唯が突き指して。

私は思わず、唯の手を握った。

体温の高い唯の手。

姫「大丈夫?」

唯「う、うん///」

はっ!

私、唯の手握っちゃた!

なんてことを!

バッ

手を離す。

私の顔は、今真っ赤だろう。

唯「ご、ごめんね」

何故だろう。今日の唯はよく謝る。私の、せいだろうか。

私は気まずくて。

姫「あ、う、海見えてきたよ。唯」

話しをそらした。

唯「ほんとだ」

姫「海、唯、好き?」

唯「うん、好きだよ!」

ドキッとした。

私に言われたわけじゃないのに。

言われるはず、ないのに。

姫「そっかぁ」

その事実は、とても悲しくて。

唯「姫子ちゃんは?」

私は、海に向かって目を細める。

姫「好きだよ」

唯に好きって言って欲しかったけど。

好きって言ってしまいたいけど。

私は、海の向こう。

ガラスの奥にうっすらと映つりこんだ唯に。

そう言うのが精一杯だった。





鎌倉の大仏の中に入ったり、エリの仏像蘊蓄を聞いたり、甘味処で唯がクリームを口につけてるのをみんなで笑ったり。

とても楽しかった。

楽しかったけど。

やはりトゲのようなものが心に刺さってる。

ムギ「今日泊まるのはここ!」

律「お~おっきい旅館だ!私にふさわしい!」

澪「もしかして、ここもムギの…」

ムギ「ええ!知り合いの旅館よ」

エリ「噂には聞いてたけど、ムギっちお嬢様~」

アカネ「あんたも見習いなさい。コーラばっか買い込んで」

梓「それ、一人で飲むんですか?」

エリ「いや~みんなの分」

純「コーラ、おいしいですもんね!」

エリ「おお~心の友よ!」ひしっ ダキっ

アカネ「…(私だって抱きつかれことないのに!)」

和「みんな、異様にテンション高いわね」

さわ子「まぁいいんじゃない?」

律「ん~どうした?唯、ぼけーとして」

唯「へ?そんなにしてた?」

アカネ「うん」

憂「大丈夫、お姉ちゃん」

唯「うん!心配ないよ~」

唯が少し元気ない。

帰りの江ノ電に乗ったあたりから。

何か、考え事みたい。

律「まぁ、とりあえず、旅館に荷物置こうぜー」

梓「賛成です!」

旅館に荷物を置いて、外に出る。

人数が多いから、部屋が3つに分かれた。

その結果、唯が同じ部屋。

嬉しいけど、複雑。

こんな気持ちで、唯の寝顔なんてみたくない。

唯「綺麗な夕ー陽」

唯の言葉で我に帰る。

私たちは、江ノ島を登って、龍恋の鐘に向かっていた。

有名なデートスポット。

恋人たちは、そこで鐘を鳴らし、南京錠に二人の名前を書いて、閉じるのだ。

夕陽は、確かに綺麗だった。

ムギ「こ、これが」

澪「龍恋の鐘」

律「ドラゴンラブ」

エリ「しかし、言っちゃっなんだけど」

全員「しょぼっ!」

律「これは詐欺だぜ~」

アカネ「小さな、真新しいのに薄汚い鐘が一つ」

純「南京錠、気持悪いほどあるし」

憂「錆びてるし…」

澪「歌詞になるかと思ったのに」

アカネ「ま、まぁ気を取り直して、鐘叩いてみよう!」

和「そ、そうね」

律「じゃあ私からやるぞ~」

ご~ん

さわ子「微妙な音」

律「いいんだよ、次、ムギ!」

ムギ「はい!」

次々と龍恋の鐘を叩いていくみんな。

さわ子先生は、男なんて~!と叫んでいた。

姫「わ、私も」

叩く。

みんなよりか弱い音が響く。

それだけで泣きそうになる。

律「ほら、唯の番」

唯「ほぇ?」

和「最後よ」

唯「う、うん」

緊張してるように見える唯。

でも顔が影になっていて、わからない。

唯「す~」

ガン!ガン!ガン!ゴ~ン―――!!!

