唯「うーいーあいすー」
憂「ちょっと待っててね。今用意するからっ」
唯「ホント!?わぁい!憂、大好きっ!」ぎゅう…
憂「わっ!…えへへ」
憂「(私のお姉ちゃんはどうしてこんなにかわいいのだろうか)」
憂「(小さな頃からずっと一緒)」
憂「(私たちは同じお母さんから生まれた血の繋がった姉妹)」
憂「(姉妹だからずっと一緒にいられることが嬉しい)」
憂「(私はお姉ちゃんが大好きです)」
憂「(そんなお姉ちゃんのことを誰よりも大切に想っています)」
憂「(だから…)」
唯「人生相談があるのっ!」
憂「ええっ!?」
憂「(こんなこと言われたら焦ります)」
憂「な、なにっ!?どうしたの!?」
唯「あー…その…実は…ね…」
憂「(な、なんだろう…深刻なのかな…)」
憂「(ま、まさかイジメとか!?)」
憂「(そんなのヤダ!優しいお姉ちゃんをいじめないでっ…!)」うるうる…
唯「ど、どしたの憂…?」
憂「あっ…ご、ごめっ…」
唯「大丈夫?なんかあった?お姉ちゃんに言ってみれ?」ナデナデ
憂「あっ…」
憂「(やっぱりお姉ちゃんは底抜けに優しいです。自分の相談もそっちのけで慰めてくれる…)」
憂「(そんなお姉ちゃんが悩んでるだなんて…)」うるうる…
唯「(私の妹がこんなにかわいいのがつらい…)」
唯「(ここ最近、私の妹がこんなにかわいいわけがないっ!って自分に言い聞かせてきたけど…)」
唯「(やっぱり、ういはかわいいよ…)」
唯「(がまんできないや…)」
唯「う、ういっ!聞いて!」
憂「は、はいっ!?」
唯「人生相談があるのっ!」
唯「姉が実の妹に恋愛感情を抱いてしまったらどうすればいいのかな!?」
憂「……」
憂「…えっ?」
憂「えと…」
唯「……」
憂「…お姉ちゃんの人生相談…?」
唯「私の人生相談!」フンス
憂「妹…って…」
唯「……」
唯「…それ、言わせれるの?///」
憂「(むっはぁ!!!)」
憂「(そ…そんなことって…)」
唯「…やっぱり、ヘンだよね…女の子が自分の妹に恋愛感情なんて…」
唯「ご、ごめんね憂!今の…」
憂「お姉ちゃん!!」
唯「ひゃ、ひゃい!?」
憂「人生相談があるのっ!」
唯「…えっ?」
憂「大好きな実のお姉ちゃんが実は私のことも好きだった!」
憂「こういう時、どうやって返事したら良いかわからないの!教えて!」
唯「えっ…それって…?」
憂「……」
憂「…もう言わせないで///」
唯「(むっはぁ!!!)」
唯「いいの!今のでもう充分!極上の返事だよっ!」
憂「えっ…?」
唯「…うい~!!」ぎゅうっ…!
憂「わぁっ…!」
唯「…ういっ///」
憂「…///」
憂「(えへへ…あったかい///)」
憂「お姉ちゃんだぁい好きっ!!」
唯「私も憂、だぁい好きっ!これからもずぅっと一緒にいようねっ!」
憂「うんっ!」
おわる
唯「何かの間違いだ」
律「へ?」
唯「……」
律「唯、今なんて…」
そう、これは何かの間違いだ。
我が妹の
平沢憂。
辛うじて凡才と呼べる少々間の抜けた私の妹。
幸いなことにこの私の唯一の誉れ。
それが平沢憂の存在だった。
しかし、それはまた私と血が繋がっていることを否定出来ないということ。
であるからしてありえないのだ。
私の妹である憂が、そんなにかわいい筈など。
律「ゆいー?」
唯「ありえないよ……うぅ」
律「ゆ、唯?大丈夫か…?」
しかし妹は奇しくも私を苦悶の時間へと誘う。
その見紛う程の可憐さによって。
だから私の頭はこんがらがってしまう。
父と母の間で何か人前で言えないような事があって、それで腹違いだとか父親が別だとかならまだいい。
まだいいのだ。
けれども、私たちの顔は自分たちで自負しているほど似通っている。
髪型を同じにしてしまえば、判別出来る箇所は辛うじて目、雰囲気、更には、まあ胸程度だ。
これは私たちの血の繋がりを示す事実に他ならない。
なぜこんな姉のもと、あんな容姿端麗な妹が生まれたのか。
