唯「ねぇ、ねぇ。姫子ちゃん」

隣の席に座る唯の顔は、キラキラと輝いていた。

か、かわえぇ。

って、じゃなくてっ

イヤな予感。

またなにか良からぬことを――

唯「姫子ちゃんって、番長だったんでしょ!」

やっぱり。

姫「ち、ちが」

唯「カッコイイな~カッコイイな~番長!」

姫「だから、私は」

唯「番長か~いいな~。やってみてよ!」

姫「何を?!」

唯「番長らしいこと!」

姫「いや、だから」

唯「じ――」

め、めっちゃ期待しとるやないかい!

裏切れない。

私は唯の期待を裏切れない。

姫「す~、オラオラ、なめてんじゃねぇぞこの!」

澪「ビクッ」

姫「なにガンくれてんだコラ~!」

澪「びくっびくっ!」

澪(な、なんだ、この全身を駆け抜ける感覚)

唯「あははは~♪」

ゆ、唯が喜んでくれてる!

嬉しい。

姫「埋めんぞ、河口湖に沈めんぞてめえ~♪」

唯「でも違う」

姫「へ?」

唯「それ、番長違う。それは舎弟のセリフだよ!」

姫「しゃ、舎弟?」

唯「下っぱさんだよ」

ガーン!

そ、そんな。

姫「じゃあ、番長って」

唯「漢義だよ!」

姫「でも、私、女…」

唯「姫子ちゃん。番長時代を恥ずかしいとか思ってるのかも知れないけど、そんな事ないよ!」

姫「ゆ、唯」

唯「私は、姫子ちゃんがカッコイイ番長さんだって、知ってるから―!」ダキッ

唯、柔らかい。唯に抱きしめられて。頭がぽーってしちゃう。

でも。

私は番長なんだから。

姫「触るな。殺すぞ」

澪(はぁあん。なんだ、胸が疼く。なんだろう、これ)

唯「それでこそ番長。硬派。カッコイイ!」

唯にカッコイイって言われた///

唯「姫子番長の復活だね!そうと決まれば、舎弟が必要だよ!私、舎弟1号~!」

唯が舎弟か~

いいかも///

姫「何してんだ。暑い」

唯「あ、はい番長」

唯が下敷きで扇いでくれてる。

涼しぃ~

唯「番長、子分作りましょうや!あ、そうだ~りっちゃん!」

律「んーなんだ?」

唯「姫子ちゃ、番長の舎弟になれ!ほら、番長も」

え、周り巻き込んじゃうの!それは、でも。

姫「俺の舎弟になれ。ならなきゃぶっ殺す」

律(また新しい遊びか~乗ってやるか♪)

律「不肖、この田井中、番長の舎弟にならせて頂きます」

唯「りっちゃんもカッコイイ!なんか言って!」

律「這いつくばって、ワンッて鳴け」

澪(はぁ――!律の声で言われると、更に、ひゃぁん)

そ、それは違くないか?

唯「おぉ~りっちゃん舎弟ぽい。クールな舎弟ぽい」

律「気安く名前で呼ぶな。犬っコロ」

澪(いぬ、いぬ、私はいぬ)

律「しつけてやろーか?クズ」

澪(ひゅるりらら!)

唯「さて、そろそろ抗争たよ!バイオレンスだよ!」

え?いきなり?

姫「誰と、やるの?」

唯「和ちゃんだよ!にっくき生徒会だよ!」


こうして、私たち、唯、律、私、そして何故かはぁはぁいいながら付いてくる澪の四人で、生徒会室に向かった。

生徒会室はただならぬ緊迫感。

唯「この学校を明け渡すか、死ぬか、一つに二つだ!」

二つに一つだよ、唯。

でもかわいいから許す。

律「てめえは犬小屋で、残飯でも食ってろ」

澪(ふぅ、ふぅ。何だか慣れてきた。胸がドキドキしない)

姫「そういう事」

ああ、ごめん、真鍋さん。

私は、番長だから。

和「?唯と律は分かるけど、なんで立花さんと澪まで悪ふざけに参加してるの?」

おお!唯の幼なじみは冷静だ。

このまま、番長やめられないかな。

唯「何言ってるの、和ちゃん!姫子ちゃんは番長さんなんだよ?」

和「?」

律「(なんか、セリフを言うたび体が熱くなる)日本言理解できないのかよ?」

澪(う~ん、どうすれば、あの感覚を取り戻せるんだろう?」

和「……ああ!立花さん、唯に勘違いされちゃったのね?」

なんと!さすが生徒会長。

頭脳明晰、そして唯の幼なじみ!

これで解決する~!

澪(そうだ!)

