憂  春三月。

   今は春休み。そう・・・ 今までのとはちょっと違う春休み。

   三年生は卒業式を終え、私たち二年生は最終学年となる三年への進級を間近に控えた春休み。

   お姉ちゃんがこの家で過ごす、最後の春休み。

唯 「うーいー。ちょっと出かけてくるねー」

憂 「はーい、行ってらっしゃいお姉ちゃん」

唯 「あ、そうそう。今日はお夕飯のしたく、しなくていいからねー」

憂 「え?お外で食べてくるの?」

唯 「ううん、たまには私がご飯用意するよ!(ふんす!!)」

憂 「えー・・・ 急にどうしたの?」

唯 「いいからいいから♪とにかく、憂はのんびりゴロゴロしてていいからねー」

憂 「うん、わかったよ。行ってらっしゃい、お姉ちゃん」

憂 「行っちゃった・・・ いきなりどうしたんだろう、お姉ちゃんったら」

憂 「お夕飯、お姉ちゃんが作ってくれるのかな?ふふ・・ なんだか急にしっかりしちゃったみたい」

憂 「そうだよね。もうすぐお姉ちゃん、一人暮らしをはじめるんだもん」

憂 「そうだよね・・・・・」

憂 「・・・・・・・・・」


憂 「・・・さて!」

憂 「お姉ちゃんはゴロゴロしてて良いって言ってくれたけど、落ち着かないしお洗濯物でもしちゃおうかな」

憂 「お姉ちゃんのベット・・・・」

憂 「まだお姉ちゃんの温もりが残ってる。暖かい・・・ それにお姉ちゃんの匂い・・・・」

憂 「生まれてから今まで、ずっとこの匂いと一緒だったな。ホンワカしててとても優しくて・・・」

憂 「この匂いに包まれてると、とっても安心できて・・・・」

憂 「もうすぐ・・・・ いなくなっちゃうんだ・・・」

ぐす・・・・

憂 「・・・だめだめ!せっかくお姉ちゃんの門出なのに、私がこんなのじゃ絶対ダメ!」

憂 「私がしっかりしないと!」

憂 「・・・・・・・・・・」 

憂 「おねぇちゃん・・・・」



ぴんぽーん♪

憂 「はわぅっ!は、はーい!」

とてとてとて・・・

憂 「は、はい・・・どちらさまですか?」

がちゃっ

純 「わたし、わたしー」

憂 「あ、なんだ純ちゃんかー。どうしたの、いきなり」

純 「なんだはご挨拶だなー。暇だから遊びにきちゃった。お邪魔だった?」

憂 「そんなことないよ。いらっしゃい、大歓迎ー」

純 「ん・・・?あれ、憂・・・・」

憂 「な、なぁに?」

純 「あ・・いや、なんでもない!えっへっへ。お邪魔します」

憂 「はいどうぞ、粗茶ですがー」

純 「うむ、苦しゅうないぞ。菓子も持てぃ」

憂 「くす。はいはい、クッキーで良い?」

純 「憂の手作り?」

憂 「市販品だよ。さすがにすぐに手作りは用意できないよ」

純 「なぁんだ、憂のクッキー美味しいのにな。残念。市販品で我慢してやるかぁ」

憂 「今度、前もって言ってくれれば用意しておくね」

純 「それは期待しちゃうなぁー。悪いね、催促してるみたいで」

憂 「いいの。誰か食べてくれる人がいなかったら、お菓子なんて作る機会もなくなっちゃうんだろうし」

純 「え?」

憂 「あ・・・ ううん、なんでもない。クッキー、今もって来るから待っててね」

純 「うん・・・」

憂 「お待たせ。さ、食べよう」

純 「うはっ。いっただきますー」

憂 「クッキー、結構あるなぁ。ね、梓ちゃんも呼んじゃおうか。三人でお茶会しようよ」

純 「あ、梓ね、用事があるって。ここに来る前に声かけたんだけど」

憂 「あ、そうだったんだ。なーんだ・・・」

憂 (でも純ちゃんだけでも来てくれてよかった。なんだか気分が落ち込んでたし)

