ムギ「最近、唯ちゃんの様子がおかしいわ」
律「ムギもそう思ったか」
澪「確かに、言われてみれば」
梓「最近抱きついてこなくなりました」
律「これはなにかあるな~♪」
澪「面白がるな!」
ムギ「それに、姫子ちゃんもおかしい」
梓「なんで探偵口調なんですか、ムギ先輩」
律「そうか?いつも通りクールにしか見えなかったけど」
澪「私、立花さん苦手だ」
梓「誰です?姫子さんって」
ムギ「いいえ。私にはわかるわ。私のアンテナがそう告げているの」
梓「無視しないでください」
律「何のアンテナだよ!鬼太郎か?」
澪「よ、妖怪だったのか、ムギ」
梓「あの~だから姫子さんって――」
ムギ「妖怪じゃないわ、乙女よ!」
梓「いや、乙女って」
ムギ「乙女には乙女の気持がわかるのよ!」
律「まぁ、冗談は置いといて」
ムギ「冗談じゃないのに。しゅん」
唯「大丈夫だよムギちゃん。私は信じてるから」
ムギ「唯ちゃん♪」
澪「え?唯?」
律「どぉうぁー!ゆ、唯」
梓「いつからここに?」
唯「ん~ムギちゃんにアンテナが生えてるってあたりから」
澪「そ、そうか。(さりげなーく)と、ところで唯、最近なんかあったか?そ、その、立花さんの事とか」
梓「(ボソッ)いや、さりげなく訊けてないから」
唯「へ?」
律「じー」
ムギ「ドキドキ」
唯「…(フッ)別に、何もないよ?」
梓は後に語る。
あの時の唯先輩は、憂いを帯び、悲しげに笑う。その顔は、まさに美しく、儚く、そしてイケメンだったと!
律(ど、どうしたんだ唯。なんだか可憐すぎてドキドキする。いや、私には澪が、澪が~!)
澪(急に見せたあなたの横顔。俯く視線を追いたいの。私はあなたの観測機。
詩、詩が出来そう。―っいや、私の歌は、律だけを、律だけを―!)
梓(やばぃ。これ以上唯先輩を見たらだめだ!なにかが終わるっ!何だか分かんないけど、終わるっ!)
ムギ(いいわ~律澪!唯姫!あれ?でも、どうして唯ちゃん、そんな悲しげなのかしら?)
唯(みんな固まって、どうしたんだろう?私が何か迷惑かけちゃたかな?)
閑話休題。
律「そ、それでだな~。夏、どっか行かね?軽音部の合宿じゃなくてさ。和とかも誘ってさ」
梓「でも、受験勉強は…」ムギ「一泊二日なら大丈夫よ、ね!澪ちゃん、唯ちゃん」
唯「行こう~」
澪「ま、まぁ、一泊くらいなら」
梓「純や憂も誘っていいでしょうか?」
ムギ「もちろん!プランニングは私に任せて!」
律「おぅ。頼んだぜ!」
ムギ「ラジャー」
唯「(落ち込んでちゃだめたよね。めいいっぱい楽しまなくちゃ)ムギ隊員、検討を祈る!」びしぃ!
ムギ「はい!」びしぃ!
ムギ(高校最後。気合い入れてやるわ!)
夏休みまで、後、1週間!
……
って、え―!
和「何を驚いてるの?」
姫「いや、だって、唯たちと旅行に、私もって!」
和「あなただけじゃないわ。軽音部のみんなも、後輩も、それにクラスの何人かも。ムギが誘ったのよ。ね、ムギ」
ムギ(律澪でしょ、唯姫、梓純憂、エリアカ、の、和ちゃんは誰かしら?
