注意
- 一年以上前に書いたまま放置ングしてたもんなので原作との矛盾あるけど気にしないで
- fate/stay nightのアニメ版劇中歌『ヒカリ』に着想して書いたので詞がところどころ文中に。というかパク…インスパイアしてます
律「おっしゃー!!卒業式も無事終わったし久しぶり&最後の演奏しようぜ!!」
梓「ぐす…みなさんとお別れしたく……ないです」
紬「うん…でも、すぐに会えるわよ!!だから梓ちゃん泣かないで」
唯「そうだよ!!またこのメンバーで絶対バンドやろ!ね?あずにゃん」
梓「唯先輩……うぅ、うわ~~~ん!!!!」
唯「あーずにゃん♪」
だきっ
梓「いつもくっついてきていいですから……卒業しないでください!うぅ…ぐすっ」
澪「・・・」
律「んー?澪ーどうしたのかにゃ~?」
澪「別になんでもない。ほら、みんなこの後もクラスの予定がつまってるんだし演奏するんならするぞ?」
律「目元が光ってるけど~」
唯「ヒカリだよ澪ちゃん、目元キラキラだよ!!」
澪「うっうるさい!これは汗だ!!」
律「ウサちゃんみたいにおめめが真っ赤だぞ~?」
澪「いやその…寝不足で充血しているだけだ!!私たちに最後なんてないんだから泣く理由もないだろ!?」
律「へいへいそーゆーことにしときますよ」
さわ子「ほらちゃちゃっと演奏しちゃいなさい!私はこの後のパーチーが待ち遠しいのよ!」
紬「うふふ♪じゃあ準備はいい?」
唯「うん!」
梓「ぐすぅ…はい!演奏しましょう!」
澪「それじゃー律!!カウントよろしくな!」
律「リョーカイ!二曲続けていくぞ~!!1.2.3.4!!」
ジャーーン!!!!
そして、ふわふわ時間の演奏が終わった。
私だけの世界がまばゆいヒカリに包み込まれる。静寂の後、溢れんばかりの歓声がそこかしこから聞こえた。それが酷く哀愁を誘うのはどうしてだろう。
いつも歌い終わるとあの日、あの場所を鮮明に思い出す。それでも歌い続ける――私は理想を求めて歌い続ける。それが歪んでいるとしても、間違っているとしても果てのない理想を描く。
関係者から賛辞の言葉をかけられその一つ一つに感謝を告げた。しかしもてはやされるたび不完全な自分がふがいなくなる。
上辺だけを取り繕っている私は絵のない絵本と同じような存在ではないだろうか。
控え室にたどり着き束の間の休息を味わう。スケジュール帳は憂鬱になるほど先の月まで黒く塗りつぶされている。
またその全てがまだ起きていない出来事なのに何が起こるかわかる規定項目のため私を疲弊させた。こんな生活を続けていれば誰だってそうであろう。
レコーディング、番組出演、ライブ、どれだけ繰り返したかもわからないほど業界慣れした自分が嫌だ。はるかに充実しているはずの今が私の中で過去を越えることは二度とないのだろうか。
「なにやってんだかな」
一人呟いてチラシに目を通す。
それ以上先を読む気にはなれなかった。大学卒業と同時にデビュー、一気に音楽界を駆け上がり今の地位を不動のものとした。
もっとも、ここに至るまでは作詞だけでなく作曲も自ら行うシンガーソングライターとして精力的に活動した軌跡があるのだが、それは語るほどのものではない。
そう、私個人の軌跡などあってないようなものだ。いや、この軌跡の始まりが私の中から消えてしまった、それだけである。
高校時代から使い続けている携帯電話を取り出すと懐かしい人物たちからメールが届いていた。
From琴吹 紬
件名:お疲れさま♪
ライブ楽しかったわ!
実はこっそり来ちゃいました♪
次は軽音部のみんなで観に行けたらいいなぁ☆
また連絡します。疲れているときにごめんね。
From山中 さわ子
件名:無題
お疲れさん!
こないだテレビで見たけど随分辛気臭い顔してたわよ~?
