私は高校に入学しました
今日からお姉ちゃんと一緒な高校生です
やっと追いついた感じがします
焦りから来る落ち着かないような気持ちからも、やっと解放されました

姉が軽音部に新入生が入部してこないと愚痴っていました
私は仲良くなったクラスメートに軽音部をそれとなく勧めてみたのですが、うまくいきません
ある日、軽音部にお邪魔させてもらう時があったのですが、私はなんだか寂しくもあり、焦りにも似た感情に支配されていました
なぜなら、軽音部の皆さんといる姉は私が見たこともないくらい楽しそうだったからです
少し変わった人達だったけど、姉は笑顔を絶やす事なく幸せそうでした
姉が幸せならそれでいいはずなのですが、私は姉がもう自分のものだけではないと思うとたまらなく悔しかったのです

新入生歓迎会がある日、クラスメートを誘ってお姉ちゃんのライブを見に行きました
その子はギターをしていて、ジャズ部に入るか悩んでいると言う話しを小耳に挟んだからです
音楽をしているなら、もしかするともしかする可能性もあります
なぜ私が、こんなにも自分に関係ない事に必要以上に首を突っ込むのかと聞かれたら、姉の喜んだ顔を見たいと言う理由もあるのだけど、一番は姉との繋がりが欲しかったのです
私自身が軽音部に入ってしまえばいいのだろうけど、あの空間には私の居場所などないのです
そして、姉が作り上げたあの空間は私を拒んでいるような気がしてならないのです

姉の演奏はとても素晴らしく、とても愛らしいものでした
姉が輝いて見え、私が知っている姉とは違う人に見えました
それが嬉しくもあり、反面悲しくもありました
そして、とても遠くに感じました
一年という期間はこうも人を変えるのだなと、帰る道すがら私を思いました

私が誘ったクラスメートは軽音部に入部する事にしたそうです
姉が嬉しそうに話しているのを見て、私も嬉しくなりました

月日は経ち、私が学校の間取りを完全に把握し始めて、それも当たり前になった夏、姉は今年も合宿に行くと言いました

私は1人がこんなにも寂しいものだと、この時初めて気が付きました
姉は中学の時、一体どれほどの寂しさを感じていたのでしょう
私は自分が許せない気持ちと、姉の残留意識に触れたような気がして愛おしい気持ちが後から後から湧いて来て、その2つの感情が混ざった感情は私の気持ちを気付かせるのに充分でした

私は死ぬほど姉に会いたかった

きっとこれが因果応報というものなのだろう

姉が帰って来る日、私は腕によりをかけて料理を沢山作りました
姉が喜ぶ顔を見て、姉がいなかった時の寂しさなど吹き飛びました
不思議なものです
つい昨日まで、寂しさで死んでしまうんじゃないかというほど、衰弱していた私の心は姉の笑顔ですぐ元気を取り戻したのです
次の日、姉と同じ部活であり、同じクラスメートだという事で仲良くなった梓ちゃんとファーストフード点に行きました
梓ちゃんの口から出て来る、私の知らない姉に私は気が狂いおかしくなりそうでした
姉はどうも、梓ちゃんにベッタリなようです
確かに姉は良く私に抱きついたりしましたが、同い年のクラスメートに同じ様に抱きついたりするのは、私には耐え難いものがありました。


………

季節は秋になった
もうすぐ文化祭だ
三回目のライブだ
澪ちゃんとりっちゃんが喧嘩したりしたけど、なんとか仲直りしたようだ
みんなでライブ成功させたいから良かった
私は嬉しくて、さわちゃんが作った着物を家でも来ていたら風邪を引いた
ういが可愛いと言ってくれたからつい調子に乗ってしまった
私は風邪を引いた事がなかった
元気だけが取り柄の私は風邪の辛さを知らない
風邪がこんなにも辛いものだなんて
意識が朦朧とする
ああ、ライブが近いのに
みんなでライブをしたいのに
練習しないといけないのに
風邪を引いた事がない私をういが必要以上に心配している
ういの手がおでこに触れる
冷たくて気持ちいい
柔らかくて気持ちいい
ういの手はぷにぷにだね

私はハッキリさない意識の中で目覚めたり、意識を失うように眠るを繰り返していた
目が覚めればういの心配そうな顔が何度も浮かんだ
私の髪を撫でたり、おでこに触れたり

酷く苦しい中で私の熱い顔は、更に熱くなり、目元は風邪でなのか、嬉しさなのか、懐かしさなのか、別の生き物のように熱を持っていた

どうしてそんなに泣きそうな顔をしているのか、私には解らなかった
今にも私が死んでしまいそうな顔をしているように見えた
ただの風邪なのに
私はういの頬に手を添えて、笑顔で大丈夫だよと伝えた
だって、目が覚めれば好きな人がいるだもん
大丈夫に決まってるよ

それは突然だった---
なにか、優しく柔らかいものが、私に触れた
私はびっくりして、瞬きを繰り返してピントを合わせようとした
ハッキリしない視覚がまどろっこしかった
ピントがあった時、私の視覚に映るのは大好きな人の心配そうな顔だけだった