まさか、唯ちゃん?三角形!……さわムギと、とか///)
和「ムギ!」
ムギ「あ、ごめんなさい。なに?」
和「立花さんも誘うのよね?」
ムギ「ぜ、ぜひ!姫子ちゃん。エリちゃんとアカネちゃんも来れるって言うし!」
姫「え、えっと」
和「ダメかしら?」
唯と旅行。
もうこんな機会、無いかもしれない。卒業したら、離れちゃうから。きっと。
姫「い、行く」
ムギ「良かった♪」
唯と、旅行。
どうしよう。
和「立花さん、来るって」
唯「そ、そっか。良かった良かった」
和「ねぇ、唯」
唯「ご、ごめん。もう部活行かなきゃ。今日は珍しくさわちゃんが教えてくれるんだよ」
ダッ
和ちゃん、最近なんか良く姫子ちゃんの事言ってくるけど。
どうしてかな。
気がついてるのかな。
ふるふる
まさかね。
唯「ちゎーす」
さわ子「ちょりっす」
律「ああ、来たか。今ちょうど旅行の話してたんだよ」
澪「さわ子先生、来てくれるって」
唯「ほんと?」
さわ子「ムギちゃんにどうしてもって言うからね~」
ムギ「///」
澪「ま、しかし。メンバーも決まったことで、ムギ」
ムギ「なに?」
澪「どこにいくか教えてくれ」
ムギ「それはね――」
姫子「鎌倉、江ノ島かー定番だけど、行ったことない」
エリ「私はあるよ~何回も!」
姫子「何?デート?」
アカネ「鎌倉だけでしょ。しかも寺社仏閣だけ」
エリ「エヘヘ。そうだけどさ~」
姫子「なんだ」
アカネ「私も一度、エリと行ったけど、二度と一緒に行かない」
エリ「なんでさぁ~?楽しかったじゃん、水月観音!」
アカネ「まぁ、綺麗だったけど」
エリ「ねっねっ!いやぁーあの良さが分かるとは、さすがアカネ!」
アカネ「でも、一時間見てるってのはない」
エリ「え、あれっ~?そうだっけ?」
アカネ「とぼけるなっ」
いいな。
こんな風に、笑いながら、しゃべって、一緒に旅行して。
私も、それだけで良かった。
ううん。
まだ遅くない。
私の恋は終わっても、まだ唯と友達でいることは出来るはず。
今回の旅行。
がんばろう。
朝の電車は意外と混んでて。
私はみんなから離れたところで、何故かさわ子先生の隣だった。
さわ子「でも意外ね~立花さんが軽音部のみんなと旅行なんて」
姫「そんなこと…」
さわ子「クス。自覚あるみたいね。でもそうね、実は寂しがり屋っぽいわね。」ニヤリッ
姫「そうですか?」
さわ子「しかも、後で一人、ひっそり悲しんでるタイプ?」
さわ子先生はいたずらっ子のように笑う。
その笑みには余裕があって。
やけに大人っぽかった。
さわ子「でも変わってきたわね」
姫「何がですか?」
さわ子「前より、声を出して笑うようになった」
そうだろうか。
それなら、きっと。
さわ子「軽音部のみんなの影響かしらね?いや、唯ちゃんのお陰かしらね」
思ったことを言い当てられた。
さわ子「唯ちゃん、好き?」
って!
いきなり、何を!
姫「え、いや、そ、そうですね。あ、明るいし、面白いし!でも、変な意味ではなくてですね!」
さわ子「キョドってる姫子ちゃん、かわいいわ」じゅるり。
ん?
なんか悪寒が…
さわ子「あの子はいい子よ。天然で、明るくて。それでいて、とても繊細」
さわ子は、よく生徒を見ている。
生徒の間で人気があるのも分かる気がする。
さわ子「それに、コスプレさせるとかわいいし!」
唯のコスプレ。
み、見たい。
って、じゃなくて!
