神様。

お月様。

竜神さま。

ありがとう♪





姫「また早くに来てしまった」

夏休み。

早朝の駅前。

唯から来たメールを見返し眺める。

姫「旅行終わって、3日。まさか唯から遊ぼうなんて。それも二人っきりって」

こないだ誤解も解けて。関係は修復。

現状維持。

ガラスに映る今日の私。

私はどうも、気合いを入れると、地味な恰好になってしまうらしい。

唯「ひっめっこちゃん!」

姫「おお~?唯!」

背後から飛び付いてきた。

今日の唯は活きがいいな。

唯「早くきちゃたっら、姫子ちゃんも来てたんだね。へへ///照れるぜ!」

直視するだけでこちらが照れてしまうような笑顔。

姫「早く起きちゃったからね」

唯「私も、私も!いやぁ~緊張して眠れませんで。姫子ちゃんは?」

姫「私もそんな感じかな」

唯「そっかぁ~そっかぁ♪」

唯、なんだか嬉しそう。

唯「さぁ、いざ行かん!」

今日の目的はショッピングのようだ。

電車に乗って5つ先のショッピングモール。映画館なんかも入ってる大きなところ。

姫「行き先は任せてなんていってたけど、唯、決まらなかったからここにしたんでしょ?」

唯「う!」

図星だったみたい。

唯「だってさ、姫子ちゃんと行きたいとこありすぎて」

嬉しいことを言ってくれる。

姫「で、どこから行く?」

私は顔がニヤけないようにしながら唯と歩く。

唯「へへ~♪ほれ!」

唯が右手を差し出してくる。

姫「なに?」

唯「何って、ほれ!」

唯、何したいんだろ。

唯「まったくも~姫子ちゃんは鈍感さんだな!」

ぎゅ!

姫「ち、ちょっと唯?///」

手、繋がれた――

唯「恥ずかしがりやだね、姫子ちゃん♪」

心臓の鼓動が早くなる。

ほんとうに、唯のスキンシップは過剰すぎる。

キスされた時だってそう。

ほんとうに――

姫「わかったわかった」

手を繋ぐ。

私は学習した。

こんな事では泣かない。

最初に入ったのは、ちょっとメルヘンな雑貨屋だった。

唯はかわいいかわいいを連呼していて、私はかわいいのはお前だ!と心の中で繰り返した。

手は、ずっと握られていた。

もう離すまいと言うように。

姫「これ、いいんじゃない?」

私はふざけて、造花で出来た花輪を唯の頭に被せる。

唯「じゃあ姫子ちゃんも!あはは、姫子ちゃんの頭に花が咲いてる!」

姫「唯だって!」

唯「へへへへ♪」

姫「ハハハ」

笑い合う二人。

手を繋いだまま。

周りの人がみたら、何に見えるんだろう。

姉妹?


恋人?

どうしたって仲のいい友達にしか見えない。

つまりはそういう事。

私の想いは、異常。

唯「どうしたの、姫子ちゃん?」

思わず暗くなっちゃった。

姫「ああ、ごめん、ごめん。考え事」

唯「…そっか」

うん。と気合いを唯が入れる。

唯「お昼食べに行こう!」





私は固まっている。

唯がこんな事するから。

唯「あ~んてば!」

唯はチョコクレープをフォークに指して、私に差し出している。

って、なんでお昼ご飯にクレープ?

因みに私はパスタ。

姫「あ、あのさ」

唯「あ~ん」

唯は意外と強情だった。

姫「あ、あ~ん」

パク。

これはもう、恋人同士のラブラブイベントとしてよく知られている行為だよね?

