唯「憂……あずにゃん……りっちゃん……澪ちゃん……純ちゃん……和ちゃん……」

私は何がしたいんだろう
確かに憂やあずにゃんの苦しそうな顔や呻き声にはゾクゾクした
でも何か違う

もちろん彼女たちを殺す気なんて毛頭ない
もし万が一殺してしまったりしたらきっと私は悲しくて自殺してしまうだろう

唯「ははっ……」

何を考えてるんだろ私……
拉致して監禁してる時点で私は犯罪者

唯「りっちゃんたち……謝れば許してくれるかな……?」


ジレンマだ
みんなを私のモノにしたい自分と、元に戻りたい自分がいる

唯「分かんないよ……」

私は考えることをやめ、ベッドに倒れ込んだ……

翌朝

唯「んしょ……」

私は今制服に着替えている
今日はムギちゃんに接触するために学校に行かなくては

唯「りっちゃん……」

私は一言呟くと家を出た

紬「唯ちゃん?」

唯「え?」

私は後ろからの声に振り返る
そこにはムギちゃんが立っていた

紬「制服着て学校でも行く気?」

唯「ムギちゃんに会いに来たんだけど……学校行く必要無くなったね」

紬「私に用だったの?」

唯「またまた~……残りはムギちゃんだけなんだよ」

紬「うーん……唯ちゃんはサディストだから捕まりたくないなあ……」

唯「あ……うん……」

紬「どうしたの?」

唯「昨日ね……ううん、何でもない」

紬「?」

唯「何か気分乗らなくなってきちゃったなー」

紬「あら、それはありがたいわ」

唯「でも忘れちゃ駄目だよ? 残りはムギちゃんだけだってこと」

紬「ええ肝に命じておくわ」

唯「じゃあ私は帰るよ」

紬「ええ」

唯の後ろ姿を見ながら紬は呟いた

紬「唯ちゃん……?」



平沢家

唯「何だか……疲れたな」

私は制服から着替えもせずに、ベッドに仰向けに倒れ込んだ

澪「学校行ったんじゃなかったのか……?」

唯「そのつもりだったんだけどね、何か疲れた……」

澪「そっか……」

唯「少し寝るね……私が寝てる間に何かあったら起こしてね」

澪「あ、ああ……」

まあ全員、手足を縛ってるから逃げ出すなんて出来っこないけどね

唯「…………」

唯「ねえ澪ちゃん」

澪「どうした?」

唯「私……」

澪「?」

唯「何でもない……おやすみ」

澪「……変な奴」



翌日の昼

唯「う……」

まだ眠気の残る頭をゆっくりと動かし、私はベッドから起き上がる

澪「やっと起きたか」

唯「もうお昼かあ……寝過ぎちゃったな」

昨日帰ってからそのまま寝てしまったので、今の私は制服姿のままだった

唯「何か変わったことあった?」

私は澪ちゃんに問う

澪「何もなかったよ……」

唯「ああそう、よかった」

澪「なあ唯……」

唯「何?」

澪「いつまで続けるつもりなんだ……?」

唯「んー?」

澪「私……もう嫌だよ……」

唯「……私が知りたいよ」ボソッ

澪「え?」

唯「逃がしたら澪ちゃんは私を警察に突き出すんでしょ?」

澪「そ、そんなことない!」

唯「どうだか……」

認める
確かに私はりっちゃんを拷問した時、彼女の余りにも苦しそうな姿に罪悪感を覚えた
それは認めよう

唯「駄目だよ澪ちゃん」

でも、だからと言って逃がすわけにはいかない

唯「みんな私のモノなんだよ」

そうだ
みんなみんな私のモノになったんだ

憂も和ちゃんもりっちゃんも
澪ちゃんもあずにゃんも純ちゃんも

唯「ごめんね澪ちゃん……」

私はしゃがむと澪ちゃんの頭を優しく撫でた

澪「うう……」

唯「澪ちゃんはりっちゃんと私どっちが好き?」

澪「……私は」

唯「うん」

澪「律のほうが好き……」

唯「そっか……ありがとう」

澪「?」

唯「澪ちゃん……痛いのと苦しいのどっちがいい?」

私は小瓶とスタンガンを見せながら澪ちゃんに聞いた

澪「どっちもやだよぉ……」

唯「駄目、どっちか選んで」

澪「うっ……うう……」

澪ちゃんは泣き出しちゃった

唯「大丈夫、顔上げて」

澪「ひっ……!」

私は澪ちゃんの髪を掴んで顔を無理やり上げると、首筋にスタンガンを当てた

澪「やだっ! 唯やめて……」

唯「痛いのは数秒だよ……観念して」

澪「あ……あ……」

唯「澪ちゃん……大好き」

私はそう呟くと、スタンガンのスイッチを入れた

澪「がっ……!?」

唯「くっ…………!!」

澪ちゃんは苦悶の表情を浮かべた直後に意識を失った

唯「純ちゃん……」

次に私は純ちゃんに近寄っていく

純「ひっ……こ、来ないで下さい……」

唯「純ちゃんにも聞くよ、憂と私どっちが好き?」

純「……う、憂……」

唯「ありがとね……」ガバッ

純「んっ!?」

私は純ちゃんを抱きかかえる形で抑えると、麻酔薬の染み込んだハンカチをこの子の口に押し当てた

純「ふむっ……もが……」じたばた

唯「憂と仲良くしてくれてありがと純ちゃん……今はゆっくりおやすみ」

純「むぐぐぐ…………」

純ちゃんが気絶したのを確認した私は、純ちゃんの口からハンカチを離した

唯「次は……」


憂の部屋