思わず、耳を塞いだ。

みんなも同じだ。鳥までざわめいてる。

澪「お、おい唯!」

エリ「叩きすぎ~!」

唯「あ、エヘヘ。ごめん、ごめん」

声は笑っていたけど、顔は、見たことがないほど、真剣だった。


最後に、エリが(アカネ、エリ)と書かれた南京錠を持って来ていたというサプライズがあって

(アカネは顔を真っ赤にして怒っていた。エリが勝手に閉じた挙句、鍵を海に投げたから)今日は終わり。

みんな疲れていたのか、ご飯時までは騒いでいたけど、早々に寝てしまった。

深夜。

私は目を覚ました。

喉が渇いて、エリのくれたコーラを飲む。

唯がいない。

真鍋さんと琴吹さんは静かな寝息を立てている。

廊下に出ると、唯が旅館の外に出ていくところだった。





唯の後をつける。

唯は、小さな街頭が灯るだけの道を歩いていく。

すると、視界が開けて。岩肌が滑らかに横たわる、浜とも、海岸とも言えない、平らなところへと出る。

きっと、満潮の時は、沈んでしまうんだろう。

唯は、ただそこに立って、海を見つめていた。

潮の匂い。

私が、声をかけられずにいると、唯が振り向いた。

唯「姫子ちゃん」

姫「気がついてた?」

唯「うん、途中から」

姫「そっか」

唯は、何も言わない。

潮風が唯の柔らかそうな髪を撫でる。

雲が流れて、月が出る。

月明かりに照らされた唯が、寂しそうに微笑んだ。私は、唯の事を初めて。

かわいいでも。

愛しいでもなく。

綺麗だと思った。

唯「姫子ちゃん、私、謝らなくちゃいけない」

姫「何を?」

唯「あの時、教室で、キ、キスしちゃったこと」

なんで謝るんだろう。

私が、過剰に反応してしまっただけなのに。

姫「別に、気にしてない――」

唯「嘘だよ!」

唯が。

泣いてる。

唯「嫌な事されたから、逃げたんだよね。気持ち悪かったから」

姫「ゆ、唯、ちが―」

唯「今日ね、あの鐘にお願いしたの。姫子ちゃんに謝って、許してもらえますようにって。また、友達になれますようにって」

姫「ゆ、唯」

唯「ごめんなさい。許して下さい」

唯は、私に謝った。

唯に謝られるのは、嫌だ。心が苦しくなる。

でも、わかったこともある。

唯は、私の気持ちにまだ、気がついてない。

良かった。

ホントに良かった。

唯にまだ,嫌われてない。

気持ち悪いと思われてない。

姫「唯、聞いて」

本当なら。

私は、ここで自分の気持ちを。

唯の事が好きと。

言ってしまいたかったけど。

私は、臆病だから。

卑怯だから。

姫「ちょっとビックリしただけだったんだよ。あの時。真鍋さんも来たし、なんだか恥ずかしくなっちゃって」

嘘つき。

唯にキスされるのを、何度も想像してたのに。

唯「へ?和ちゃん?」

姫「あれ?気がついてなかった?」

唯「うん」

姫「だから、私が教室出てったのは、それだけの理由。ごめんね、誤解させちゃったみたい」

嘘つき。

でも。

唯「そっか~!なんだ、勘違いでござったか~!」

安心した唯の顔。

これで。

友達に戻れる。

姫「だから、今までどうり、ね!」

唯「あ、うん」

唯の顔が曇った。

月明かりのせいかもしれないけど。

唯「あ、あのね!」

姫「ん?何?」

唯「///もう一つ、言いたいことがあるんだ」

姫「?」

唯「大好き!」

友達に戻れた。

嬉しくて泣きそう。でも、悲しい。

変な感情!

唯とは暫く海岸で雑談をして、二人で旅館に戻った。やけに嬉しそうな唯は、可愛かった。

明日からは、今まで通り。

今まで通りの、友達。





夏休み。

みんなとの旅行も終わって、何もない今日一日。

私はぽけーとしていた。告白。

生まれて初めての告白。姫子ちゃん。

あんなに、言うのが怖くて、恐ろしかった、告白。女の子が女の子に好きって言う。

そういう告白。

なのに。

わたしあの海岸で、スルリとしてしまった!

大好き!って。

唯「///くぅ~う、恥ずかしいぜ、ギー太!」

枕を抱えてゴロゴロ。

唯「し、しかもですよ、奥さん!姫子ちゃん、微笑んでくれた!あれは、OKって事かな、事だよね!」

奇跡。

ミラクル。

逆転満塁ホームラン!

唯「そ、そうと決まれば、あ、あれかな、デートかな!」

姫子ちゃんとデート!

憂「お姉ちゃんうるさい~。なに騒いでるの?」

しまった。

舞い上がりすぎて、マイシスターに怒られた。

唯「てへへ。とにかく、メールしよ」

唯「明日遊びませんか。そ、その二人で。っと///」


4
最終更新:2010年11月03日 01:38