先輩B「でも~、私は思うんですよ」
先輩B「先輩は、自分が思ってるよりごくわずかの人にしか見られていませんよ」
先輩「――っ!」
先輩B「だってプロを目指してるわけでも、ましてやプロでもないんですよ?」
先輩B「たかが学校の部活…めっちゃ閉鎖的」
先輩B「先輩はそんなごくわずかの人たちに高い評価をもらうためだけにベース弾いてるんですか?」
先輩B「そんな肩に力入れなくても…」
先輩「……」
先輩B「女子高生が楽器持ってドンチャカやってること自体にジャズ研も軽音部も大差ないんだから、もっと気楽にやりましょうよ」
店員「あの…すいません、ご注文よろしいでしょうか…?」
先輩2「あっ、ごめんなさい」
先輩2「ほら二人とも、さっさとメニュー選んで…」
先輩「あんたに――」
先輩B「はい?」
先輩「あんたに何が分かるのよこの生意気バカ!!」
先輩B「生意気バカ!?」
先輩「人の気持ちも知らないで好き勝手言ってなんなの!!」
先輩B「私はいつも自分に正直でいたいから先輩にも率直に意見しただけですよバーカ!!」
先輩「バカ!?センパイに向かってなんてこと!!」
先輩B「だいたい先輩は考えすぎなんですよ!なにが壁にぶつかっただ、アホくさい!!」
先輩B「どっかのアーチスト気取りですか!!」
先輩「私はただ部長として責任を――」
店員「あの…」
先輩2「すいません、今すぐ出ていきますんで!」
先輩2「本当にすいません!!」
先輩B「あ~ぁ、結局なにも食べれなかった」
先輩「……」
先輩2「あんたたちが騒ぐからでしょ!恥ずかしかったんだから!!」
先輩B「ごめんなさ~い」
先輩「……」
先輩2「はぁ…ほら、アイス買ってきたからこれでも食べて二人とも頭冷やしなさい」
先輩B「もうすぐ冬だってのにアイスって……お腹しか冷えませんよ」
先輩2「冬にアイス食べてなにがいけないのよ。だったら食べなくていい」
先輩B「嘘ですごめんなさい。私あずきのやつで」
先輩2「――で、これからどうするの?」
先輩「……」
先輩B「……」
先輩2「こんな険悪な雰囲気のままコンテストに出たくないわよ?」
先輩B「だってバカって言ってきたのは向こうからだし」
先輩「煽ってきたのはあんたでしょ」
先輩2「はぁ……」
Prrr、Prrr
先輩2「あっ…ちょっと電話」ピッ
先輩「……」
先輩B「……」
先輩2「もしもし恵?」
先輩2「あぁ…うん……」
先輩2「…ふふ、わざわざありがとう」
先輩2「うん、じゃあね――」ピッ
先輩「……」
先輩2「…今の電話、なんだと思う?」
先輩B「愛の告白?」
先輩2「そんなわけないでしょ」
先輩2「もうすぐコンテストだからって、友達がわざわざ励ましの電話してくれたの」
先輩2「極わずかでもちゃんと見てる人は見てるのよ」
先輩「……」
先輩B「そっか~…よかった」
先輩B「だったらその人のためにも頑張らないといけませんね~」
先輩B「学祭のライブはあんまり良くなかったし、汚名返上しないと」
先輩「……」
先輩B「…私ね、ジャズ研で一番良かった演奏って新歓ライブの時だと思うんですよ」
先輩2「え?」
先輩B「私が入学した年の新歓ライブ…あれが一番よかったな~」
先輩B「演奏してるのはセンパイたち二人だけで、あんまり上手くなかったけど…」
先輩B「楽しそうだったし」
先輩B「私もここに入れば楽しくやれそうだな~って思って入部したんです」
先輩「……」
先輩B「そもそも私がギター始めた理由は親が楽しそうにやってたからなんですよ。それで私も楽しくなりたくて始めて」
先輩B「たぶん…大多数がそうだと思うんですけどね」
先輩「……」
先輩B「でも音楽にしろ何にしろ、続けていくと人の目に止まっちゃうんですよね」
先輩B「最初は自分が楽しみたいからやってたけど……段々と人の目が気になり始めて」
先輩B「そのうち他人にどうやったらウケるのか、どうやったら良い評価がもらえるかなんて考えはじめて…」
先輩B「いつの間にか自分のやりたいこともできなくなっちゃったり~」
先輩「……」
先輩B「…それじゃあダメなんです」
先輩B「楽しむ気持ちを忘れたらそれで終わり」
先輩B「苦しいときはいったん初心に帰ってみな」
先輩B「自分の楽しい気持ちや一生懸命な気持ちを、聴いてる人に上手く伝えることができて…」
先輩B「はじめて良い演奏になるんだ」
先輩B「楽しく演奏する道具だから“楽器”ってね」
先輩「……」
先輩B「――って、ギターの先生に教わりました」
先輩2「なんだ…ギターの先生の話だったの」
先輩B「でも私はこの言葉を指標に生きてるんですよ~」
先輩「……」
先輩B「…私たちも初心に帰った方がいいんじゃないですかね~?」
先輩「……帰る」
先輩B「初心に?」
先輩「家に」
先輩B「あ、そう」
