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先生「じゃあ今日はここまで」

和「起立」

唯「っ!」

和「礼」

澪(……唯?)

なんだろう。
授業の終わり際から唯の様子がおかしい。
それが分かるくらい授業中にチラチラ見てた私も私だけど……。

あ、和もおかしい事に気付いたみたい。立花さんも。
話し掛ける二人に対して唯が必死に取り繕っているように見える。
……もしかして唯困ってる?
助けてあげたいけど話し掛けられて困るなら私が行っても余計に……。
でも様子がおかしいし……やっぱりほっとけない。
よし、二人の気を逸らすような話を振りに行こう。

そう思って唯の元へ向かおうとした時、不意に唯の机の下に目が行った。
……ん? なんだあれ?

唯のスカートがなんていうか、こう……。
っと、それより唯を助けに行かないと!
早くしないと律達がお弁当持って集まって来ちゃう。

澪「和、午後の授業の事なんだけど……」

和に話を振りつつ唯の様子を伺う。
やっぱり私が来て余計困ってるかも……。

和「ちょっと待って。なんだか唯の様子が変なのよ」

うあ、駄目な方向に話が……唯ゴメン!

唯「あ、わ、私は大丈夫だから……」

和「でも唯変よ?」

唯「へ、変ってひどいよー和ちゃん」

和「熱でもあるの?」

熱……そうだ。

澪「確かに調子悪そうだな。唯、保健室に行く?」

唯「いやっ、それは……」

多分さっき見たスカートと関係があるはず。
そしてそれを見られたくない……とかかな?
……よし。

澪「なんならおぶるけど」

唯「ぅえっ!?」

……おぶるのはやり過ぎかも……は、恥ずかしくなってきた……。

澪(さっき私の席から見えたんだけど、唯のスカートが……)

唯「っ!?」

ヒソヒソ声で唯に打診すると唯の顔が青ざめていって……うわああっ今にも泣きそうじゃないか! 私の馬鹿ぁ!
と、とにかく誰にも知られたくない事があるみたいだ。

澪(なあ、よく分からないけど隠したい事があるんだろ? もし私でよければ協力するから)

唯「…………澪ちゃん、お願い」

俯いたまま唯が頼んできた。

澪「わかった、ほら」

腰を降ろすと唯が背中にもたれかかってきた。
これは想像以上に恥ずかしいかもしれない……。

澪「じゃ、じゃあ保健室に行くぞ」

和「それなら私も――」

澪「い、いや! 大丈夫だから!」

和の返事を待たずに教室を抜け出す。
その間唯は無言で、私の肩に置かれた手が震えていた。
本当に調子が悪そうだけど……大丈夫かな?


他の生徒の視線に必死で耐えつつ廊下を歩く。
保健室に向かうため一階へと降りてきたところで漸く唯が口を開いた。

唯「澪ちゃん……保健室じゃなくてトイレにつれてって欲しい」

澪「わかった。じゃあそこの――」

唯「あ、そこじゃなくてもっと人が来ないところがいい……」

澪「? わかった」

唯がいつになく落ち込んでる。
本当にどうしたんだろう。
それに……私の腰の辺りに何かが当たってるんだけどなんだろう?
いや、とにかく今はトイレに急ごう。

澪「――ここのトイレでいいかな?」

普段使われてないトイレって言ったらここだけど……。

唯「あ、うん、ありがと……」

弱々しく受け答えする唯。
いつもの明るい唯は何処に行ったんだ。
最初は唯と秘密を共有できるかもなんて邪な気持ちもあったけどそんなこと言ってられないな。
唯は私から降りると急いでトイレへと入って行った。
少し迷ったけど私もトイレに入ることにした。
嫌がられたら大人しく追い出されよう。
そう思ってトイレの扉を開けると、

唯「ぐすっ……ぅ……」

唯のすすり泣く音が一番奥の個室から聞こえる。
個室の戸は閉められていなかった。

澪「ゆ、唯? 大丈夫か? 私教室に戻った方がいい……?」

そう言いながら私は個室を覗いた。

背中を向けた唯が掠れた声で呟く。

唯「ふぐっ……澪ちゃん、こっち来て戸閉めて……」

澪「わ、わかった」

狭い個室に入り、鍵を閉めた。
重苦しい雰囲気が個室を支配する。
唯は私に何かを伝えようとしてるみたいだ。
よ、よし……何を言われても驚かないぞ。

唯「あの、ね……私……」

そう言いながら唯がこちらに身体を向ける。
目に入ってくるのは唯の泣き顔。
それと不自然に浮いているスカート。
これは……何?

