こんにちは、平沢憂です。
いきなりですが、グレてみることにします。
いっつもグータラしているお姉ちゃんを困らせてやるんだから!

憂「まあ、グータラしてるお姉ちゃんが可愛いんだけどね///」

思い出すのはゴロゴロしながらアイスを求めるお姉ちゃんや、ギー太を抱いてお昼寝するお姉ちゃんの姿。

憂「……♪」ホワーン

可愛すぎです。
天使です。
思わず思い出しほんわかをしてしまいました。

憂「はっ!?」

おっと、話が逸れてしまいました。
とりあえずグレてみます。

憂「う~ん……」

でも、グレるって具体的にはどうすればいいのかなあ……
困りました、よく分かりません。

憂「とりあえず……何か悪いことをしないと!」

憂「でも、一体何をすれば悪い子になれるんだろう?」

憂「う~ん……」

これは難問です。
別に自分のことを良い子だとは思っていませんが、悪い子でもないつもりです。
要するに、悪いことをしたことがたぶんありません。

憂「むむむ……」

憂「む~……」

憂「はあ……」

ダメです、なかなか良い案が浮かびません。
まあ今日は休日なので、ゆっくり考えていきたいと思います。
あまり考え込みすぎるのも良くない気がしますし……

憂「よし、じゃあ朝ごはん作っちゃおう!」

気分転換にお料理。
まだ早い時間ですし、昨日買い物に行っておいたおかげで食材も十分にあります。
今日はしっかりとした朝食をお姉ちゃんに食べてもらえそうです♪

憂「よ~し!」


……

憂「~♪」

今日のメニューは簡単にサラダと目玉焼きを作りました。
なかなかの出来だと自負しています。
起こしに行ったのですが、お姉ちゃんは未だ夢の中です。
一緒に食べられないのは残念ですが……

憂(お姉ちゃんの寝顔可愛かったな~♪)

気分は上々です!

憂「ん、ごちそうさまっ」

一人だと食べ終わるのも早いですね。
昼はお姉ちゃんと一緒に食べたいなあ……

憂「よし!」

さて、さっそくどんな悪いことをするか考えなければいけませんね。
う~ん……

憂「ん~……」

悪いこと悪いこと……
当たり前ですが、犯罪には走りませんよ?

憂「むむむ……やっぱり難しいよぅ……」

やっぱり何も思いつきません。
……私ってひょっとして馬鹿なんでしょうか?
ちょっと落ち込んじゃいます……

憂「はあ……あれ~、おかしいなあ」

当初の予定では、とっくに具体的な行動方針を決めているはずだったのに……
なかなか思いつきを実行に移すのは難しいですね。

憂「……」

憂「あ、後片付けしながら考えようかな?」

椅子に座って悩むより、体を動かしているほうがいい考えが浮かぶような気がします。
お姉ちゃんにもう一度声かけて……


……

憂「ん……いい天気だなあ♪」

洗濯物を干し終え、グッと背伸び。
気持ちよく晴れた秋空が私の気分をさらに良くしてくれます。

憂「いい風……」

最近は気温も下がって来て、すごく過ごしやすいですね。
お姉ちゃんのお寝坊もそのせいかもしれません。

憂「ふんふん♪」

思わず鼻歌を歌っちゃいます。

憂「さて、洗濯物はこれでオーケー。掃除も終わったし、次は……」

……あれ?

憂「次、は……」

何か、忘れているような……

憂「ああっ!?」

そうでした、私はグレてやろうと思っていたんでした!
体を動かしながら何をするか考えようと思っていたのに、私ったら夢中になっちゃって……

憂「うう、私って……私って……」

というか、よく考えたら家事に勤しむ不良はいないと思います。
いたとしても、かなりのレアキャラでしょう。

憂「……」

憂「まあ、いっか!」

せっかくのいい気分。
わざわざ自分から落ち込むこともないよね?

憂「今からじっくり考えよう!」

世の中ポジティブシンキングが大事です!
ちなみにこれは、お姉ちゃんから教わった教訓です。
えへへ……

唯「うい~?」ヒョコッ

憂「あっ、お姉ちゃん!」

唯「お腹空いちゃったよ~……」グー

憂「あれ?朝ごはんをさっき食べたんじゃないの?」

唯「そうなんだけど~……」モジモジ

お姉ちゃんが何故かモジモジしています。
何か言いにくいことがあるのかなあ?

憂「……ああ!食欲の秋ってやつだね!」

唯「おおっ、さすが憂!」

憂「えへへ……」

やった、当たりました♪
これぞ姉妹の以心伝心ってやつですね。
えっへん!

憂「じゃあお昼ごはん作っちゃうね。何か食べたいものある?」

唯「う~ん……」

憂「時間あるし、買い物にも行けるよ。お姉ちゃんの好きなものでいいよ」

今日は気分がいいので、大サービスです。

唯「むむ……。いや、何でもいいや~」

憂「え?」

ちょっと困る返事です。
聞いた側としては、できれば何かしらリクエストして欲しいんだけどなあ。
それに、何を作っても変わらないと言われてる気がして……

唯「憂の作ったものなら何でも美味しいからね~♪」

憂「!!!」

唯「それに、昨日も買い物行ったじゃん。憂ばっかりにそんな負担掛けられないよ」ニコッ

憂「お、お姉ちゃん……」

つまらないことで沈みかけた私の心が、一瞬で晴れやかになりました。
やっぱりお姉ちゃんは凄いです。

憂「じゃあ、張り切って作っちゃうね!」

唯「おお~、憂燃えてるね!私も何か手伝おうか?」

憂「ううん、大丈夫だよ。お姉ちゃんは楽しみに待ってて!」

唯「むう、憂にしては強気な発言……よろしい、待ちましょう!」

あはは、とお姉ちゃんと一緒に笑い合います。
幸せだなあ……


……

憂「よっと……」

お昼ごはんはチャーハンとスープに決定しました。
一見簡単で下手したら手抜きと思われるかもしれませんが、そうではありません。
本当に料理が上手な人は、豪勢な料理を作らずともその腕を示せると聞きます。
だからこそ私は、この二品でお姉ちゃんを満足させてみせる……!

