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最近、唯の様子がおかしい。

和「……」

唯「む~……」

和「……」

唯「むむ~……」

唯の幼なじみであり、いつも一緒にいる私――真鍋和がそのことに気付いたのは少し前のことだ。
あの唯が。
いつも楽しそうに笑って、周囲にいる人すべてを明るくさせるようなあの唯が。
眉間に皺を寄せ、険しい顔つきで唸っているのだ。

和「唯、どうかしたの?」

唯「ひゃえっ!?な、何でもないよっ」

和「そう?ならいいけど」

唯「うん……」

和「……」

話しかけてもこれだ。
唸るのは止めたけれど、今度はしゅんとした顔で黙りこんでしまう。
……もう、一体何なのよ。

和「何か悩みがあるなら相談に乗るけど……」

唯「えっ?べ、別に悩みなんかないよ~、あはは」

和「はあ……」

隠し事も下手なのよね、この子は。
でも唯に話そうという気がないなら、これ以上詮索するのも良くない。

唯「ふう……」

和「……」

いくらお昼休み、楽しいはずの昼食の時間とはいえ……
いつもなら色々と楽しく話している(まあ、主に私は聞き役だけど)とはいえ……
この妙な空気を我慢するしかないだろう。


和「……」

勘違いがないように言っておくと、私は別に静かな空間が苦手というわけでは決してない。
むしろ勉強や読書が捗るためか好ましく感じることもある。
しかし……

和「ごちそうさま」

唯「お粗末様……」

和「唯が作ったんじゃないでしょ。けっこう私に失礼よ、その発言」

唯「そうだね……」

和「……」

普段よく喋る子によって作り出される場の沈黙は……何故だか非常に居心地が悪いのよね。
周囲にいるはずのクラスメイト達の喧騒もどこか遠いものに感じられてしまう。

唯「……むう」

和「唯?」

唯「むうう~……」

そしてここに来て唸り声、再び。
正直勘弁してほしいわ……

和「唯、早く食べないと授業始まっちゃうわよ?」

唯「分かってるよお……む~」

和「……」

結局、それから一日中唯の様子はおかしなままだった。
唯の笑った顔を見ない日なんてほとんどなかったから……
はあ、何だか調子狂うわね。
明日はいつもの唯だといいなあ。


……

そして翌日。

唯「……」ジーッ

和「えと、唯?」

唯「……」ジーッ

和「ど、どうかしたの?ねえ」

唯「……っ!」クワッ!

和「……」

唯は唸り声も出さず、しゅんとした表情も見せなくなっていた。
けど。
な、何でさっきから私を食い入るように見つめてくるのかしら?
その上、たまに唯とは思えない気迫を放ってくるんだけど……

唯「……」ジーッ

和「うう……」

食べづらい。
これは昨日以上に辛いかもしれない……頑張れ、私。

和「……」モグモグ

唯「……」ジーッ

和「……」ゴクゴク

唯「……」クワッ!

……何これ、新手の拷問?
食事しているはずなのに、全然味が分からないんだけど。

唯「……和ちゃんってさ」

和「ひゃっ!?」

唯「どうしたの?」

和「な、何でもないわ」

突然話しかけられて驚いてしまった。
私があんな声を上げるなんて珍しいから、微妙に注目を浴びちゃってるし……うう、恥ずかしい。

和「えっと……それで私がどうかしたの?」

唯「……牛乳、よく飲む?」

和「牛乳?」

唯「うん、今も飲んでるじゃん」

和「う~ん……」

牛乳……よく飲んでいる、というほどではなかったと思う。
今飲んでるのも、購買でパンを買って来たついでに買ったやつだし。
安いのよね、学校の牛乳って。
でも……

和「まあ最近は飲む機会が多いわね。ほら、私の下の子たちいるでしょ?あの子たちの成長のために、ってお母さんが買い込んでくるのよ」

唯「やっぱり……!」

和「……?」

何が『やっぱり』なのだろうか。
唯の表情を窺うと、何やらやる気と自信に満ち溢れているように見えた。
本当、最近のこの子は唯とは思えないわね……

唯「ふっふっふ、やるぞ~!」

和「……」

まあ、唸られたりするよりはマシかな?


……

さらに翌日。

唯「……!」ゴクゴクゴクッ

和「……」

唯「ぷはあっ、もう一本」

和「……」

唯「んん……」ゴクゴクゴクッ

和「ゆ、唯……?」

唯「ぷはっ。むう……」ジーッ

和「な、何?」

和「な、何?」

唯「べっつに~?ふふふ、今に見てろ~……」

和「……」

唯が、本格的におかしい。
今日は朝からずっとこうだ……暇さえあれば牛乳を飲み続けている。
唯の机の上には、いくつもの200ミリリットルの牛乳パックで作られた荘厳なピラミッドが建設されていた。
この子、こんなに牛乳好きだったっけ……?

