梓「こんにちはー……あれ、まだ律先輩お一人ですか?」

律「おー、みんな色々あってな。そのうち来るよ」

梓「律先輩だけお暇なんですね」

律「……言ってくれるね中野くん」

梓(ここでヘッドロックからのグリグリーって……あれ?)

律「まぁいいや、事実だしな。梓も早く座れよ」

梓「あ、はい……(いつもみたいに『中野ー!』って来ないのかな……)」

梓「…………」

律「フロアタム欲しいなぁ……」ペラ…

梓「あっても練習しなきゃ持ち腐れですよ」

律「そうだなぁ……」ペラ…

梓「…………」

律「…………」ペラ…

梓(いつもなら『生意気なー!』とか言って絡んでくるのに……)

律「…………」ペラ…

梓(二人だけだからかな?一緒に騒ぐ唯先輩や
  ツッコミ役の澪先輩がいないし……)

律「…………」ペラ…

梓(いつもは盛り上げるためのノリで絡んでくるだけで
  実際は私なんかにあんまり興味ないのかな……)

律「…………」ペラ…

梓(他の先輩方と二人きりだとしても無言で雑誌読んだりしないだろうし……)

律「…………」ペラ…

梓(入部したての頃に生意気言っちゃったりしたからな……
  普段は部をまとめるために普通に接してくれてても、
  実際のところ『ただの部の後輩』程度にしか思われてないのかな……)

律「…………」ペラ…

梓(私にとっては生意気言ったりできる唯一の先輩なのに……
  そうだとしたらちょっと……いや、すっごく……寂しいなぁ……)ハァ…

律「…………」ペラ…

梓(律先輩って何だかんだで常識人だし、人付き合いも上手いし、
  他人との適度な距離間みたいなのを無意識に保ってるのかな……)

律「…………」ペラ…

梓(普段は唯先輩やムギ先輩と一緒にはしゃいだりしてても、
  澪先輩がたまにそうなった時には落ち着いて一歩引いてたりとか……
  集団の中でも自分の立ち位置や役割を明確に持ってる気がする)

律「…………」ペラ…

梓(だからそんな律先輩にとって私は、みんながいる場のノリによって絡むことはあっても、
  あんまり突っ込んだ関係を築くような相手じゃないのかも……性格とかも正反対だし)

律「…………」ペラ…

梓(やっぱ第一印象が悪かったかな……折角待ち望んでた後輩を、
  部の空気に馴染ませようとしてた矢先にあんなこと言われたらなぁ……
  あれで私に対してはあまり深く踏み込まないように決めちゃったのかも)

律「…………」ペラ…

梓(ああ……何であんなことしちゃったんだろ……
  部に馴染んでキャラが固まった今ならまだしも……
  期待が先走って冷静さを失ってたなぁ)

律「…………」ペラ…

梓(今からでも何とかならないかな……
  4人しかいない大事なバンドメンバーなのに、
  あくまでも軽音部ありきの関係なんて絶対やだよ)

律「…………」ペラ…

梓(どうしたらいいんだろ……一度あまり良くない方に
  固まったイメージを変えるのって難しいよね……)

律「…………」ペラ…

梓(キャラに合わないことしても引かれるだけだし……
  キャラに合ったことだと大きな変化は望めないし……)

律「…………」ペラ…

梓(言い方悪いけど、他の方達は単純なとこあるから
  急な変化も割と素直に受け入れてくれそうだけど……
  律先輩相手じゃそうはいかないだろうな……)

律「…………」ペラ…

梓(練習しなくてもあまり口うるさく言わないとか?
  ……いや、やっぱりそういうのは違うな……
  今更それをやめて評価を変えるような小さい人じゃないし
  てか先輩も練習を嫌がってるってわけじゃあないからなぁ)

律「…………」ペラ…

梓(私自身人見知りだし友達作るの上手くないからな……
  憂も純も社交的で相手を汲める子達なわけで、
  私はあの子達の優しさに甘えてるようなとこあるし)

