憂の顔を見よう。

何でかって?

だってほら、こんなにも可愛いから。

怠け者でいい加減な私だから
そんな私の妹がこんなに可愛いわけがない。

一度は思ったそんな言葉。

だけどね、無理だよ。やっぱり可愛いもん。
可愛いから見よう。ずっと見よう。

今日も一日憂を見ていよう。

憂「お姉ちゃん。こっちばっか見てたら着替え出来ないよ」

唯「うーん」

朝から憂の顔を頭に叩き入れる。
昨日と今日では違っちゃうかもしれない。
そんなバカなことを思うから。

たまにちっちゃいニキビを発見する。
ほら、今日も発見した。
ストレスでも溜まってるのかな。

唯「うい、ニキビできてるよ」

憂「えっ?ホント?」

憂「やだなぁ。栄養バランス考えてご飯作っているのに」

憂「お姉ちゃんは出来てないかな」

そう言って私に近づいて顔をじっと見詰めた。

憂の目はキョロキョロと動いて私を見据えた。
今はどこを見ているのかな。

目かな。目は憂のがちょっと垂れてるかな。
鼻かな。鼻は殆ど一緒かな。
口かな。口も殆ど一緒かな。

憂があんまりにも近づくからこっちは緊張しちゃうよ。

憂「うん!お姉ちゃんはニキビ一個もないね。キレイな肌だよ」

唯「えへへ。ありがとう。うい」

憂にキレイって言われた。憂もキレイだよって言いたいな。
でもニキビ気にしちゃってるから言いづらいんだ。

代わりにオロナインでも塗ってあげよう。

唯「うい。こっちにおいで。オロナイン塗ってあげる」

憂「あ、本当?ありがとう」

オロナインはどこだったかな。リビングだっけ。
二階へ下りて、リビングへ行った。
私の後をトコトコ付いてくる憂。
微妙に視線を感じ、あったかかった。

途中で振り向き憂を確認した。
憂は頭にクエスチョンマークが出たが笑ってごまかした。

あの顔が身震いするほど可愛かった。

唯「オロナインどこー?」

棚を探すが見当たらない。
いつもは憂にまかせっきりだから無理もなかった。
いつまでも待たせちゃ悪いよね。
もっとしっかりしなきゃ、私!

憂「ここだよ、お姉ちゃん」

苦笑いで言われた。

憂「もう。お姉ちゃんったら」

唯「あはは、ごめんね」

唯「さあ、ういは私の膝の上に頭をのっけて!」

私はこたつの横に座り、膝に憂を招く構えをした。
憂はうん、と言い頭を乗せ、横になった。
髪が太ももを触り、くすぐったいけど、心地よかった。

憂の髪の毛はサラサラでいい匂いがして、ついつい撫でたくなった。

唯「ういー朝から髪の毛キレイだねぇ」

憂「そうかな……。お姉ちゃんは……凄いハネてるね」

唯「うん、髪の毛乾かしたんだけどなぁ」

憂「怒髪天みたいだよ。後でキレイにしてあげるね」

唯「わーい。ありがとう」

唯「おっと、その前に憂のニキビに薬をつけないとね」

憂「ありがとうね。お姉ちゃん」

唯「いやいやー」

私はちょっとテレながらオロナインの蓋を開けた。
ちょっと臭いような独特の匂いだ。あんまり好きではない。

こんなのを顔に付けると近い分一段と匂いがきつくなるのではないか。
そう思うがニキビが早く治るならしかたない。

手に少量取り、憂のニキビにちょんとつけた。

唯「いたくなーい?」

憂「だいじょうぶだよー」

つぶさないように、優しく丁寧につけた。

今思ったが、わざわざ膝に乗せる必要がなかった気がする。
首を少し曲げなければいけないし、少し痛い。

でもいっか。見上げる憂の顔は可愛いし。
太ももも気持ちいいから。

唯「塗り終わりー」

憂「ありがとう。お姉ちゃん」

起きようとする憂を止めた。
もっとこうしていたかったから。
もっとこの時間を一緒にいたかったから。

憂「少しだけだよ。あんまり時間ないし」

唯「うん」

楽しかった。憂と一緒に居るだけで。
何か、魂みたいなのを共有している気分になって
心が温まる、そんな感じだった。

こうやって頭を撫でているだけでも楽しかった。
憂の笑顔が見えるから楽しかった。
ニッコリ笑って、口から歯が少し見えて
そんな憂の可愛い顔が見えるのが楽しくて仕方なかった。

