放課後、軽音部部室

唯「落ち葉が舞い散ってるよ」

紬「秋だものね」

唯「切ないね、なんだか」

紬「人恋しくなるわよね」

唯「ムーギちゃん♪」 きゅっ

紬「あらあら♪」

律「年中春だな、あいつは」

澪「でも詞を書くには良い時期だぞ。イメージが湧きやすい」

律「そんな物かね。私は食欲の秋ってイメージだけどな」

澪「それはそれでありだろ。私達の歌も、それにまつわる物が多いし」

律「だったら、お前を食べちゃうぞー」

澪「はいはい」

律「ちぇー。そこは、無理して乗れよな」

澪「全く」 くすっ

梓「済みません、遅れました」

唯「あずにゃん。すっかり秋が深まったね」

梓「急になんですか」

唯「舞い散る落ち葉に、漂う鰯雲に。私は秋を感じ取ってるんだよ」

梓「ああ。そういうのは、分かります。夏とは匂いが違うというか」

唯「あずにゃんはどんな匂い?」 くんかくんか

梓「意味が違います」

唯「でも良い匂いだよ」 にこっ

梓(いやいや。私よりも、唯先輩の方が♪) くんかくんか

澪「秋、秋、秋。読書の秋、芸術の秋」


紬「ああ、なるほどっ」 ぽんっ

澪「いや。そんなに反応する事でも無いから」

梓「後はやっぱり食欲の秋ですか」

律「私達は年中って気もするけどな」

梓「それはあるかもです」

唯「ひらめいたっ」

梓(絶対曲や歌詞じゃないな)

唯「秋と言えば、舞い散る落ち葉。落ち葉はその後どうなると思う?」

澪「業者が集めて、可燃ゴミとして燃やされるだろ」

紬「でも森の落ち葉は腐葉土になって、栄養になるのかしら」

律「たまに、澪の歌詞にもなるだろ」

梓「上手い事言いますね」

律、澪、紬「あはは」

唯「全く。みんな、何も分かってないね」 ちっ、ちっ、ちっ

律「多分お前が一番分かってないだろうけど、一応聞くか。それで、何になるんだ?」

唯「落ち葉、秋、それは食欲の秋。となれば?」

紬「・・・焼き芋?」 

唯「そう。ベタだけど、一周回ってむしろ新鮮。良いアイディアでしょ」

澪「確かに、意外と否定しにくいな」

紬「私賛成。大賛成っ♪落ち葉で焼くなんて、すごい楽しそうじゃない?」 きらきら

律「まあ、それはそうだけどさ。昔町内会でやった時は、結構大変だったぞ」

梓「そもそも、落ち葉を集めないと話になりませんしね」

唯「それも込みでの、焼き芋大会だよ」

律「いつから大会になったんだよ、おい」

唯「という訳で澪ちゃん、計画表をお願いします」

律「丸投げかよ、おい。・・・しゃーない。さわちゃんに、たき火をやって良いか聞いてくるよ」

紬「だったら、私も」

梓「では、私も一応」


   職員室

さわ子「落ち葉で焼き芋?最近は消防法で、そういうのはうるさいのよ」

紬「消防法、ですか」

さわ子「後は、環境問題がね。落ち葉を燃やすと、ダイオキシンが発生するんですって」

律「そ、それって猛毒なんじゃ。だったら、焼き芋やるのも命がけって事?」

紬「でも命を懸ける価値があるからこそ、唯ちゃんは焼き芋を提案したのかも知れないわよ」

律「くっ、唯の野郎。お前一人だけに、良い恰好をさせはしないぜっ」

さわ子「その芝居のオチは知らないけど、たき火くらいでは大丈夫なんですって」

律「あ、そうっすか」

紬「うふふ」

さわ子「許可は取っておくから、火の始末にだけは気を付けてね」

梓(わずかにもついて行けなかったな、今の会話には)