憂 (一人でいるの、すっごく辛かったから・・・・・・)

憂 (でも、今からこんなので、私ってばだいじょうぶなのかな・・・・)

純 「x△○x~~んだよね」

憂 「ぼーーーーーー」

純 「でさー・・・・て、憂?」

純 「憂ってば!」

憂 「わっ!な、なーーーにぃーーーー????」

純 「どしたの?ボーっとしちゃって。私の話、聞いてた?」

憂 「えとお・・・ あの・・・ ごめんなさい」

純 「らしくないなぁ。どうしたの、いったい」

憂 「なんでもないよ。ちょっと・・・ちょっとだよ・・・」

純 「・・・あのさぁ」

憂 「な、なに???」

純 「憂、泣いてた?」

憂 「へっ!?」

純 「いやね、今日さいしょに会った時から気にはなってはいたんだけれど」

憂 「な、なんで?泣いてなんかないよ!?そんなばかなーぁ」

純 「だって、目がウサギさんみたいになってるし」

憂 「あ」

純 「・・・・・憂?」

憂 「泣いてないよ。泣きかけてただけ・・・・」

純 「・・・・・唯先輩のこと?」

憂 「違うよ。だってお姉ちゃんの門出だもん。新しい生活、お姉ちゃんすっごく楽しみにしてるんだもん」

憂 「だから、私も楽しみにしてるんだもん。お姉ちゃん、きっと笑顔でこの家を出て行くんだ」

憂 「だから私も、笑顔・・・ 絶やしちゃダメだって・・・ 思って・・・」

純 「憂・・・」

憂 「たん・・・だけど・・・ やっぱりダメで・・・ ずっと一緒だったのに・・・」

憂 「もう毎日お姉ちゃんの笑顔・・・見られないのかと思うと・・・ わたしぃ・・・・」

憂 「うわーーーーーーん」

純 「憂!」

ぎゅっ

憂 「純・・・ちゃん・・・ うわーーーーーん」

純 「泣かないの、憂。よし・・・よしよし(なで)」

純 「よーしよしよし、よしよしよし。よーしよしよし(なでなでなでなでわしゃわしゃわしゃ)」


純 「落ち着いた?」

憂 「(ぼさぼさ)うん、髪の毛以外は・・・」

憂 「・・・ごめんね?あの・・・抱きついて泣いちゃって・・・」

憂 「服・・・ 涙で汚しちゃって・・・・」

純 「あー、汚れてない汚れてない♪憂の涙が汚いわけないじゃない。気にしなさんな」

憂 「なんだろ・・・ 今日の純ちゃん男前だね。純ちゃん男の子だったら好きになってたかも」

純 「なんだそれ、ほめ言葉か?なんだったら、憂だったら女の子同士でも俺はかまわないんだぜ」

憂 「それはだーめ」

純 「ちっ!!!!」

憂・純 「あははっ」


憂 「あのね・・・私、お姉ちゃんが大好きなの」

純 「知りすぎるほど知ってる」

憂 「ふふ。それでね、お姉ちゃんの喜んでるところ、笑顔が一番好きで。お姉ちゃんの笑顔を見てると、こっちまで笑顔になれちゃうの」

純 「それは私もわかる気がするなぁ」

憂 「みんなは私がお姉ちゃんのお世話をするのを見てしっかりしてるって言ってくれるけど、ぜんぜんそんなこと無い」

憂 「だってそれは、私がお姉ちゃんの笑顔を見たいから、私の為にやってるんだもん。でも・・・」

憂 「お姉ちゃん、このごろドンドンしっかりしてきちゃって、朝は一人で起きられるし夜はきちんと布団に入るし」

純 「それは普通の事・・・いやいや、しっかりして来たなら、それは喜ばしいことなんじゃないの?」

憂 「そうなんだろうけど、私の立ち入る隙間が無くなってきてるようで」

憂 「私・・・もう、お姉ちゃんにしてあげることが無くなっちゃったのかなって・・・・」

憂 「え?勘違い??」

純 「要は、唯先輩が自分から離れて行ってる様で寂しいって事でしょ?距離の問題だけではなく」

憂 「そう・・・なるのかな??」

純 「先輩の一人暮らし以外は、全部憂の早とちりだよ」

純 「それ、わからせてあげる」

憂 「え?? どういうこと、純ちゃん?」

純 「良い頃合かな。憂、ちょっと出かけようよ」



学校!の音楽室!!

