#14
――ジャズ研
  部室


純「なんかさー、プレゼントでもしようよ」

同級生「え?私に?」

純「いやあんたじゃなくて。ジャズ研の先輩たちにプレゼント」

純「コンテスト終わったら引退でしょ?それまでに何かお礼しようよってこと」

同級生「いいけど…なにプレゼントするの?」

純「それはまだ考えてない」

純「うーん…何にしよう」

同級生「花とかは?」

純「えー、花って枯れたらそれまでじゃん」

純「食べ物系にしようよ!」

同級生「食べ物だって食べたらそれまでじゃん」

純「じゃあ~…」

同級生「…それにしても寒いね~。今年はいつもより早く冬が来たって感じ」

純「え?あぁ、うん。そろそろ暖房がついても――」

純「!!」

純「そうだっ!」

同級生「なに?」

純「マフラーとかはどう?これからの季節使うだろうし」

同級生「お、ナイスアイディア!」

純「でしょー」

同級生「どこで買う?」

純「あ…今お金ないんだった」

同級生「じゃあどうすんの?」

純「……手作りとか」

同級生「作れるの?」

純「……」



――翌日


純「お願い!マフラーの編み方を教えて!」

憂「ど、どうしたの急に?」

純「実は…ジャズ研のセンパイたちに何かプレゼントを贈りたいと思っていまして」

純「それでマフラーに決まったんだけど~…」

憂「編み方が分からない?」

純「はい、そうです」

憂「そういうことだったら私は構わないよ」

純「本当!?ありがとう憂ー!」

憂「さっそく今日から作ろっか」

純「うん!」

梓「なんの話してるの?」

憂「あっ、梓ちゃん」

純「今日憂にマフラーの編み方教えてもらおうと思ってるんだけど…」

純「梓も来る?」

梓「マフラー?」

純「うん、引退するジャズ研の先輩に贈ろうと思って」

梓「ふーん…」

梓「私はいいや、今日部活だし」

純「そう?」

梓「うん、マフラーできるといいね」

純「任せて!なんたって憂がいるんだから!」

梓「まさか全部憂まかせじゃ…」

純「う、憂には教えてもらうだけだって!!」

憂「えへへ」


――放課後
ジャズ研 部室


先輩「……」

先輩B「はぁ~寒い寒い。こんな日に練習なんてな~」

先輩2「文句があるならこんな日に練習を入れた部長に言いなさい」

先輩B「こら部長、寒いぞコノヤロウ!」

先輩2「寒いのは部長のせいじゃないでしょ!」

先輩2「てかアンタ、センパイに対してよくそんな風に言えるわね…」

先輩B「それぐらい親しいってことですよ。ね~?」

先輩「……」

先輩B「無視された~!!」

先輩「あ、ごめん…なに?」

先輩2「なにボケッとしてんのよ」

先輩「別に…」

先輩2「はぁ…コンテスト前にレギュラーだけで練習しようって言ったのはアンタでしょ?しっかりしなさい」

先輩「してるわよ…」

先輩「……」

先輩B「……これじゃあコンテストもダメかナ」

先輩「!!」

