憂「使用人なんて本当はやめてほしいんだけど・・・」

唯「仕事選べる立場じゃないもん」

憂「それはそうだけど・・・」

唯「お給金も工場よりいいし、家にも仕送りが今までよりできるよ!
  それにまかないもあるし、万々歳!」

憂「・・・」

唯「そんな心配しないで!私、頑張るよ!」

憂「お姉ちゃん・・・」


時代は大正。

貧しい家柄で育った唯は平沢家の長女。
進学するお金もなく、学校卒業後働くがあまり稼げない日々を送る。

そんな中、日本で有名な家柄の琴吹家の使用人募集がかかっていること知った。

唯「ふーん使用人か~」

友達「使用人なんてやめときなよ。金持ちにいい奴なんていないんだから、いじめられるよ」

唯「う、うん・・・あ、けどお給金が・・・」

友達「お給金がどれだけよかったって・・・」

唯「これだけもらえれば憂の進学はなんとかなるかも・・・」

友達「ちょっと話きいて・・」

唯「私、この家の使用人になる!!!!!」

使用人になる者にいい暮らしをしている者なんていない。

唯「合格ですか!?」

使用人頭「はい。1週間後、琴吹家に来なさい」

唯「は、はい!!!」

募集申し込みをしてから数日のことであった。

唯「(自分で思うのもあれだけど、私なんかでよかったのかな?・・・って何考えてるんだ!
   私なら大丈夫!絶対大丈夫!ぜ、絶対大丈夫・・・だと思うけど)」

そして1週間後、唯は故郷から東京へと向かった。


唯「えっと、使用人の偉い人から渡された地図を見るとここが琴吹家のはずなんだけど・・・」

梓「・・・あの」

唯「う、うわ!!!」

梓「琴吹家に何か御用ですか?」

唯「え?あ、あの私今日から琴吹家の使用人に・・・」

梓「あ、そういえばそんなこと使用人頭が言ってたような・・・」

唯「・・・」

梓「分かりました。車に乗ってください」

唯「え?」

梓「ここから琴吹家の玄関まで歩くと日が暮れてしまいますよ」

唯「え!?」

梓「まぁそれは言いすぎですが・・・」


車内)

梓「私は中野 梓。琴吹家の使用人をしています」

唯「え?!あなたも?」

梓「名前は?」

唯「え、あ!平沢唯です!よ、よろしくお願いします」

梓「こちらこそよろしくです。歳はいくつですか?」

唯「18歳です」

梓「私は16歳です。あ、敬語はよしてください。堅苦しいの嫌いなんです」

唯「え、でも・・・」

梓「私がいいって言ってるんです!先輩命令ですよ」

唯「じゃあ中野さんも・・・」

梓「梓でいいです!私はこの喋り方がしっくりくるからいいです」

唯「ほ、ほんとにいいの?」

梓「はい!これからは同じ使用人同士です!一緒に頑張りましょうね!」

唯「う、うん!!」



琴吹家)

使用人頭(以下、婆)「唯、よく来ましたね」

唯「は、はい!」

婆「今日からあなたは琴吹家につかえる使用人です。しっかり働くように」

唯「はい!」

婆「梓」

梓「はい」

婆「唯の世話はあなたに任せます。明日までに使えるようにしておきなさい」

梓「はい」

唯「あ、明日まで!?」

婆「そうです。使用人に失敗など許されませんよ」

唯「・・・」

梓「大丈夫ですよ、唯さん。私がきちんと教えてあげますから」

婆「そうですよ。梓はここの使用人をやって10年です。何でも知ってます」

唯「じゅ、10年!?」

梓「私の家系は琴吹家を支えるために産まれてきたみたいなものです。もちろんその支えというのは雑用的な意味ですけども」

婆「さあ時間はありませんよ。明日は月曜日。みなさまお出かけになられます」

梓「わかりました。それまでに教え込みます」

婆「頼みましたよ」



使用人宿舎)

