がそこに居るとは思わないわ」
梓「じゃあ唯は……」
紬「誘拐された時に殺された……それが1番先に思い付くわ」
憂は誘拐され……唯は殺された……。
紬「梓ちゃん希望は捨てちゃダメよ彼女達はきっと何処かで生きているわ」
紬さんは私に希望を捨てちゃダメと言ったが私にはそれは出来なかった。
唯は殺され、憂は遊女屋に売られ男達に無理矢理犯される。
この考えだけが頭に張り付いて離れない。
希望を持つ余裕は今の私には無かった。
無理矢理持とうとしても無理だ。
紬「あら?あの人だかりは何かしら?」
梓「……人だかり?」
紬「行ってみましょう」
梓「は、はい!」
ここら辺には田んぼしかない。
人だかりが出来る理由はきっと憂が関係しているだろう。
人だかりを掻き分け私は見た。
梓「そんな……」
獣に噛まれた様な傷を残し倒れる男の死体と頭部が無い唯の死体を……私は見た。
唯が……死んだ。
目眩がして頭がクラクラする。
梓「唯……唯……」
紬「………………」
頭部が無い唯の体と男の死体。
微かな腐臭が漂い私は耐え切れずその場で吐いた。
梓「そんな……唯……」
紬「唯の死体を埋めましょう」
紬さんはただポツリと呟くと小さな体の唯を抱き抱えた。
和「誰が唯をこんな目に……」
神社へと戻り唯を埋めた私達は線香をあげながら考えた。
梓「やっぱり一緒に死んでいたあの男が……」
紬「男の死体には獣の噛み傷の他に刀傷があったわ」
梓「……え?」
紬「昨日の今朝雨が降っていたでしょう?」
梓「え……あ、はい」
紬「雨でぬかるんだ地面が太陽の日差しによって固まり……地面に足跡がくっきりと残っていたわ」
紬「地面の足跡の形からすると唯と裸足の憂……草履を履いた男が三人その内一人はあの死体」
梓「紬さん……?」
紬「ごめんなさい話しかけないで貰える?考えを頭の中で纏めているから……」
梓「……すいません」
紬「草履を履いた男二人は逃げたようね……地面には点々と足跡が残っていたわ」
紬「憂ちゃんは生きてるわ誘拐されてなんかいないわ……あの裸足の足跡からすると逃げたようね」
和「じゃあ憂は……」
紬「多分……生きていると思うわ全ては憶測……確信するにはまだ早いけど」
梓「あの男の死体は……?」
紬「憂ちゃんが殺したんじゃないかしら?そうとしか思えないわ」
和「でも非力な憂が……大の男を一人殺せるの?」
紬「唯よ……唯が憂ちゃんを助けてくれた。唯が男に噛み付き怯んだ所で憂ちゃんは男から刀を奪った」
梓「だから……刀の傷が……」
紬「だけど……おかしいわ……無数に男の体にあった噛まれたような傷。あれは唯ちゃんなのかしら?」
和「どう言う事?」
紬「だって男の体の噛まれた傷と唯ちゃんの口じゃ大きさが全然違うもの」
梓「大きさが違う?」
紬「えぇ違うわ……そろそろ憂ちゃんを探しに行きましょう」
梓「生きてるかも知れないですしね……私も手伝います」
和「憂が帰って来るかも知れないから私はここで待っておくわ」
紬「えぇ!お願いね。憂ちゃんを必ず探して見せるわ」
和「お願いね……血は繋がってはいないけど私の大事な家族なの」
紬「分かったわ!それじゃあ行きましょう梓ちゃん」
梓「は、はい!」
紬さんの憶測を聞いて私は憂が生きているという可能性を見出だした。
私の数少ない友達……。
必ず私と紬さんで探して見せる。
だけど、憂は何処へ行ってしまったの?
男を殺した後、憂は何処へ行ったのか?
