立ち上がると、迷う梓の手を掴んで無理矢理寝かせる。
そして、律もその隣に寝転んだ。

梓「(うわ、やっぱりやばい……///律先輩の顔が息がかかるほど近いよ///)」

律「寝れないんなら子守唄でも歌ってやろうか?」

梓「え、遠慮しますっ!」ゴロリ

律「あ、なんで背中向けるんだよー」

梓「(それこそ仕方無いじゃないですか!私の心臓が持ちません!)」

律「まったくー」ハァ

梓「……」

律「……」

梓「…………」

律「…………、なあ、梓」

梓「……なんですか」

律「梓はさ、好きな人とか、いるの?」

梓「……なんなんですか、いきなり」

律「いや、聞きたくなって」ヘラリ

梓「……いますよ」

梓「(私のすぐ隣に)」

律「そっか……」

梓「……律先輩、は」

律「なあ、梓」

梓の言葉を遮ると、背中を見詰めたまま、律は訊ねた。

律「ずっと好きだった奴がいるのに、突然心変わりするなんて、最低だと思う?」

梓「……」ドキンッ

梓「そんなこと、……ないと思いますけど」

律「……ありがと」ゴロリ

寝返りを打ち、梓と背中合わせの状態になる。

梓「(……期待、してもいいのかな)」

律「(やっぱわかんねーや、自分の気持ち……なんとなく、こうしたらわかるかも
って思ったのに)」

梓「……律先輩」

律「あー、ごめんな、変なこと聞いちゃって。もう寝ようぜ、おやすみ」

梓「あ……、はい」

律「……」

梓「……」

律「(もう寝たか?)」チラッ

梓「」スースー

律「……」ヨイショ

梓を起こさないように布団から起き上がると、立ち上がった。
そのまま電気も点けずに机に置いてあった携帯を手に取って開ける。

『着信2件:澪』

アドレス帳を呼び出し、電話を掛ける。

プルルルル♪

澪『もしもし?律?』

律「寝てたか?」

澪『ううん。歌詞書いてた。今日どうしたんだよ、全然電話に出ないし』

律「あー、悪ぃ」

澪『あのさ、律』

律「ん?」

澪『……気にしなくていいから。ほんとにもう、気にしなくていいから』

律「……うん」

澪『律、前に進めないのは私のせいなんだろ?』

律「それは自意識過剰だろ」

澪『そんなことない。きっとあのこと、気にしてる』

律「……澪、お前そんなこと話すために何度も電話してきたのか?」

澪『……ごめん、違う』

律「知ってる」

澪『唯に告白した』

律「うん」ズキッ

澪『返事はまだだけど、付き合うことになるかも知れない』

律「……うん」

澪『それだけ』

律「そっか。頑張れよ」

澪『……ありがとな、律。いつも私の話、聞いてくれて』

律「気にすんな。今近くで梓寝てるしもう切るわ」

澪『あ、うん。律、最後にもう一度言わせて』

律「……うん」

澪『私のことなんかもう気にするな、バカ律』

ツー、ツー、ツー

律「……うっせーよバカ澪」ヘラ

律「(あー、やっぱわかんねーよ……。澪の声聞いたって、梓の傍にいてみたって)」

律「寝よ……」

携帯の電源を落とすと、布団にもぐりこんだ。



梓「……ん……」

気が付くと朝になっていた。

梓「……あ、律先輩」

律「」スースー

梓「(寒いと思ったら先輩が布団、取ってたんだ……)」ブルブル

時計を見る。

梓「」

梓「律先輩っ、起きてください今直ぐ!学校遅刻しちゃいますっ」

律「ふにゃ?」

梓「(ね、寝惚けてる律先輩が可愛い……//って、そんなこと考えてる暇じゃない!
さすがに二日連続で遅刻ぎりぎりは避けたいんだから!)」

梓「先輩っ!」グワラグワラ

律「うぅ……ねみぃ」グウワラグウワラ

梓「キャベツ」

律「」パチッ

律「おう、おはよう、梓」

