懺悔です。
ごめんなさいお父さんお母さん。
仲の良い姉妹の枠を越え、私は憂を愛してしまいました。
可愛いというだけだったのに
いつしか愛という芽が芽生え憂に夢中になっていました。
世間一般的にはこんなのは許されないことなのでしょう。
でも、無理なのです。
憂を見てると胸が痛く、動悸は激しくなり自分を見失ってしまいそうです。
思わず深い溜め息が漏れます。
それでもモヤモヤしたわだかまりが解けることはありません。
ただ胸の内にひっそりと収めるよりは
いっそ想いを打ち明けたほうがいいのでしょうか。
私にはどうすればいいかわかりません――。
今日も憂と一緒に登校します。
手をつないで、一つのマフラーを二人で首に巻く姿は
とても仲の良い姉妹に見えるでしょう。
憂の手からはじんじんと熱が伝わり私を温めてくれます。
ついつい手を強く握ってしまいます。
唯「憂の手はあったかいねーー」
憂「お姉ちゃんこそ」
そう言いながら手の甲をすりすりと擦ってくれます。
その可愛い笑顔が私を魅了しました。
薄っすらと肌寒くなってきたこの季節でも
私の身体が熱くなるのを感じます。
憂の……顔が、笑顔が原因だよね。
登校時間は十数分という短い時間ですが
私にとって、とても大切な時間です。
部活に入ってからというもの
憂と一緒の時間はめっきり減ってしまいました。
とても寂しく思います。
憂はお姉ちゃんが生き生きしてて嬉しい、と言いますが
それは表面上だけで胸の奥に浸透しているのは
ただただ寂しいという想いだけでした。
もちろん何かしたくて部活に入ったのですが。
ギー太を触れば胸が躍るほど楽しさが増し
りっちゃん達と出会えたのも喜ばしいことでしょう。
良い友達が出来た。そう思います
でも私に必要不可欠だったのは憂のぬくもりでした。
足りない。圧倒的に足りませんでした。
憂成分とも云うべき私の欲するそれは
憂に抱きつき、頬擦りし、憂と会話しないと得られない物です。
憂が欲しい――そんな感情でいっぱいでした。
学校へ着けば暫くのお別れです。
憂の手がするりと抜け、また寂しさが襲ってきました。
無理に作った笑顔で別れの挨拶をしました。
唯「バイバイ、またね」
教室へ行くとすでに部活のみんなは来ていました。
いつも私が最後のような気がします。
唯「おはようみんな」
みんなに笑顔で挨拶をし、席へ着きました。
そうするとみんなは私の方へぞろぞろと集まってきます。
律「今日も遅いぞー唯」
澪「また寝坊か」
紬「あんまり憂ちゃんに迷惑掛けちゃダメよ」
唯「へへへ、ごめんね」
迷惑ですか。やはり憂は迷惑でもしているのでしょうか。
毎朝起こしてもらって朝ご飯も作ってもらって
私はお姉ちゃんらしいこと何一つ出来てはいないのでしょうか。
でも憂はそんな私を可愛いと言い、愛でくれている気がします。
だからついつい甘えてしまいます。
だからいつしか好きになっていました。
この関係が変わると私達ではなくなる、そんな気がしました。
唯「がんばるよ、私!」
気合を入れ、声を高らかにあげました
鐘が鳴り、みんなは自分の席へ着きます。
今日もつまらない授業の始まりです。
受験生だからしっかり勉強しろと思われますが
頭の中は憂でいっぱいでそれどころじゃありません。
早くどうにかしないと生活に支障が出来そうでした。
寝ても覚めても憂。そんな状況になりつつあります。
それでもいいなと思いますが周りから止められそうでした。
世知辛い世の中ですよ。本当。
ただ好きなだけなのに、変な好奇の目で見られそうな感じです。
再び鐘が鳴ります。
ここ最近は休み時間のたびに憂の教室へ出向きます。
憂と話がしたかったからです。
教室の入り口からちょっと甘くうわずった声で「うーいー」と呼びます。
憂は直ぐに反応してくれて私に笑顔を向けてくれました。
憂「お姉ちゃん!」
そしてトコトコと私の所まで来てくれます。
そんな憂を勢いよく抱きしめるのが恒例となっていました。
教室からはくすくすと笑いが漏れ、誰かは「まただね」とも言っていました。
抱き合う私達を少し呆れ気味で見ている後輩のあずにゃんとその友達の純ちゃん。
でもそんなのも気になりません。憂を抱きしめるこのぬくもりが私を夢中にさせます。
憂「お、お姉ちゃん。今日は……ちょっと力が強いよ」
ハッとして腕に込める力を緩めました。
唯「あぅ、ごめんね、つい」
憂「ううん、へいきだよー」
温かい眼差しと笑顔を向けてそう言ってくれました。
そして暫く入り口付近でちょっとしたお喋りを始めます。
いつものように他愛も無いお話。