友達と言えど短い付き合いだ行きそうな場所も思い付かない。
梓「それにしても紬さん凄いですね。あの死体を見ただけであそこまで読み取れるなんて」
紬「探し物を探すのが私の仕事だから……」
梓「憂見付かると良いですね」
紬「見付かるわ必ず」
紬「はぁ…………」
紬さんが何故ため息をついたか大体予想が付く。
灰色の雲が空を支配して雨を降らせていたからだ。
紬「雨だわ……」
梓「よかったですね。雨が降る前に足跡とかが見れて!」
励まして言ったつもりだが睨まれてしまった。
彼女の顔には私に話しかけるなと書いてあるようだった。
触らぬ神に祟り無し。
今は彼女の存在を忘れて憂を探す事に専念しよう。
梓「はぁ……見付からない」
未だに雨は止まずに振り続けている。
憂を探し初めてから時間は結構経ったと思うのに……手掛かり無し。
憂は本当は死んだのでは無いか?そんな考えがまた、私の頭を支配し始めた。
「し、死体だぁあああ死体だぁあああ」
梓「物騒だなぁ……」
紬「行くわよ梓ちゃん憂ちゃんと何か関係があるのかもしれないわ」
梓「え?あ、はい……」
梓「あ、あぁぁ……」
まただ。
「誰か番屋に知らせろ!」
また……噛み傷。
紬「…………」
男の死体には噛み傷があった。
梓「これって……」
「獣だ!獣の仕業だァ!」
憂がこの人を殺したの?
紬「噛み傷の大きさも履いている草履も同じだわ……」
梓「はぁ……」
やはり死体を見ると言うのはいい気分ではない。
紬「最初に死んだ男と同じ草履に同じ噛み傷……」
梓「やっぱり憂と関係があるんですかね?」
紬「恐らく関係あるわ……」
憂が下手人となる……最初出会った時はこんな事思いもしなかった。
無惨にも噛み殺された男の死体を二度見ると言うのも思いもしなかった。
紬「私もう一度死体を見てくるわ」
梓「あ、はい……」
紬「梓ちゃんは此処で待っててね」
梓「はい……」
よくあんな死体を何度も見れるものだ。
探し屋だから……死体を探したりした事もあるとか?
流石にそれは無いか……。
梓「憂……」
もし男を殺した人が憂なら……どうして人を殺す?
唯を殺された復讐に殺すのか?
あの温厚で暖かい笑顔を見せる憂が人を殺す……あの憂が人を殺す。
大切な人を殺されたら人間誰しもそうなるのか?
私には分からない。
大切な人がいない私には分からない。
紬「帰って来たわ梓ちゃん」
梓「あ、紬さん……何か分かりましたか?」
紬「えぇ、とっても良い情報が手に入ったわ」
梓「……とっても良い情報?」
紬「もしかしたら今日中に憂ちゃんを見付ける事が出来るかもしれないわ」
梓「ほ、本当ですか?」
紬「えぇ本当よ」
紬「ついさっき見た死体の男、実は三兄弟らしいの」
梓「三兄弟?」
紬「女を襲い誘拐して遊女屋に売り金を貰う三兄弟はそれで生活していたらしいの」
梓「そんな……そんなの最低です!」
紬「私も同感だわ。しかもその三兄弟、憂ちゃんの住んでいる神社の近くでよく誘拐をしていたらしいわ」
梓「あれ……?もしかして……」
紬「最初に私達が見た死体……あれはゲス三兄弟の次男らしわよ」
梓「ついさっき見た男の死体は……?」
紬「三男よ」
もし憂が唯を殺された復讐をしているのなら。
次に向かう所は……。
梓「長男……三兄弟の長男の家に向かいましょう」
紬「言われなくても分かっているわ」
もし、紬さんが言う事が全て当たって入れば。
憂は必ずそこに現れる。
最終更新:2010年10月17日 22:01