#16
――ジャズ研 部室
先輩2『部員…来ないわね』
先輩『……絶対に来る』
先輩2『て言っても、あの新歓ライブの出来じゃあね…』
先輩『ぅ…』
先輩2『このまま来ないようだったら、今年も…』
先輩『来る!来るったら来る!!』
先輩2『まったく…』
先輩『じゃあ賭けましょうか?来なかったら私のオススメの店でおごってあげる』
先輩2『いやだ、あんたの勧める店は全部美味しくないし』
先輩『お、美味しいし!!』
先輩2『はぁ…こんな調子で大丈夫なのか――…』
ガチャッ
先輩「!」
先輩B「あの~…見学しに来たんですけど~」
――――――――
―――――
――
先輩2「――なんてこともあったわよね」
先輩「うん…」
先輩2「あの後、新入生が予想以上に入部してきてさ…」
先輩2「びっくりした」
先輩「うん…」
先輩2「……」
先輩「……」
先輩2「ティッシュ箱、あんたのために三箱ぐらい持ってきたけど使う?」
先輩「そんな泣かないし。ていうか今日は泣かないから」
先輩2「さて…どうだか」
―― 一年 教室
梓「今日のさわ子先生がさ、いつもより美人だった」
梓「なんか化粧とかしてて」
憂「卒業式だからかな?」
梓「そっか…でも卒業なんて私たちにはまだ実感わかないよね」
純「おはよー」
憂「あっ、純ちゃんおはよう」
梓「おはよ」
純「なに話してたの?」
憂「今日は学校の雰囲気が違うなー、って」
純「あー、卒業式だもんね」
純「さっき三年生で泣いてる人とか見たよ」
梓「へー…」
純「その人たちって、本番のときはどんだけ泣くのかな…」
純「泣きすぎて卒業式できなかったりして!」
梓「それはないよ」
純「けど中学のときは憂が泣きすぎて、式どころじゃなかったからなー」
憂「!?」
梓「えっ、そうなんだ」
憂「じゅ、純ちゃん!それは言っちゃダメ!!」
純「あはは、ごめんごめん」
憂「いじわるぅ」
梓「純は泣いたの?」
純「私?私はどうだったかなー…覚えてないや」
梓「…たぶん泣いてないんだろうね」
純「そういう梓は?」
梓「泣くわけないじゃん」
純「嘘だね」
憂「ふふっ」
梓「な、泣いてないもん!」
純「たぶん大泣きしたんだろうな~」
梓「してない!!」
純「どう思いますか?憂さん」
憂「梓ちゃんかわいい~っ」
梓「あーもー!!」
ガチャッ
先生「はいみんな、席着いてー」
純「あっ、先生来た」
憂「席に戻ろっか」
梓「泣いてないんだからね!」
純「はいはい」
先生「えー、今日一年は特に役割はないので式の時は…」
純「……」
純(先輩…とうとう卒業しちゃうのか)
純(……)
純「……」
純(まだ教えて欲しいこと、たくさんあったんだけどなぁ…)
純「はぁ…」
純(どうしようもないか…)
純「……」
先生「――以上。時間になったら廊下に並ぶように」
――講堂前
先輩2「二年生が花つけてくれるんだって」
先輩「知ってる、去年やったし」
先輩2「なんか照れるわよね、こういうの」
先輩「そうだねー…」
先輩2「あっ、来たわよ二年。早く並びましょう」
先輩「……」
先輩(誰がつけてくれるんだろう…)
先輩(まぁ…どうせ知らない子だろうけど――)
唯「あの~…」
先輩「!」
先輩「あ…」
唯「お花、つけてもいいですか?」
先輩「え、あっ……うん」
先輩(この子たしか、軽音部の…!?)