   軽音部部室

澪「必要な物は着火剤とバケツ。後は落ち葉。それとサツマイモか」

唯「ヨーロッパだと、秋にジャガイモを焼くんだって」

澪「ジャガイモか。それも良いな」

唯「たき火って良いよね。温かくて、ほんわかしてて」

澪「確かに雰囲気が良いな。なんだか、子供の頃を思い出す」

唯「澪ちゃんは、どんな子供だったの?」

澪「本ばかり読んでて、引っ込み思案で。あまり今と変わってないかな」

唯「そかな」

澪「・・・変わったとしたら、律に出会ったからかも知れない」

唯「りっちゃんに?」

澪「あいつには色々迷惑を掛けられてるけど、それよりも沢山助けてもらってる。
  律に出会ってなければ、私は今でも部屋にこもって本を読んでるはずだ」

唯「大丈夫だよ。その時は私とムギちゃんとあずにゃんが、りっちゃんと一緒に迎えに行くから」

澪「どうやって私の家まで来るんだよ」 

唯「そこは、軽音部としての絆を頼ってだよ」

澪「多分その時点では、軽音部じゃないぞ」

唯「たはは。そか、そか」

澪「全く」 くすっ


   廊下

梓「律先輩って、澪先輩と小学校の頃から友達なんですよね」

律「何だ、急に」

梓「いや。私達とはちょっと付き合いの深さが違うと思って」

律「元々、私が一方的に澪へまとわりついてたからな。それが今に至る訳さ」

紬「でも良いわよね。何の気兼ねもなく、心から付き合える関係って」

律「私はムギとも梓とも、唯とも。みんなと心から付き合ってるよ」

紬「りっちゃん♪」

梓(うわ、輝いてる♪おでこ、輝いてる♪)


   軽音部部室

律「おーい、戻ったぞー」

澪「お帰り。どうだった?」

律「たき火くらいなら構わないってさ。こっちはどうだ?」

澪「必要な道具と手順を書き出した。後は生徒会で、道具を借りて来ないと」

律「おし。行ってくる」


梓「妙に息が合ってますね」

唯「夫婦みたいだね」

紬「うふふ♪」


   生徒会室

和「・・・たき火?あなた達、一体何部なの?」

唯「まあまあ。和ちゃんも好きでしょ、焼き芋」

和「嫌いじゃないけど。大体たき火ってどうなのよ」

唯「私は燃える女だよ」

和「初めて聞いたわ、そんな話」


梓「こっちはこっちで、絶妙に噛み合ってますね」

律「夫婦というか、親子だな」

紬「うふふ♪」


   正門前、街路樹

唯「よーし、やるぞー」

紬「おー」

律「妙にやる気だな。それに、どのくらい集めれば良いんだ?」

唯「多ければ多い程良いって」

澪「そんなに落ちてないぞ、ここ」

梓「というか、ちょっと寒いですね」

唯「何言ってるの、あずにゃん。私達は、たき火のように燃え上がるんだよ」

律「随分ささやかだな、おい」


   30分後

梓「それ程集まりませんね」

澪「元々木が少ないし、風で飛ばされるからな」

律「根本的に失敗って事か」

唯「う」

澪「・・・それか、他の場所を探すかだ」

律「という訳なんだが、どうする」

唯「良いの?」 おずおず

澪「当たり前だろ」 撫で撫で

唯「澪ちゃーん♪」

律「全く」 くすっ

澪「公園もそれ程落ちているイメージはないし」

律「そう考えると結構難しいな」

紬「・・・あそこ。ほら、この前のマラソン大会で走った坂の」

澪「ああ、確かに林があったな」

紬「あそこなら、すぐに集められると思うの」

律「グッドアイディアだ。唯、それで良いか」

唯「ありがとー、みんなありがとー」

梓(なんだかんだと言って、みんな優しいな) 