今日は、唯の中で恋人ゴッコの日だったりするのかな。

姫「も、もしかして、私、彼女役だったりとか?」

唯「ん?ん~どっちかって言うと彼氏!」

そっか。

そういうことなら、楽しもうかな。

うん。

姫「唯、もう一口」

イケメンの声を精一杯だしてみる。

唯「へへへ♪太るよ~」

そういいながら、差し出すフォーク。

幸せだな。

ホントの恋人同士なら、よかったのに。

それからまた手を繋いで、映画を見て、服を見てまわる。

唯「姫子ちゃんの手、温かいね~」

姫「唯は熱い」

私の手は冷たい。唯のお陰で温くなっただけ。

離れればまた冷たくなる。

唯「あ、このTシャツは!」

唯がぐぃっと引っ張る。

唯「姫子ちゃん!」

唯が私に見せたのは、「らぶりー」と 書かれたピンクのTシャツ。

唯「お揃いで買わない?!」

唯、スゴいセンス。

でも、唯なら似合うかも。

そう考えると、唯って不思議な子だな~

姫「買おうか」

唯の顔がパァァと輝く。

私は心の中で呟く。

こんな可愛いい子が私の恋人なんだよ。

って。

姫「ふふっ」

唯「姫子ちゃん」

姫「なに?」

唯「好きだよ、姫子ちゃん」

ゴッコの続き。

今日は恋人。

姫「私も好きだよ、唯」

唯「へへ♪」

姫「///」


帰り道。

駅を降りて、私はバス停に向かう。自転車でも来れない距離じゃないけど、髪のセットが乱れるのが嫌だったから。


バス停でバスが来るのを待つ。

運悪く、行ったばかりで、次は30分後だった。

姫「って唯?」

唯が待合いの椅子に座っていた。

唯「姫子ちゃんが行くまで、ここにいるよ」

夕陽が唯の横顔を照らす。

普段はほわほわした顔なのに、月とか、夕陽とかに照らされると、こんなに綺麗になるんだろ。

ちょっと反則。

姫「暗くなっちゃうよ」

唯「大丈夫だよ。家近いもん」

姫「ああ、そうだったね。よく走って来てるもんね、遅刻しそうになって」

唯「み、見てたの?」

姫「窓からね」

唯「恥ずかしいでござる~」

姫「ギター、いっつも背負ってるね。重くない?」

唯「重くないって言ったら嘘だけど、相棒だからね!」

姫「あれ?彼氏じゃないの?はは」

唯「彼氏は姫子ちゃんだよ~」

姫「アハハハ。ありがと」

唯「私ね」

姫「うん」

唯「姫子ちゃんともっとお喋りしたいよ」

姫「――ありがと」

唯「あ~楽しかった。夏休み、ずっとこんなんだったらいいのに~」

姫「三年だもんね、勉強しなきゃ」

唯「受験か~」

姫「憂鬱」

唯「でも、まだ学園祭があるよ!」

姫「唯のライブ、楽しみにしてるよ」

唯「えへへ。なら姫子ちゃんの為にがんばっちゃおうかな~」

姫「調子いいこと言って」

唯「ほんとだよ~」

唯との会話は楽しくて。

バスなんか来なければいいと思った。




夏休み。

結局、あれから唯とは遊ばないまま、最後の週を迎えてしまった。

お互い受験勉強があるし。

私はバイトもあるし。

でもそんなのは言い訳で。

私は唯の誘いを三度断った。

恋人ゴッコ。

しているときはあんなに楽しかったのに、家に帰ったとたん、悲しくなった。

やっぱり、唯と一緒にいるのはつらい。

わかってた事だけど。

姫「らぶりー、か」

私は、あの時買ったTシャツを、パジャマにしていた。

外に着ていくのは、抵抗感があるし。

さわ子先生からもらった唯の写真は、二枚とも部屋にひっそり飾ってある。

実は、あの後もう一枚もらった。

机に頬づえ。

真面目な横顔。



時間は瞬く間に過ぎて。

学園祭の準備が始まった。

和「じゃあ、秋山さん。田井中さん。よろしくね」

クラスの出し物は演劇。

ロミオとジュリエット。

自分にも票が入ってあせった。

唯にも一票入っている。

私が入れた。

あーあ。唯のジュリエット、見たかったな。

唯「姫子ちゃんのロミオ、見たかったな~私入れたのに」

私に入れた犯人の一人はお前か!

和「じゃあ次々に決めましょう」

結局、私は裏方に回って、唯は木Gになった。




最近、姫子ちゃんは私に冷たい。

ううん。冷たいわけじゃないんだけど、なんか浮かない顔。

デートも、してない。

時々一緒に帰るけど。

唯「なんだかな~」

姫子ちゃん。

私のこと、ほんとはどう思ってるんだろう。

律「ほら唯。練習するぞ」

そうだった。

今は部活中。

学園祭に向けて特訓中。

澪「しかし、新曲ひとつくらい入れたいな」

梓「曲はムギ先輩が作ってあるんですけどね」

律「ん~結構激しいんだよな、曲調が」

ムギ「戦いのイメージなんだけど。激しいのやりたくて」

澪「今まで柔らかい感じだったもんな」

律「その大半の原因は澪の歌詞だろ!」

澪「む。まぁあの曲に合う歌詞、なかなか思い付かないんだよ」

ムギ「ごめんなさい」

唯「でも曲はカッコイイんだよね」

律「おし!いっちょ皆で書いて来るか!わが作詞家が不調だし」

澪「不調ってわけじゃ」

ムギ「そうね。そうしましょう。持ち寄れば文殊の知恵ね!」

唯「歌詞か~書けるかな」

ムギ「頑張りましょう。唯ちゃん」




唯「ってことがあってね」

姫「それで歌詞は?」

唯との帰り道。

小雨が降って、傘を忘れた唯を私の傘に入れていた。学園祭の準備のせいで、もう真っ暗だ。

唯「何回か持ち寄っんだけど、なかなかうまくいかなくてね~」

姫「そうなんだ」

唯「りっちゃんと澪ちゃんは劇の稽古で忙しくなちゃったし」

姫「でも、少しはさまになってきたよ、あの二人」

唯「そうだね!あ、そうだ。私は?私の木G!」

木の真似?をする唯。

姫「う、うん。不動!って感じ…」

唯「へへへ♪~」

唯は、ほんとに忙しくて楽しそう。

それに比べて私は。

唯「じ、じゃあ、ご、ご褒美に、キスして欲しいな!…なんて」

なにを言っているのだろう、この娘は。

唯「姫子ちゃん?」

なんでかな。

私の中の何かは、音を立てて弾けとんだ。

姫「いつも、唯は」

唯「なに?なんか怖いよ、姫子ちゃん」

姫「馴れ馴れしく呼ばないで!!そうやって、いつもヘラヘラして、抱きついてきて、手を繋いできて!キスしようとして!」

唯「なんで?私たち、その恋人―」

姫「また恋人ゴッコ?唯は、唯はそうやって、こういう事簡単に、なんの価値もないみたいにやるけど、

中には、中には女同士でも、真剣に恋しちゃう人もいるんだ!!」

私は、今度は泣かなかった。

姫「唯はそういうの、信じられないだろうし、気持悪いんだろうけど」

唯「姫子ちゃん、なんで」

私は、傘を離して、後ずさる。

傘が唯を覆って、顔は見えなかった。

でも、唯は傷ついた顔をしている。

唯は優しくて、純粋だから。

姫「気をつけて、帰って」

私は。

こんな事を言って唯を傷つけた自分に嫌悪しながら雨の中を歩いた。


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最終更新:2010年11月03日 01:41