先輩「アンタねぇ!!好き勝手言わせておけば――」

先輩B「だって本当のことじゃん。部長がそんなモチベーションでどうすんですか?」

先輩「っ……」

先輩2「こら二人とも、やめなさい」

先輩「……」

先輩B「……すいません、言い過ぎました」

先輩「別にいいわよ…」

ガラッ
ゾロゾロ
「こんにちはー」
「今日も練習ですよね?」

先輩「……えぇ」

先輩「みんな、コンテストまで時間がないから集中して練習するわよ」

「「「はい!」」

先輩B「……」



――平沢家


純「むずかし~…」

憂「ここはもうちょっとこうして…」

純「あぁ!なるほど」

純「…それにしても、マフラー編むのって大変だね」

憂「けど、一生懸命作ればきっと喜んでくれるよ」

純「うん…だといいな」

憂「そろそろ休憩しよっか?」

純「えー?まだ編みたいよ」

純「せめて3分の1くらいは終わらせてから…」

憂「ふふっ、じゃあちょっとだけね」

憂「でもゆっくりやってもいいと思うよ?」

純「うーん…一回休むとサボっちゃいそうだから」

純「なるべくできるとこまではやっておきたいかな」

憂「純ちゃんすてきー!」

純「えへへー」

純「……」

憂「……」

純「……」

憂「純ちゃん」

純「んー?」

憂「ジャズ研って楽しい?」

純「なに突然」

憂「聞いてみたくなっただけ」

純「…そうだねぇ」

純「楽しいよ」

純「練習は厳しいけど…それなのに充実してるし」

憂「そっかぁ」

純「でも…最近はちょっと厳しすぎるかな」

純「コンテストが近いのもあるけど」

憂「大変だね」

憂「でもなんだか青春って感じがする」

純「あはは、普通の部活だよ」




純「よしっ!結構できた」

憂「このペースなら間に合いそう」

純「うんっ!」

純「あ…もう遅くなるしそろそろ帰るよ」

憂「気をつけてね」

純「はいはーい」

純「憂、今日はありがと。あとは一人でがんばってみる」

憂「大丈夫?」

純「平気平気、なんとかしてみせるって」

憂「じゃあ…がんばってね」

憂「きっと純ちゃんの想いは伝わるよ」

純「そんなたいそうな想いでもない気がするけど…そうだといいな」

純「じゃ、私はこれで」

憂「うん、バイバイ」

純「寒いな~。もうすぐ冬か…」

純「……」

純「つい最近高校入ったばかりだと思ってたのに…もう二年生になっちゃうよ」

純「なんか年を重ねるごとに時の流れが早くなってる気がする…」

純「……ん?」





梓「……」


純「梓!」

梓「あっ…純」

純「なにやってんの?部活帰り?」

梓「うん…途中で買い物してて」

純「へぇ、なに買ったの?」

梓「マフラー。もうすぐ冬だし」

純「あっ…」

梓「なに?」

純「…ううん、なんでもない」

純「ちょっと見せて」

梓「え?いいけど…」

梓「はい」

純「……」

純(やっぱり売り物はちゃんとしてるなぁ…)