   夕方 街外れの林

唯「おお。ここはまさにエルドラドッ」

律「いや。落ち葉が落ちてるだけだし」

澪「でも夕日を浴びて、黄金色に輝いて見えなくもないぞ」

律「詩人だな、おい。ただ今日は遅いし、集めるのは明日にしようぜ」

紬「でも明日、お休みよ」

唯「だったら、朝から集まろうよ。ね」 にこっ

梓(この笑顔を見せられて、断れる訳がない) にこっ



   夜 平沢家リビング

唯「・・・という訳で、明日は落ち葉狩りを行います」

憂「そうやって言うと、風情があるね」

唯「憂も一緒に集めようよ。大勢で食べる焼き芋は、ものすごく美味しいよ」

憂「ありがとう。でも明日は、純ちゃんと用事があるの」

唯「そか、残念だな。・・・明日、晴れるかな」

憂「お姉ちゃんが楽しみにしてるのなら、絶対良い天気になるよ。・・・今から、てるてる坊主作ろうか?」

唯「分かった。頑張ろうね、憂♪」

憂「お姉ちゃん♪」



 翌朝 街外れの林

律「だからてるてる坊主を、首からぶら下げてる訳か」

唯「お陰で良い天気だよ」 

律「つくづく幸せな姉妹だな」

澪「風も気持ちいいし、空は高いし。あー」

紬「何もしてないのに、幸せな気分になれるわね」

澪「ああ。たまにはこういう時の過ごし方も良いな」

唯「まったりムードはここまでっ。頑張って、落ち葉を集めようっ」

梓「焼き芋も待ってますしね」

唯「その通り。みんなで落ち葉を集めて、みんなでたき火を囲んで、みんなで焼き芋を食べる。
  こんな幸せな事は、もう二度とないかも知れないよ」

梓「唯先輩は大げさなんですよ。でも澪先輩が言ったように、秋の空気は良いですね」

唯「良いよねー、秋は。小さな秋はどこに隠れてるのかな。この木の皮の裏側かなー?」

梓「・・・そういう所は、絶対見ない方が良いですよ」

唯「あ、松ぼっくり」

紬「しみじみ、秋ねー」

唯「これに火が付いたら大変だね」

澪「それは焼けぼっくいだろ」

紬「だったら、松ぼっくりに火を点けても大丈夫?」

梓「乾燥してたら大丈夫らしいです」

紬「してなかったら?」

梓「大惨事になると思います」

紬「焼けぼっくいと同じね♪」 にこっ

梓(何故、笑顔)


唯「わっせ、わっせ」

紬「よいしょ、よいしょ」


律「張り切ってるな、あいつら」

澪「見てないで、律も早く集めろ」

律「へいへい。・・・これって一人で入れるより、袋を広げる係と詰める係に分担した方が良くないか」

澪「なるほど」 かぱっ

律「よいしょ、よいしょ。・・・・そこは、「わっせ、わっせ」だろ」

澪「・・・わっせ、わっせ」

律「あははー。よいしょ、よいしょ♪」

澪「全く。わっせ、わっせ♪」

梓(見てらんないな、これは) かー


唯「わっせ、わっせ」

紬「唯ちゃん、こっちに落ち葉が飛んで来てるー」

唯「ムギちゃんの落ち葉も飛んで来てるよ」

紬「えーい♪」

唯「えーい♪」

梓(こっちはこっちで満喫してるな)


唯「ふー。結構集まったね」

梓「唯先輩、頭に落ち葉が付いてますよ。ムギ先輩も」 ちょいちょい

唯「あずにゃん、ありがとー」

梓「二人とも、はしゃぎ過ぎです」

紬「梓ちゃんの頭にも付いてるわよ」 そっ

梓「あ。ど、どうもです」 かー

唯「あずにゃんも紅葉してるね」 にこっ

梓「もう、唯先輩は」 くすっ



   桜が丘高校 正門

唯「とーちゃーく」

律「やっと着いたか」

梓「袋を背負いながらでしたからね」

澪「私は強烈に恥ずかしかったぞ」

紬「でも、なんだか楽しかったじゃない。サンタさんみたいで」

律「前向きな奴め。今時サンタでも、プレゼントはネット通販だぞ」

唯「そかな?私の家は、いつも起きた時に枕元へ置いてあるよ」

梓(ういーっ)


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最終更新:2010年11月01日 23:45