アットウィキロゴ
夜になり満月の月明かりに照らされながら私達は長男の家を見張った。

紬「月が綺麗ね……こんな月が綺麗な夜に死体なんか見たくなかったわ」

同感だ。
私も見たくはなかった。

そう言えば……憂に布を探してあげる約束をまだ果たしていない。

今日、憂が見付かったら……一緒に探してあげよう。

私の唯一の友達の約束ぐらいはちゃんと守ってやららないと……。

紬「…………」

紬さんはただ黙って長男の家を見据えていた。

不幸中の幸いか雨は止んでいた。

梓「憂……はやっぱり復讐してるんですかね?」

紬「分からないわ。私は人の心は読めないから……本人に聞いてみたらどう?」

梓「……はい、見付かったら聞いてみます」

ガタン……っと長男の家から音が聞こえた。

私は身を乗り出し長男の家へ向かおうとしたが紬さんは左手で私を制した。

紬「転んだだけかもしれないわ」

梓「で、でも一応行った方がいいんじゃ……」

「ギャアアアアアア」

断末魔の叫び声が聞こえた。

紬「憂ちゃんだわ!梓ちゃん行くわよ!」

梓「は、はい!」


梓「う、憂!」

扉を勢いよく蹴り開けると男の悲鳴と獣の唸り声が聞こえた。

憂の姿も男の姿もまだ確認は出来ない。

紬「とりあえず悲鳴が聞こえた方へ行って……」

私と紬さんの前に何かが現れた。

その何かは男の喉元に喰らい付き鋭い目付きで私を見据えている。
髪の毛はボサボサで服を着ていないその何かは右手に丸い物を持っていた。

あれは……。

梓「唯の頭……」

紬「憂……ちゃん?」

憂「…………誰?」

まるで私の目の前にいる人は憂では無いような気がした。

姿は憂何だけど……憂とは別の人みたいだった。

まだ……あどけなさが残るあの瞳……あれは間違いなく憂だ。

梓「憂……憂!」

憂「あなた達も私の妹をき、傷付けるの?」

梓「憂……私は傷付けたりしないよ?」

憂「……私は貴女達を知ってるよ……私の首に巻き付いていた大事な都忘れの花柄の布……憂と一緒に探してくれた」

紬「憂ちゃん……?」

憂「ありがとう……ありがとう……ありがとう……」

私達に礼を言った後……憂は倒れた。

梓「う、憂!」

紬「とりあえず……此処まで運べば安心ね」

梓「はい……」

私達はあの場所にいる分けにも行かないので二人で少し離れた桟橋へと憂を運んだ。

憂「…………」

何故、私達と会った時の憂は誰?と聞いて来たのだろう。

倒れながらも唯の頭を離さない憂を見ながら考えるが何も分からない。

紬さんは桟橋の下の川を見ていた。
その姿は悲しみと戦っているようにも思えた。

憂は見付かった。
だけど、復讐と言えど人を三人も殺している。

梓「…………」

私達はただ少し暖かくなった風に黄昏れる事しか出来なかった。

憂「ん……うぅっ」

梓「憂!紬さん!憂が目を覚ましました」

憂「梓ちゃん……?」

梓「う、憂ぃ!大丈夫なの?」

憂「……うん、そっかお姉ちゃんもういないんだ」

紬「…………」

梓「うん……唯はもう……」

憂「お姉ちゃん私を守ってくれた……」

梓「……え?」

憂「ずっと私を守ってくれた……あの男達からも私を……お姉ちゃん……お姉ちゃん……」

憂はまた私達に涙を見せた。
唯の頭を抱き締めながらひたすら泣いていた。

憂は守ってくれたと言っていた。
唯が私を守ってくれたと言っていた。

憂「うぅ……お姉ちゃんお姉ちゃん……」

死んだ唯がどうやって憂を守る?
いいや、今はそんな事どうだって良い。

今はただ憂を慰めよう。
私では彼女を慰められるか分からないけど……力の限り彼女を慰めてやろう。

私が彼女の肩に手を置こうとした瞬間に彼女は立ち上がった。

憂「……さようなら」

梓「え……?」

憂は走り出した。