梓「(キャベツに反応して起きるなんて……)」

律「梓、今何時……」

梓「遅刻寸前ぎりぎり前です!」クワッ

律「は、はい!」


梓「律先輩、寝起き、悪すぎ、ですっ」タタ

律「仕方ねえだろ、昨日、寝たの、遅かったんだし」タタタ

梓「(遅いって、あの時間で?……そういえば、律先輩携帯握りながら寝てたよね、
私が寝てる間誰かと話してたの……?)」

校門前に着く。

律「セーフ……」ゼーゼー

梓「朝から全力疾走は……」ハーハー

澪「きついな……」フゥ

律「」

梓「」

澪「え、なに?」

律「ななな、何でいるんだよ!?」

梓「澪先輩が遅刻しそうなんて……!」

澪「仕方ないだろー、昨日あれからも中々眠れなくって……」

律「澪のことだから興奮して、だろ」

澪「へ、変な言い方するな!///」

梓「(あれから……?もしかして、律先輩は澪先輩と電話してたの?)」

律「梓?ぼーっとしてどうしたんだ?」

梓「あ、いえ!何でもないです!」

澪「私たちの教室、こっちだから。また放課後な、梓」

律「じゃーな」

梓「(……見慣れてるはずなのに、二人一緒の後姿。やな気持ちばっかに
なっちゃうよ……)」


澪「あ、唯だ」

教室に向かっていると、突然澪が立ち止まる。

唯「えっと、澪ちゃん、りっちゃん、お、おはよう///」

澪「う、うん……///」

律「(初々しいなぁおい)」

律「私先教室行ってるわー」ヒラヒラ

教室の前に着いても、律は立ち止まらなかった。
そのまま通り過ぎる。
そして、非常階段の最上段でやっと足を止めた。

律「……やっぱ私、おかしーし……」

頭を抱える。

律「どうすりゃいいんだよ……」



放課後。

唯「おいーっす!」

澪「あれ、まだ律だけ?」

律「うん、ムギ、なんかよくわかんねーけど取りに行くものがあるって言って
さっき部室出てった」

澪「へえ……」

律「上手くいったみたいだな?手なんか繋いじゃって」

澪「///」

唯「えへへ///」

ガチャ

梓「こんにちはー」

律「」ドキッ

紬「皆揃ってるかしらー?」ウフフ

梓「うわっ、ムギ先輩!?」ビクッ

紬「あら、気が付かなかった?ずっと後ろ歩いてたんだけど」

梓「(知らない知らないそんなの知らない!)」ゾワッ

律「で、どうしたんだ、ムギ?」

紬「あ、そうそう。今日ね、祭りだって聞いたから」ニコニコ

澪「唯、ムギに言ったのか!?」

唯「言ってない言ってない!まだ言って無いよ!」

紬「あらあらうふふ。隠さなくてもわかるわよ。それでお祝いしようと思って
これ、持って来たの」

律「酒!?」

紬「えぇ、でもノンアルコールだから大丈夫よ」ウフフ

律「なんだ……」ホッ

唯・澪「(本当かな……)」

梓「なんかよくわかりませんけど、練習は……?」

紬「まあまあ梓ちゃん」

椅子に梓を座らせる。
それにならって、皆も席に着く。

紬「それじゃあ盛大なパーティーを始めましょうか!」ウフフノフ

澪「な、なんか恥かしいんだけど、ムギ……」

唯「そんなことしなくても……」

紬「いいのいいの♪」

紬「(楽しみだわあ、これから起こること♪)」

律「まあまあお二人さん」

梓「(……パーティー?お二人さん?)」ワケガワカラナイ

紬「ほらほら皆飲んで~♪梓ちゃんも♪」

チャポチャポ

梓「あ、どうもです」ゴクッ

唯「あれー、なんか楽しくなってきちゃった」

紬「唯ちゃん、もっと楽しみましょう!」

唯「うん、ムギちゃん!」

律「(うわー、ほんとの酔っ払いみたいになってきたぞ……本当にアルコール入って
ないんだろうな……)」

トントン

澪「律」コソコソ