梓「どうしたの?」

純「別に…見せてくれてありがと」

梓「うん…」

梓「?」

純「それにしても寒いね…」

梓「だって冬だし」

純「まだ冬前じゃん」

梓「もうほとんど冬だよ」

純「梓は気が早いなー」

純「ただでさえ高校生活なんてあっという間なんだから、もう少しゆったりしなよ」

梓「…よく分かんないよ」

純「そうですか」

純「うちなんてもうすぐ先輩が引退しちゃうんだよ」

梓「学校でも言ってたね」

純「そう!だから寂しくなってきてさ」

純「このままずっと一年生のままでもいいかなーって思ったり」

梓「…私は早く二年生に上がりたいな」

梓「後輩とか…欲しいし」

純「入ってきた新入部員より梓の方が後輩に見えたりしてね」

梓「!!」ガーン

純「冗談冗談、梓もそのうち大人っぽくなるって」

梓「……別にそんなの気にしてないし」

純「ふーん」ニヤニヤ

梓「本当だって!」

梓「私はただ、新入部員が入ってくれれば先輩たちもやる気出すんじゃないかって思ってるだけ」

純「そっちはそっちで大変なんだね」

梓「まったくだよ!相変わらずダラダラして…」


――ジャズ研
  部室

先輩B「ホントに大変ですよね~、こんな遅くまで練習なんて」

「お疲れさまでしたー」

先輩2「はい、お疲れ」

先輩B「私は疲れて動けない~」

先輩2「なに言ってんのアンタ」

先輩「……」

先輩B「…あんだけ練習したのに物足りなさそうな顔してる人がいる」

先輩「…なによ」

先輩B「なんでもないですよ~」

先輩「……」

先輩B「そうだ、お腹すいたしどっかで何か食べに行きません?」



――ファミレス


先輩B「考えてみれば私、センパイたちに奢ってもらうの初めてかも」

先輩2「誰も奢るなんて言って……まぁいいけど」

先輩「……」

先輩B「あっ!マロンパフェなくなってる!?」

先輩B「私あれ好きだったのに~…」

先輩2「ちょっと、高いのはやめてよね」

先輩「……」

先輩B「暗い顔だな~、なんか食べるときぐらい明るくいきましょうよ」

先輩「あんたには関係ないでしょ…」

先輩B「さいですか」

先輩「……」

先輩2「…今日の練習は良かっと思うわよ。みんな少しずつだけどスキルアップしてるし」

先輩「そうね…」

先輩B「先輩も私が入学した時より格段に上手くなってると思いますよ」

先輩2「何様なのよ、あんたは」

先輩「……」

先輩B「一応ほめたつもりなんですけど」

先輩「……むしろへたくそになってるわよ」

先輩B「は?」

先輩「練習すれば練習するほど…自分のベースが分からなくなっていく」

先輩B「なに言ってるんですか急に」

先輩「もう限界にきてるのよ、私」

先輩「がむしゃらに練習すれば前に進めると思ってたけど…大きな壁にぶつかって」

先輩「それを壊して進もうとしたけど、私じゃ壊せなくて…」

先輩「そしたらいつの間にか誰かがその壁を簡単に壊して、先に進んじゃうんだもん」

先輩B「……」

先輩「そんな光景見ちゃったら…なんだか自分のやってることがバカらしく思える」

先輩「もう…先に進める気がしないのよ」

先輩B「…あー、私も似たような経験ありますよ」

先輩B「私が小学生のころの話なんですけどね~」

先輩B「バレンタインに好きな男の子に手作りチョコを渡そうとしたんですよ」

先輩B「でも同じクラスメイトにもその子が好きな女の子がいて~」

先輩B「しかもその子のチョコはなんか知らない高級なやつだったんですね」

先輩B「こりゃちゃんとしたやつ作らないと負けるかな~と思って、私は持てる限りの力でチョコを作ったんですけど…」

先輩B「これが全然ダメで~、やっぱり高級なやつには勝てないな~って」

先輩B「で、仕方ないから私は…」

先輩B「バレンタインの当日にこっそりと自分のチョコと高級なチョコをすげ替えたんです」

先輩2「最低じゃない!?」

先輩B「だって悔しかったんだもん」

先輩B「それで私は高級チョコ、向こうは私が作ったダメチョコを渡したんですよ」

先輩B「私はこの勝負もらったな、と思ってたんですけどぉ…」

先輩B「なんとその男の子は私が作ったダメチョコを選んだんです!つまりライバルの女の子を選んだの」

先輩B「なんか~、手作りの方が愛情こもってるとか言って~」

先輩B「私がこめた愛情だったのに~~っ」

先輩2「…あんたが悪いことするからでしょ」

先輩B「そうですね、その日以来私は悪事を働かないことにしました」

先輩B「だから先輩も悪いことしちゃダメですよ?」

先輩「……」

先輩2「なんか…話ズレてない?」

先輩「…そんなくだらない話と一緒にしないでよ」

先輩B「くだらない!?私の甘苦い思い出が!?」

先輩「私は真面目に話してるの!!」

先輩2「ちょっと、お店なんだから静かにしてよ」

先輩B「…だいたいさ~、さっき自分のやってることがバカらしく思えるとか言ったけど~」

先輩B「だったら一緒にやってる私たちはなんなのさ」

先輩「…っ」

先輩B「私たちもバカ扱いするんですか?」

先輩「……そんなつもりじゃない」

先輩B「ふーん…」

先輩「……」

先輩B「……」

先輩2「……」

先輩B「……先輩って結構人の目を気にしますよね」

先輩B「みんなに評価されたいとか、気持ちは分かりますけど~…」

先輩「……」


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最終更新:2010年11月13日 00:33