ついつい悪戯もしたくなる。
ほっぺたをつんつんつっついてみた。

憂「うぅ……」

唯「えへへ」

唯「柔らかくていい弾力だね、ういのほっぺたは」

憂「あんまりつっついちゃダメだよ」

唯「だって気持ちいいもん」

憂「ニキビにあたっちゃうよぉ」

そうだった。ニキビにあたるといけない。
刺激を与えたら悪化しちゃうから。
慌てて手を引っ込める。
ごめんね、と誤りちょっとテレ笑い。

憂「もーお姉ちゃんったら」

唯「えへへ、代わりに私のほっぺたをつっついていいよ」

唯「私はニキビないからね。いくらつっついても平気!」

憂「うー、嫌味っぽい」

唯「あ、ちがうよー」

憂「うそうそ。ちょっと意地悪しちゃった」

唯「もう、ひどいなぁ」

憂「ごめんね、もう言わないから触らして?」

唯「ふふふ、いーよっ」

私達は笑いながら言いあった。
どちらも本気で言ってないから、笑いながら言えた。
そんな私達のスキンシップだった。

そして顔を少し下げて憂に近づける。
憂の指が近づき、そっと私の頬に触れた。

憂「お姉ちゃん、すべすべ」

唯「うん。つっつかないの?」

憂「つっつくよ」

憂の人差し指が動く。
私の頬を押し、ぷにっとへこんだ。
弾力を確かめるようにゆっくりゆっくり押している。

小さな子どもが見たことない物をつっつく様で
可笑しいけど、可愛く見えた。

憂「いいなーお姉ちゃんニキビなくて」

唯「ういも明日には治るよ。オロナイン塗ったし」

憂「そうだよね、お姉ちゃんが塗ってくれたしね」

憂はつっついてた手を引っ込めた。
ニキビが嫌なのか溜め息を吐く。

大丈夫だよ、と言いながら私は憂の頭を撫でる。

何だか赤ん坊をあやしている気分だった。
……いつもなら逆かな。
私が憂に面倒を見てもらっている。

だけど今は私が母親みたいだった。

一度そう思うと心まで母親になったみたいだ。
そんな気持ちで憂の頭を撫でた。
優しく優しく、何度も何度も撫でた。

そうしているうちに憂の目はいつの間にか閉じている。
眠ってしまったのだろうか。

――疲れているんだよね。

私の膝の上でスヤスヤと心地良さそうに眠る憂。
軽い寝息も聞こえてきた。

――ゆっくりお休み。

――私が付いているから。

憂が眠ってしまっても構わず頭を撫で続ける。
自然と顔に笑みが浮かんだ。

寝ている憂の顔は、可愛いという言葉以外なかった。
ついつい目を奪われる。

撫でる手を止めてずっと顔を見詰めた。

口の中に溜まる唾を飲み喉を鳴らす。
身体が自然と動いた。

――ダメだよ。

でも止まることはない。

――ダメだってば。

だって……憂が。

――私の妹がこんなに可愛いから。

だから――。

――ぐうううぅぅぅっ!

瞬時に身体が反応し、身を引っ込めた。

リビングに響くのは私のお腹の音。でかかった。
顔が熱くなる。真っ赤になっているかな。

憂「ん……今の音……何」

憂が起きてしまった。
というか聞かれてしまった!

とてつもなく恥ずかしかった。

唯「わたしの……おなかの音」

憂「……ぷっ……あははは」

唯「ううぅ。笑わないでよーー!」

憂「あはは。ごめんねあんまりにもでかいから……ふふふ」

もう耳まで熱かった。
憂に恥ずかしい音聞かれて羞恥心で潰されそうだった。

ちょっと涙目になる。
そんな私を憂はごめんね、と言いながら頭を優しく撫でる。
憂に撫でてもらえば、嫌な気分だって吹き飛ぶ。

撫でられた瞬間には笑顔が戻っていた。

唯「いいよ」

憂「うん。じゃあご飯作っちゃうね」

唯「私も手伝う!」

憂「えっ?でも……」

唯「平気だよ。私だって出来るよ」

憂「じゃあお願いしようかなー」

唯「任せてください!」

今日は朝から良い気分だ。良いことがあったからね。

こんな良いことがもっと起こるように憂を見続けよう。
憂の近くに居て、目を離さないようにして、見続けるんだ。

憂に笑顔がある限り私も笑顔になる。
可愛い可愛い私の憂。

私の妹はこんなに可愛いよ、とみんなに自慢したくなる。

そうだしちゃおう、りっちゃんにムギちゃんに澪ちゃんに
あずにゃんにも言っちゃおう。
毎日言ってあげよう。

――私の妹はこんなにも可愛いいんだから。

そうだよね?憂。



                           おしまい



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最終更新:2010年11月17日 03:48