そのまま、夕飯後は飲み会へ直行した
ほかにやることはないのかと言う声はもっともであるが
大学生が3人集まってやることといったらこんなものである
家主の律先輩はというと
律「……zzz」
澪「いるよな、酒弱いのに飲みたがりな人」
私「ええ」
律「ううーん、私の澪に手をだすなぁ」
澪「ったく、寝ながら何を言ってるんだか」パサッ
そういいつつ、毛布をかけてやって澪先輩はやっぱり大人である
澪「それにしても梓は自分の大学の軽音部は見なかったのか?」
私「へ、私の大学のですか?」
澪「他の大学に行っても私達とバンドを組んでくれているしさ」
「KO大学にだって軽音サークルはあるんだろ」
私「ええ、何個か見ましたけど…」
澪「そのサークルはどうだったんだ?」
私「すごい上手なところから、遊びがメインみたいな所までありましたよ」
澪「すごい上手って」
私「私達と比べてですけど」
澪「」ガーン
私「でも、何か違ったんですよね」
澪「何かが?」
私「実力が違ったことは確かですが」
澪「う」
私「なんと言うか、フィーリングというか」
澪「フィーリングか」
澪「そういえば、梓は去年、受験勉強の合間に私達の文化祭に来てくれたんだよね」
私「ええ、まあ、先輩方も私達の学園祭に来てくれましたし」
澪「そのときに私達がやった曲を覚えてる?」
私「私が知ってる曲ばかりでしたね」
澪「うん」
澪「ふふ、学園祭が終わった後にもそんな感想聞いたんだっけ?」
私「同じことを言ったと思います」
澪「あのさ、最近渡した新曲があっただろ」
私「はい」
澪「実は、最初はあの曲を学園祭でやる予定だったんだよ」
私「へ」
澪「実はあの曲は去年の秋にほぼ出来てたんだ」
私「はあ」
「(どおりで新曲と言って渡された割にはみんな弾きなれていたはずだ)」
澪「その曲をやる予定だったんだけど」
私「はい」
澪「学園祭直前に律が」
「『やっぱり最初はやり慣れた曲の方がいい!』」
「なんて言い出して」
私「はい」
澪「で結局、曲を変更したんだけど」
「最初はみんな納得がいかなくてさ」
私「そうでしょうね、学園祭に向けて皆さん練習してきてるわけですし」
澪「でもそのあと律が選んだ曲見て、みんな納得しちゃったんだよな」
私「え」
「確かそのときやったのは」
澪「ふわふわ、カレー、ホッチキス、ふでぺん」
私「あ」
私「それって」
澪「そう、私達が高校2年のときにやった新歓ライブと同じ」
私「えと」
澪「まあ、そのときには梓は受ける大学は大体決まってたから」
「特に深い意味はなかったんだろうけどさ」
私「はい」
澪「最近さ、」
私「はい」
澪「私は、最初『律がドラムで私がベースでずっと一緒にバンドやろう』」
「何て話からバンド始めたんだけど」
私「はい」
澪「最近はさ、律と唯にムギ、それに梓」
「『この5人でずっと一緒にバンドしたい』って思ってるよ」
「それが高校のときにホワイトボード書いた『目指せ武道館』なんて大それたものじゃなくても」
「いつまで出来るかわからないけど」
「出来ればずっと一緒にさ」
私「はい」
澪「…」
私「…」
澪「…」
私「…」
澪「って何かまとまりのない話しちゃってごめん」
「飲みすぎかな?」
私「いえ」
澪「私達もそろそろ寝よっか」
私「そうですね」
パチン(消灯)
律(澪のやつ何の話をしてんだよ、途中で起きるに起きられない)
次の日
律「えと、今日は私達が大学に通えばいいのか」
澪「そうだな」
律「めんどくさいよお」
唯先輩とムギ先輩の連絡からすると
向こうの組に何ら変わりはないらしい
ギターのメンテナンスの件は
憂が楽器屋に確認したところ
ギターの修理を依頼し受け取っていた
全く、いつまで続くことやら
その日澪先輩は実に自分の空き時間まで紬先輩の講義を受け
律先輩は実に効率よく唯先輩と律先輩の分の出席カードを手に取り教室から出てくる
