あれから考えた。

あの雨の日から。

でも分からない。

わかるのは、姫子ちゃんがとても傷ついた顔をしていた事。

私のせいで。

それと。

どうやら恋人じゃなかった事。

そして。

嫌われてしまったこと。

何がいけなかったのかわからない。

どうすればいいのかわからない。

唯「また、やっちゃった…」

和ちゃんにいつも言われてたっけ。

周りをちゃんと見なさいって。

勝手に恋人扱いされたら、怒るよね。

梓「唯先輩!久しぶりのケーキですよ?」

律「どうしたんだ?唯」

和「何かあったの?」

今日は和ちゃんもまじえて学園祭の打ち合わせ中。

和ちゃんは私の顔を覗き込んでジーっと見ている。

梓「ほんとどうしちゃったんですか」

唯「なんでもないよ?」

ムギ(これは、あの時と同じ反応。最近、姫子ちゃんもおかしい)

律「早く食べよ~ぜ!」

澪「歌詞、歌詞…」

ムギ「姫子ちゃん?」

姫子ちゃん?

誰だっけ。

忘れられないよ。

大好きな人。

唯「ふ、ふぇ。ぐす」

泣いてしまった。

不覚っ。

梓「唯先輩!?」

律「唯?」

澪「と、とにかく落ち着け」

和「唯…」

ガチャ

さわ子「ちょりっす」

律「タイミング考えろよ!」

さわ子「な、なによ?って唯ちゃん?」

唯「ぐす。ごめんね、大丈夫だから」

さわ子「何?解散でもするの?」

律「さ~わ~ちゃん!空気読めって!」

さわ子「わかってるわよ」

唯「大丈夫、大丈夫だから、気にしないでお茶しよ!」

私は無理矢理笑った。

さわ子「唯ちゃん。笑えてないわよ。それに酷い顔。鼻水ダラダラよ?」

さわちゃんが近づいてくる。

さわ子「何があったか知らないけど、一人で悩んでるんでしょ?やめなさい、そういうの。ここはどこ?」

唯「お、音楽室」

さわ子「放課後ティータイムの部室よ。それにアナタの幼なじみ」

律「さわちゃん…」

さわ子「頼りにならない?」

唯「ううん」

首を横に振る。

律「そーだぞ!私たちに任せろ!そしてとりあえず鼻水ふけ!」

ムギ「はい、ティッシュ」

唯「うん」

ちーん。

鼻を噛んだら少しすっきりして。

唯「あのね…」

私はみんなに姫子ちゃんの事を話した。


私が女の子を好きだってことは、みんな受け入れてくれた。

さわ子「青春ね~」

澪「茶化さないでください」

和「でも、私たちは」

梓「何も出来ないかも」

さわ子「色恋だしね~」

律「う~ん、私は話がこんがらがっててわからん」

澪「昔から、この手の話苦手だもんな」

唯「ううん。聞いてもらったらなんだか気持ちが軽くなったよ!」

さわ子「いっそのこと、もう一度告白したら?白黒はっきりするわよ?」

律「そういう性格だから、恋人に逃げられ―」

さわ子「あん?」

律「ナンデモアリマセン」

唯「でも、姫子ちゃんには避けられて」

和「それなら…」



私は、姫子ちゃんが好き。

どんなことがあっても。 姫子ちゃんが欲しい。

だから――



律「出来たか?」

唯「ううん///」

梓「じゃあ、やってみましょう!」

ムギ「うん!」

澪「よし!」

律「いくぞ~!ワン・ツー・スリー!」



学園祭2日目



幕が上がる。

私たちはさわちゃんの作ってくれた衣装を着て。

ステージの上に立っている。

唯「ギー太、がんばろう」

幕が開いた。



唯「ふわふわタイム~」

澪「ふわふわタイム~」

ダダン、ダダン、ジャン!

唯「改めまして、放課後ティータイムです!」

歓声!