たまには息抜きで学校きて頂戴!
きっと部活の後輩も喜ぶわ!
なんたってアイドル顔負けのルックスに大御所も認める
実力派シンガーソングライターの澪ちゃんが先輩なんだもん!
あ、でもその時は澪ちゃんの恥ずかしい高校時代……
いえ、お楽しみは取っておきましょう。それじゃまた!
「ムギのやつ、連絡してくれればよかったのに。まったくいつまで経っても気づかいする奴だな。ふふ、それに先生も相変わらずみたいだ。そうだな、休みができたら久しぶりに」
そう言いかけ口を噤んだ。いや、それは出来ない。あの場所には戻れない。馬鹿だ、大馬鹿だ。私がここにいるのは私が頑張ったからじゃない。みんながいたから、何よりあいつが音楽を教えてくれたからなのに。
自問自答を繰り返し、得られぬ答えを求め彷徨ううちに涙が溢れる。いつもそう、私はすぐ泣く。
あのときに戻りたいよ。
あいつが例のごとく前触れなく持ちこんできたきっかけから全てが途切れたあの日までがフラッシュバックした。
「律」
虚空に答えを求めても自分自身の存在価値に等しい虚構のみが返ってきた。
こんなことを繰り返す度自分の弱さに挫けあいつとの出来事が胸を締め付ける。自分を信じてこの道を選び未来を決めた。
そして描いた未来を駆け抜けているのに手にしたものは孤独のみだった。それでも引き返したくないと思った、あいつが私を信じてくれていたから……。
ライブの打ち上げもそこそこにさせてもらい帰宅して自室のベッドに倒れこむ。そしてシンセサイザーを弾く。このシンセサイザーはムギが譲ってくれたものである。
「もう弾くこともないから」――この一言と共にムギからシンセを貰った日を思い出した。
こんなズタボロの私が弾いても綺麗な音を奏でてくれる鍵盤楽器、設定と叩く場所さえ間違えなければ平等に音を生み出してくれるシンセサイザーは今の私にピッタリだ。
視線を部屋の片隅に移すと担い手のいなくなったほこりまみれのベースが立てかけられている。
あの日以来触れていないベースは今の私が弾いても不細工な音しか吐き出さないだろう。それはメンテナンスをしていないからではなく、演奏者の心理状態が楽器の音に伝わるからだ。苦楽を共にしたベースは今の私をどう思っているのか。
シンセで作曲作業を進め浮かび上がったメロディを楽譜におこす。もう数え切れないほどの曲を生み出しそれらはもれなく名曲として多方面から評価された。
不思議なものでこれほど作詞作曲を続けているというのに未だ源泉のようにメロディやフレーズがあふれ出してくる。しかし、枯渇することのない何百もの虚像が軽音部で生み出した数曲にまさったことは一度もない。
「才能ないよなぁ」
そんな歌に気持ちが入らず、こうテレビで言ったこともあった。けれど「澪ちゃんに才能がないって言ったら他の歌手は引退しなきゃヤバイでしょ!」と返されて以来言わないことにした。
私が思う才能は世間が認知している才能と感覚的に差異があるのだ。そうでなければこのない知恵から生まれる幾多の有象無象が名曲と騒がれるはずはない。矛盾。
「……」
“澪のセンスは独特だよな”
よく言われたな。あの日あの時、毎日毎日だらだらと目的も定まらず与えられた学生というモラトリアムな生活を繰り返していたあの頃が懐かしい。
青く燈るシンセサイザーの真空管を眺めているうち、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
「桜高軽音部のメンバーでライブをする?」
近所の喫茶店に懐かしいメンバーが揃っていた。個人個人とは卒業以来も欠かさず会っていたけどこうしてみんなが集まる機会は今までなかった。
「そ、ライブライブ!! ほらぁ、もう放課後ティータイムとして申込も済んでるし!!」
高校時代と変わらぬテンションで軽音部の部員をかき集めた部長
田井中律がこれまたあの時と変わらぬ突拍子もない企画を持ち込んできた。
「あのなぁ……しかも二週間後じゃないか。そんな急に言われても予定が」