憂「お姉ちゃん……」

和「随分部屋から出てこなかったわね……しかもまだ制服のままだし」

唯「少し寝てただけだよ……」

和「ねえ唯」

唯「何?」

和「昨日、律の声がこの部屋まで聞こえたわ」

唯「…………」

和「相当ひどいことしたようね」

唯「私も……反省してる」

和「まったく……律が死んじゃったらどうするつもりだったの」

唯「その時は……私も逝くよ」

憂「駄目だよお姉ちゃん……そんなこと……」

唯「憂はやさしいね」

憂「え?」

唯「憂の手足は縛ってる、解放したのは和ちゃんを捕まえるのに協力させた数分だけ」

憂「…………」

唯「こんなことする最低なお姉ちゃんでも憂のこと好きだよ」

私は動けない憂の近くにしゃがんだ

唯「憂は私の……世界でたった一人の妹だもん」

憂「私も……」

唯「…………」

憂「大好きだよ……お姉ちゃんがどんなことしても……好きだよお姉ちゃん……」

唯「ありがとう憂……」

唯「和ちゃん……」

和「何かしら?」

唯「和ちゃんも私の味方でいてくれるよね?」

和「どうかしら……私は今でも唯を狙ってるからね」

唯「うん、分かってる」

唯「じゃあ、あずにゃんたちのところに行ってくるから」

私はもう一度憂に近づくと、憂の耳元で囁いた

唯「もうすぐ終わるから……」ボソッ

憂「え……?」



一階リビング

唯「りっちゃん……あずにゃん……」

梓「ゆ、唯先輩……」

律「…………」

りっちゃんは顔を上げてくれない

唯「りっちゃん……」

律「ひっ……」

りっちゃんは怯えた表情で私を見た

やめてよ
そんな顔で見ないでよ……

唯「りっちゃん……ごめん」

律「ひい……」

私が近づくと、りっちゃんはまるで私を拒絶するように身をよじらせた

唯「そうだよね……」

酷いことしたのは私だもんね

唯「りっちゃんごめんね……」

次に私はあずにゃんの隣に座った

梓「唯先輩……」

唯「あずにゃんはさ、私のこと狂ってるって言ったよね」

梓「はい、言いました……」

唯「はは……確かに狂ってるよね……」

梓「唯先輩……?」

唯「あずにゃん……私とりっちゃんどっちが好き?」

梓「え?」

唯「やっぱり、りっちゃん?」

梓「……はい」

唯「そっか……ちょっと眠っててね」

私はハンカチをあずにゃんに近付けた

梓「……唯せんぱ……んう……」

ゆいせんぱい
そう言おうとしたあずにゃんの口を私は押さえた

梓「んっ……」

唯「私の……後輩……」

あずにゃんは抵抗しなかった
ただ私に身を任せて眠りに堕ちていった

唯「りっちゃん……」

私はりっちゃんを眠らせようと、彼女に近づいた

律「ゆ、唯……」

唯「約束する、もう私はりっちゃんに手を出さない これが最後だよ」

律「……何言って……?」

唯「全部……全部終わったら、思い切り殴ってね私のこと」

律「唯……お前……!?」

唯「?」

突然、りっちゃんがかたまった

唯「どうしたの?」

律「ム、ムギ……」

唯「!?」バッ

私はすぐに後ろを振り返る

唯「あっ!?」

でも遅かった
私はもうムギちゃんに羽交い絞めにされてしまっていた

唯「くっ……」

紬「駄目よ唯ちゃん、りっちゃんはもうかなり弱ってる」

唯「いつからいたの……?」

紬「唯ちゃんが上でいろいろやってる間に勝手に上がらせてもらったわ」

唯「私を捕まえに来たの……?」

紬「さあ、どうかしら」

唯「はあ……」

紬「ため息なんかしてどうしたの、唯ちゃんらしくない」

唯「このままムギちゃんに捕まるのもいいかなって……」

紬「あらあら……もう疲れちゃった?」

唯「そうだ……ねっ!!」

紬「!?」

一瞬だった
ムギちゃんが気を緩めた

私はその一瞬を見逃さなかった

唯「おらっ!!」

ドゴッ!!

紬「がはっ!?」

私の拳がムギちゃんのお腹にクリーンヒットする

紬「う、痛……」

お腹を押さえてうずくまるムギちゃんを私は仰向けに押し倒す

紬「あっ!?」

唯「これで……終わりだよ!!」

紬「唯ちゃんやめ……むぐ!?」

やった……

唯「馬鹿だよねえ……わざわざ来るなんてさ……」

紬「――っ!! ――っ!?」じたばた

ハンカチに染み込んでいた麻酔薬が徐々にムギちゃんの意識を奪っていく

唯「眠れ! 早く眠っちまえ!!」

紬「んー!!」

唯「お願いだから……早く眠ってよ……」

紬「ん……う……うう……」

私の腕を掴んで必死に抵抗していたムギちゃんもついに気を失った

唯「はぁ……はぁ……」

紬「…………」

私はすぐにムギちゃんの制服のポケットなどを調べ始めた

ムギちゃんのことだ
家に連絡をつける手段をもっているかもしれない
それがあったら奪っておかないと……

唯「何もないか……」

本当に単身で来たんだね
馬鹿だよ……本当に……


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最終更新:2010年10月19日 01:15