和「唯、そんなに一気に飲んだらお腹壊しちゃうわよ……?」

唯「大丈夫だもんっ」ゴクゴク

和「大丈夫じゃなさそうだから言ってるんだけど」

唯「つーん」

和「はあ……あら?」

見ているこっちが気持ち悪そうな暴飲を続ける唯から目を離すと、廊下のほうに見知った顔が見えた。
あれは……憂?

憂「……っ!」ピョコピョコ

和「……?」

何故だろうか、あの憂が跳びはねて何かを必死に訴えている。
たぶん私に。
というか何あの子、可愛い。

憂「……!」クイクイ

こっちに来い、ということなのかしら……?
まあ……何の用かは奇妙な唯と必死な憂を見ていると想像がついた。

和「唯、ちょっと席を外すわね」

唯「……」ゴクゴク

和「憂、だいたい検討はついているけど……どうかしたの?私たちのクラスに来るなんて珍しいわね」

憂「えっと、お姉ちゃんのことでお話が……」

やっぱりか。
しかし、憂がこれほどオロオロしているのも珍しい。
表面上は落ち着いているようにも見えるけれど、付き合いが長い私からすると一目瞭然だ。

和「唯については私も聞きたいことがあるわ。あの子、今日ずっとあの調子なのよ」

憂「具体的には昨日の夜からなんです……」

和「えっ!?ま、まさか昨日からずっと牛乳飲んでるの!?」

憂「はい……。昨日帰って来た時にいっぱい牛乳を買ってきて……」

和「な、何でそんなことを」

憂「それは……」

和「ここ数日も唯はちょっと変だったし……何があったか知ってるの?」

憂「ええ。たぶん……ですけど」

少し躊躇う表情を見せる憂。
言いにくいこと……なのかしら?

憂「お姉ちゃんは最近……その、スタイルのことで悩んでるみたいで」

和「……え?スタイルって」

憂「えっと……おっぱいが小さいとか、そんなことです……」

和「……」

俄かには信じられないことだ。
あの唯が……スタイルを気にしていた?
そんなこと、これまで付き合ってきた中で一度も……

和「あ……」

だからか、私がそのことに思い至らなかったのは。
よくよく考えてみると、私たちの年頃で自らのスタイルについて悩むのは別に珍しいことでもない。
しかし私は、『あの唯が、子供みたいなあの子がそんなことを気にするはずはない』と勝手に思い込んでいたのだ。

和「ふう……」

思い返せば、唯が唸っていた時……自分の胸元をさすっていた。
私をジッと見る目は、私の胸元を見つめていた。

和「……幼なじみ、失格ね」

憂「え?」

和「ううん、何でもないわ……それより憂、昨日から飲み続けてるって言ってたけど、唯は大丈夫なの?」

憂「……ううん。今朝もトイレに籠もりっきりだったし、顔色も良くないし……。止めても聞いてくれなくて……わ、私、心配で心配でっ」

和「はあ……あの子も……」

やり過ぎなのよ。
しかし責任の一端は間違いなく私にある。
早くあの子を止めてあげないと……!

和「ほら憂、大丈夫だから泣かないの」ギュッ

憂「ん……。の、和さん……?」

和「唯のことは任せてちょうだい」

そう言い残し、急いで唯の元へ。
唯、まだ飲んでる……極端なのよ、もうっ!