律の“予定? その日は予定ないだろ?”の表情にピンとくる。
「あら、この日はりっちゃんが買い物に行こうって」
いつも通りふわふわなムギの台詞に私の直感が自信に変わり、
「わたしもこの日はりっちゃんが遊びにくるって」
これまたいつも通りな唯の言葉で確信に変わった。
「お前あらかじめ私たち全員と約束取り付けてたな?」
「ビンゴー! ライブしようっていきなし言ってビックリさせよう作戦大成功!!」
まったくこいつは。聞けばすでに梓への連絡も済んでいるらしい。
「梓はうちらだけで演奏しているとこが見たいから今回は客席から見てるってさ!」
今回ということは次回もあるのだろう。幼馴染の考えることなのでなんとなくそんな気はしていたが。
「りっちゃんそれにしてもどうして急にライブしようなんて?」
大学進学後もサークルでバンド活動を続けている唯が私たちの思いを代弁した。そう、卒業して既に二年以上経っているというのに何故今になってこんなことを言い出したのだろうか。
「うちらはいずれ武道館でライブするんだろ!? その下準備だよ!!! 二週間後のライブで放課後ティータイムは本格的にバンドとして活動再開します!!」
拳に力を込めどこぞの宗教者のように高らかな宣言を行う。カチューシャを外して髪を下ろしている以外はあの時と何も変わっていない律であった。
こうして合わせて練習できるのが本番前のリハーサルのみという無謀極まりないライブが決定した。とは言っても高校時代に嫌というほど演奏した楽曲だけなので今更合わせ練習する必要はないはずだ。
もちろん全員が当時と同じように演奏できればの話であるが、唯と私に関してはそれも問題ない。前述の通り唯は大学でもバンド活動を続けているし私もベースは弾き続けている。
心配な人間が若干一名いるのだが意外に弱音を吐露したのはムギだった。
「足を引っ張らないように今日から練習しなきゃなあ」
ムギは高校卒業後鍵盤に触れていないらしかった。まあムギならブランクも感じさせない演奏がすぐできるだろう。問題は企画者でありドラムであるこいつだ。
「なあ律、やるのは別に構わないんだが……お前は大丈夫なのか?」
律から卒業以来ドラムを叩いたと聞いた覚えはない。いや、もとより律がバンドの話をしたのも久しぶりな気がする。しかしそんな心配を知ってか知らずか、
「よゆーよゆー。ドラムなんてテキトーに叩いてりゃそれなりに聴こえるもんだぜー?」
となんとも失敗する雰囲気満々の空気を垂れ流していた。
「んじゃー各自しっかり自主練するよーに!!」
そして律の一言によりこの日は解散となった。
律が高校野球の選手宣誓に負けない芯の通った声で放課後ティータイムの再始動を発表してから一週間が経った。ライブを控えた私たちはただ今スタジオで練習中である。
「う~ん、なんかあの頃と違う気が」
さすがにぶっつけ本番はリスキーだと判断したのか、律がスタジオを借りて練習しようと言い出したからだ。
「仕方ないだろ、それにいつまでも同じ演奏してたら成長してないってことだし」
律の納得いかないなーといった不満を受け流す。まあムギや唯が加わればもう少し変わった印象を持つだろう。
「あーあ、唯とムギが来られないなんて誤算だったぜー」
三日前に“スタジオ取ったよー”と言われて“やったー行く行く!”と二つ返事が出来るのは一緒にいた高校までだ。唯とムギはそれぞれ私用により不参加のため現在このスタジオにいるのは私と律、そして、
「だから早く連絡しない律先輩がいけないってあれほど言ったじゃないですか」
呆れてものが言えないとはこのことだと一年後輩のギター
中野梓が律に苦言を呈した。
ギターもキーボードもいない淋しいバンド練習を回避するべく律が取った行動が梓召喚だ。梓が暇だったからいいものをもし駄目だったらどうしたのだろうな。まさかとは思うが憂ちゃんを拉致してくるとかわめき散らしていたかもしれない。
最終更新:2010年11月01日 22:10