澪「えっと……どういうこと?」

唯「えっと、私、あ、あるの……」

言葉に詰まりまくって要領を得ない応答。
何が、と聞こうとしたところで唯が自らのスカートをたくし上げた。

澪「……へっ?」

スローモーションでたくし上げられたスカートの中には……。
……………………。
そこにあるのは……なんだ?
唯は黒の短いスパッツ? を穿いていて、その中心から何かが生えている。
……あぇ?
なんだ、なんだこれは。
私が硬直していると再び唯の泣き声が。
な、何か言わないと!

澪「ぁ、え、と、うん? ええと、その……これはいったい……?」

しどろもどろになりながらも言葉を紬ぐ。
何故か言い終えてから頭が回り出してきた。
これはどう見てもあれじゃないか。でもどうして唯に……? 唯は男? いや、え?

唯「うぐっ……ぐす……嫌いになった?」

澪「へ? な、何でそうなる?」

唯「だって私……こんなのがあるんだよ?」

澪「いや、そう言われても何が何だか……」


唯の涙がポロポロと止まらない。
も、もっと何か言わないと!

澪「う、ああ、えっとだな……まず質問してもいい?」

唯「……うん」

澪「唯は……男じゃないよな?」

唯「うん。女だけど昔からこれがついてるの……」

澪「そっ、そうなのか……」

そういうことか。
どういうことだ?
落ち着けー……落ち着けー……。
今はとにかく唯を泣かせないようにしないと。

澪「と、とりあえず嫌いにならないからさ、唯も泣き止んで?」

唯「っ……うん」

洋式トイレで沈黙する女二人。
唯の鼻をすする音だけが響くこの時間がもの凄く気まずい。
これからどうしよう……。

澪「……落ち着いた?」

唯「うん……」

こんなに弱ってる唯初めて見たけど……進んで見たいとは思えないな。
とにかく元気になってもらいたいって思う。
でもまずはこの状況をなんとかしないと。
そのためにはこれについて聞くしかないか。

澪「なあ唯、今までずっと隠してきたって事は……」

唯「知ってるのは家族だけ。和ちゃんにも話してないんだ」

澪「そっか……そういえば合宿の時とかプールでも唯の水着姿見たことない……」

唯「うん。体育の時はスカートつけながら着替えてたから大丈夫だったけど水着はちょっと……」

澪「全然気が付かなかった。でもどうして今日はこんなことに?」

唯「私いつもこういう男物の……ボクサーパンツ? っていうの穿いて隠してきたんだけど、今日穿いて来たのは新しく買ったパンツで……」

唯「今日初めて穿いたんだけどさっきパンツのボタンが勝手に外れちゃって、夏服だからタイツも穿いてないし……」

澪「それでこうなった、と」

唯「うん……こんなことなら学校来る前に確かめればよかった。不良品だよ……はは」

笑えない……。

唯「みんなにはばれなかったけど澪ちゃんにばれちゃった」

澪「……」

唯「あの、この事はみんなには……」

澪「言わないから、大丈夫だから」

唯「うん、でも……澪ちゃんには知られたくなかったなぁ……」

実物を見るまで全然分からなかったけど、ここに来るまで私の腰に当たってたから。
それで私にばれたかもしれないって思って。
黙ってたら口止めも出来ないし、唯は私に話すしかなかったんだ。
クラスのみんなに知られるよりは私一人にってとこか……。

