ゴン

私はここで目を覚ました
ベッドから転落したらしい

諸君勘違いしてもらっては困る
私の部屋のベッドである
決して唯先輩の部屋のベッドではない

それにしてもなんと言う夢であろうか
500円玉を賽銭に投じてしまった事がトラウマになっているのだろうか
私はこの夢を記憶の底に封印することにした

女子大生が神社で50くらいのふんどし一丁のおっさんと会合する夢など
欲求不満の親父趣味とのレッテルが貼られるのが関の山である
私はそれに耐えうる頑丈な心を持ち備えてはいないし

何より若者の夢は壮大である必要がある

うん、あれは夢だな

私はまたこの夢を心の押入れの一番奥にしまった

特に防虫剤は入れなかった
むしろ戸棚を開放いていた分、すぐに出てきてしまったのであろう


さてさて話を戻す

ではこの二人目の『中野梓』はなんであろうか スタスタ

梓「ひ」

触って確かめてみることとしよう ぺたぺた

梓「むぐ」

うむ、ほっぺたを触ってみると実にぷにぷにしている///
では他の処はどうだろう ぺたぺた

梓「きゃ」

私「(そうだ!)」

ここで私は閃いた
こんな場面前にもあったではないか
あの時はそう高校1年生学園祭の日
憂が唯先輩に変装していた日のことである

私「(あのときのさわこ先生は、確か…)」

そう、バストサイズまでは誤魔化せまい
ってことでちょっと調べさせていただきますね ジュル

やってやるです!


紬「あらあらあらあらあら」

梓「って、何するんですか!」パシーン

私「ぐは、」


ベッドから落ちるわ
げんこつ食らうわ
はたかれるわ

本日は厄日である

澪「ドッペルゲンガー…」


律「な、なあ、唯そういえば今日の3限だけど」

唯「あ、ああ、ごめーん、りっちゃん」
 「今日私寝坊して3限出てないんだよ」
 「代わりに、時間が空いてたムギちゃんが出てくれたんだよ」

紬「そうそう、楽しかったわ『社会学』の講義」

律「っておい」ツッコミ

唯「あははー」


澪「…」

澪「こ、これって、ドッペルゲンガーってやつじゃないかな!」


シーン


唯律紬憂梓私(…)

澪「あ、あれ、何だよ、この空気」

それはそうであろう
今はみんなしてこのいかにもオカルティックな状況に
どうにかこうにか理論をこねくり回し
どうにかこうにか思考という武器で妥協点を強引になすりつけようとしている所である

それを『ドッペルゲンガー』なんていう
いかにもオカルト的な結論なんて安直すぎるではないか

その上ドッペルゲンガーに遭遇したものの末路は基本あれだし

それにしてもこの人のこの鈍感力
この人は将来この国を背負うべき大物になる資質を備えているのであろうか
いや、そんなはずはない

唯「うんうん、そうだよね」

律「そ、そうだよな、ドッペルゲンガーだよな」

あ、さっそく諦めたな

憂「…そ、そうだね、まさにドッペルゲンガーだね、おねえちゃん」

ちょっと待て

私「ちょ、ちょっと待ってください!」

梓「そ、そうですよ!」

お、乗ってきた、流石、私

私「そもそもドッペルゲンガーって言うのはおかしいです、なぜなら…」

ここまで言って話が途切れた
そう、言い出したはいいものの、そもそも私自身ドッペルゲンガーについての知識があまりないのだ

というより、詳しい人のほうが稀である

私梓「とりあえず、パソコン室で調べましょう!」

お、ハモった、流石、私

唯「そうだねー、じゃあさっそくパソコン教室に行こうよ」

さっそくって…
この一声をきっかけに、みんな教室を移動する準備を始めた
とりあえず、この教室からの戦略的撤退である、後ろへ向かっての突撃である

そのとき

律「ちょーーーーーーーーと待ったーーーーーーーー!」

律「おい、梓B!」ビシッ

私はもう一人の私を見た
なぜなら、私は見紛う事なき本物だからである

律「いや、お前だよお前」

律「梓B、髪の毛ほどいてくれ」

私「へ?」

律「おまえら瓜二つだろ」
 「区別するために後から来たほうが梓Bってことで」
 「とりあえず、髪ほどいてくれ」

 「それに、同じ顔の同じ髪型の同じ格好のやつが二人一緒にいると違和感が強いだろ」

一理、ある
同じ顔で同じ格好は、芸能人の一部の方々で世間の皆さんはおなかいっぱいである
それにここで下手に反論するのは良くない
下手に動けば『偽者』のレッテルを貼られかねない

