病院

医者「注射を打っておきました。寝ておけば熱はすぐさがりますよ」

和「そうですか、良かった・・・。お世話になりました」

医者「では・・・」

澪「・・・」

和「・・・よく寝てるわね」

梓「すーすー」

澪「・・・」

和「澪、これは貴方の責任でもあるわよ」

澪「な、なんで!?」

和「あんたが屋敷飛び出してこなければ梓だってこんなことにならなかったはず」

澪「違う!こいつが風邪なんかひいて、違うゴミを私の部屋によこすから・・・ってコイツも言ってたじゃないか!」

和「ほんとにどうしようもないわね・・・。あ、ちょっと席を外すわ」

澪「どこに?」

和「電話よ。すぐ戻るわ」

バタン

澪「ど、どうして私が・・・」

梓「ん・・・」

澪「!!」

梓「・・・み、お、さ、ま・・・?」

澪「あ・・」

梓「・・・澪様・・」

澪「あ、あんたのせいで私は・・・!!」

梓「よか、った・・・澪さ、まが無事・・・で・・・」

澪「・・・・」

梓「・・・」すーすー

澪「・・・なんだよ・・・ほんとに私が悪者みたいじゃないか・・・」

婆『澪様と梓が!?』

和「ええ。梓は数時間たったら注射のおかげで熱は下がるそうよ。そうね、夕方あたりに迎えをよこしてもらえるかしら?」

婆『それは構いませんが、澪様は・・・』

和「澪は梓の付き添いとしていてもらうわ。あ、旦那様の方は大丈夫?」

婆『ええ、そちらは問題ありません。澪は風邪で部屋にいると言っておきました』

和「そう。まぁ、旦那様に澪なんて・・・ね」

婆『・・・・。律様と紬様が心配しておりました。そう、お伝えください』

和「わかったわ」

婆『それと唯も』

和「唯?ああ、使用人の。・・・そう、わかったわ、言っておく。それじゃ」

和「困ったものね・・・澪にも」

バタン

澪「和・・・」

和「琴吹家にも連絡入れといたわ。心配しないで」

澪「・・・」

和「あなたは幸せ者よ?」

澪「え?」

和「こんな体で、あんたを追いかけて来てくれたのよ?」

澪「・・・」

和「なかなかこんな使用人いないわよ。普通だったら婆に任せてしまうところね」

澪「・・・」

和「あんなにこの子に冷たく当っておきながら、梓はこんなにあんたにつくしてるじゃない」

澪「それは・・・」

和「使用人だから?」

澪「・・・」

和「もう少し人の気持ちってものを考えてみなさい。梓も人間なのよ」

澪「・・・」

和「いいわね?・・・それじゃあ私は帰るから」

澪「え!?か、帰るのか!?」

和「学校があるもの。あ、澪は梓の付き添いよ」

澪「そ、そんな・・・!」

和「当たり前じゃない。婆にも伝えておいたから、夕方には迎えが来るわ」

澪「・・・」

和「頼んだわよ」

澪「・・・」

和「それじゃあね」

バタン

澪「・・・」

梓「んー・・・」

澪「!!」

梓「・・・あれ、ここは・・・って澪様!?」

澪「うるさい、病院だぞ」

梓「びょ、病院・・・?あ・・・そっか、私倒れて・・・」

澪「私の為なんかに・・・」

梓「え?」

澪「私の為なんかにそこまでするか?」

梓「み、澪様?」

澪「倒れてまで私を迎えに来なくてもよかったのに。それにそんな体なら、婆にでも頼んで・・・」

梓「私は澪様の専属使用人ですから」

澪「・・・」

梓「すみません、生意気なこと言ってしまって・・・」

澪「・・・。帰るぞ。下に迎えが来てる」

梓「え?あ、はい!(・・・怒られなかった)」


車内

澪「・・・」

梓「・・・」

澪「体は平気か?」

梓「え?」

澪「何でもない・・・」

梓「(あ、あの澪様が・・・私の体を心配して・・・)」

運転手「着きましたよ」

梓「あ、ありがとうございます!」

ガチャ

唯「あ、梓ちゃん!!!!っと、澪様!!」

梓「ただいま」

唯「おかえりなさいませ!」

梓「私がいない間、ちゃんと掃除・・あ」ふらっ

澪「おっと・・・」

梓「・・・・あ!す、すみません!!」

澪「・・・構わん」

梓「え!?あ、あ、ありがとうございます・・・!」

唯「(・・・・あの澪様が梓ちゃんを支えた・・・。な、何が起きてるというの・・)」

澪「梓、このカバンを私の部屋に・・・。いや、そこの使用人。このカバンを私の部屋に運んでおけ」

唯「え!?わ、私がですか!?」

澪「なんだ、嫌なのか?」

唯「い、いえ!!」

梓「け、けど・・・」

澪「梓は部屋に戻って寝てろ。・・・いくぞ」

唯「は、はい!!」

梓「(・・・どうしちゃったの、澪さま・・・)」


数日後

純「よかった、すっかり元気になったみたいね」

梓「うん。心配してくれてありがとう」

純「だ、誰が心配なんて・・・!」

梓「ふふ。さ・・澪様を起してこなくちゃ!」

純「え?あ、うん、いってらっしゃい」

純「・・・」

純「ねえ」

唯「ん?」

純「最近、梓の機嫌が良すぎて気持ち悪いんだけど」


梓「澪様、おはようございます」

澪「・・・」

梓「支度のお手伝いさせて頂きますね」

澪「・・・」

梓「あ、制服にシミが!大変!いつの間についたのですかね・・・。代わりのもの用意しますね」

澪「・・・」

梓「ではこちらを」

澪「?」

澪「(機嫌がいいのか?)」



律「むにゃむにゃ・・・」

梓「あ、律様!!」

