「ベースの秋山澪です」

「私が部長、ドラムの田井中律だぜ!」

「キーボード担当、琴吹紬です~」

「……中野梓。担当は唯先輩と同じです」

ごめん、あまり興味ない。

そういえば私、軽音部のライブって見たことなかったなぁ。

学祭の時は部の出し物で忙しかったし、新歓はまさに戦争だったし。

だからうちの軽音部の生演奏見るの、ちょっと楽しみかも。

お、どうやら唯がボーカルみたい。

「聞いて下さい。……ふわふわ時間!」

「……キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI」

……え?

「揺れる思いはマシュマロみたいにふわ☆ふわ」

え?え?

「いつもがんばるキミの横顔、ずっと見てても気づかないよね」

ち、ちょっと待って。何このサプライズ?

この歌詞、もしかして唯が私のために?……違うよね?だって今まで、あれだけ抱きつかれるの嫌がってたもん。

でも事実、こんな恥ずかしい歌詞を歌ってくれてるよ?てことは、今までのは全部ツンデレだったってこと?

あああ落ち着け私。現実を素直に受け入れろ。歌詞に身を任せろ……!

「夢の中なら二人の距離縮められるのにな~」

「あぁ、カミサマお願い二人だけのDream Timeください☆」

「お気に入りのうさちゃん抱いて」

「今夜もオヤスミ♪」

「ふわふわ時間、ふわふわ時間、ふわふわ……」



ホウホウホウホウホウホーウ!

「ほ?」

「た、立花さん?」

……作ろう!

今すぐ二人だけのDream Time作っちゃおう!

「あ、こら!唯先輩をどこに連れて行く気ですか!」


「へ?あ、あれ?うわぁー、みんなー!」

「た、大変だ!姫子がなんか重大な勘違いをしてるぞ!」

「こらー!待てー!」

……その時の私は、何でもできる気がしました。

通りすがりのポニーテールの少女から、痛烈な一撃を腹にくらうまでは……。

……秋山さんが、この作詞をしたと。

「はい、そうです」

唯専用のボーカル曲ではないと。

「その通りです」

……死にたい。

あの中野梓さんが、思いっきり笑いをこらえてます。

……笑いたきゃ笑いなよ、黒猫クン。

勝手に勘違いして舞い上がって、プライドをズタズタに引き裂かれた惨めな女をさ。

……私の人生って、何だったんだろ。

「姫ちゃん」

……何よ、人の純情を弄んでおいて。なぐさめなんかいらないんだから。

「よくわからないけど、要するに姫ちゃんは、勘違いしちゃうほど私が好きなんだね」

ああそうだよ、そうですよ。悪かったね。

「大丈夫。私も同じくらい、姫ちゃんが大好きだから」

……ふえ?

「もし私と姫ちゃんが逆だったら、私もきっとおんなじようなことしちゃうと思うんだ」

「そうだぜ。これが唯だったらどんな大惨事になってたことか」

「正直な話、この程度ですんでよかったよ」

「ね?みんな姫ちゃんが大好きなんだよ。もちろん私も大、大、大好き。だから姫ちゃん、自分を責めちゃダメだよ」

……うるさい。

「え?」

うるさいうるさいうるさい!これでもくらえ!

「ひゃん!?み、耳!耳いじっちゃダメぇ!」

あんたが、あんたがあんな曲さえ演奏しなけりゃ、ボーカルなんかやらなきゃこんな思いはせずにすんだのに!

これからどう接したらいいかわかんないじゃんか、唯の……唯のぶぁかあぁ……!

「お願い、耳は止めてぇ!ヘンになっちゃうよぉ……!あぁん!」

「……さて、邪魔者は帰りますか」

「そうね」

「やれやれです」

「……なあ、あれほっといていいのか?」


私の一日の始まり。

自分の机まで全力疾走、そして邪魔なカバンをスラムダンク。

「姫ちゃん、おはよう!」

おはよう、の挨拶といっしょに全力でハグされる。

……今日の私はちょっと違うよ。気づくかな。

「お、姫ちゃんシャンプー変えたね!レモンの香りがするよ!」

正解。唯のといっしょにしたの。

「へへー、姫ちゃんは今日も可愛いね。むぎゅーっ」

今すぐ止めないと頭ワシャワシャするよ。

「きゃー、助けてー!」

私はイジワルなおさわり姫じゃなくなってしまった。

今じゃすっかり唯のオモチャ。

悔しい。でもちょっと嬉しい。

「ひーめにゃんっ♪」

にゃっ!?


実は最近、こっそり秋山さん、もとい澪さんに詞を教わってる。

思いを込めた詞をプレゼントするために。

ねえ唯、いつか必ず完成させるから。

その時は、笑わずに受け止めてね。

私の本当の気持ち。



おしまい



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最終更新:2010年10月26日 21:09