ただ憂と喋っているだけでよかったのですから。
過度とも呼べるスキンシップで憂を味わった私は胸が高鳴るばかりでした。
憂の手に触れれば手の細胞が
頬擦りをすれば頬の細胞が活気を取り戻す様な感じでした。
凄くいい。そんな表現がぴったりです。
十分という短い時間が終わり、私は教室へ戻ることを余儀なくされました。
憂の手は再び私の手からするりと抜けていきます。
手に感触を残しつつ憂の教室を後にしました。
そしてお昼休み。あんまり食欲が進みません。
ご飯をつっつくだけで箸は止まっています。
恋煩いによる食欲低下でしょうか。小さく溜め息が漏れました。
律「ゆいー玉子焼きもーらい!」
あっという間にお弁当箱から一つ玉子焼きが消えました。
私はそれを食べるりっちゃんをただ眺めていました。
澪「こらっ律!勝手に人の食べ物取るな!」
ゴンと勢いよく澪ちゃんがりっちゃんの頭を叩きました。
律「あいたーーっ!」
そんなやり取りをただじっと見詰めました。
律「唯?」
澪「どうした?玉子焼き取られてショックか」
唯「あ、いや……」
――なんでもないよ。ちょっとぼーっとしてただけだから。
そう苦笑いで返事をします。
ちょっと空気が重くなりますがいつもの笑顔で笑い飛ばしました。
唯「ちょっと最近太っちゃてさー。あはは」
律「太らない体質だったんじゃないのかよっ」
唯「だったんだけどねー。ダメだねー」
お弁当を残すと憂に悪いので無理矢理食べました。
とても美味しいけど、どこか胸がいっぱいでした。
それからお昼休みも終わり、午後の授業もこなし
私達は部活の時間を残すだけになりました。
律「さあ部活の時間だぞ」
澪「よし行くか」
紬「今日はロールケーキよ」
唯「わーい大好き」
その後部室であずにゃん交えてお茶会が開かれました。
今日も練習することなくただ談笑をするだけでした。
みんな笑顔です。もちろん私も。そのはずです。
気付けば外の日は落ちかけ、部屋はオレンジ色で充たされていました。
律「今日はもう帰るか」
澪「また今日も練習しなかった」
梓「まったくです!」
紬「まあまあまあまあ」
あずにゃんと澪ちゃんはしぶしぶ帰り支度をします。
私も鞄とギー太を肩にかけました。
そんな私にムギちゃんが声をかけました。
紬「唯ちゃん、ちょっと残ってくれる?お話があるの」
紬「みんなは先に帰ってて」
律「そっか、じゃあ戸締りたのんだぞー」
澪「それじゃあまた明日」
梓「お先です、唯先輩、ムギ先輩」
何でムギちゃんに引き止められたのか分かりません。
困惑をよそにムギちゃんはニコニコの笑顔です。
唯「な、何かなムギちゃん」
紬「んー唯ちゃんがね苦しそうだからね。ちょっと気になって」
唯「くるしい……?」
紬「そう最近ずーっとよ。思い悩んでるのね」
紬「原因は――憂ちゃんかしら」
ムギちゃんに気付かれてしまいました。
まあ素晴らしいくらいの友達思いなムギちゃんのことですから
いつ気付かれても不思議ではありませんでしたが。
ムギちゃんなら、私の迷える心を真っ直ぐに導いてくれるのかも
そんなわらにもすがる気持ちでムギちゃんに言いました。
唯「ムギちゃん……私どうすればいいのかな」
紬「唯ちゃんはどうしたいの。先にそれよ」
唯「どうしたい……。それは憂が好きだから……想いを伝えたい」
紬「ならするしかないじゃない、我慢は身体に禁物よ」
唯「しても……いいのかな」
紬「もちろん!ダメって言う法律や規則なんか無いわ」
紬「ダメって言う人なんか私がけちょんけちょんにしちゃうから!」
紬「それに想いは伝えないと先に進めないよ」
なんとも頼もしい言葉です。
自分でも出していた答えを人から言われると何故かすっきりします。
それがムギちゃんだからか尚更嬉しく思いました。
ムギちゃんの言葉は私を後押ししてくれました。
胸の中で渦巻いていたわだかまりが徐々に消えていくようでした。
とても胸が軽くなります。
唯「ムギちゃん……」
紬「ん?」
唯「ありがとう」
紬「どういたしまして」
紬「私はね、唯ちゃんたちの味方だから。何があってもね」
紬「それにりっちゃんたちもよ。……がんばってね」
そう言いムギちゃんは私の頭を撫でてくれます。
うん、頑張るよ。ありがとうムギちゃん。
ムギちゃんに力強く抱きつきました。
憂とは違った温かいぬくもり。それが私に勇気を与えてくれるようでした。
唯「行ってくるよ私。憂に伝えるから!」
勢いよく部室を飛び出す私をムギちゃんは笑顔で見送ってくれました。
最終更新:2010年11月17日 04:02