――中野家
梓「ごほっごほっ…」
梓(あー……まさか風邪ひいちゃうなんて…)
梓(おかげで昨日今日学校休んじゃったし…)
梓「ズズッ…はぁ。みんな今なにやってるんだろう」
コンコン
梓母「梓、お友達がお見舞いに来たわよ」
梓「え?」
ガチャッ
純「おいっす梓、元気ー?」
梓「なんだ純か…」
純「なんだって何よ」
梓「元気なわけないじゃん…風邪ひいてるんだから」
純「大変だねー、風邪」
純「熱はあるの?」
梓「昨日まではあったけど、今日は少し下がった」
純「そっか、よしよし」
梓「あの…純。お見舞に来てくれたのは嬉しいんだけど、あんまり長くいると風邪が移る…」
純「あっそうだ梓、これ持ってきたよ」ゴソゴソ
梓「?」
純「はい、牛乳」
梓「……なんで?」
純「おばあちゃんが言っていた…風邪をひいた時は牛乳が一番の薬になるって」
梓「本当に…?」
純「いいから騙されたと思って飲んでみなよ。ちゃんと効くから」
梓「う、うん…」
梓(まぁ…ちょうど喉乾いてたしいいかな)ゴクゴク
純「ほぉー…ここが梓の部屋かぁ」
梓「ちょ、ちょっと… 勝手にもの漁ったりしないで」
純「あっ、この漫画読んでいい?」
梓「え? 別にいいけど…」
純「そんじゃ…」
梓「……」
純「……」ペラッ
梓「…風邪移るって」
純「梓、飴あげる。いちごミルク味の」
梓「……ありがと」
純「……」ペラッ
梓「……」
純「……」
梓「……こほっ」
純「……」
梓「…ごほっごほっ」
純「……」
梓「げふんげふんっ」
純「……」ペラッ
梓「はーっくしょん!!」
純「大丈夫? 牛乳まだあるから飲んでいいよ」
梓「はぁ…」
純「……」
梓「…ねぇ」
純「うん?」
梓「いつまで漫画読んでるの?」
純「もーちょっと」
梓「明日風邪ひいても知らないからね」
純「……」
梓「……」
梓(聞いてるのかな…)
純「ねぇ梓」
梓「な、なに?」
純「これ面白いねー」
梓「あぁ…そう」
純「……」
梓「……」
純「……」
梓「……ごほっ」
純「……」ペラッ
梓「……」
純「……」
梓「……ねぇ~」
純「んー?」
梓「まだ読み終わらない?」
純「もーちょっと」
純「あっ、梓も読みたいの?」
梓「そうじゃなくて…」
純「なら何? お腹すいた?」
梓「別にお腹はすいてないよ」
グゥ~…
梓「……」
純「そっかー、すいてないのかー」ニヤニヤ
梓「ち、違くて…!」
純「はいはい、これ食べていいよ」
純「牛乳パン」
梓「また牛乳…」
純「栄養あるんだから食べなって」
梓「これ牛乳の成分入ってるのかな…」
純「まだまだあるよー」
純「ミルクチョコに、杏仁豆腐…」
梓「杏仁豆腐にも牛乳入ってるの?」
純「え? だって白いしそうでしょ?」
梓「…よく知らないで買ったんだ」
純「いいからいいから、全部栄養あるって」
梓「全部甘いものじゃん…」
純「甘いもの好きじゃん、梓」
梓「そうだけど…」
純「いらないなら私が食べるけど?」
梓「あっ、食べる食べる!」
梓「はぁ~…」
純「どうしたの? 喉乾いた?」
純「はい牛乳」
梓「…いくつ持ってきたの」
純「いっぱい飲んで早く治しなよ」
梓「お腹こわれるかもね…」
純「そうか…じゃあ温めてくるよ!」
梓「えっ」
純「レンジ借りるね」
梓「あっ、ちょっと…」
ガチャッ、バタン
梓「……そこまでやらなくてもいいのに」
梓「……」
梓「もぅ…純ったら」
梓「自分が風邪ひいたらどうするつもりなんだろう」
梓「……」
梓「…マスクつけておこ」
ガチャッ
純「おまたせー」
純「ホットミルクにしてきたよ。飲んで飲んで」
梓「ありがと…」
純「ん? マスクなんて外しなよ。飲めないじゃん」
梓「……」
純「考えてみれば、温めた方が体にもいいよね」
梓「そうだね…」ズズッ
梓「あつっ」
純「ふぅーふぅーしてあげよっか?」
梓「いらない」
純「遠慮しないでって」
梓「ちょ…」
純「ふぅー、ふぅー」
梓「……」
純「ふぅー、ふぅー」
梓「……」
純「どうぞ」
梓「…どうも」
梓「……」ズズッ
純「ねぇ梓、これの次の巻ある?」
梓「確かそこら辺に…」
純「どれどれ…おっ、あったあった」
梓「……」
純「さてと、続き続き」
梓「……」
純「……」
梓「……純」
純「なに?」ペラッ
梓「よかったらそれ貸すよ。返すのは明日でもいいし」
純「うーん…もーちょっとだけ」
梓「もうちょっと、って…いつまで?」
純「もーちょっと」
梓「……」
純「あっそうそう、梓に渡すものがあったんだ」
梓「また牛乳?」
純「違うって、ノートだよ」
梓「ノート?」
純「昨日と今日の授業の分。まとめておいたから後で読んどいて」
梓「う、うん…ありがとう」
梓「これ純がまとめたの? すごいね」
純「え? ま、まぁね~」
梓「へぇ~……」ペラッ
梓(あっ…憂の字だ)
純「それまとめるのはすごい大変だったよ、うん」
梓「へー」シラー
純「本当だって! …憂にも少し手伝ってもらったけど」