憂 「ここって、音楽室?なんでこんなところに」

純 「いいから、さ、入った入った」

がらっ!

ぱーん!ぱんぱーん!(クラッカーの音)

憂 「ひゃっ???」

唯 「うーいー!いらっしゃーい!」

澪 「久しぶりだね、憂ちゃん」

律 「待ってたぜー、憂ちゃん!」

紬 「さぁさぁ、こっちへいらっしゃい~」

唯 「純ちゃんもエスコート役、ご苦労様~~」

純 「いえいえ~~」

憂 「びっくりした・・・ おねえちゃん?皆さんも・・??」

梓 「憂、こっちだよ。さ、主賓は座って座って」

憂 「梓ちゃんまで・・・それに机に並べられたたくさんのご馳走・・純ちゃん、これって?」

純 「いっひっひ。黙っててごめんね」

唯 「今日はね、パーティーなんだよ!」

憂 「パーティー??」

唯 「今まで憂にはたくさんたくさんお世話になったから、そのご恩返し!」

律 「今までクリスマスや年越しやら、憂ちゃんにはご馳走になってばっかりだったからな」

紬 「だから、私たちの大学が始まる前にパーティーをして、憂ちゃんをもてなしたかったのよ」

梓 「本当は憂の家でやれれば簡単だったんだけど、唯先輩が・・ね」

唯 「家で準備してたら憂にばれちゃってサプライズにならないもん!ビックリさせて喜ばせたかったんだよ(ふんす!)!」

澪 「おかげで音楽室の使用許可とか、結構大変だったけどな」

憂 「こんなにたくさんの料理を・・・皆さん、私の為に・・・」

紬 「それがね、違うの。デザートとか、添え物はみんなで作ったんだけど」

律 「聞いてたまげろ!メインの料理は唯が一人で用意したんだぜ!」

憂 「え!?これを全部、おねえちゃんが??」

澪 「ああ。味見もさせてもらったが、なかなか美味しかったぞ。まぁ、さすがに憂ちゃんの料理には及ばなかったけど、な」

梓 「それは年季が違いますからね。比べるのが酷ってもんです」

唯 「あずにゃん、そこは伸びしろがあるって言うんだよー。これからぐんぐん美味しくなるよー」

梓 「ふふ、そういうことにしといてやるです」

唯 「さ、始めよう!憂、冷めないうちに食べて食べて、みんなもほら、たべよー」

憂 「そ、それじゃ、いただきます!お姉ちゃんの料理、たのしみっ!」


ぱくっ


憂 「・・・・・・美味しい」

唯 「でしょー。へへー」

律 「うっれしそうな顔だなー、しかし」

澪 「そりゃそうだろう。唯、自分が自炊も出来るところを見せて、憂ちゃんを安心させたいってずっと言ってたからな」

紬 「その憂ちゃんに美味しいって言ってもらえたんだもの。顔もほころんじゃうわよね」

唯 「へへっ。これなら一人暮らしでも大丈夫だよねー。しっかりした唯の誕生です!」

梓 「何ですか、それは・・・ それに唯先輩、料理は出来てもお掃除とかは大丈夫なんですか?」

唯 「あ・・・ 忘れてたー」

みんな 「こらーw」

憂 「だ、大丈夫だよね、お姉ちゃん。お料理もこんなに美味しいものが作れたんだもん。お掃除だって、お洗濯だって・・・・」

憂 「もう、何だって一人で・・・・ しっかり・・・・」

憂 「ぐす・・・ あれ、な、なんだろう、あれれ・・・ おかしいな・・・・ あは・・・」

唯 「憂・・・?」

憂 「・・・・・・!!」がたんっ!!



がらっ!ぴしゃん!たったったった・・・


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最終更新:2010年11月01日 21:22