姫「生徒にコ、コスプレさせてるんですか!」
さわ子「ニヤリッ。一枚200円」
さわ子先生が取り出したのは、サンタクロースの衣装を身にまとい、ピースしている唯の写真だった。
姫「は、はい!」
私は音速で、財布から200円を取り出す。
さわ子「へ?」
姫「え?」
わ子先生はきょとんとして、それから悪魔的な笑みを浮かべた。
さわ子「そんなに唯ちゃんの写真欲しいの~?」
姫「あ、これは――///」
さわ子「ふふふ、冗談よ、あげる」
さわ子先生は、写真を私の膝の上に置く。
さわ子「そっか。ホントに変わったわね~姫子ちゃん」
気がつくと、さわ子先生は私の事を姫子ちゃんと呼んでいた。
姫「あ、あの」
さわ子「何かしら?」
姫「もし、友達に一回嫌われて、それでも、その友達が話しかけて来てくれたら、どうすればいいんでしょうか」
私は、さわ子先生に訊いた。
すると、さわ子先生は真面目な顔になった。
さわ子「あなたは、もしそうだったら、どうしたい?」
姫「私は――」
私は。
唯と。
姫「もう一度、友達になりたい」
さわ子「クス。ならそれでいいのよ」
さわ子先生は、優しく微笑んだ。
生徒会室
和「なに?ムギ」
ムギ「あのね、和ちゃん、唯ちゃんの事なんだけど」
和「…立花さんのこと?」
ムギ「!!なにか、唯ちゃん言ってたの?」
和「いいえ。でも、気になってはいるのよ」
ムギ「何に?」
和「唯、最近妙にしっかりしてるでしょ?それなのに上の空。そういう時は、なにか夢中になってるときなの。唯は」
ムギ「理由も、知ってる?」
和「予想なら。だけど、それは人に言う事じゃないわ」
ムギ「…相談、というよりお願いがあるのだけど、きいてくれる?」
和「聞くだけなら」
ムギ「最近、唯ちゃんと姫子ちゃん、仲悪いみたいで。私は」
和「仲良くなって欲しい?」
ムギ「うん。それでね、みんなの旅行に、姫子ちゃんも誘いたくて」
和「―いいわ。私から誘ってみるわ。でも、いつものメンバーの中に姫子ちゃん一人だと、来づらいかもね」
ムギ「パァァ。そ、それなら、アカエリも呼びましょう!」
和「アカエリ?ああ、佐藤さんと瀧さん?てゆうかムギ、なんでそんないい笑顔なの?」
ムギ「と、とにかく、和ちゃんも協力して!唯ちゃんと姫子ちゃんを」
和「仲直りさせるのね?いいわ。(そんな単純なことではなさそうだけど)」
律「これが江ノ電か~」
澪「なんか、かわいい電車だな!」
憂「お姉ちゃん、乗るよ~」
唯「ま、待ってつかぁさい~」
純「アハハ。相変わらずだね、憂のお姉ちゃん」
梓「唯先輩、早くしてください!」
エリ「いや~二人で来たときを思い出すね~アカネ!」
アカネ「嘘つけ。効率重視って、バスで行ったくせに」
エリ「あはは~そうだったね~」
姫「それも愛しの仏像の為?」
エリ「そう、愛しの水月観音!」
アカネ「またそれ?」
エリ「ほとんど公開しない貴重な仏像なんだよ!」
さわ子「あなたたち~ちょっと静かにしなさ~い」
わいわい、ガヤガヤ。
ムギ(いいわね。和ちゃん)
和(わかってるわ。今度こそ唯と立花さんを隣どうしにするのね!)
どうしてか。
私が電車に乗ると、姫子ちゃんの隣以外の席が埋まっていた。
も、もしかして運命!
なんて。
運命だったら、良かったな~
姫子ちゃんと私。
泣いちゃダメだ。
唯「エヘヘ。姫子ちゃん、隣、ごめんね」
謝ってしまった。
姫「ううん。私こそ…」
沈黙してしまった。
喋らなきゃ!
唯「かわいい電車だね!ちっちゃくて、ノロノロで」
姫「そ、そうだね!」
唯「でも、住宅街スレスレだね。ほら、屋根に触れそう!」
私は車窓から屋根に手を伸ばす。痛っ!
ガラス、あったの忘れてた。
姫「だ、大丈夫、唯」
律「なぁにやってんだよ~唯」
唯「いったぁ~」
右手、少し突き指した。
すっ。
姫子ちゃんは、私の手を、優しく触った。
姫「大丈夫?」
唯「う、うん///」
痛みなんて感じない。
姫子ちゃんの体温。
少し冷たい手。
私の事、心配してくれた。嬉しい。
姫「あっ!」
サッと手を離す姫子ちゃん。
気まずそうな横顔。
それを見て、私はまたわからなくなった。
やっぱり、嫌いかな。
嫌いなのかな、姫子ちゃんを好きな、私の事。
唯「ご、ごめんね」
また謝ってしまった。
姫「あ、う、海見えてきたよ。唯」
唯「ほんとだ」
姫「海、唯、好き?」
唯「うん、好きだよ!」
姫「そっかぁ」
唯「姫子ちゃんは?」
姫子ちゃんは、海に向かって目を細める。
姫「好きだよ」
綺麗――
息を飲むくらい。
吸い込まれるくらい。
好き。
姫子ちゃんに言いたかった。
最終更新:2010年11月03日 01:36