唯「まずはメンバー紹介!秋山澪~!」

澪「こ、こんにちわ」

唯「澪ちゃんは、昨日のクラス劇で、ロミオだったんですよ!ではロミオの台詞、どうぞ!」

澪「おぉジュリエット!」

澪ファンクラブ「キャ――― ♪」

唯「そして、ギターの中野梓ちゃん!」

梓「ど、どうもです」

唯「あずにゃんは後輩で、とっても可愛いいんですよ。ほら、ネコマネ!」

梓「えっと、ニャー」

憂「梓ちゃ~ん!」

梓「ちょ、唯先輩、何やらせるんですか!」

歓声「ハハハハハハ♪」

唯「そしてキーボード、琴吹紬!」

ムギ「はじめましてこんにちわ。紬です。私たち放課後ティータイムは、

毎日部室で練習しているので、いつでも聞きにきてください~」

前三人「ムギさん~」

唯「最後に、前髪下ろすと超絶イケメン、田井中律~!」

律「なんで私だけ煽りあんだよ!」

クラスメイト「律~!」

律「え~部長の田井中律です」

唯「あれ?それだけ?あ、そうそう!りっちゃんは、劇でジュリエット役だったんです!ではどうぞ!」

律「え、聞いてない。――すっう~あぁロミオ、どうしてあなたはロミオなの!」

クラスメイト「律最高!」

唯「では次の曲~」

律「自分、忘れてるぞ!」

唯「あ、あれゃ~」

歓声「ハハハハハハ♪

律「最後に、放課後ティータイムのマスコットキャラ、のんびり妖精平沢唯~!」

唯「あーはじめまして。平沢唯です。ほんとに、軽音部って、音楽って楽しいです。ぜひ皆軽音部へ~!」



ステージに立つ唯は、輝いていた。


跳ねて、歌い、ギターを掻き鳴らす。

姫「見に来ちゃた…」

見ないって決めてたのに。

唯が演奏するのを見るのが最後かもって思ったら。

姫「唯、楽しそう」

唯の笑顔は、単純に嬉しいのに。

私の事、気にしてないんだと思うと。

悲しくなる。

でも、ステージには惹き付けられる。思わず手を叩いてしまう。

やっぱり、唯はスゴい。あんなバンドの一員なんだから。

演奏が終わる。

もう唯の演奏、見られないんだろうな。

そんなことなら、一度目の前で弾いてもらいたかったな。

唯。唯。唯。

姫「どうやれば、唯のこと、忘れられるんだろうね、唯?」


小言で。

呟いていたら――

唯「最後の曲の前に、少しだけ喋らせてください!」

唯は唐突に。

客席に向かって喋りだした。





唯「最後の曲の前に、少しだけ喋らせてください!」

私は、和ちゃんを見た。 和ちゃんは頷く。

気がつくと、りっちゃんもムギちゃんもあずにゃをも澪ちゃんもさわちゃんも。

みんな私を見て、頷いてくれた。

よし。

頑張るから、見ててね。

唯「私は、私には好きな人がいます!」

どよめく客席。

唯「私は、その人と今、会話さえありません。昔は友達だったけど、どう間違ったか、そんな風になっちゃて」

いったん、言葉を切る。

そして見る。

幕が上がる前から、ずっとその姿を探して。

そして見つけたあの人。来てくれたんだね。

唯「でも私は、諦めが悪いんだ!だから、ここでもう一度告白します!では最後の曲!!」

唯「プリンセス!!!」

大好きな人は塔の上。

手を伸ばしても届かない。

届かなくても手を伸ばす。

あなたは私のプリンセス。

千の刃や砲弾も。

私の想いは砕けない。

血潮にまみれて倒れても。

ただただ私は突き進む。

ねぇロミオとジュリエット。

そんな覚悟が必要よ?

あなたは私のプリンセス!!

梓澪ムギ律「ギタ――!!!」

私は。

ギターに。

全てを乗せる。

弾いて、弾いて、弾いて。

激しい曲調。

難解なコード。

一つ間違う。

でも気にしない。

みんなの音が駆け上がる。

音が、重なって。

そこで、みんなは音を止める。

静寂。

私は独り、息を吸う。

唯「――大好き!!!」

再び音が鳴り響く。

好き。好き。好き。

姫子ちゃん。


6
最終更新:2010年11月03日 01:44