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数日後
梓の教室

モブ1「ねえ聞いた?」

モブ2「ああ、平沢先輩の彼女事件でしょ?」

モブ1「平沢先輩って女の子好きだったんだー」

モブ2「この学校じゃ大して珍しくないでしょ。っていうか、平沢先輩の彼女って平沢先輩とクラスなんだよね」

モブ1「え、そうなんだ。誰だれ?」

モブ2「んー、なんか『いちご』って呼んでたけど……」

梓「……」

唯先輩に恋人が出来たことは、次の日には学校中に広まっていました

憂「あの……梓ちゃん?」

梓「え、ああ、何?」


憂「あの……お姉ちゃんのことなんだけど……」

梓「あ、うん……」

憂「ほ、本当にいいの?」

梓「……何が?」

憂「お姉ちゃんが、いちご先輩と付き合うの」

梓「な、何で私に?いいよ別に。恋人居るのとか普通だし、それに」

憂「?」

梓「……唯先輩が選んだ人でしょ?いちご先輩って私知らないけど、きっと素敵な人だよ。だから」

憂「……ん。わかった。じゃあ、席戻るね。またね、梓ちゃん」

梓「うん。じゃあね」


梓「はぁ……」


朝登校すると、私のクラスのみんなは唯先輩に恋人が出来た噂で大騒ぎでした

今までは気づかなかったけれど、澪先輩以外でもHTTのメンバーは有名みたいです

そのHTTのメインボーカルに恋人が出来ました

騒ぎにならない方がおかしいですよ



放課後 

梓「……気が重い」

部室に行きたくありません

昨日は唯先輩から「仲良くして」と言われましたが、実質あれはフラれたんです

どんな顔をして会えばいいんでしょう

梓「でも、行かなきゃな……」

他の先輩方にも、たぶん私の気持ちは気づかれてます

これで今日私が行かなかったら、絶対に心配をかけてしまいます

梓「大丈夫。いつも通りに」

いつも通りの自分がわかりません

でも、自業自得ですよね

私があんな嘘を付いちゃって

唯先輩を傷つけてしまったんですから



部室

梓「こんにちわー……」

唯「あ、あずにゃんー」

部室の扉を開けて覗いてみると、唯先輩がこちらを向きました

他の先輩方も揃っています

どうやら私がうじうじ考えてたせいで、一番最後のようです

唯「遅いよー。何してたのー?」

梓「い、いや、その、係の仕事があって……」

唯先輩がとことこやってきて、私を出迎えてくれます

いつもならここで、私を抱きしめてくるのですが――

唯「そっかー。なら仕方ないねー」

にっこりと無邪気に笑って、扉を開けてくれて

それだけでした

梓「すみません……」

唯先輩の無邪気な笑顔が見ていられなくて、私は短くそう言うと目を合わせないように部室に入りました

他の先輩方はテーブルについていました

梓「遅れてすみません」

律「い、いや、いいってー。係の仕事なら仕方ないしな!」

澪「そ、そうだぞー。練習って言っても、具体的にはお茶してるくらいなんだから!」

あはは、と笑う律先輩と澪先輩の笑顔も痛々しいです

絶対に私のこと気遣ってくれてます

唯「ほらほら、あずにゃん早く座ってー」

梓「は、はい」

紬「今日はモンブランなのー」

律「やっぱ軽音部はいいよな。お茶も出るし!」

澪「それ食べたら練習だぞ」

唯「えー、もっとゆっくりしようよー」

いつも通りのやりとりです

律先輩が何か言って、澪先輩が釘を刺して、唯先輩が律先輩に同調して、紬先輩がそれを見て笑ってる

その一連のやりとりの中に、私の役割もちゃんとあります

澪先輩のフォロー、そして唯先輩と律先輩に練習を促すことです

唯「あずにゃんももうちょっとゆっくりしたいよねー?」

ここです。意識せず、緊張せず、いつも通りに振る舞えばいいんです

梓「そ、そうですね。あまり焦らなくてもいいですよね……」

律澪「……」



二時間後