先輩2「そうね、もう遅いし帰りましょう」
先輩「…はぁ、あんたの長話聞いてたら疲れちゃった」
先輩B「えぇ~!深いイイ話したのにぃ~!!」
先輩「あんたが言うと浅く聞こえるのよ」
先輩B「なんだそれ!!」
先輩2「ふふ…」
先輩「ま…ちょっとした気分転換にはなったかな」
先輩B「…先輩」
先輩「なに?」
先輩B「先輩は一人で弾いてるんじゃないんですから、一緒に楽しくやりましょうよ」
先輩B「たぶんそうすれば…聴いてくれる人はどんどん増えると思いますよ」
先輩「……」
――鈴木家
純「あー……疲れた~」
純「一応それっぽい感じにできてるけど…」
純「完璧にはまだまだ程遠いな~」
純「はぁ…眠い」
純「……」
純「でも先輩たちだって頑張ってるんだし…私も頑張るか」
純「よしっ!」
――数日後
憂「純ちゃん、マフラーできた?」
純「うん、二つも作ったんだよ」
憂「うそ!?すごーい!」
純「おかげで寝不足だけどね」
純「それに…最初の一つは失敗しちゃったし」
憂「見せてっ」
純「ほら…こっちは雑でしょ?長さも短いし」
純「でもこっちは完璧…だと思う」
憂「二つとも良いと思うよ?」
純「そう?」
憂「うん、一生懸命作ったってのが伝わってくる」
純「えへへ、ほめられると照れるね」
純「でもなんとか間に合ってよかった~。渡すのいよいよ明日だよ」
憂「きっと喜んでくれるよ」
純「うん…」
梓「あっ、マフラーできたんだ」
純「へへー、すごいでしょ?」
梓「へぇ~……」
梓「なんでこっちこんな短いの?」
純「別にいいじゃん!梓が使うんじゃないんだから」
――翌日
コンテスト会場
純「うわー…人いっぱいいるね」
同級生「結構ハイレベルな大会だからね~」
純「それより、プレゼントは持ってきた?」
同級生「もちろん。お母さんに手伝ってもらったんだ~」
純「私も、友達にアドバイスもらった」
純(勢いで二つ持って来ちゃったけど)
「なに?プレゼントって」
純「コンテストが終わったら先輩たちに贈ろうと思って」
「あっ、いいな~それ」
「先輩たち来たよ!」
「「「お疲れさまです」」」
先輩B「まだ疲れてないよ~」
先輩2「こら、揚げ足とらない」
先輩「みんな…そろってるの?」
純「はい、みんないますよ」
先輩「そう…ありがとう、聴きに来てくれて」
純「?」
先輩「じゃあ私たちはそろそろ行きましょうか」
先輩B「は~い」
純「あの…先輩!」
先輩「なに?」
純「私…先輩のベース大好きです!」
先輩「!」
純「だから…上手く言えないんですけど…」
純「頑張ってください!」
先輩「えぇ…精一杯がんばるわ」
――控え室
先輩B「あっ、ギター忘れた」
先輩「はあっ!?」
先輩B「冗談ですよ。ずっと背負ってるじゃないですか」
先輩「ちょっと…そういうのやめてよ」
先輩B「余裕ないな~……純にがんばるとか言ったくせに」
先輩「うるさい」
先輩2「ちょっと、いつまでじゃれてるの?」
先輩「だってこの子が…」
先輩B「へへー」
先輩「さてと…みんな集まって」
「「「はい!」」」
先輩「もうすぐ…本番が始まります」
先輩「このコンテストは…私たちジャズ研が部に昇格できるかどうかに関わる大事なもの…」
先輩「って、みんなも分かってるわよね」
「「「……」」」
先輩「けど、ジャズ研だどうこう言う前に…」
先輩「こういう場で演奏を発表できることは、とても貴重な経験になると思うの」
先輩「だから…みんなには悔いを残してほしくない」
先輩「別に良い結果じゃなくても、誰も怒ったり失望したりしないわ」
先輩「私たちは…自分のやってきたことを信じて、あとは楽しみましょう!」
先輩「自分にとって、一番の演奏になるように」
「「「はい!」」」
先輩「さ…じゃあそろそろ行きましょうか」
先輩B「死ぬなよ」
先輩「私は戦場にでも行くのか!」
――会場内
純「どこも上手いとこばっかだね」
同級生「あ~…うちの学校大丈夫かな」
純「……」
アナウンス『――続いて、桜ヶ丘高校ジャズ研究会の演奏発表です』
純「始まった!」
先輩「……」
―――だいじょうぶ。
私の高校三年間は無駄じゃない。
みんなとここまで来れたんだから。
先輩「……」
みんなとならできる……みんなとじゃなきゃできない。
私一人じゃできない。
楽しい時間。
最後に気づいてよかった。
先輩(…よしっ!)
短い間だけど……
――――――♪
――――
――
―
パチパチパチパチ!!
パチパチパチ!!
パチパチパチ!!
パチパチパチ!!
純「わぁ……」
同級生「すっ…すごくない!?今の演奏!!」
純「う、うん…」
同級生「すごいな~!本当にすごいな~!!」
純「……」
純(これ…ジャズ研の演奏なんだよね)
純(初めて聴いたかも…うちのこんな演奏…)
最終更新:2010年11月13日 00:35