姫「そうなんだ、実は――」

澪「会長、からかうのはいい加減にしましょう!かわそうですよ」

姫和「え?」

澪「そこまで小バカにしなくても。一応、会長の島で番長名乗ってるんですから」

和「澪、いきなりどうしたの?」

唯「ひどい!!澪ちゃん、仲間だと思ってたのに!スパイだったんだね!」

姫「え?唯?」

澪「いかにも」

和「何がどうなってるの?」

律「見損なったぜ。飼い主の言うことも聞けない、駄犬だったとはな。あばすれが」

澪(はぅぅー!やぁん、体に電気走る~!これ、これだよ。律が他の人にいうんじゃダメなんだ!

私を見て、私に言ってくれなくちゃ!我ながらいい作戦!律の敵になればいいんだ!)

澪「やっちゃいましょうよ、会長」

律「脳にうじでも沸いたか」

澪(んぁ~はぁ。もっと、もっと)

澪「五月蝿いハエがいますね」

律(なんか、澪に向かって言うと、き、気持いい!)

律「あ?もう一度、言ってみろ、売女」

澪「ハエ」

律「二度と口がきけないように、栓してやるよ」

澪(り、律が私の口に、栓、栓!何でかな?猿轡?ポールギャグ?そ、それとも、く、唇、で!?)

姫子「はぁ」

なんか、どうでも良くなってきちゃた。

唯(む。澪ちゃんからただならぬオーラ!ここは……」

唯「番長!ここは撤退しましょう!」

姫「え?あ、うん」

何だか流されてる。

でも。

唯「キリッ」

キリッとしてる唯、かわいい~!

和「なんだったのかしら。というか、なんなのかしら、説明して澪」

澪「そ、それは・・・・・・(私が律に罵られたいからなんて言えない)」

和「それに、唯と律ならともかく、立花さんまで」

澪「そ、それはだな、つまり」

和「つまり?」

澪「あ、あの三人は目覚めてしまったんだ」

和「?」

澪「その、漢道に」

和「・・・・・・」

澪「私は、その、ついて行けなかったから、和の仲間になろうと、思って」

和「漢、道?」

澪「う、うん」

和「(あの、天然でホワホワした、それでも人一倍優しい唯が、漢道なんて・・・・・でも、あなたがそれを望むなら)わかったわ」

澪「え?」

和「唯は、強くなりたいのね?」

澪「そ、その通りだ」

和「わかったわ」

澪「何が?」

和「唯が強く、たくましく育っていく為なら、私は唯の敵にでも、鬼にでもなるわ。それが、唯の為なら」

澪「和・・・・・・」

和「手伝って、くれるわよね?」クスっ

澪「う、うん」



放課後。教室。

唯「なーんだ、姫子ちゃん番長さんじゃなかったんだ!」

姫「だから、そう言ってたじゃない」

あれから、義兄弟の契りとか言い出した唯に説明すること一時間半。

ようやく、唯の誤解が解けた。

律「唯、本気で思ってたのかよ、番長だったなんて」

唯「えーだって、姫子ちゃんカッコイイし、なんだか姉御!って感じじゃない?」

律「まあ、確かにそうかも」

姫「まあ、良かったよ。誤解も解けて、これで今までどうり。一時はどうなることかと思ったよ」

律「ああ、良かった。別の意味でも」

唯「へ?なんか言った?りっちゃん」

律「い、いや、何でもないぞー」

姫「まあ、それなら私、部活行くからね」

唯「うん!また明日ね~」

律「悪いね、唯につきあわせちゃって」

姫「ううん。なんだかドタバタしてて、楽しかったし」

それに、なんだか唯と一気に距離が縮まった気がする。

よ、よし!

また明日、頑張ろう!