律「…………」ペラ…

梓(頑張って友達作ったこともなければ、大喧嘩して仲直りしたこともない……
  濃い人間関係を築いたことがあんまりないから
  こういう時にどうすればいいのか全然わかんないんだよね……)

律「…………」ペラ…

梓(律先輩ならどうするんだろ……仲悪いわけではないけど、
  一定の距離がある相手ともっともっと仲良くなりたいとき)

律「…………」ペラ…

梓(律先輩は、私と仲良くなりたいって思ってくれたことはないのかな……
  他の先輩方と同じくらい……とまではいかなくても、
  せめて部室に二人っきりでも会話が続くくらい……)

律「…………」ペラ…

梓(例えば唯先輩となら、二人きりでもいつもみたいにふざけあうんだろう。
  ムギ先輩と二人なら、お茶を飲みながら静かに談笑してる気がする。
  澪先輩となら……たぶん会話なんかなくても、ちっとも気まずい空気にならないんだろう)

律「…………」ペラ…

梓(でも私は……何をしたらいいのかわからない。
  思い返してみれば、普段から律先輩に対しては
憎まれ口か小言くらいしか言ったことない気がする)

律「…………」ペラ…

梓(自分では結構可愛がってもらってる気になってたけど……
  この状況が、そんなのは所詮幻想だったって言ってるよね)

律「…………」ペラ…

梓(ああ、何か泣きたくなってきたな……
  普段は律先輩に対してあんな態度とってるのに、
  自分は良く思われたいだなんて……我ながら身勝手だ)

律「…………」ペラ…

梓(でも、それでも、律先輩と仲良くなりたいんだもん……
  ただの部活仲間じゃなくて、本当の意味での仲間になりたい……
  そう思うのは、悪いことじゃないよね……?)

律「…………」ペラ…

梓(このまま泣いて、律先輩に抱きついたら、私のこと気にしてくれるかな?
  『先輩と仲良くなりたいです!私のこと見て下さい!』って言って……
  優しい律先輩のことだから、たぶん自分のことを責めちゃうんだろうな)

律「…………」ペラ…

梓(でも、それじゃだめだ……
そんなの先輩の優しさに甘えてるだけ、
それこそ身勝手だ)

律「…………」ペラ…

梓(だから、勇気を出そう。
勇気を出して、自分から先輩に話しかけよう)

律「…………」ペラ…

梓(そうだよ、先輩に話しかけるくらい簡単じゃん。
  おすすめのバンドとか、こないだムギ先輩が持ってきてくれた新曲とか。
  何も知らない人相手じゃないんだもん)

律「…………」ペラペラペラ…

梓(ちょうど雑誌読み終わるところだ。読み終わったら行くぞ!)

律「……ふー……」バサッ

梓(よし行け!『今月の特集どうでした?』って言え!
  『私最後の方に載ってるコラム好きなんですよね』って言え!)

律「…………」ペラペラペラペラ…

梓(ほら!暇そうに読み終わった雑誌いじってんじゃん!
  なに律先輩相手に緊張してんだ私!ほら!ほら!行けって!)

律「……ふー……」ペラ…

梓(ああ……別の雑誌読み始めちゃった……
  しかもベースマガジン……明らかに興味なさそうな顔……)

律「…………」ペラ…


梓(私ってこんなにダメダメだったっけ……?
  2年以上ほぼ週5で会ってきた相手に対して……)

律「…………」ペラ…

梓(ああ……話しかけるタイミングを完全に逃しちゃった……
  もう部室きてから20分くらいたつのに、今更急に喋り出すのもな……)

律「…………」ペラ…

梓(うわぁ、すごいつまんなさそうな顔……
  そりゃ何書いてるかもほとんどわかんないだろうしな……)

律「…………」ペラ…

梓(てか、そんな顔して雑誌読むくらいなら私に構ってくれたらいいのに……
  最初の雑誌を読み終わった時点で、次の雑誌を読む以外に
  私に話しかけるって選択肢もあったはずなのに……)

律「…………」ペラ…

梓(私って大して興味もない雑誌以下の存在なの……?
  それとも、まず私に構うって選択肢自体が無いの……?)