唯「ここが私の部屋!?それも一人部屋!?」

梓「そうですよ。好きに使ってください」

唯「さ、さすが琴吹家・・・」

梓「感心してるヒマはないですよ。荷物を片づけて、使用人の心得ってやつを教えてやるです」

唯「はい!!」

梓「(この元気、長く続けばいいんだけど・・・)」


唯「旦那さまが屋敷から出たら『いってらっしゃいませ旦那さま』って言えばいいんだね」

梓「そうです。言うまでは顔をあげちゃダメですよ。言うときに顔をあげるです」

唯「ほうほう。・・・いってらっしゃいませ、旦那さま。こんな感じ?」

梓「姿勢がだめですね。手はこう。足はとじて・・・」

唯「こ、こう?」

梓「そうです。そしてその後、琴吹家の娘様達が出てこられます」

唯「うん」

梓「琴吹家の長女が紬様といいます。そして次女が澪様。三女が律様」

唯「紬様に澪さまにえっと・・・」

梓「律様です!!」

唯「そうそう律様」

梓「名前なんか間違えたら即効解雇ですよ?」

唯「うっ・・・」

梓「あと・・・」

梓「次女の澪様には気をつけてください」

唯「澪様に?」

梓「澪様は使用人を人間だと思っておりません」

唯「え?」

梓「会えば分かります」

唯「・・・」

梓「あと紬様にも注意ですね。あの方は何を考えてるのか分かりません」

唯「う、うん。あ、じゃあ律様にも気をつけた方が・・・」

梓「あの方は大丈夫です」

唯「そうなの?」

梓「はい。あの方はとてもお優しい方です」

唯「そ、そうなんだ!」ほっ

梓「バカなのが欠点なんだけど・・・」

唯「なんか言った?」

梓「い、いえ!」

梓「あと私達は使用人です」

唯「う、うん」

梓「琴吹家の方々には質問は禁止です」

唯「え?!そうなの!?」

梓「当たり前です。使用人ですもん」

唯「わ、わかんないことあったら・・・」

梓「わかんないこととは?」

唯「え・・・へ、部屋がどこにあるかとか」

梓「バカですか!!!そんなこと琴吹家の方々に質問してみてください!即解雇ですよ!」

唯「うっ・・・」

梓「わからないことは私やほかの使用人に聞いてください。わかりましたね?」

唯「はい・・・」


梓「これだけ教え込めば完璧・・・ではないですが、まあまあなところでしょう」

唯「つ、疲れた・・・」

梓「この程度で疲れてどうするですか!」

唯「うっ・・・」

梓「あ、ちなみに起床は朝5時ですよ」

唯「ご、5時!?」

梓「はい。寝坊なんて許されませんよ?」

唯「やっていけるかな・・・」

梓「お給金貰うんだからちゃんとしてください」

唯「うっ・・・。16歳なのにしっかりしてる」

梓「16歳でも18歳でも使用人は使用人です。お仕事です」

唯「う、うん」

梓「頑張りましょうね」


そして朝5時

唯「う~むにゃむにゃ・・・」

バンッ!!!

梓「唯さん!!!いつまで寝てるですか!?」

唯「ん~・・・もうちょっと~」

梓「起きてください!!!起床の時間ですよ!!!」

唯「んー・・・?」

梓「さっそく寝坊とはいい度胸ですね!?」

唯「え?・・・はっ!!や、やば!!!」

梓「やばいどころじゃないです!婆さんがカンカンですよ?!」

唯「えええええ!?ど、どうしよう、怒られる!!!」

梓「唯さんが悪いんです!怒られることです!」

唯「そ、そんなあああ」

梓「とにかく今は早く支度してください!みんな待ってます!!」

唯「はあああい!!!」


使用人宿舎廊下

婆「唯、初日にさっそくやってくれましたね」

唯「すみません・・・」

婆「気が弛んでる証拠です。いいですか、使用人とは(ガミガミ」

梓「(あーあ、これは長いお説教になるな~)」


婆「今日から琴吹家の使用人として働くことになった平沢唯です。
  みなさんも使用人初日を思い返してみてください。分からないことだらけでしたね?
  この子も同じです。分からないことはしっかり教えてあげてください」

