ふと気がつくと、最初にあった私と唯先輩の間のスペースが無くなっていました
私がそれを意識するのと同じくらいに、唯先輩が私を抱きしめました
いつも部室でしてくれてたのよりも、少しだけ強く
唯「久しぶりだねぇ。あずにゃんをぎゅってするの」
梓「ずっと、してもらいたかったです……」
唯「そっか。じゃあこれからはあずにゃん公認で出来るね」
梓「うぅ……」
恥ずかしくて、唯先輩の胸元に顔を埋めます
唯先輩の心臓も私と同じくらい高鳴っていました
唯「あ、あのね、あずにゃん。ちょっと、私のワガママを聞いて欲しいんだけど」
梓「?」
抱きしめられたまま、耳元で、唯先輩が言いました
唯「あのね。あの時あずにゃんがついた嘘さ。もう一度言うけど、ものすごく悲しかったんだよ」
梓「は、はい……すみませ」
唯「い、いや、違うの!責めてるわけじゃないの!あのね、本当にショックだったから」
唯「だから、もうそう言う思いはしたくないからさ。行動に移しちゃおうって思って」
梓「行動?」
唯「うん。簡単に言うとね――」
唯「あずにゃんの初めて、私にちょうだい?」
梓「」
唯「やっぱ嫌?早すぎる?」
梓「あー、さ、流石に早すぎるとは思うんですが」
唯「でも、私、これでも焦っちゃってるんだよね、実は。あずにゃんと付き合うことになった今でも、夢かもしれないとか思ってるし」
梓「……」
唯「そ、それにさ。あずにゃんは確かめなくていいの?」
梓「な、何をですか?」
唯「私が初めてかどうか」
梓「え、ほ、本当にいちご先輩と!?」
唯「いや、してないけど。でもさ、確かめたくない?――私は、確かめたいよ。一分一秒でも早く。あずにゃんを本当の意味で独り占めしたい。あずにゃんは?」
梓「……私も。私も、独り占めしたいです。唯先輩を。一度無くしたから、なおさら」
唯「じゃ、じゃあ決まりだね」
梓「今日、っていうか今夜ですよね……」
唯「うん。今日は私の家、誰もいないから」
梓「え、憂はどうしたんですか?」
唯「え?純ちゃんの家に泊まるって言ってたよ。確かあずにゃんも来るって言ってたけど……」
梓「え?」
急いでポケットの中から携帯を取りだして確かめると、確かにメールが一件と電話が二件、入っていました。両方とも憂からです
唯「やっぱ都合悪いかな。また別の日にする?」
梓「いえ、唯先輩を優先します」
メールを打って、憂に今夜は行けないと連絡する
唯「本当にいいの?」
梓「言ったじゃないですか。大事なのは唯先輩だけだって」
唯「え、えへへ……」
唯「ん、じゃあ、私の家行こうか。あずにゃん、今夜泊まれるの?」
梓「はい。ちゃんと連絡しておきますから――」
路地裏
いちご「……振られちゃったみたい」
いちご「……」
いちご「……仕方ないわね。元々両思いだったんだし」
いちご「……」
いちご「……計画通りだね。これで満足?」
いちご「紬」
紬「うふふ」ガサッ
紬「ご苦労様、いちごちゃん。ごめんね、こんなこと頼んじゃって」
いちご「紬の頼みだもの。断るわけがないじゃない」
いちご「あなたの狙いって、これでしょ?唯と中野さんをくっつける」
紬「ええ、そうよー。やっぱり好きな人同士はくっつかなきゃ」
いちご「驚いたよ。いきなり『唯ちゃんと付き合え』なんて」
紬「そうねー。ちょっと梓ちゃんが調子乗ってたからね。お仕置きの意味もあったんだけど」
いちご「中野さんが経験豊富って言うのは嘘って、紬は知ってたの?」
紬「交際人数、処女かどうかなんて、女の子限定だけど、見ればすぐわかるの、私」
いちご「すごいね……」
紬「そんなことないわよー。……でもまあ、ちょっと後悔というか、やり過ぎたって思ったのもあるのよね」
いちご「?」
紬「唯ちゃんが彼女が出来たって梓ちゃんに言った時、梓ちゃん、本当に顔真っ白だったもの」
紬「まあ、一度好きな人が自分から遠くなっちゃえば、どれだけ大切かって身にしみてわかるものね。ショック療法よ」