唯「失礼します」
先輩「……」
唯「えっと…こうかな?」
先輩(初めてこんな間近で見た…)
先輩(なんか…ふわふわしてる…)
先輩「……」
唯「…できた!」
唯「ご卒業、おめでとうございます」
先輩「あ、ありがとうございます…」
先輩(こんな子がステージに立つと輝くなんて…信じられない)
唯「先輩って、ジャズ研の人ですよね?」
先輩「ぁえっ!?…そう……だけど」
唯「やっぱり~!学際のベース、すっごくうまかったです!」
先輩「っ!!」
唯「あんな正確に弾けるなんてうらやましいな~」
唯「って、私はギターなんですけどね。えへへ」
先輩「あ…うん、……知ってる」
唯「じゃあ私はこれで」
先輩「はい……さようなら」
先輩「……」
先輩(…良い子)
唯「ねぇ澪ちゃん、さっきジャズ研のベースの人に会ったんだよ~」
先輩「……」
先輩(軽音部って悪い人だらけだと思ってたけど…全然違ってた)
先輩(あんな優しそうな子なのに…)
先輩2「ねえ、列に戻れってさ」
先輩「……」
先輩(なんか…申し訳ない)
先輩「はぁ~…」
先輩2「暗っ。なにがあったのよ」
先輩「ちょっと…自己嫌悪」
先輩2「?」
先輩2「よく分かんないけど…今から泣いたりしないでよ?」
先輩「むっ、泣ーかーなーいって言ってるでしょ」
先輩2「でもあんた、泣き虫なのは昔から変わらないし」
先輩「高校に入ってからはみんなの前で泣いたことないって…」
先輩2「そういえば…そうだったわね」
先輩「だから今日も、泣いたりなんてしない」
――講堂内
ワイワイガヤガヤ
純「あと何分で始まるんだっけ?」
梓「20分ぐらい」
純「そっか…長い」
梓「暇だなぁ」
純「……」
梓「……」
純「…トイレ行ってくる」
梓「え?…うん」
梓「……」
梓「私も行く」
――トイレ
梓「ジャズ研のセンパイも卒業するんだっけ?」
純「うん、二人ね」
梓「ふーん…」
純「あーもう!」
梓「どうしたの?」
純「髪型がきまらない…」
梓「いつもと変わんないじゃん」
純「全然違うから!この微妙なまとまり具合が」
梓「…?」
純「卒業式だっていうのに…」
梓「もうそれでいいんじゃない?」
純「よくないよー」
純「美容院にでも行けたらな~」
梓「そんな時間ないって」
純「う~ん…」
梓「……めずらしいね、純が髪型に気をつかうなんて」
純「毎日気をつかってるって」
純「それでも今日はうまくまとまらない…」
純「……」
梓「……」
純「うーむ…伸びちゃったなぁ」
純「昨日切りに行けばよかった」
梓「まだできないの?」
純「もうちょっと…」
純「……」
純「…なんか違うな~」
梓「早くしないと始まっちゃうよ」
純「まだ時間あるでしょ?大丈夫だって」
梓「そう言ってる間に過ぎちゃう…」
純「だったら梓は先に戻っていいよ?」
梓「え~……」
純「なに?」
梓「……じゃあ私も身だしなみ整える」
純「あっそう」
梓「……」
純「…先に戻っててもいいのに」
梓「いいじゃん、別に」
純「……よし」
純「ばっちり!今回は下の方に束ねてみた」
梓「いつも通りでよかったんじゃない?」
純「いや…やっぱ気分変えてみようかなって」
純「梓は?」
梓「もうちょっと待って…」
純「じゃあ私先に戻ってるね」
梓「えぇっ!?」
純「なーんちゃって。ちゃんと待ってるよ」
梓「もう…」
純「結局、梓待ちになっちゃった」
梓「本当は三年生が主役なんだからこんな事やらなくてもいい気もするけど…」
純「でも私たちもきちんとしてた方がいいじゃん」
梓「それはそうだけど…」
純「めんどうだったら、梓はやらなくてもいいよ」
梓「…とりあえず始めたことは最後までやりたいの」
純「律儀だね。手伝ってあげよっか?」
梓「ん…お願い」
純「まかせてー」
純「……」サッサッ
梓「……」
純「卒業式ってどんぐらいかかるんだろう」
梓「一時間ぐらい…かな?」
純「お尻痛くなりそう…」
梓「我慢するしかないよ」
純「我慢か…苦手なんだよね」
純「梓も苦手でしょ?」
梓「勝手に決めつけないで」
純「ごめんごめん。でもそんな気がしてさ」
梓「子どもじゃないんだから…我慢ぐらいできるって」
純「子どもじゃないのかぁー…じゃあ梓は大人なのかな?」
梓「…大人だよ、もちろん」
純「本当にぃ~?」
梓「むっ…なに?」
純「正直、梓はまだ大人に見えないなー…色々と」
梓「色々って…?」
純「色々は色々」
梓「…身長はまだ伸びる」
純「あ、気にしてた?」
梓「絶対そっちの方だと思ってた」
純「えいっ」ギュッ
梓「いたッ!な、なに!?」
純「身長が伸びるツボ…ほら、頭のここら辺を指で押すと…」ギュッ
梓「あうっ!?」
純「身長が伸びるらしいよ」
梓「ほ、本当に…?」
純「あれ…下痢になるツボだったかも」
梓「!?」
純「身長は確かこっちだったかな…」ギュッ
梓「にゃっ!」
純「あ、こっちは身長が低くなるツボだった」
梓「なにー!?」
純「なーんちゃってね。全部ウソだよ」
梓「もー…変なことしないでよ」
純「でもこれで本当にお腹こわして身長が低くなったら笑えるよね」
梓「笑えないから」
純「でもさ、身長なんて気にしなくてもいいじゃん」
純「私と梓だって数センチしか違わないんだし」
梓「むぅ…」ペタペタ
純「…あぁ、胸か」
梓「!」
純「大丈夫、そのうち大きくなるって!」
梓「うわーん!!」
純「あはは…はいっ、できた!」
純「そろそろ戻ろっか」
梓「はぁ…頭が痛い」
純「頭が痛くなくなるツボ押してあげよっか?」
梓「も、もういいから!」
――講堂内
純「ただいまー」
憂「あっ、純ちゃん髪型ちょっと変わってる」
純「うん、思い切ってやってみた。大変だったけど」
憂「私も行けばよかったなー」
梓「行ったらお腹こわしてたかもしれないよ」
憂「?」
純「気にしない気にしない」
純「あっ、もうすぐ始まるから静かにしないと」
最終更新:2010年11月13日 00:50