律「ふいー、今日の練習はここまでにしとくかー」

澪「もうすぐ下校時間だしな。しかし、結局一時間も練習してないじゃないか……」

紬「まあまあ澪ちゃん、明日もあるんだし」

唯「あー、いっぱい練習したねー」

下校する準備をします

アンプを片付けて、戸締まりして、洗い物をして

律「よーし、片付け終わったな。じゃあ帰るか――」

唯「あ、みんなごめんね。今日から私、一緒に帰れないや」

梓「え……」

心臓が高鳴りました

唯「いちごちゃんと帰る約束してるからねー」

律「そ、そうなのか」

澪「で、でも唯――」

紬「仕方ないわよねー。付き合ってる人が居るんですもの」

梓「そ、そうですよね」

唯「うん。そういうことだから。じゃあみんな、また明日ねー」

笑ってそう言うと、唯先輩はギターケースと鞄を掴んで部室を出ました

唯『え、いちごちゃん?どうしたの?』

『――』

唯『待っててくれたの?ありがとー!私が体育館まで行ったのに』

『――』

唯『そ、そんな照れるよぉー。じゃあ、一緒に帰ろっか!』

扉の向こうからそんな声が聞こえてきます

どうやら、唯先輩の彼女のいちご先輩が唯先輩を迎えにきているようでした

あの扉を少し開ければ、唯先輩の彼女を知れる

私の足は

梓「……っ!」

動きませんでした


律「じゃ、じゃあ……帰るかー!」

澪「お、おう!そうだな!」

紬「ほら、梓ちゃんも早く」

梓「はい……」

鞄とギターケースを手に取る間に、律先輩が部室の外を確認していました

きっと、唯先輩が居ないかを確認していたのでしょう

とても優しい先輩です

澪「あー、そうだ。帰りにパフェ食べて行かないか?ほら、駅前に新しくできた所」

梓「え、でも、ケーキも食べましたし……」

紬「いいわね、それ。私、あそこのパフェにちょっと興味あったの」

澪「い、いいだろ梓!奢ってやるから!」

梓「そ、そこまでしてもらうのも……」

律「いいからいいから!奢ってくれるって言うんだから奢られとけ!な!」

紬「そうよ、梓ちゃん。お言葉に甘えておいて」

梓「は、はい……」
慰めてくれてるのかな



帰り道

律「はぁ……」

澪「はあ……」

紬と梓と別れ、二人で帰り道をトボトボと歩く

澪「なあ、律……」

律「言うな。お前の言いたいことはわかってる」

澪「……だよな」

律「しっかし、まあ、あれだな」

澪「本当に、タイミング悪いと言うか……」

律「唯がいちごと付き合って、梓が失恋するなんて……」

澪「唯と梓は両思いだと思ってたんだがな……」

律「私もだよ。……全く、計画台無しじゃんなぁ」

澪「そうだよなぁ。なあ、言わない方がいいよな、今は」

律「当たり前だろ。このタイミングで言ってみろ。梓、最悪部活辞めちゃうぞ」


律「私達が付き合ってます、なんて。空気読めないにもほどがあるってもんだ」


律「大体さー、付き合い始めて、その時にぱぱっと言っちゃった方がよかったんだよ」

澪「そ、それは!」

律「なのに澪しゃんが『そんないきなりは恥ずかしい。一ヶ月くらいは時間をくれ』とか言ってー」

澪「その時は恥ずかしかったんだよ。それに、一ヶ月あれば唯と梓だって付き合い初めて、それに便乗しちゃえばいいかなーって思ってたんだよ」

律「まあ私もそれは思ってたけどさ。でも、こんな状況になっちゃあな」

澪「――唯といちごか。まあ、元々仲良かったと言うか、一方的に唯が絡んでたみたいな感じだったのに」

律「私、どっちかってーといちごは唯よりもムギの方が仲良かったと思ってた」

澪「雰囲気がお嬢様っぽいからかな。そう言えばそうなんだけど――。それよりも梓のことだよ」

律「あー。ありゃあ、相当落ち込んでるぜ」

澪「今日も様子が変だったしな」

律「普通に振る舞おうって思ってるのバレバレで、それがますます痛々しかったな」