梓「少しじゃなくてほとんど、でしょ?」
梓「あちこち憂の字だらけだよ」
純「そんなことないよ、よく見て」
梓「どこを?」
純「ほら、ここの絵とか…そっちの絵とか」
梓「落書きじゃん!!」
純「挿し絵だよ、挿し絵」
梓「どう見ても落書きにしか…」
純「あとこれ、今日もらったプリント」
梓「ん…」
純「それと牛乳プリン」
梓「うん?」
純「プリントとプリンをかけてみました」
梓「……」
純「……」
純「……まま、食べて食べて」
梓「…うん」
梓「ていうか…また牛乳味なんだ」
純「さっきも言ったでしょ? 牛乳は体に良いんだって」
梓「今日の夢に牛乳が出てきそうなんだけど」
純「夢にまで出てくればさすがに明日は治りそうだね」
梓「他人事だと思って…」
純「私は梓のためにと思ってるの」
梓「…だったら少しは遠慮してよ」
純「え?」
梓「人の家に来て漫画ばっか読んで」
純「いや、梓が一人だと寂しいかなと思って…」
梓「寂しくなんかないって」
純「……」
梓「むしろこんな騒がれたら迷惑だし」
純「………邪魔だった?」
梓「あっ、そういうつもりで言ったんじゃ…」
純「ごめん…帰るね」
梓「いや…その…」
純「あはは、迷惑かけちゃったね……じゃ」
梓「じゅ、純…」
ガチャッ、バタン
梓「……」
梓「……」
梓(別にそういうつもりじゃなかったのに)
梓(ただ…純まで体調悪くなるじゃないかなって…)
梓(なのに…)
梓「純…」
梓「……」
梓「……鞄忘れてるし」
ガチャッ
純「鞄忘れてた!!」
梓「はぁ…」
純「ごめんごめん、すぐ出るから」
梓「ま、待って!」
純「梓…?」
梓「その…」
純「……」
梓「……」
梓(つい引きとめちゃったけど、どうしよう…謝った方がいいのかな)
純「……さっきさ」
梓「え?」
純「梓が寂しいんじゃないかなって言ったけど…あれ嘘」
純「実は私が寂しかったんだよね、梓に会えなくて」
梓「純…」
純「だから…ちょっとでも長く一緒にいたくて…」
純「あはは、でも確かに漫画ばっか読んでたら邪魔だよね」
純「ごめん…」
梓「……」
純「…もう帰るよ」
梓「あ、あのっ…純!!」
純「え…?」
梓「その…邪魔とかそういうんじゃなくて…」
純「?」
梓「…嬉しかったよ、お見舞いに来てくれて」
純「……本当?」
梓「ただ、早く帰って欲しかったのは…」
梓「純に風邪移っちゃったらイヤなんだもん」
純「……」
梓「純には元気でいてほしかったから…それで」
純「梓…」
梓「…ごめんね、ちゃんと言えなくて」
梓「で、でもずっと言ってたんだよ? なのに純が聞かないから…」
純「――私、梓の風邪なら移ってもいいよ」
梓「え?」
純「そうすれば梓は元気になるでしょ? だったらそれでいいじゃん」
梓「えぇっ!?」
純「さぁ、どんどん移しちゃって!」
梓「だーかーら! それはイヤだって言ってるじゃん!!」
純「えー? でも私は梓に早く元気になってほしいし…」
梓「移さなくても寝てれば元気になるよ」
純「そう?」
梓「そうだって。だからもう帰っていいよ」
純「う~ん…でも心配だな。梓ってほっとけないし」
梓「あのね…純はおせっかい焼きすぎ」
純「そんなことないよ、普通だって」
梓「そんなことある、もう十分」
純「えー…」
梓「十分…嬉しかったから」ボソッ
純「なに?」
梓「な、なんでもない!!」
純「?」
梓「とにかくもういいから、ね? 早く帰って、風邪ひくと辛いんだし」
純「はいはい、そこまで言われたら仕方ないなー」
純「じゃ、また明日学校でね」
梓「うんっ」
純「そんじゃさよならー、早く寝るんだよ」
梓「純」
純「うん?」
梓「お見舞いに来てくれて…ありがと」
純「どういたしまして」
ガチャッ――バタン
――――――
――――
――
梓「ふぅ…だいぶ楽になったかな」
梓「純と話てたら、いつの間にか元気になっちゃった」
梓「……ふふっ」
ガチャッ
梓母「梓ー、夕飯持ってきたわよ」
梓「あっ、ありがとう」
梓母「はい、今日の夕飯はクリームシチュー」
梓「クリームシチュー?」
梓母「あの子…純ちゃんだっけ?」
梓母「その子から牛乳いっぱいもらって、余らせるのももったいないから作ったの」
梓「純ったらぁ~…」
梓母「優しいお友達ね。梓のことすっごく心配してたわよ」
梓「むぅ……なにも考えてないだけだよ」
梓母「ふふ、それじゃあ私は戻るから。食べ終わったらお皿は扉の前に置いといてね」
梓「うん、わかった」
ガチャッ、バタン
梓「……クスッ」
梓「ほんと…おせっかいなんだから」
梓「……」パクッ
梓「…おいしい」
――翌日、鈴木家
梓「……」
純「ごほっごほっ」
純「まさか…本当に移るとは…っ」
梓「だから言ったじゃん。人の話聞かないからそうなるんだよ」
純「だってぇ~…こほっけほっ」
純「うあぁー苦しいよー」
梓「はい、牛乳」
純「牛乳よりフルーツオレ飲みたーい!!」
おわり
最終更新:2010年11月14日 03:55