律「姫子も、意外とノリがいいよな~」

唯「もしかしたら、やっぱり番長さんだったんじゃないかな」

律「まだ言うか」

唯「でもさ、なんだか姫子ちゃんって、私たちと違う気がするんだよね。あんまし昔のこと話してくれないし」

律「確かになー。そういえば、どこ中かも知らん」

唯「なにか、きっと過去にあるんだよ」

いちご「知りたい?」

律「うおい!いきなり背後に現れるなよ!」

いちご「・・・・知りたい?」

唯「うん!知りたい!」

いちご「そう。じゃあ、教えてあげる。実はね・・・・・」

律「ごくり」

唯「わくわく」

いちご「姫子の中学校、姉妹(スール)制度のある学校で、そこで姫子は、お姉様の中のお姉様、薔薇様だったんだよ」

律「何?!」

唯「へ?どういう事?」

いちご「つまりね、学校のお姉様として君臨していたってこと」

唯「なんと!」

いちご「それが間違って伝わって、番長なんて噂になったんだ」

律「そうだったのか」

唯「う~ん、いまいち分からない」

いちご「これ、貸してあげる」

律「そ、それは!なんでいちご持ち歩いてるんだよ!」

いちご「貸したのが返ってきた」

唯「なに、これ?小説?」

いちご「うん。これを読めば、姫子が中学でどんな存在だったのか、わかる」

唯「ありがとう!」

いちご「長い話だから、また持ってくる」

律「いちご、こういうの読むのか」

いちご「へん?」

律「う~ん、イメージと違うというか」

唯「ありがとう、いちごちゃん!これ読んで、姫子ちゃんの過去を暴くよ!」

いちご「うん」




姫「あーバイト終わったー。あれ、いちごから電話だ、珍しい。どうしたのいちご」

いちご「今日、唯に番長だって間違われたんだって?」

姫子「そうなんだ。大変だったよ、でもなんで知ってんの?」

いちご「唯たちから聞いた。それで、唯たちが姫子の中学の話を知りたがってたから、教えといた」

姫子「ふーん。でも、なに話したの?特に話すようなこと」

いちご「姫子が学校のお姉様で、薔薇様だったって」

姫子「ふーん。って!なに嘘吹き込んでるのよ!!」

いちご「面白そうだったから。ついでに、本も貸しといた」

姫子「ちょ、あんた!貸したってあの本?!」

いちご「じゃあ」

ぷつん

姫子「ちょっまちなさい!って、切れてる」


唯「ひーめーこちゃん!!」

正門前。

唯はなぜか門の前に立っていた。

姫「な、なに?」

唯「ほれ!」

唯のリボンは、なぜか解けかかっている。

姫「こ、これは」

唯「姫子おねえさま♪」

うわっ、かわいい・・・・・

じゃなくて。

姫「あのね、いちごが昨日言ってたこと、あれは嘘で・・・・」

律「あー唯、姫子にタイを結んでもらうのか?」にやにや

いちご「唯は姫子の妹」

律といちごが一緒にいる。

律のやつ、ぐるになったな。

唯「姫子お姉様」

く!

唯にお姉様と呼ばれる日が来るなんて。

いちごと律がにやにやとこちらを見ているのは悔しいけど。

う、嬉しい!

姫「あ、あら、タイが曲がっていてよ、だったっけ」

唯のリボンを直す。

唯「姫子お姉様、近い」

すっかり唯は役にはまりきっているようだった。



教室。

いちご「こうして、私と唯は、無事スールになり、幸せに暮らしましたとさ。まる」

姫「勝手なナレーションつけるな!」

唯「え~いいじゃん。私にロザリオをください!」

姫「え、えっと、今持ってないし」

律「すっかり唯のペースだな」

エリ「なにやってんの、面白そう!」

アカネ「また、あんたはすぐ首をつっこむ」

唯「スールだよ、姉妹だよ!」

エリ「私が渡すとしたら、数珠かな~」

律「お前らまで読んでんのかよ・・・・・しかし、澪のやつ遅いな。ムギは・・・・・・気絶してるな」

唯「りっちゃんは?」

律「え?」

唯「りっちゃんは、澪ちゃんにロザリオ渡さないの?こうやって、首にかけてさー」

律「首に、かける?」

唯「そうだよ!首にかけてあげるんだよ!」

律「首、首にかける・・・・・・・は!」

律「首輪!!!!」

唯「へ?」

いちご「なに叫んでるの?」

律「な、なんでもねえ・・・(つい興奮してしまった。澪、澪に首輪・・・・)」

姫「とにかく、唯、私が薔薇様だったっていうのは誤解で」

唯「・・・・そんなこと関係ないよ」

姫子「え?」

唯「私は、姫子ちゃんの妹だよ!!!」

姫「う、うん」

唯「ぎゅっ」

姫「(手を、握ってきた!)・・・・・・・・私は唯のお姉様だよ」

いちご「成功」

律「よかったな、唯!」

アカネ「(いいな)」

エリ「(よーし、私も!)」

ムギ「(桃源郷・・・・・・・)」


ガラガラ!

和「おらー!立花!平沢!田井中!ちょっと顔かせや!!!!!」

唯「へ?」

姫「真鍋さん、何してるの?」

和「・・・・・・え?」

                  終わり



ごじつだん!

澪「ほ、ほんとにやるのか?」

律「お前がやりたいってきたんだろ」

澪「そ、そうだけど」

律「ほら、じっとしてろ(澪に、首輪をかける!)」

澪「(り、律ーーーーー)」

律「これで、澪は私の愛しい犬だな」

澪「う、うん」///

                これで本当におしまい



最終更新:2010年11月03日 01:53