桟橋の先まで彼女は走り出し止まった。

梓「憂!」

紬「憂ちゃん!」

彼女は私達の呼び掛けに振り返る事も無く川を見ていた。

憂「お姉ちゃんありがとう……私を守ってくれて今度は私が守ってあげるからね……」


―――思えばずっとお姉ちゃんが私を守ってくれた。生きている時も犬に生まれ変わった時も……死んだ時もずっとお姉ちゃんが私を守ってくれていた―――

憂「さようなら……梓ちゃん紬さん和さん」

憂は桟橋から身を投げた。

梓「憂……憂ぃ!」

―――冷酷なまでに寒い水の中で私はお姉ちゃんを抱き締める。微かだけど確かな暖かさを感じた。次は私がお姉ちゃんを守ってあげるからね―――

遺体はいくら待っても上がっては来なかった。おかげで憂は何処かで生きている……私は毎日そんな事を思うようになった。


和「それじゃあ憂は…………」

紬「はい……」

憂は何故、桟橋から身を投げたのだろう。
きっと、死んだ姉を欲するあまり……耐えられなくなったんだと思う。

紬「それじゃあ私達はお参りをしてから……」

和「……うん」

紬「賽銭箱に行くわよ梓ちゃん」

梓「あ……は、はい」

和さんと別れた私達は賽銭箱の前に座った。

梓「何故、憂は私達と会った時に誰?と言ったんでしょうね……」

紬「あれは憂ちゃんではなく唯ちゃんよ」

梓「……え?でも、唯は死んだはずじゃ……」

紬「確かに唯ちゃんは死んだ……でも、彼女の魂までは死んでいないわ」

梓「魂……?」

紬「襲われ汚され自分を守ってくれるのは唯しかいない……なのに唯は死んでしまった」

梓「…………」

紬「憂ちゃんは恐怖からの守護を欲していたのよ。欲するあまり……死んだ唯の魂が彼女に乗り移り憂は唯となって獣と化した」

梓「獣……」

長男を殺した時に憂を見た違和感……もしかして本当に唯の魂が憂に乗り移っていたのか?

紬「そうして蘇った唯は憂ちゃんを傷付けた人を……殺していった」

梓「まさか……そんな事って有り得るんですかね?」

紬「分からない……分からないわ……彼女達は二人で唯一。彼女達の事は彼女達に聞いてみないと分からないわ」

梓「…………」

憂が身投げをした後、長男の家の前に落ちていた着物を袖から取り出す。

梓「でも憂は……」

紬「………………」


紬「あら?それは憂ちゃんの着物よね?」

梓「あぁ……はい」

紬「じゃーんこれなーんだ?」

梓「あぁ!」

紬さんが自信満々に私に見せた物。
それは都忘れの花柄の布だった。

梓「み、見付けたんですか?」

紬「えぇ!苦労したのよ~。そこで私に一つ提案があるんだけど聞いてくれるわよね?」

梓「提案?」

紬「梓ちゃんが持ってる布を貸してちょうだい?」

梓「いいですけど……何するんですか」

紬「いいからいいから」

私は持っていた布を紬さんに渡した。
紬さんは憂の布と唯の布を結び付ける。

梓「何するんですか?」

紬「神頼みよ~布を賽銭箱に入れて二人が次に生まれ変わる時は幸せになりますようにってお祈りしましょ?」

梓「紬さん……いいですね!それ!」

私達は二人で布を賽銭箱に無理矢理押し込み入れた。

手を二回叩いて二人の幸せを神に祈った。
憂と唯は二人で唯一。

梓「これで次に二人が生まれる時は幸せになりますね!」

紬「えぇ!より強い絆で結ばれるわ」

梓「はい!」

紬「梓ちゃん都忘れの花言葉って知ってる?」

梓「え?何ですか?いきなり」

紬「都忘れの花言葉は別れって言うらしいわよ」

梓「……別れ」

今の私達にピッタリの花言葉だ。
だけど、私達は憂や唯と別れても彼女達は別れてはいない。
唯と憂は二人で一つ。

もう一度手を合わせ祈ってみる。
唯と憂が来世で幸せになりますように。


第四話
おわり



6
最終更新:2010年10月17日 22:02