先輩2「それじゃあ今度は私たちから…」
先輩「……」
先輩2「ほら」
先輩「あ…うん」
先輩「……今まで辛いことや苦しいことがいっぱいあったけど、私もみんなと一緒にやれてよかったと思ってます」
先輩「…………その」
先輩「――こんな私についてきてくれてありがとうございました!」
先輩2「私からも…ありがとうございました」
一同「……」
先輩「ジャズ研究部、みんなで盛り上げてね」
先輩「じゃあ…さようなら」
―――――
―――
――
同級生「終わっちゃったね…」
純「……」
先輩C「…あんまり長居するといけないから、私たちも下校するぞ」
純「はい」
同級生「帰ろっか、純」
先輩B「あっ、私はやることあるから残ってるね~」
先輩A「やること?」
先輩B「ちょっとね…先に帰ってなよ」
先輩A「?…いいけど」
純「お疲れ様でした」
先輩B「はいよ~」
――三年 教室
先輩「……」
先輩2「……」
先輩「……」
先輩2「……泣きたかったら泣けばいいのに」
先輩「泣かないもん…」
先輩2「そう…」
先輩「……」
先輩2「……」
先輩「……私」
先輩2「なに?」
先輩「部室行ってくる」
先輩2「……」
――ジャズ研 部室前
先輩「……」
先輩(なんで来ちゃったんだろう…思い残したことなんてないのに)
先輩「……」
先輩(けど最後にもう一度、部室に…)
先輩「……」
先輩(鍵…開いてるかな)
―――…~♪
先輩「!?」
先輩(ギターの音…部室から!?)
ガチャッ―――
先輩「あ――…」
先輩B「先輩か」
先輩「あんた…なんでここに…」
先輩B「ギター弾いてるだけですよ~」
先輩B「弾きたい時に弾くのが私の主義ですから。そのために毎日ギター持ってきてるんだし」
先輩「……」
先輩B「……」
先輩「…はぁ、なんで最後の最後にあんたと顔合わせなきゃいけないんだろう」
先輩B「なんですかその言いぐさは~」
先輩「私は…一人になりたかったの」
先輩B「一人で泣きたかったんですか?」
先輩「そ、そんなわけ…」
先輩B「そういえば先輩、大学受かったんでしたっけ?」
先輩「え?そうだけど…」
先輩B「そっか…じゃあ先輩は春から大学生だ」
先輩B「寂しくなりますね…」
先輩「……」
先輩B「明日から先輩…高校の制服着ると、ただのコスプレになっちゃうんですよ」
先輩「うるさい!そんな心配誰もしてないわよ!!」
先輩「ていうか…私をおちょくるために残ってたわけ?」
先輩B「まさか。…さっきも言ったとおりギター弾いてるだけですヨ」
先輩「はぁ……」
先輩B「……」
先輩「……」
先輩B「…私に気にせず泣いてもいいんですよ~。私、先輩が泣き虫だって知ってますから」
先輩「泣くわけないでしょ。泣き虫じゃないし」
先輩B「さいですか」
先輩「……」
先輩B「…大学行っても気を緩めちゃダメだぞ~。変な男に騙されないように」
先輩「心配されなくても、男なんかに興味ないわよ」
先輩B「え…そっち系!?」
先輩「は?……あっ!」
先輩「ち、違う!!そういう意味じゃない!!」
先輩B「まさか…私のこともそんな目で見てたんですか!?」
先輩「見てないし!ていうかどんな目よ!!」
先輩B「いや~~!!」
先輩「ああもう!違うって言ってるでしょ!!」
先輩「私は…大学行っても音楽に集中したいから恋愛なんてしないってこと!」
先輩B「あ、ベース続けるんだ~」
先輩「…当然でしょ」
先輩B「ふ~ん…」
先輩「……なによ」
先輩B「まぁ、頑張ってください。やりたいことやるなら今のうちですよ」
先輩B「大人になると夢を追うどころか見る余裕すらない…らしいですから」
先輩「年下にそんなこと言われたくないんだけど」
先輩B「おっと失敬」
先輩B「お詫びに一曲…そうだ、先輩も一緒に弾きませんか?」
先輩「私はいいわよ、ベース持ってきてないし」
先輩B「な~んだ…」
先輩「……」
先輩B「……」
先輩「…ねぇ」
先輩B「うん?」
先輩「あんたのギター…聴かせて」
先輩B「お安い御用で」
ジャッジャジャジ♪
先輩「……」
先輩B「……」
ジャーン♪
――帰り道
同級生「なんか…意外とあっさり終わったよね」
同級生「もっとしめやかなものだと思ってたのに」
純「あれでいいんじゃない?先輩たちもあまり大げさにしてほしくなかったみたいだし」
同級生「さっぱりしてるなー、純」
純「でも卒業しちゃったもんはしょうがないし……」
純「あっ!?」
同級生「どったの?」
純「靴…履き替えてないままだった」
同級生「えぇ~」
純「ごめん先に帰ってて!」
純「私学校に戻ってるから」
同級生「もう…しょうがないな~」
――ジャズ研 部室
先輩B「てゆ~かぁ~…なんで私が部長?」
先輩「え?」
先輩B「私よりも他にいるでしょ…部長候補」
先輩「なにか不満でもあるの?」
先輩B「大ありだっての」
先輩「いいじゃない…あなたならできるわよ」
先輩B「勝手なことばっか言って」
先輩「勝手なのはいつものあんたでしょう。人の苦労も知らないで」
先輩B「…先輩の苦労ぐらい知ってますよ」
先輩B「苦労しなきゃ…ジャズ研はここまで大きくならなかっただろうし」
先輩「……」
先輩B「でも大きすぎて、私じゃまとめきれないかな~…」