私は一瞬で状況が理解出来なくて、ういに「なに?」と言葉を吐いていた
ういは、心配とも、切なそうとも、愛おしそうとも、言えるような表情で私に大好きだよと言った
私は涙が気が付かない内に流れていた事を、ういが涙を拭ってくれてから気が付いた
私は嬉しくて笑った気がする
私の思考はういでいっぱいだったし、視覚はういの顔でいっぱいだった
自分の五感に鈍くなっていた
私はういになった気がした

「うい~うい~大好きだよ~うい~」

私はそれに気が付いて、それから一気に思考は爆発した
感情の波が壁を押し流して溢れ出た
私はういの名前を何度も呼んだ
離れたくなかった
ういに溶けてしまいたかった
思考も細胞もういに飲み込まれてしまいたかった
ういの血管の中を溶けて流れたかった
だから、私はういに強く抱きついた
ういの中に入って行きたくて
体を強くういにくっつけた
ういは私が名前を呼ぶ度に「お姉ちゃん」と答えてくれた
強い抱擁と共に


………

お姉ちゃんが風邪を引きました

家でずっとライブ用の浴衣でいたからでしょう
姉は風邪を引いた事がない
きっと辛いだろう
私は姉の看病に付きっきりだった
熱が思ったより高くなったから
今まで溜まりたまったものが一気に来たようだった
人生でこんな高熱を出す事は数回しかないだろう
私は姉がひどく心配だった
風邪とはいえ、死んでしまう事だってあるのだから
世界でたった1人、私の分身
私と同じ肉と血で出来た人
唯一無二の存在が消失してしまう事ほど今の私にとって恐ろしいものはなかった

しかし、嬉しい事もあった

姉が私の手の中にいる事だ
最近、フラフラどこかに飛んでいってしまう蝶々のような姉が、私の側にいる
だから、私は一時も離れず姉の側にいた

熱を計る為におでこに触れた
久しぶりに姉の顔に触れた気がした
その感触はぴったりと引っ付くように、私の手に馴染んだ
やっぱり私達は同じ肉体なんだと改めて認識した
嬉しくて笑ってしまった
そう言えば、姉の寝顔も久しぶりに見る
おでこの上で指の先を遊ばせていると、だんだん欲が湧いて来て、私は姉の頬にも触れた
何度も何度も愛おしいくて、顔の輪郭をなぞった
髪に指を通すとそれはまるで私だった
私は姉の髪一本、どこかに行くのが嫌だった
どじ込めてしまいたかった
例えば、手のひらに姉を凝縮して私の胸に強く押し付けて、取り込んでしまいたいと何度も思考した

そうやって姉の顔を見ていると時間が過ぎるのが、恐らく早かった
私は自分の食事も忘れて、姉の看病と思考を続けた

家を出なくいいように、バカみたいに買い置きしたゼリーをたまに姉の口に運んだ
食べ物を運ぶ動きをする唇はとても妖艶に見えた
私はなぜか、舐めてみたくなった
味を確かめたくなった
私は五感の全てで姉を認識した事がある気でいたが、良く考えてみれば味覚で認識した事はなかった
きっと、だからだろう
気が付いてからは、その衝動を抑える葛藤になった
しかし、そんな無駄な抵抗も虚しく、私の理性は簡単に崩れさった

姉の顔の隣に手をつき唇を見つめた

私と良く似た唇だった

姉の顔を見て逡巡したあとに、私は唇をペロリと舐めてみた
味はしなかった
なにか生き物の匂いがした

姉の生々しい匂いだった

私はなにか、内臓の奥から突き上げるようなものが込み上げてきて、体が熱くなった
そしてすぐに体がぞくぞくした

もっと確認したい---
もっと認識したい---


私が姉の唇に酔いしれていると、姉は苦しいそうな声を出した
私は姉の頬に手を当てて、姉の様子を見守った
姉は薄く瞼を開き、私の顔を眺めているようだった
しばらく眺めるとにっこりと微笑んだ
私はたまらなくなり、姉にキスをした
衝動的な行動だった
すぐに身を引き剥がし、姉の様子を探ると姉は朦朧とした目つきで私を見たあと何度も瞬きを繰り返した
きっと、視覚もぼやけてしまっているのだろう
姉はピントが合ってきたのだろうか、私を見て、少し驚いたような声で「なに?」と言った
私はめまぐるしく変わる姉の表情に胸が張り裂けそうなほど締め付けられて、思わず「大好きだよ」と呟いてしまった
きっと、締め付けられ過ぎて押し出されてしまったのだろう
姉は私の名前を呼んだ
そして姉も好きだと言ってくれた
強く抱きついてきた
私も強く抱きしめ返した
私も何度も「お姉ちゃん」と呼び返した




もう正直どうしていいかわかんない。一応収集ついてるはず
終わる



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最終更新:2010年11月17日 04:06