律「…………」ペラ…

梓(ああ、自分に落ち込んだせいで、思考がまたネガティブな方向に……
  他の先輩方まだかな……てかもう帰りたい……帰って泣きたい……)

律「…………」ペラ…

梓(もう駄目だ……限界……空気に耐えられない……
  沈黙が嫌だというより、先輩がそんなこと
  気にする素振りもないってことに耐えられない……)

律「…………」ペラ…

梓(澪先輩……早く来て練習始めるかーって言って下さい……
  ムギ先輩……本当はお茶もお菓子も楽しみにしてるんです……
  唯先輩……今日は抱きついても何も言いませんから……というか胸を貸して下さい……)

律「…………」ペラ…

梓(よし!来る!澪先輩来る!私の第六感がそう言ってる!
  おっ唯先輩とムギ先輩もおしゃべりしながら歩いてる!
  もう着くね!よし今部室の下の階段だ!
  後はドアを開けるだけ!ほら来る!来るよーっ!)

ブブブブブブ……

律「あ、メールだ……
ああ澪のやつ、今日は進路のことで長引くから来れないってさ
  ムギも家の用事で出れないらしいわ、ごめんねってさ」

梓「」

梓「……あ、ああそうなんですか……(いや落ち着けまだ唯先輩が)」

ブブブブブブ……

梓「あ、すいません私ですね……」

梓(あ、噂をすれば……)

From:唯先輩
Title:あずにゃんごめーん!
本文:今日和ちゃんが家来ることになりましたー
   憂と和ちゃんと3人で晩ご飯の用意するから先帰るねー
   急な話でごめんねーみんなにもそう言っていてー
   じゃあねー(^3^)-☆chu!!

梓「」

梓「」

梓「」

律「どうしたー?」

梓「あ、ゆ、唯先輩も今日は来れないそうです……」

律「そーなの?……二人だけじゃアレだし、今日はもう解散すっか!」

梓「そうですね……私ももう限界ですし……」ズーン

律「どうした?気分でも悪いのか?あ、頭痛薬ならあるけど……」

梓「いえ、そうじゃないので……大丈夫ですお気になさらず……
 (今はその優しさが私の胸を抉るナイフです……
  無い胸をこれ以上目減りさせないで下さい……)」

律「そうか?でも気分悪いなら送ってこうか?」

梓「いえ……本当に大丈夫です……
 (家までこれが続いたら私はもう再起不能です……)」

律「そっか……じゃあ私はまだ残ってるやつ誘って帰るから!
  梓も無理すんなよ?なんなら憂ちゃんや純ちゃんと一緒に帰んな!」

梓「はい……了解です……(純は部活だし……
  憂は唯先輩と和先輩に囲まれてふわふわ時間ですけどね……)」

律「んじゃな!また明日ー!」ビューン

梓「お疲れさまでーす……(そんな嬉しそうに帰らなくても……)」

梓(ああ……やっぱりもう限界……)グスッ

梓「う……うぇ……うえぇぇーん!もうやだよぉー!」グスッグスッ

梓「どうじだら……グスッグスッ……ながよぐでぎるのぉー!」グスッグスッ

梓「だれが……ヒック……おじえでよぉ……」グスッグスッ

澪「進路希望用紙部室に置きっぱなしだったよ……
  うっかりしてた……律たちまだいるかな?」ガチャ

梓「えぐっ……えぐっ……ひっく……ぐすっ……」シクシク

澪「うわっ!?あ、梓!?どうした!?なに泣いてるんだ!?」

梓「み……みおぜんばい……みおぜんばぁ~~いっ!!!」ダキッ!


未完



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最終更新:2010年11月18日 01:25