憂「……!」ジャッジャッ

フライパンを素早く動かし、中の食材を踊らせます。
チャーハンは火力とスピードが命!
味付けは薄く、それでいて米の一粒一粒までしっかりと味が立つように。


憂「……」カチャカチャ

同時にスープの様子を見ることも忘れません。
栄養のバランスを考え、こちらは野菜のスープです。

憂「よし、完成!」

これは自信作です。
さっそく出来立てをお姉ちゃんに食べてもらわないと……

憂「お姉ちゃ~ん、ご飯出来たよ~っ」

……あ、ちなみにグレてみよう計画はまだ続いていますよ?
ただ、そのぅ……
えっと、お姉ちゃんに美味しいものを作ってあげるほうが、優先順位で勝ってしまっただけです。


唯「お~、いいにお~い♪」

鼻をフンフンと鳴らし、匂いを嗅ぎながらお姉ちゃんがやってきます。
可愛いです。

憂「はい、熱いから気をつけてね?」コトッ

唯「わあっ、チャーハンだ!いっただっきま~す♪」

憂「召し上がれ♪」

唯「はむっ。もぐもぐ……」

憂「……」ドキドキ

唯「美味しい!美味しいよ憂~!」

憂「本当っ!?よかった~」

唯「やっぱり憂は料理の天才だねっ!もうお店が開けるよ!」

憂「そ、そうかな……?えへへ、ありがとう」

唯「はむっ、んむんむ……」

本当に美味しそうに私の料理を食べてくれるお姉ちゃん。
その姿を見ていると、こっちまで嬉しくなってきてしまいます。
お姉ちゃんはお店が開ける、と言ってくれるけど……

唯「ん?どうしたの憂、食べないの?」

憂「ううん、何でもない」

私は不特定多数の人より、お姉ちゃんを始めとした身近な人たちにいっぱい喜んでもらったほうが嬉しいなあ。

憂「……はむっ」

憂「……」モグモグ

憂「うん、美味しい♪」


……

憂「……」

楽しいお昼ご飯も終わりました。
お姉ちゃんは軽音部の皆さんと何か約束があったようで、先ほど出かけました。
私もそろそろ、本格的にどうやってグレるか考えないといけませんね!

憂「よ~し、考えるぞ~!」オー!

お姉ちゃんっぽく気合を入れてみました。
えへへ、似てたかなあ?

憂「まずは何をすべきか……」

グレる……つまり不良になるってことですね。
不良といえば……

憂「そういえば……不良っていえば何だろう?」

よく考えたら、私は不良さんとは会ったことがありません。
お姉ちゃんや和ちゃんについて回っていた小さい頃はもちろん、小学校や中学校にもそれらしい人はいなかったと思います。
桜高には、純ちゃんや梓ちゃんのような良い子しかいませんし……

憂「う~ん、私一人で考えても正解には辿り着けないかも……」

少なくとも、家の中にいてはダメな気がします。
今も勉強しようと無意識に教科書を開こうとしていますし。
習慣って怖い!

憂「お出かけしようっと」

幸いにも、家事はほとんど午前中に済ませています。
たまには一人でブラブラするのも……いいよね?

憂「おっと、出かける前に戸締りしないと……」パタパタ


……

憂「ん~、本当にいい天気……♪」

街にやって来ました。
何だか昼間に街にいるのって不良っぽくないかな?
……休日ですけど。

憂「さて、どこへ行こうかな?」

秋風と心地よい陽気を楽しみながら、どこへ行こうか思案します。
あ、あの服可愛い……
ウインドウショッピングにしようかな?

憂「って、ダメダメ!また脱線しちゃいそうになってる」ブンブン

そう、私はグレるためにここに来たのです。
自分でもよく分からないことになっていますが、そうなのです。


和「あら、憂?」

憂「ふえ?」

後ろから急に声をかけられたので、くるっと振り返ります。
咄嗟に出た声がお姉ちゃんっぽかったことが、少し嬉しかったのは内緒です。

憂「あっ、和ちゃん!」

和「珍しいわね。憂一人?」

後ろにいたのは私とお姉ちゃんの幼馴染である、真鍋和さ……和ちゃん。
何でも出来てすっごく優しくてあったかい、お姉ちゃんとは少し違った私の理想像です。

憂「うん、暇があったから外に出てみようかなって」

和「ふふっ、今日はいい天気だもんね。唯はどうしてるの?」

憂「お姉ちゃんは軽音部の皆さんと何か約束があるみたい」

和「そっか。あの子たち、ちゃんと勉強しているのかしら……」

憂「あはは、大丈夫だよ~」

お姉ちゃんの頑張りは、私が一番良く知っています。

和「ふふ、そうね。あの子もやる時はやるからね」

憂「あはは」

和ちゃんと二人、笑い合います。
和ちゃんは本当に綺麗に、優しそうに笑うなあ……
密かな憧れです。


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最終更新:2010年10月19日 00:11