うむ

私「しょうがないですね」パサ

唯「うん、あずにゃん髪をおろすとやっぱり澪ちゃんにそっくりだね」

憂「そうだね」

澪「そ、そうかな」

律「これじゃ、澪Bだな」

私「(おいおい)」

紬「澪×澪はなしね…」ブツブツ

私「おい」

紬「じゃあこうしましょう」シュルシュル
 「はい、完成」

ムギ先輩が私の髪を結った
うむ、ポニーテールである

律「うん、これで行こう」

澪「そうだな」

憂「あずさちゃん、ポニーテールも似合うよね」

唯「かわいいって言うか、格好良いよ!」

私「そ、そうですか」///

これ梓Aよ、髪を解こうとするでない



一同、パソコン室にて

律「さて、じゃあ」カタカタ

律「えーと」
 「『澪「律は私のことが好きだよな?」律「え、私は別に」と』」カタカタ!
 「ふう」

紬「あらあらあらあら」

澪「おい」


TAKE2
律「えーと」頭ナデナデ

 「『ドッペルゲンガー』っと」カタカタ

澪「ったく」

律「……ん、これだけ読んでもよくわからないな」
 「ちょっと、何枚かコピーするから、澪取ってきてくれないか?」カタカタ

澪「わかった」タッタッタ

ウィィィーン
澪「お、来た来た」
 「えっと、これでいいのかな?」

『幽霊図』 画:円山応挙

澪「」


TAKE3
ウィィィーン

紬「あ、きたきた」

紬「(それにしても、澪ちゃんとりっちゃんは仲がいいわね)」
 「(律×澪はまさに不動ね!)」キュピーン!

律「なあ澪、この教室空調効きすぎてないか?」頭ナデナデ

澪「そうだな」ブルブル

唯「そうかなぁ?」



再び教室206にて

律「うん、何個かそれらしいものは読んでは見たものの」

澪「結局、あいまいでわからないな」

何個か読んでみてわかった気になったことは
①ドッペルゲンガー(自己像幻視)とは和訳では「二重の歩く者」
「生きている人間の霊的な生き写し」を意味すること
②自分だけ見る場合もあるが、第三者が見る場合もあること
③脳や精神等の異常である可能性があること
④著名人が遭遇することが多いということ
⑤最終的に死ぬ場合もあるが、死なない場合もあること
等くらいである

ただし、この情報が正しいかもわからないのである

ふむ、まずここにいる全員が見ていると言うことで③は省ける
さすがにここにいるみんな精神がおかしくはないよね?

④も省ける
私は有名人ではない

って言うか、流石は『オカルト』
定義があいまいすぎて
全部当てはまらなそうで当てはまるじゃないか、ちくしょー

紬「うん、これじゃちょっとわからないわね」

唯「そうだねえ」

澪「そうだな……」

結局、ドッペルゲンガーかどうかは分からずじまいである

シーン

く、空気が重い
ここはまた猫耳つけて「にゃん」とでも言って場を和ませようか、しかしそれでは

憂「そ、そうだ、ギターを弾いてみたらどうでしょう」

一同「え?」

憂「ま、前に、学園祭の前におねえちゃんが風邪引いて」
 「私がおねえちゃんの振りをしたとき」
 「そのときにギターを弾いて、結局皆さんにばれちゃったじゃないですか」


律澪紬「そ、それだ!」

唯「さすがわたしの妹だねー」ナデナデ

憂「えへへ」

ごめんなさい、私には胸の大きさのことしか記憶にございませんでした

紬「それじゃ、さっそく」

ぷるるるる

紬「あの、琴吹紬です、スタジオって今日空いてますか?」
 「そうですか」

紬「スタジオは大丈夫らしいわ」
 「でも一番大きいところしか空いてないみたい」

いつもこんな調子だが
いつも思う
本当に空いていたのか?