唯「けぷ……も、もう一本……」

和「やめなさい。体壊すわよ」バッ

唯「あ、私の牛乳取らないでよ!」

和「ダメよ。……唯、あなたスタイルを気にしているの?」

唯「う……」

牛乳を奪い返そうとしていた唯の動きがピタリと止まる。
やっぱり図星のようだ。

和「どうして急にそんなことを?」

唯「……」

和「唯、何も言ってくれないと困っちゃうわ。私って、そんなに頼りにならないの……?」

唯「そ、そんなことないよ!ただ……」

和「ただ……」

唯「私のおっぱい、ちっちゃくて……和ちゃんのおっぱいはどんどん大きくなってるのに……」

和「……」

唯「ねえ、和ちゃんって大きいおっぱい好き?」

和「ええっ!?」

な、何を言い出すんだろうかこの子は。

唯「私は好きだよ。大きくて柔らかい……和ちゃんのおっぱい」

和「う……」

ゆ、唯。
あなた、自分が今ものすごく恥ずかしいことを口走っていることに気付いてるの?
……か、顔が熱いわ。

唯「この前、和ちゃんに正面から抱きついた時……と言っても、和ちゃんにはいっつも抱きついちゃってるけどね。えへへ」

和「そ、そうね」

唯「すっごく、柔らかくて気持ちよかった。何て言うか、私を包み込んでくれてる感じがして……」

和「……」

唯「和ちゃんは成長してるんだなあ、嬉しいなあっていうのと同時に……私の体は何て貧相なんだろうって思っちゃったんだ」

和「……!」

唯「私、和ちゃんに抱きつくの大好き。すっごくぽわぽわして、幸せな気持ちになれるんだあ……♪」

唯「でも、私だけ幸せになるのは嫌だよ。和ちゃんにも、この幸せを感じて欲しい。私の胸の中で和ちゃんを包み込んであげたい」

唯「ふわふわして幸せな気持ちで、和ちゃんをいっぱいにしてあげたいんだよ……!」

和「それで牛乳を飲んで……」

唯「うん。そういう話よく聞くし、和ちゃんのおっぱいが大きくなったのも牛乳のおかげなのかなって……」

和「……」

唯「私もおっぱいが大きくなったら……。ねえ、こんなこと考えてるのは私だけなのかな?変なのかな?」

和「唯……」

唯は真剣な表情で、たどたどしくもしっかりと私に言葉をぶつけてくる。
私はその唯の言葉を胸に刻み込み……

唯「のどか、ちゃん……?」

ゆっくりと、しっかりと抱きしめた。

和「馬鹿ね、唯は」

唯「ん……ば、馬鹿じゃないよお」

気持ち良さそうな声を上げる唯。
私は抱きしめたまま優しく頭を撫で、そっと告げる。

和「唯はね……すごくあったかくて、柔らかくて……。こうしているだけで、私の心はいっぱいになるの」

唯「え……?」

和「胸の大きさなんてどうでもいいわ。唯は唯よ」

唯「で、でも……」

和「唯が私のために努力してくれたのはすごく嬉しいけど……それで体でも壊されちゃったら、すごく悲しいのよ?」

唯「あ……」

和「それに……」フニッ

唯「ひゃあああっ!?」ビクッ

和「ふふ、唯も少しずつだけどしっかり成長してるから。無理する必要はないわ」

唯「も、もうっ!和ちゃん!」

顔を薄らと赤く染めた唯。
しかし表情は晴れやかで……私の大好きな笑顔だ。
ふふ、でも照れる唯なんてこれまた珍しいものを見れたわね……

唯「仕返しだぞ~!」ムニュッ

和「きゃあっ!?や、やめなさい唯っ」

唯「やめないも~ん!和ちゃ~んっ♪」

……

憂「良かったね、お姉ちゃん!」

廊下からハラハラしながら見守っていましたが、どうやら上手くいったようです。
お姉ちゃんと和ちゃんが抱き合って……
ちょっと、羨ましいなあ。

憂「あ……」

何だか追いかけっこらしきものが始まりました。
お姉ちゃんが和ちゃんを捕まえようとしています。

憂「ふふ……二人とも楽しそう♪」

和ちゃんがああいう風にはしゃぐ姿は、けっこうレアだと思います。
教室にいる人たちも珍しいものを見る目で眺めています。
というか、さっきまではお姉ちゃんが心配で気にしていませんでしたが……

憂「抱きしめたりとか、胸を触ったりとか……」

クラスメイトたちの目の前でやってたんだよね……?

憂「……」

大丈夫かな、和ちゃん。
囃し立てられたりからかわれたりするのに免疫なさそうな気がします。
今はそのことに気づいていないようですが……

憂「まあお姉ちゃんもいるし、大丈夫だよねっ」

二人とも楽しそうに追いかけっこを続け、クラスの皆さんもその様子を微笑ましく見てくれているようです。
さて、と……

憂「お姉ちゃんはもう心配ないとして……」

目下、私の心配事はあと一つ。
昨日の夕方にお姉ちゃんが買ってきた、それはそれは大量の……牛乳。
どうやって処理しよう……
牛乳はとにかく悪くなるのが早いのです。

憂「お姉ちゃんはもう飲まないだろうし……」

そもそもお姉ちゃんは、牛乳そのものはあまり好きではないのです。
もちろん捨てるなんて勿体無いことは出来ません。
となると。

憂「私が飲むしかない、かな。よ~し」

憂「頑張るぞ~っ!」

決意も新たに、私は教室へ戻るのでした。


……

純「……ということが昔あったんだよ!」

梓「へ、へ~……」

憂「ち、ちょっと純ちゃん!」

純「いいじゃんいいじゃん、いい思い出だって♪その日以降の憂は本当に健気だったよ……毎日毎日牛乳を飲んで……」

憂「も、もうっ」

純「それだけじゃないんだよ!丁度その頃からなんだよね~……憂のおっぱいが、おっきくなったの」

梓「!!!」ガタッ

憂「偶然だってば~……」

純「いやいや、憂のスタイルの良さはそのおかげだって絶対!ちくしょ~、羨ましいぞ~っ」ムニュッ

憂「ひあっ!?」

梓「……」

梓(そ、そうか……牛乳を飲むとおっぱいが大きくなるという都市伝説は本当だったんだ!)

梓(こうしちゃいられない、私も牛乳買いに行こうっと!)

終わり!



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最終更新:2010年11月14日 03:37