──
───
─────

「ねえママ、なんでママはパパのお嫁さんになったの?」

「ママがパパのこと、好きだからよ」

「へー……、じゃあママは、パパのどんなところが好きになったの?」

「それはね……。パパがむかし、約束してくれたの。一生ママのことを守ってくれる、って」

「か、かっこいいね。パパ」

「うん、すごくかっこよかったわ。それでママも、パパのこと、支えてあげなくちゃって思ったのよ」

「だからパパのお嫁さんになったの?」

「そうよ。だから澪ちゃんも、好きな人が出来て、いっしょに生きていこうって思ったら、勇気を出して、お嫁さんにしてください、って言うのよ」

「できるかなぁ」

「澪ちゃんは、がんばれば出来る子だもの、出来るわよ」

「うん、……がんばる!」

─────
───
──

律「おっじゃましまーす」

澪「おお、早いな」

律「だーって暇なんだもん」

澪「学校も卒業しちゃったしな」

律「ああ。いやー、よかったなー! 晴れて全員合格、無事卒業!」

澪「そうだな……けいおん部も心配なさそうだし」

律「うん、いい仲間に恵まれたな」

澪「全くだ」

律「で、今日は何で呼んだんだよ?」

澪「お前な……、もうすぐ引越ししなくちゃだろ? ルームシェアするんだから、持っていくものとか一緒に選んでもらいたかったんだよ」

律「そういう話かー、……気が早くない?」

澪「早くない! あと一週間後には向こうに引っ越してるんだぞ!」

律「えっ、もうそんなしかないのか!?」

澪「おいおい……、律は相変わらずだな……」

律「はは、完全に気ぃ抜けてた……やばい」

澪「律の荷造りも手伝ってやるから、安心しろ」

律「み、澪しゃんっ! 愛してる!」

澪「ほら、ふざけてないでさっさと作業始めるぞ」

律「澪、そっけないなー、これからは一つ屋根の下だって言うのに……」にやにや

澪「う、うるさいっ、へんな言い方するな!」

律「ちぇー」


~~~~~



律「ふー! つっかれたー」

澪「お疲れさま」

律「けっこう持ってくものあるもんだなー。またわたしの荷物もまとめなきゃなんないのか……」

澪「その時は手伝うって。そうだ、なんか飲むか?」

律「お、ちょうど喉渇いてたんだよ、気が利くなー、澪」

澪「あれ……、牛乳しかない……」

律「牛乳でいいぞー」

澪「ん」


とくっとくっとくっ


澪「はい、……牛乳」

律「さんきゅ」

澪「……」じー

律「んくっ……んっ……ぷはーっ!うめー!」

澪「もう一杯飲むか?」

律「おう、頼む」


とくとくとくとくっ


澪「はい」

律「やっぱ一仕事のあとは牛乳に限るなー」

澪「…………」じー

律「澪?」

澪「はっ、な、なんだ?」

律「どした? ぼーっとして」

澪「い、いや、いい飲みっぷりだなー……って思ってな」

律「いま、飲んでなかったぞ? もしかして一杯目のときから見てた?」

澪「……いいだろ別に、牛乳飲むとこぐらい見てたって!」

律「いやいいけどさ、見つめられるのはちょい恥ずかしいかなーって」

澪「それは、律の……」

律「ん?」

澪「ううん、……なんでもない」


――
―――
―――――

みお「あの……、りっちゃん、牛乳いる?」

りつ「え? ……飲まないの?」

みお「うん、ちょっと……」

りつ「みおちゃん、べつに牛乳ニガテじゃなかったよね?」

みお「きらいになったの」

りつ「どうして?」

みお「……いいたくない」

りつ「教えてくれなきゃ飲んであげない」

みお「……じゃあ残す」

りつ「……もったいないお化けが出るよー」

みお「ひっ……、それはやだよう……」

りつ「じゃあ教えてよ、牛乳、好きだったでしょ?」

みお「うぅ……、あのね……」

みお「きのう、男子にからかわれたの。 う、「うしちち女」って……」

りつ「……」

みお「それで、牛乳ばっかり飲んでるからだ、って……。べつにたくさん飲んでないのに……」

りつ「だれ?」

みお「えっ?」

りつ「みおちゃんいじめたの、だれ?」

みお「えっと……○○くん……」

りつ「……○○かー、みそこなった! 男のクセにみっともない!」

みお「だめだよりっちゃん、男子に力でかないっこないよ」

りつ「でも、こらしめなきゃ」

みお「わたしはいいから、りっちゃん」

りつ「みおちゃんはやられっぱなしでいーのかよ」

みお「よくないけど……、でも、怖い……」

りつ「………あーもう! そんなのだからみおちゃんはからかわれるんだよ!」

りつ「ほら! 牛乳ちょーだい!」

みお「あ……、うん」さっ

りつ「わたしなんて、いくら牛乳飲んでも背が伸びないのに……」ぷすっ ちゅー

みお「ありがとう……」

りつ「ごくっ……ごくっ……」ちゅー

みお「…………」じー

りつ「ぷはっ。いい? みおちゃん。みおちゃんはすごいんだから、もっと堂々とすればいいんだよ!」

みお「べつにすごくないよ……」

りつ「すごいよ! 作文だって賞とるし、左利きだし!」

みお「りっちゃんのほうが……強くてかっこいいもん……」

りつ「じゃあその強くてかっこいいりっちゃんが、昼休み○○のとこにいっしょについてってあげるから」

みお「え……」

りつ「あやまらせる」

みお「や、やだ……いいよ」

りつ「みおちゃん。いや、みお! そんなんじゃ一生! 牛乳飲めないことになるよ? いいの?」