駅前のスタジオ内にて

えっと、チューニングして

シールドをアンプにつないでっと
む、もうつないである

律「お、梓Aもう準備できたのか」
 「じゃあ何か弾いてみてくれよ」

梓「え、何かですか?」

律「(これで弾けなかったら決定的なんだけどな…)」
 「(まあ弾けるんだろうけど、念のために、ね)」

梓「じゃ、じゃあ、適当に」


♪♪~♪
律「(やっぱり弾けるな、それにうまい)」

澪「うん、やっぱりうまいな」

紬「そうね」

唯「やっぱりあずにゃんは上手だね」

憂「流れるような演奏だね」

それにしても、うまいへたは別として私の演奏そっくりである


♪~♪♪
梓「あ」
♪  ♪♪
私「!」

私「………ぷ」
 「……ぷぶっ」
 「…ぶぶぶ!」

 「ぶ、あーはっはっは!」

逃さなかった
私は逃さなかった

この梓Aとやらはミスったのである
私『中野梓』であれば絶対にミスらないフレーズを

律「お、おい梓B、どうした」

私「くくく、ミスったんですよ」
 「この人ミスったんですよ、ぶふっ!」
 「っていうか、こんな初歩的なミスするなんて」

 「考えなくてもこっちが偽者確定じゃないですか」

 「ぶ、ぶふ、ぶ、あーはっは、ひ、ひぃひぃ…」


唯律澪紬憂「……」


あ、あれ?
何だこの空気

律「あ、あのさ、梓、こんな状況で気が動転してるのも分かるけど」
 「人の失敗をそんな風に笑うのは良くないと思うぞ」

私「へ?」

律「それにな、人に絶対なんてことはないし」
 「そもそもさ……」クドクド

ぐ、得々と説得されてしまった


唯「こんなのあずにゃんじゃない…」

ガーン

律「それだけじゃなくてな……」クドクド

私「(唯先輩……)」ガーン


紬「ねえ、こっちの梓ちゃんも反省してるみたいだし」ヒソヒソ

憂「そうですね」ヒソヒソ

澪「うん」ヒソヒソ


澪「よし、みんな、そろそろ合わせるぞ!」

憂「そ、そうですね」

紬「じゃあ合わせましょうか!」

唯「あれ、今日は何の練習するんだっけ?」

澪「おいおい、何しにここにきたんだよ」
 「みんなで合わせてみて、どっちが本物か確かめるんだろ」

唯「そうだった!」

律「うん、じゃあやるか」

普段から普通に練習にも来ましょうね

澪「じゃあ、準備が出来てる、えーと梓Aからでいっか」
 「で、えーと」

紬「3曲くらい合わせてみればいいんじゃないかしら」

澪「うん、そうだな。とりあえず、梓Bと憂ちゃんは聴いててくれ」

唯「憂ー、がんばるよ」フンス!

憂「うん、がんばってね、おねえちゃん!」

そういえば、梓Bに違和感がなくなってきている自分が怖いな

律「じゃあいくぞ、ワン、ツー」


♪~♪
それにしても、私そっくりに弾く

ああ、でもここはもっとこう弾いて
あそこはもっとああした方が良いかな?

自分と言っても
やっぱり他人が弾く曲を客観的に聴くのは勉強になる

でも、やっぱり

やっぱりあそこは私の席なんだよな

憂「ん?梓ちゃん、何か言った?」

私「うん、別に…」

澪「よし、3曲一通り終わったな」
 「じゃあ、次梓Bな」

私「あ、はい、よろしくお願いします」ペコリ

律「おいおい、なんだよ改まって」

唯「がんばろーね、あずにゃん」

律「じゃあ行くか、ワン、ツー!」

久しぶりに、私も頑張っちゃおうかな


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最終更新:2010年11月22日 22:58