澪「練習もミスしまくってたしな。どうしよう、律。部長だろ、なんとかならないのか?」

律「んー、まあ付き合ったの発覚したのが最近だからなぁ。それに、梓も色々経験あるみたいだし、なんとか乗り越えられるんじゃないか?」

澪「そうかなぁ。なんか心配なんだが……。そ、それよりも律さ」

律「ん?どうした?」

澪「梓も色々経験、で思い出したんだけどさ……」

律「うん。それが?」

澪「あ、あの。梓が『好きな人としてるって思うと痛みより幸せの方が勝りますから心配しなくても平気ですよ』って」

律「ちょっと落ち着け。会話に脈絡が無い」

澪「わ、私達、付き合って一ヶ月なのに、そういう雰囲気にならないって変かなー、と……」

律「……」

澪「い、いや、まあ、人それぞれだしな、そういうタイミングって。悪かったな、変なこと言っ」

律「まさか澪しゃんからそんな積極的なお誘いが来るなんて……」

澪「ちがあああああああああう!!……もういい!悪かったな」

律「そう拗ねんなってー。――まあ、そうだよな。一ヶ月だもんな」

澪「――、え、律?」


律「お前ん家、今日誰も居なかったよな?」




次の日

憂「おはよー」

梓「あ、おはよー。今日は唯先輩は?」

憂「ん、彼女さんと一緒に行くから、って。今日は私一人かな」

梓「そ、そっか……」

登校も一緒にしてるんだ、唯先輩……

ざわざわ

憂「?なんか、騒がしいね」

梓「うん……どうしたんだろう」

純「あ、二人ともおはよ」

憂「あ、おはよ。なんかあったの?騒がしいけど……」

純「ん?ああ、若王子先輩だよ。やっぱみんな気になってるみたいだよ?」

梓「若王子、って……」

視線とひそひそ声の先に、居ました

唯先輩の彼女が

憂「綺麗な人だね……」

純「本当にねー」

梓「……」

本当に綺麗な人でした

ちょっと赤みがかった髪なんかさらさらで、肌も白くて

ちょっと冷たい感じのする瞳が、とても印象的でした

あれが、唯先輩の彼女なんです

唯先輩の大好きな人なんです

憂「あれ、こっち見てる?」

いちご先輩がこちらを見ていたような気がしました

見てると言っても、ほんの二秒間くらいです

あまり感情の起伏が無い目なのでわかりませんが、きっと偶然でしょう

私なんて相手にもなりません

梓「あれが、唯先輩の……」

憂「う、うん……」



昼休み

憂「梓ちゃん、ご飯食べよー」

梓「うん」

純「やっと昼休みだー。……それよりもさ、梓」

梓「なに?」

純「なんかあったの?最近食欲無さそうじゃん」

梓「え?い、いや、その……普通だよ?」

純「そっかなー。なんかいつもよりもお弁当の量が――」

憂「まあまあ、食欲無い日だってあるから。ね?」

純「それもそうだね。じゃ、いただきますー」

梓「……」

確かに最近は食欲が無いような気がします

気のせいだと思うのですが

モブ「梓ちゃーん、お客さんだよー」

その時です、あの人が私の教室に訪ねてきたのは
梓「あ……」

梓「い、いちご先輩……」

教室の扉の前で私を待っていたのは、いちご先輩でした

いちご「こんにちわ。今大丈夫?」

梓「あ……なんで……」

いちご「話したいことがあるの。いい?」

梓「は……い」

いちご「ここじゃ聞かれたくないから。屋上で」

梓「わか……りました……」

そう言うと、いちご先輩は先に行ってしまいました

梓「ごめんね、二人とも。ちょっと行ってくる」

純「どうしたの?っていうか、いちご先輩と知り合いだったんだ、梓」

梓「いや、えっと……」

憂「あ、梓ちゃん大丈夫?顔色悪いよ」

梓「へ、平気だよ。じゃあ、行ってくるね」

話の内容は検討がついています。唯先輩のことでしょう


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最終更新:2010年11月08日 22:19