先輩「…たかが高校の部活なのに、ずいぶんと弱気ね」
先輩B「弱気じゃないし、別に」
先輩「そう…それならいいけど」
先輩B「……」
先輩「みんなのこと、よろしくね」
先輩B「…もう行っちゃうの?」
先輩「あんたも早く帰りなさい。遅いと怒られるから」
先輩B「……」
先輩「…できるわよ、部長」
先輩「二年間…一緒に部活してずっとあんたを見てた私が言うんだから間違いない」
先輩B「…どんな目で見てた?」
先輩「普通の目」
先輩B「あっそ」
先輩「それじゃ、私は先に帰るから。ちゃんと鍵閉めて出るのよ」
先輩B「はいはい」
先輩「…またね、生意気バカ」
先輩B「はいよ、バーカ」
ガチャッ……
先輩「……」
先輩B「……」
―――バタン
先輩B「……」
先輩B「さてと…もう少し練習しようかナ」
先輩B「……」
先輩B「……」
ジャッジャジャ♪
先輩B「春からどうしようかなぁー…」
先輩B「……」
ジャッジャー…
先輩B「あっ…間違えた」
――三年 教室
先輩「…ただいま」
先輩2「グズッ…おかえり」
先輩「?……ひょっとして泣いてた?」
先輩2「そ、そんなわけないでしょ」
先輩「ふうん…」
先輩2「…そういうあんたは、目を真っ赤にして戻ってくると思ってたけど」
先輩「あの子と喋ってたら…なんだか泣く気も起きなくなっちゃった」
先輩2「…そっか」
先輩「……」
先輩2「……」
先輩「……帰ろっか。もうここにいたらいけない気がするし」
先輩2「……そうね」
――校門前
純「はぁ、ようやく学校着いた」
純「靴履き替え忘れるなんて…かっこわるいなぁ…」
純「―――あっ」
先輩「あ、純」
純「先輩!」
先輩2「なにやってるの?」
純「いやっ…ちょっと忘れ物を」
先輩「まったく…しっかりしなさい。もう二年生でしょ?」
純「すみません…」
先輩「用事が済んだら早く下校するのよ?」
純「はい…」
先輩「じゃあね」
純「…」
純「先輩、あのっ…」
先輩「ん?」
純(なんか言わなきゃ…これで最後になるかもしれないんだし)
先輩「純?」
純「私――先輩みたいなかっこいい先輩になります!」
先輩「……」
純「……」
純(なに言ってんの私ーーー!!もうちょっと別れの挨拶的なものを…)
先輩「…クスッ」
純「へ?」
先輩「純は純のままでいいんじゃない?」
純「私のまま…?」
先輩「髪、普段どおりの方が似合ってるわよ」
純「え、あれっ…」
先輩「ふふっ…じゃあね。今度会うときは、上手くなったベース聴かせてね」
純「先輩…」
先輩「……早く忘れ物取りに行きなさい。学校閉まっちゃうわよ?」
純「あ、はい!」タタタッ
先輩「……」
先輩2「かっこいい先輩だって、あんたが」
先輩「…おかしい?」
先輩2「すっごく」
先輩「私もそう思う」
先輩2「……ぷっ」
先輩「あはははっ」
先輩2「そうだ、帰る途中にあそこ行かない?ほら、雑誌に載ってたお店の…」
先輩「あーあれかぁ…」
先輩2「行こっ」
先輩「その前にお昼ご飯食べようよー」
先輩2「いいけど、どこで?」
先輩「なら、最近できたパスタの」
先輩2「だめだめ、あそこは不味いから」
先輩「ま、不味くない!!」
先輩2「あんたは…昔から舌がおかしいんだから」
先輩「おかしくないし!!」
先輩2「…ふっ」
先輩「ふふっ」
先輩2「私たち…あんまり変わってないよね」
先輩「うん…―――」
――校内 玄関
純「えっと…下駄箱下駄箱…」
純「あった、私の靴」
純「さっさと履き替えて――…」
純「……」
純「静か…もう誰もいないのかな?」
純「……」
純「部室にまだ誰かいたりして…」
純「ちょっと行ってみようかな」
――ジャズ研 部室前
純「……」
純(なーんて…いるわけないのになんで来ちゃったんだろう)
ガチャッ
純「!」
先輩B「あれ?なにしてんの?」
純「先輩…こそ」
先輩B「私はちょっと用があるって言ったろ~」
純「あ、そうでした。…私は忘れ物取り来たついでに」
純「そうだ!さっき校門で先輩に会ったんですよ!」
先輩B「ん?そっか」
純「今度会ったら、ベース聴かせてほしいって」
先輩B「ふ~ん…それまでに練習たくさんしておかないとな~」
純「……」
先輩B「どうした?」
純「先輩たちがいない部室って…なんだか想像つかないですよね」
純「春からは新しい部員が入って、私が指導したりして…」
純「すごい違和感があるような」
先輩B「…二日ぐらいで慣れるよ」
純「だけどやっぱ想像できないなぁ…」
先輩B「ほれ、そんなことより早く出るぞ~。遅くなると先生に怒られるから」
純「あ、はい」
純「そういえば先輩は部室でなにしてたんですか?」
先輩B「秘密~」
純「えー教えてくださいよ」
先輩B「たいした事じゃないさ。気にしないでくれたまえ」
純「はあ…?」
先輩B「純、お昼食べた?」
純「いえ、まだです」
先輩B「じゃあどっか食べに行くかい~?」
先輩B「特別にご馳走してあげるよ」
純「本当ですか!?」
先輩B「バイト代入ったからね」
純「やったー!」
先輩B「あ……ちょっと待って」
純「え?」
先輩B「ギター…部室に忘れてた」
#16
おわり
最終更新:2010年11月13日 00:54