みお「い、いい……」

りつ「給食のたびにもったいないお化けがやって来てもいいの?」

みお「りっちゃんが飲んでくれるもん……」

りつ「今日行かなかったらもう飲んであげない」

みお「そんなぁ……」


きーんこーんかーんこーん……


りつ「ほら、昼休み始まったよ」

みお「うぅ……」

りつ「となりのクラスだっけ、いこ」ぐいっ

みお「うん……」

○○「あっ、ウシチチ女だ! やーいやーい!」

みお「…………」

りつ「おい、○○。みおにあやまれよ」

○○「あれ? ちび田井中もいるじゃん。ちっちゃくて気づかなかった」

りつ「なんだとー!?」

○○「ちびでデコじゃん、デコちびー!」

りつ「こ、この……!」

みお「……り、りっちゃんの……」

りつ「……みお?」

みお「り……、りっちゃんの悪口は……言わないで……」

○○「な、なんだよウシチチ女……、ほんとのこといってるだけじゃん!」ドンッ

みお「きゃっ!」

りつ「みお!」がしっ

りつ「だいじょうぶ?! ケガしてない!?」

みお「う、うん……」

○○「お、大げさに転びやがって、そんなに強くどついてないだろ……」

りつ「……○○くん…………」

○○「え?」

りつ「ふんっ!」


キーーーーンッ!


○●「ハゥッ…………………………………………………………」


りつ「くりーんひっとぉー!」

みお「り、りっちゃん……やりすぎ……」

○●「…………」ピクッ…ピクッ…

りつ「あはは、ごめんなー? でも、ちっちゃくてよく見えなかったし、しかたないよな?」


─────
───
──

律「ごくっ…………くっ…………っぷはーっ」

澪「うん、……やっぱり律は牛乳が似合うな、飲みっぷりとか」

律「それで見つめてたのかよ? 牛乳が似合うって……」

澪「いいだろ。なかなかかっこいいぞ」

律「牛乳の似合う女……、嬉しくない響きだな」

澪「ありがとな」

律「んー? いや、明日はわたしの荷造り手伝ってもらうから、おあいこだよ」

澪「……そうだな」

律「おっ、これ、懐かしいなー」

澪「ん? ああ、小学校のころの文集か」

律「この頃から澪ちゃんはかわいらしい文章を書いてらしたんですわよねーっと」ぱらっ

澪「あ、あんまり見るなよっ、恥ずかしいんだから!」

律「どれどれ……、あった! 『将来の夢』……」

澪「あっ……、それは……」

律「『わたしの将来の夢は、お嫁さんになることです』……かぁ、かっわえーなー! 小学5年生のみおちゃんったら」

澪「……律はもっと恥ずかしいこと書いてるんだぞ…………」

律「へっ? ちょ、ちょっと待て、全然記憶がないぞっ!?」

澪「ほら、145ページ……」ぱらり

律「なんでページ数覚えてんだよ!?」

澪「ときどき読み返すし」

律「頼むからわたしの知らないとこでわたしの過去を辱めないでくれ……」

澪「だって、かわいいし」

律「なんだよそれ……」

律「えーっと……、『わたしの将来の夢は、み』……『お』……」

澪「な? もっと恥ずかしいだろ?」にやにや

律「う、うっせーし!!」

澪「いい思い出じゃないか、当時はさ、ほんとに嬉しかったんだぞ? 律が文集でそれ書いてくれて」

律「しっかし今考えるとばかみたいなこと書いたよなあ、周りの大人たちはどうして止めてくれなかったのか……」

澪「ばかみたいなこと、なんて言うなよ、確かにそうかもしれないけどさ」

律「……まて、思い出してきたぞ? これ、言いだしっぺは澪じゃなかったか?」

澪「うっ……、忘れてると思ったのに……」

律「それなのに澪だけ「かわいらしい」で済むような文章書きやがってー……」

澪「別に、文集用の文章書くときに示し合わせたわけじゃなかっただろ」

律「そうだけどさ……」

澪「それに、約束、しただろ」

律「ん……、だけどその約束は破っちまうことになるなぁ」

澪「それは……、しかたないよ、子供のころの話だし……」

律「うーん……、じゃあ、代わりに。今度は守れる約束をしよう」

澪「……ぜったいか?」

律「ああ、ぜったいだ」

澪「破ったら?」

律「破らないって」

澪「でも、一度破られちゃったしな」

律「今度こそは守るよ、なんなら、そうだな、じゃあ──、」

澪「ん」

律「──澪、ゆびきりしよっか?」

澪「小学生じゃないんだから……」

律「いいじゃんいいじゃん、ほら、小指出せよ」

澪「はいはい」



――
―――
―――――

みお「……あのね、りっちゃん」

りつ「なーに? みお」

みお「えと、わたしを……、りっちゃんの……、その……」

りつ「うん」

みお「りっちゃん! ……りっちゃん、わたしを、りっちゃんのお嫁さんにしてくれる?」

りつ「……お嫁さん?」

みお「うん、お嫁さん」

りつ「うーん……、……いいよ!」

みお「ほんと? ……やったあ!」

りつ「……でもそのかわり、「りつ」って呼んでほしいかな……」

みお「り……、りつ?」

りつ「へへ、みーお!」

みお「りつ!」

りつ「そうだ! みお、ゆびきりしよう! みおをお嫁さんにする約束!」

みお「うん、ゆびきり!」




きゅっ




「ゆーびきーりげーんまーん……♪」




おわり



16
最終更新:2010年11月14日 03:53