これはあの有名な謎群に加えて世界八不思議としてもいいくらいなのである。
唯「よし!」
勢い良く立ち上がり、私は高らかに声を上げる。
唯「憂に会ってこよう!」
今、正面からその美貌を拝めばなんとか分かるような気がしたのだ。
律「……そ、そうか」
昼休み。人も疎らな廊下を走る。
私の妹は化学調味料満載の購買の怪しい小麦粉製品など食べず、
一切手作りの栄養満点健康第一のお弁当と愛情込めて日々私にまで作ってくれるから教室にいる筈だ。
一直線に、時には廊下を曲がりながら私は走る。
見えた。
あの妹のおかげで一際陽の光が差し込む教室が、我が妹の教室だ。
扉に手を掛け、その姿を探した。
唯「ういーっ!」
かわいい妹は、直ぐ様私を見つけて席を立ち上がる。
憂「お姉ちゃん?どうしたの?」
やや駆け足で私に近づいてくる間に、私はその全貌を舐めるように確認する。
唯「……ふむ」
やはり私の目に狂いはない。
しかしそれが問題なのだった。
憂「え?なあに?」
きょとん、と首を傾げる妹もまた風情なもの。
とはいっても私にはそんな暇はないのだ。
憂「?」
次第に頭に漂わせる疑問符を増やしていく妹と見つめ、その肩に手を掛けた。
唯「うい…」
憂「へ?」
それにしてもその容貌はむしろ以前にも増して私の心を鷲掴みにする。
このままではこちらがやられてしまう。
そう訳の分からない結論を下した私は、より観察へと目を強くした。
唯「ほほー……」
憂「え、な、なに?」
突然狼狽える妹。
私は更に顔を近づける。
憂「お、お姉ちゃん…みんな見てるから……」
ぼそぼそと教室の喧騒に消される程の声で妹が呟く。
しかしその一連の動作は私の妹属性、もとい知的好奇心を活発にさせるだけだった。
唯「むふー、ふー……」
何故だか口元から気分の悪い鼻息が聞こえてきた事に私は僅かに顔を歪めた。
気がつくと私の視界の範疇の九分九厘は妹で占められていた。
しかしそれでも構わない。
憂「ちょっと…ちか…ぃ」
微小な抵抗を私の肩に加える妹だったが、そんなことでは私を抑えることはできない。
唯「はぁ、はぁ」
そして、その時。
憂「あっ……」
ばたん!
妹が倒れてしまった。
憂「うぅ……」
それまで呆然と立ち尽くしていた私は、本分を思い出し無防備な妹に覆い被さる。
憂「お、お姉ちゃん、ってうわぁっ」
唯「はあはあ」
教室の酸素濃度が低いのか、次第に呼吸が荒くなってしまう。
しかしそれさえお構いなしに私は妹に迫る。
憂「お姉ちゃんっ!」
唯「はっ!」
妹の喝で私は目を覚ました。
目の前には涙目の妹。
そのか弱さは紫外線からも守ってあげたくなる程だ。
憂「……もー、」
唯「ご、ごめんね」
ふと気がついて辺りを見回すと、興が冷めたかのように散り散りになっていく生徒達。
どうやら私達は好奇の目をこれでもかと向けられていたようだ。
呆れたように立ち上がって、制服の埃を落とす妹。
暫しその姿に見惚れながら、私もはっとして立ち上がる。
憂「…それで、どうしたの?」
何時ものように清廉さを取り戻し、妹が私に問いかける。
唯「あ…えと……」
理由も言えない私は、口笛を吹くことでなんとか場を凌ぐ。
憂「お姉ちゃん」
唯「はい…ごめんなさい…」
そしてその後、のそのそと寄ってきた妹の友人二名に問いただされ、私はしどろもどろに得意の達弁で誤魔化した。
怪しい目で見る妹一派三人を尻目に、私はそろそろと教室に帰ることとした。
勿論、妹のその弾けるような可憐さの秘密を探る、という目的は達した。
私は悟ったのだ。
妹はその通り美しい。それはまごう事無き真実だ。
そして、それだけでいい。
私が彼女の姉だとか、そんなことはどうでもいい。
ただ、私の妹がかわいい、それだけで私には何ら問題はない。
私は変わらず妹を愛で、全身全霊を懸けて愛情を注ぐのみ。
律「お、帰ってきた」
結論は、
唯「憂はかわいい!」
律「わっ!」
以上!
最終更新:2010年11月17日 03:44