皆「はい!」

唯「平沢唯です!よ、よろしくお願いします!!」

婆「ではさっそく手分けして掃除してもらいます。解散!」

唯「わ、私はどこに・・・」

婆「梓!」

梓「はい!」

婆「慣れるまで唯と一緒に行動して色々教えてあげてください。頼みましたよ」

梓「わかりました」

唯「よろしくね」

梓「任せてください!」


琴吹家屋敷内

唯「ひ、広い・・・」ごくり

梓「感動してるヒマありませんよ?」

唯「そうでした!」

梓「はぁ・・・、じゃあ唯さん。ここの手すりを掃除してください」

唯「わかった!」

梓「・・・」

数分後・・・

唯「終わったよ!」

梓「もうですか!?」

唯「え?う、うん」

梓「・・・ダメです」

唯「え!?」

梓「ここ、ホコリがあります。あと手垢も残ってます」

唯「え・・・気付かなかった・・・」

梓「こんなんじゃダメダメです。御実家でされてた掃除とはまったく意味が違うですよ」

唯「そ、そうなの?」

梓「毎日が大掃除だと思った方がいいです。はい、やり直し」

唯「はい!」

梓「大丈夫かな・・・」

婆「梓!」

梓「はい!!・・・じゃあ唯さん、ここの掃除頼んだですよ」

唯「どこ行くの?」

梓「朝食の時間です」

唯「え、梓ちゃんだけ!?」

梓「・・・何を言ってるですか」

唯「え、朝食って・・」

梓「琴吹家の方々の朝食です!!!」

唯「はっ・・・!!!」

梓「琴吹家の方々より使用人が先に食べれるわけないでしょう・・・」

唯「そう言われれば・・・」

梓「しっかりしてください」

唯「はい・・・」

梓「では行ってきますね」

唯「はい!」

唯「いっぱい動いたからお腹減っちゃったなー。けど今日から私は使用人!
  腹の虫になんか負けてられるか!」

律「んー・・・」

唯「!?」

律「トイレ、トイレ・・・」

唯「・・・」

律「・・・ん?」

唯「ひっ!!!」

律「なんだぁ?見ない顔だな・・・」

唯「あ、あの・・・」

律「ん~?」

梓「あ、いた!!!律さま!!」

律「お、梓。おは・・・」

梓「もう!!!!また寝ぼけてどこ行くですか!」

律「え、ト、トイレに・・・」

梓「トイレはそっちにないです!!!」

律「はっ!!!!」

梓「もう!!律様は毎朝毎朝・・・」

律「す、すまん・・・」

梓「って!!唯さん!律様にご挨拶しましたか!?」

唯「え!?」

梓「その様子だとしてないようですね」

律「新入りか?」

梓「はい。今日からです」

律「だったら仕方ねーよ。そんな怒るなって」

梓「で、でも・・・」

律「私はここ家の三女、律だ。よろしくな」

唯「わ、私は平沢唯です!!さ、先程は御挨拶できなくても、申し訳・・」

律「いーって!そんな固くなるなって。私はそういうの嫌いなんだ。もっと気軽に・・・」

梓「ダメです!!!律様はもっと琴吹家の三女としての自覚をもってください!」

律「うっ・・・」

唯「・・・ふふ」

律「ん?」

唯「・・・はっ!!す、すみません!!つ、つい・・・!!」

梓「な、・・・わ、笑ったですか?」

唯「い、いえ!けしてそんな!!!」

梓「私はきっちりこの耳で聞きました!唯さん何を笑ってるですか!?使用人として・・・」

律「ぷっ・・・あははは!」

梓・唯「!?」

律「ひー、おもしれー!お前らいいコンビになるぜ」

梓「コ、コンビって・・・!」

律「朝からいいもん見せてもらったわ。んじゃ飯でも食ってくるかな」

梓「飯じゃなくて、朝食です!!!」

律「そうそ、朝食!・・・じゃーな、唯!」

唯「は、はい!!」

唯「(あれが律様か・・・。いい人そうだなー)」


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最終更新:2010年11月19日 05:11