憂「はじめまして。ストーリーテラー憂と申します」
憂「私、見聞きした物語を皆様にお聞かせすることを趣味としております。
暇つぶしと思って、しばしの間、つまらない話にお付き合い下さい」
憂「さて、世界は、物語であふれています」
憂「そして文化や環境の違いで多種多様のものとなり、今や数え切れないほど…」
憂「しかし、どんな文化にも共通しているものがひとつ。それは、唯梓」
憂「本日は古今東西、世界各地の唯梓物語を皆様にお楽しみ頂きたく思っています」
憂「それではひとつめのお話です」
『魔女の城』
昔むかし、あるところに魔女がいました。
魔女は立派なお城を建てて、誰とも関わりを持たないで、ずっとそこに閉じこもっていました。
そのお城は立派ながらもなんとも不気味で、周辺の人々は気味悪がって近づこうとしません。
「むむむ…気に入らないわね」
おもしろく思わないのは王様です。
自国の領土に自分のものではないお城が建っているのですから。
しかし、王様は何もしません。なぜなら、今までに何度も兵士を送っているのですが、
たびたび追い払われているからです。
「どうにかならないのかしら…そうだ!」
王様は国中にお触れを出し、魔女の城を落としたものにほうびをとらせることを約束しました。
「ねえ憂、誰も入れないお城だって」
「そうみたいだね、お姉ちゃん。王様の軍隊だって追い返されちゃったんだから」
「私はきっと入ってみせるよ」
「いくらお姉ちゃんでも無理だよ…」
それからほうびを目当てに、沢山の人が魔女の城に挑戦しました。
しかし、門を破ることも、忍び込むことも出来ません。
「私ならきっと行ける。ううん、絶対行ける」
「お姉ちゃん、またそんなこと言って…みんなに口だけだ、って笑われてるんだよ?」
若者、唯はそう言いながら城を毎日眺めていました。
結局、誰も魔女の城に入ることすら出来なかったのです。
「ぐぐ…やっぱり兵士でも無理だったもの、平民に出来るわけがなかったのね。…仕方ない」
またしても王様はお城を落とせなかったのです。しかし、王様は諦めたくありません。
とうとう王様は、周りの国々にまで魔女のことを知らせました。
そして、
「見事城を落としたものには、ほうびだけでなく私の娘もあげるわ!」
姫との結婚をも約束しました。姫は美しい黒い髪と、可愛らしい姿で、
たくさんの国から結婚を申し込まれていたのです。
これを聞いた他の国の王様や将軍たちは、我こそはとこぞって魔女の城に押し寄せました。
「ほら見て、憂。あれはドラム国の兵士だよ!」
「強そうな人達…今度こそ魔女の城は落ちてしまうのかな、お姉ちゃん」
「さてね。私は見ているだけだよ」
はじめに来た国の兵士たちは、とても長くて大きな丸太を抱えていました。
「私のビートで扉なんかぶち破ってやるぜ!いっけー!!」
将軍が合図すると、兵士たちが丸太を扉にたたき付けました。
そして、何度も繰り返されているうちに扉はとうとう開きました。
「お姉ちゃん、開いたよ!」
「そんなことより…ほら、魔女だっ!わあ、なんだろ、あの生き物!大きい!」
「あっ…兵士が丸太を食べられて、みんな逃げていくよ…」
「すごいなあ、魔女!初めて見たよ」
結局、城は落ちずに、壊れた門もいつの間にか直ってしまいました。
あくる日、今度は別の国が兵士を引き連れてやって来ました。
「憂。今度のキーボード国は、たくさんの道具を持ってきてるね」
「遠くから攻撃するんじゃないかなあ」
今度の国の王女は、城には近づこうとせず、遠くで大砲の準備を始めました。
「私、魔女を凌辱するのが夢だったの~♪…いきます!マンボウのマネ♪」
王女が合図をすると、大きな音が鳴り響きました。
たくさんの砲弾が発射され、一直線に城へと飛んでいきます。
「近づかなければあの怪物も出ないし、今度こそ魔女は負けるよ、お姉ちゃん」
「魔女は大砲がくるのがわかってたみたいだね~?ほら!」
「そんな…お城が打ち返してる!」
王女は負けじと、今度は打ち返せないほどたくさんの火の矢を放ちましたが、
突然城から現れた風車にすべて返されて、兵器を全て燃やされてしまい、逃げ帰ってしまいました。
そして、とうとう王様も諦めてしまい、誰も魔女の城に近寄らなくなりました。
「やっぱり魔女の城はすごいなあ。他にどんな仕掛けがあるのやら」
「もう誰も近寄れないのかな…」
「私が行くよ」
「ダメだよお姉ちゃん!危ないもの!」
「大丈夫大丈夫、何も危なくないから。
そうだ憂、ケーキ焼いてよ。とびっきり美味しいのを!」
そして唯は妹のケーキを片手に、人々が見守る中、魔女の城の門の前に立ちました。
唯は扉をノックすると、
「魔女さんこんにちは、お邪魔してもいいですか。お土産もありますよ」
と言いました。すると、扉が開き、周囲の人が驚く中、唯は悠然と中に入ることができたのです。
扉の内側には、魔女がいました。魔女は静かな声で、
「どうぞおかけ下さい…」
「ご丁寧にどうも。おやつの時間にはまだ早いね、よかったら、お城を案内して下さいな」
「構いませんよ」
魔女は唯の頼みを快く聞くと、城の中を案内しはじめました。
「わあ、綺麗な水路。ここで野菜を育ててるんだね」
「魚も捕れます。火事になった時は噴水のように水が出る仕組みだってありますよ」
「あそこにいる大きな生き物は前にも見たね。どうやって育てたの?」
「あれは亀です。大事に育てたら大きくなりました。本当は陸を歩くのは苦手なんですが…」
「ここは難しそうな仕掛けがたくさんだね」
「趣味みたいなものです。もっとも、近頃は何かと役に立ちますね」
「魔女さんはここでお城を守っていたわけだね。…ところで、そろそろお腹がすいたよ」
一通り探索が終わったので、唯ははじめの部屋に戻ると、魔女と簡単な食事をとりました。
デザートはもちろん妹の焼いたケーキです。
「あなたは食べないのですか?」
「魔女さんが食べるのを見てるよ。ところで、きみは魔女と言うにはずいぶんと可愛らしいね」
唯の言うとおり、魔女は口が裂けていたり、長い爪を持っていたりするわけではありません。
しかも服装こそ魔女のそれですが、醜い老人などではなく同い年くらいの少女の姿で、
何より、唯といる間に、一度も魔法を使っていません。
「私は、静かに暮らしたいだけの、ただの人ですから。それに、可愛くなんてないです」
魔女は少し恥ずかしそうに言うと、ケーキを口に運びました。
唯はそれを見て、ニヤリと笑います。
「…美味しい?」
「おーーーい!!みんなーっ!」
「お姉ちゃん!?」
それからしばらくして、唯は城から顔を出しました。人々は驚きを隠せません。
知らせを聞いた王様は、さっそく姫と一緒に魔女の城へ向かいました。
「そこのあなた、よくやったわ!家に来て娘をフ〇ックしていいわよ!」
「フ、〇ァック…恥ずかしい///でもあの人になら…///」
「それなんですけどー、お断りしまーす!!」
「「えっ」」
「お姉ちゃん!?」
「だって、私には…」
そう言った唯の隣に、背の低い黒髪の少女が現れました。
「いい人が出来たからね!」
END
最終更新:2010年10月24日 00:09