視線を唯の顔に戻す。
唯は静かに涙を流していた。

唯「や、やっぱり気持ち悪いよね?」

澪「そ、そんな――」

唯「こんなの見ちゃったら嫌いになるよ。わた、私だって気持ち悪いって思ってるし。あは、最悪だよね、こ、こんなの見せられ……あ、はは……」

ポロポロポロポロと、どれだけ出るんだってくらい流れてきて。
それにヤケになってるように見える。
唯の涙と乾いた笑いが痛々しくて私まで泣きたくなってきた。
でも。

澪「さっきも言っただろ? 嫌いにならないよ」

唯「無理だよ……気持ち悪いもん」

私が泣いてる場合じゃないだろ。
こんな悲しそうな唯見ていたくないよ。

澪「気持ち悪くない」

唯「嘘だよ……」

唯「もうやだよこんなの……もう、やだぁ」

再び唯が泣きじゃくる。
私の言葉なんて届いてない、信じてもらえてない。
ああ……何やってるんだよ私は。
私が唯を助けようとして招いた結果で唯を泣かせるなんて。
最低だ。駄目すぎる。
こんな……自分の好きな人を目の前にして何も出来ない……。
これで今までの関係が崩れたら……そんなのやだ!
これじゃあ駄目だ。
私が何とかするんだ。
唯に笑ってもらうんだ。
でもどうしたら……。
…………。
ああああーーーーもおーーーー!!

澪「ゆいっ!!」

唯「えっ……んむっ!?」

こちらを向いた唯の顔を引っ掴んで唇をぶつけた。
身体中がぶわーっと熱くなって、アドレナリンが出まくって、なんだかよくわからないけど今なら何でも出来そうだ。

澪「わ、わた私は唯のこと好きだからっ! 嫌いにならないから! これでわかったか!?」


あれっ? 好きって言っちゃったぞ!?
でも思ったより恥ずかしくない。
ていうか何故だか全然恥ずかしくないぞ。
もっと色々言えそうだ。
唯は呆けているだけだし言っておきたい事を吐き出そう。

澪「こんなことで仲悪くなるのはやだからな! 何度も言うけど気持ち悪くないし嫌いにならない、ていうか好きだから!」

澪「いつも唯といると楽しくて、お前だって部活楽しいだろ? 唯だって私と仲悪くなるのいやだろ? 私と一緒にいて楽しくなかった?」

思ったことを片っ端から言ってみた。
よくわからない。

唯「あ……私も楽しかった」

澪「だろ? だからもっと私のこと信じてよ! これからも楽しく過ごそうよ!」

唯「澪ちゃん……」

言い終わってみると私何言ってるのかわからないな。
唯の涙も止まらないしあーもー。
後は何が出来る?
今の私なら何でも出来るはず。

澪「さっきのはあれだ、唯が好きだからキスしたんだからな!? だから――」

唯「えっ……?」

私はしゃがみ込んだ。
そして目の前にあるもうひとつの唯に向かってキスをかました。

唯「っ!?」

やってやったぞ!

澪「こっちにもキスできるから! だから――」

だから……だからなんだっけ?
あたまがもうまわらない。

澪「だから……その、あー、とにかく好きだから! どんな唯でも私は好きだから! 唯のこれも好きだっ!!」

……やりきった。
思いの丈を未整理のままぶちまけたぞ。
これで駄目ならもっと……。

唯「……ありがとう澪ちゃん」

見上げると唯の涙が止まっていた。
やった……やったよ私!

唯「……ふふ、なんだか初めて見る澪ちゃんだ」

笑ってる。
やっぱり唯はこうでなくちゃな。

唯「顔真っ赤だし、何言ってるかわかんないし……くふ、ふふふ……」

澪「あはははっ」

何だかこっちまでおかしくなってきた。
何がそんなにおかしいんだろう。
そう考えていると段々頭が冷えて冷静になってきた。

澪「はは……は……」

私は……私は今何をしていたんだ?

考えたらやばい。けどもう遅い。
今までの痴態が脳内でリピートを始めてしまった。

澪「う……あ……」

唯「澪ちゃん?」

澪「あ……ああ……あーーーー! いやああああーー!」

唯「ふえっ!?」

ぎゃあああああやめてやめて何してるの何言ってるの私!?
死ぬぅぅぅううう恥ずか死ぬうううううう!

澪「あ゛ー! あ゛ー!」

唯「み、澪ちゃん落ち着いて!」

澪「だめだー! もうしぬー!」

唯「ええっ!? ちょっと澪ちゃん!」

うわぁあああああああぁあああああああぁあああああぁ……

あああああ……。
あああ……。
あ……。

澪「ぁぁぁ……」

唯「落ち着いた? あの、ゴメンね。私の為にそこまでしてくれて……」

澪「……ぁぁ……あ?」


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最終更新:2010年11月19日 02:09