いちご「本人達は必死だったけど」
紬「それで丁度いいの。わざわざ駆け引きみたいなことしなくても、必死で頑張れば結果は出るもの」
ブロロロロ
いちご「……?バイクの音?」
ブロロロロ
キッ
DQN「こんばんわ、紬お嬢様」
紬「ご苦労様ー」
いちご「紬……この人は……?なんか悪そうだけど」
紬「私のボディーガードの一人よ。小さい頃から私の側で働いてくれてるの」
見た目DQN「初めまして。紬お嬢様のボディーガードです」
紬「どうだった?」
見た目DQN「はい。
中野梓さんの自室の監視カメラ、全て回収しておきました。侵入の形跡も残しておりません」
紬「そう。上々ね」
いちご「ちょ、ちょっと……カメラって?」
紬「ん?ああ、梓ちゃんが振られて少し後に、梓ちゃんの部屋に監視カメラをしかけておいたのよ」
いちご「そ、そこまで……」
紬「梓ちゃんを守るためでもあったのよ。なんか、予想以上に落ち込んじゃって、何をしでかすかわからなかったもの」
いちご「役に立ったの?」
紬「役に立ったわよ。まさか自暴自棄になって夜の繁華街に一人で繰り出すなんて思わなかったの。あの時は本当に焦ったわ」
見た目DQN「そこで、私が中野さんのボディーガード兼物語の進行役を申し出た次第です」
紬「本当に大変だったわー。予想外の展開だったし、あなたが提案してくれなかったら、唯ちゃんに正直に言わざるを得ない所だったもの」
見た目DQN「中野さんと合流するまでに、中野さんにちょっかいを出そうとしてくる男達を蹴散らすのが大変でした」
紬「唯ちゃんの方はいちごちゃんが居たから、自暴自棄にはならないだろうって思ってた」
紬「梓ちゃんは、もっとしっかりしてると勝手に思い込んでたわー。ちょっと反省ね」
いちご「確かに、中野さんがもっとしっかりしてたら、私だって屋上であんな葉っぱをかけずにすんだんだけど」
紬「迫真の演技だったわよ、いちごちゃん。素敵だったわー」
いちご「喋りすぎて喉が痛かった」
紬「ありがとうね」
見た目DQN「そ、それで紬お嬢様……」
紬「なに?」
見た目DQN「梓ちゃ……中野さんは結局、どのような結果に」
紬「ん。ハッピーエンドよ。あなたのおかげだわ」
見た目DQN「そ、そうですか!良かった……」
いちご「……」
見た目DQN「……それでは私はこれで。報告も終わりましたので」
紬「ええ。電話でも良かったのに」
見た目DQN「いえ、近くまでカメラを回収しに行ってましたから、こっちの方が早かったんです」
見た目DQN「それでは、失礼します」
ブルルルルル
紬「あ、そう言えばあなた、今日から」
見た目DQN「はい、これからニューオリンズへ、旦那様の警護の引き継ぎに」
紬「忙しい中、ごめんなさいね」
見た目DQN「とんでもありません。私が勝手に言い出したことですから」
見た目DQN「それでは紬お嬢様、若王子さん、お気をつけてお帰りを」
ブイーン
いちご「行っちゃった……」
紬「さて……他に聞きたいことは?」
いちご「えっと、あの人……どこかで見たことがあるんだけど」
いちご「髪型とか雰囲気とかは違うけど、どこか……」
紬「斉藤ね」
いちご「あ」
紬「斉藤ジュニアって言うの。斉藤の一人息子よ」
いちご「そう言えば、似てるわ」
いちご「でも、どうしてあそこまでやってくれたの?仕事だから?」
紬「あの時、梓ちゃんの所に向かう日は、斉藤ジュニアは非番だったわ」
いちご「じゃあ、どうして……」
紬「彼は上手く行かなかった方の人間なのよ」
いちご「」
紬「予想外の展開で私が混乱してた時、彼が言ってくれたの」
紬「『私が行きます』って」
紬「後から聞いたわ。彼は昔の自分を梓ちゃんに重ねていたのよ」
いちご「……」
紬「ずっと後悔してるのよ、彼」
いちご「……そうなの」
紬「ええ」
いちご「いいわ、もう大体わかった」
紬「うん。それじゃ、ちょっと電話するね」
ピピピ
最終更新:2010年11月08日 22:27