律「なに、まさか澪も酔って……!」

澪「酔ってない!第一飲んでないし……。えっと、まだちゃんとしたお礼言って
なかったから言おうと思って」

律「澪しゃんらしくない」

澪「う、うるさい、人がせっかく!」

梓「……」ジーッ

紬「梓ちゃん、もう一杯いかが?」

梓「いただきます」

コポコポ

梓「……」グビグビ

澪「バカ律!」バシッ

律「い、いひゃいよ澪ひゃん……」ウゥ

ガタッ

律「ん?」

澪「梓?どうしたんだ?」

紬「あらあらうふふ」



梓「みーおせーんぱい♪」




ギュッ




律「」


律「……え?」ズキン

澪「ちょ、梓!?///」アセアセ

唯「あー、あずにゃんが澪ちゃんに抱き着いてる~♪私も~♪」

澪「唯まで!?///」

紬「私も~♪」

澪「真似しなくていい!///」


律「(な、なんだよこれ……。なんで梓は私じゃなくって澪に……。何でこんなに
胸が苦しいんだ……)ズキズキ

梓「澪先輩~」ニャア

律「(……あ、そっか、私)」

律「(昨日の罪悪感も、おかしー気持ちも全部……)」

律「好きだから、か……」

澪・唯「え?」

紬「Goodjobりっちゃん!」キラーン

律「なぁ、梓!」

澪に抱きついたままでいる梓に駆け寄る。

梓「……」ピクッ

律「梓、ごめん」

梓「」

律「梓?」

紬「うふふ、唯ちゃん、澪ちゃん、私たち、ちょっと出ましょうか」カメラセット

唯「う、うん」

澪「いや、出たいのは山々なんだけど……、って、あれ?離れた」

梓はすっと澪から離れると、律に背を向けた。
それを見て、紬がにこにこしながら唯と澪の手を片方ずつ繋いで部室を出て行く。

律「皆、悪ぃ」

申し訳なさそうに謝ると、律は梓の背中に向き直った。
そして、その小さな背中に告げる。

律「梓、私の嫁にならないか?」

律「(……って、なんかちょっと違わない!?す、滑った!?)」

梓「……律先輩」

律「ひゃい!」

律「(あーもう、私かっこ悪すぎだろ!)」

梓「それって、私が澪先輩に似てるから、ですか」

律「え?」

梓「律先輩、言いましたよね。私と澪先輩が似てるって。だからですか?私と
澪先輩を重ねてるんですか?」

律「……」

ギュッ

振り向くことのない梓を、律は後ろから抱き締めた。

梓「……先輩!?///」

律「違うし。確かに、きっかけはそうだったかも知れないけど……でも、今は
澪と関係なく、梓のことが好き、なんだと思う」

梓「」

グスッ

律「あ、梓?」アセアセ

梓「……変にかっこつけた先輩、変ですよ。私がお酒に酔った振りしてたとき
みたいに」

律「お酒に、酔った振り?」ビックリ

梓「……ほんとは全部知ってるんです、あの夜何もなかったことも、先輩が私に一度
今はまだ、なんて言って謝ったことも」

律「う……」

梓「私、ずるいんです。酔った振りしないと、酔わないと、自分自身の殻を破れないから。
そういうふうにしないと、律先輩に抱きつくことも出来なかったんです」

律「……」ギュ

梓「こんな私でも、それでも好きって言ってくれますか?」ポツリ

律「」

梓「やっぱり……」

律「当たり前だろ」

梓「え?」

抱き締める腕の力をさらに強くする。

律「そんなことで嫌ってやんねーよ」ニッ

梓「……律先輩///」

律「改めて。梓。私の嫁になってください!」

梓「……もっとマシな言い方ないんですか、恥ずかしい」

律「だ、だって仕方ないだろー!///」

梓「仕方ないです、けどその前に、一夜を共にしなきゃいけませんね、律先輩?」ニコッ

終わる。



最終更新:2010年11月17日 00:36