律「・・・はっ!!ち、違うぞ、これは寝ぼけてトイレの方向を間違ってなど・・・!」

梓「ふふ、・・・さ、行きますよ」

律「・・・え?(怒られないだと・・・?)」

律「(んにしても最近、梓の機嫌がいいよなー・・・。何かあったのか?)」



梓「ふふ~ん♪」

唯「なんだか最近機嫌がいいでござるね」

梓「わ!!きゅ、急に話しかけないでくださいよ!」

唯「へへーん、いままでのおかえしだよー」

梓「もう・・・」

唯「最近機嫌いいね。どうしたの?」

梓「そ、そうですか?別にそんなこと」

唯「澪様?」

梓「・・・」

唯「そっかー」

梓「そ、それもありますけど・・・」

唯「うん?」

梓「今はこの仕事が楽しくて仕方ないんです。10年間やってきましたけど、もしかしたら一番楽しい・・・いや、遣り甲斐があるというか

唯「やりがいかー」

梓「はい。唯さんは?」

唯「私も!仕事後の食事はおいしいし!」

梓「そっちですか・・・はぁ」

唯「へへ」

婆「梓」

梓「は、はい!」

婆「ちょっと来なさい」

梓「は、はい!」

梓「え、縁談ですか!?」

婆「はい」

梓「そ、そんな急に・・・!!!」

婆「あなたは琴吹家で10年も頑張ってきました。そこで旦那様が貴方の努力を認め、縁談の話を持ってこられました」

梓「わ、私は・・・」

婆「女の幸せは結婚ですよ。あなたはよく頑張りました」

梓「私はまだこの仕事を続けたいです・・・!」

婆「いいですか、この縁談を逃せばいつ話がくるかわかりませんよ。それにあなたの家系は琴吹家のお世話係のために産まれてきたみたいなものです。
  ・・・それに旦那様が言うには、縁談相手は有名な資産家の息子様らしいです」

梓「でも・・・」

婆「貴方がその息子様と結婚したらいい暮らしはもちろん、貴方の家系も琴吹家と離れます。
  そう、貴方の子孫はもちろん、これからも琴吹家につかえなくていいのですよ」

梓「・・・」

婆「貴方のためにももちろん、これからの家柄としてもいいことだと思います」

婆「・・・まだ気持ちの整理はつかないと思いますが、よく考えておきなさい」

梓「・・・」

婆「もちろん断ることはできませんよ。もし断ったら旦那様にも相手の方にも泥を塗ることになります。
  使用人に断られたなんて恥ですからね」

梓「・・・」

婆「ごめんなさいね・・・、何もできなくて」

梓「いえ、婆さんが謝ることはないですよ」

婆「・・・」

梓「失礼します」


梓「・・・はぁ」

純「・・・」

唯「・・・」

純「どうしたのよ梓、最近まで機嫌がいいと思ったら・・・」

唯「う、うん・・・何かあったのかなぁ・・・」



梓「澪様、お出かけの時間です・・・」

澪「ああ・・・」

梓「・・・」

澪「・・・」

澪「・・・なあ」

梓「はい」

澪「最近元気ないな」

梓「え!?あ、す、すみません!!」

澪「・・・」

梓「・・・」

澪「聞いたぞ、縁談だってな」

梓「え、知って・・・」

澪「お父様が嬉しそうに話してた。・・・まぁいいんじゃないのか。お前の身分じゃ充分すぎる相手だろ」

梓「・・・」

澪「嬉しくないのか?」

梓「私はまだこの仕事を続けたいと思ってます」

澪「・・・変わったやつだな」

梓「そ、そうでしょうか?」

澪「女の幸せは結婚だぞ。女が一生仕事続けて生きていけるわけないだろ」

梓「そ、それはそうですが・・・」

澪「有り難く受けることだな」

梓「・・・」



律「ええええ!?梓が結婚だってえええ!?」

紬「そうなのよ。さっきお父様が話してたわ」

律「そ、そんな・・・わ、私は嫌だぞ!!」

紬「けど縁談の相手は有名な資産家の息子さんよ。それなら梓ちゃんは苦労せず一生幸せに暮らせるわ」

律「け、けど・・・。あいつは小さい頃から一緒にいて、使用人だけど、けど妹みたいな存在で・・・」

紬「りっちゃん・・・」



使用人宿舎

唯「ええええ!?!?あ、梓ちゃんが結婚!?」

梓「こ、声が大きいです」

唯「ご、ごめん・・・」

梓「・・・」

唯「わ、私は嫌だよ・・・。結婚したら使用人やめちゃうんでしょ?」

梓「そうですね・・・けど、断れないです」

唯「なんで!?」

梓「だって私は使用人。相手は有名な資産家の息子さんですよ。身分が違いすぎます。
  そんな方が使用人相手に縁談を断られたなんて世間に知れたら・・・」

唯「・・・」

梓「本当はこの仕事を続けたいのですが、そうもいかないみたいです」

唯「・・・。え、縁談の日取りはいつなの?」

梓「今月30日です」

唯「え!?こ、今月!?」

梓「ほんと急ですよね・・・」

唯「急すぎて・・・!だってもう10日もないじゃん!!」

梓「旦那様がやることはよくわかりません、そしていつも急なんですよ」

唯「そ、そんなの酷いよ・・・」

梓「・・・」

唯「うっ・・・やだ、うう・・・」

梓「な、泣かないで下さいよ!!そ、そんな泣かれたら私だって・・・うっううう」

唯「うわああああん、やだあああ、梓ちゃんがいなくなっちゃうなんてやだよおおお!!」

梓「我儘言わないでくださいよ、ううっ」


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最終更新:2010年11月19日 05:15