出てきては
ふむ、梓が心配だから早々に抜けてきたぞ
等とぬかす
全く
律「ううーん、今日も疲れたなあ、向こうも今の所異常ないってよ」
澪「お前ほとんど講義出てないだろ」
律「今日は一日かけて、梓に講義の受け方を教えていたのだ」
「参考になったよな、梓」
私「はい、実に有意義でした」
「現在何かと堕落した大学生の日常と現代日本における学力低下および社会不適用が話題となっていますが」
「その統計の資料をこの目で確認させていただきました」
律「おーい」
律「で、今日はまた梓の家に行くんだっけ」テクテク
澪「そうなるな」テクテク
律「いつまで続くのかな?」テクテク
私「そうですよね」
ドン
痛っ、急に足を止めた澪先輩にぶつかった
止まるなら止まるって言ってくださいよ
澪「お、おい、あれ…」
澪先輩の指差す先には私がいた
こちらを向いてはいるが
まだこちらに気づいていない
一体どうなっているのだろうか
あれは2人目の私であろうか
3人目4人目が登場したらもう手に負えない
唯先輩達は?
そうだ
まずは唯先輩達の身の安全を確認しないと
私「律先輩、澪先輩」
「唯先輩達は」
律「さっきから電話してるけど」
澪「電波が届かない…」
私「な」
まさか、何かあったんじゃ
その時
向こうがこちらに気付いた
私は私と目が合った
律先輩達と澪先輩が何か言ってる?
もうちょっと大きい声で言ってもらわないと分からないです
アレ
めがかすんでる?
あしにちからが……
はいら………
気づくと真新しそうな神社の境内にいた
そばにはもう一人の私が立っている
ここは?
私「古、河原神社…?」
?「そのとおり」
背後から声がした
?「自己紹介が遅れたかな、私は『古河原俊之助』。ここ古河原神社の神である」
これはあの夢と同じシチュエーションである
今ここにいるのは、平安貴族のような格好をした人物である
古河原「うむ、君であったか、また会ったと表現するのが正しいのかな?、」
私「(また会った?やっぱりこの人物はあの人、なのか?)」
古河原「で、どうだったかね、この二日間は?」
私「この二日間?」
古河原「そうこの二日間は私からのプレゼントだ」
この二日間
私が私と出会い
律先輩と澪先輩と一緒にすごした奇妙な二日間
これがプレゼントとこの人物は言ったであろうか
ではこの原因はこの人物にあるのだろうか?
梓「では、この奇妙な二日間はあなたの『仕業』ですか?」
私よりも早くもう一人の私が口を開いた
古河原「仕業?」
事態を考えれば、もう一人の私が『仕業』と表現するのもおかしくはない
古河原「仕業、であるか、くく」
梓「な、笑いごとじゃないです!」
古河原「いやいやすまない」
「うん、君は、いや、君達は何か勘違いをしているよ」
私達を交互に見ながら彼は言った
君達?勘違い?
彼は続けた
古河原「ドッペルゲンガーと言うものを知っているかね?」
私「ドッペルゲンガー…」
私達の顔をみて知っていると判断したのだろう
彼は続けた
古河原「うむ、知っているようだね」
「では、それに出会った者の末路は?」
「ふむ、それも知っているようだね」
「ではついて来たまえ」
そういうと彼は歩き出した
私達は無言でその後をついていく
彼は本殿の前で歩を止めた
古河原「では見てくれたまえ」
そういって本殿の扉をあける
本殿の中にあったものは
鏡だ
鏡と表現するのは正しくないかも知れない
もし、光を反射させ、目の前にある像を映し出すものが鏡であるというならば
これは鏡ではない
そこに映っていたのは
N女子大で真っ白な顔をして倒れている私と
それをゆすっている律先輩と澪先輩の姿である
古河原「ふむ」
ここで彼が口を開いた
古河原「これがいわゆるドッペルゲンガーに遭遇した者の末路であるか」
私「…」
古河原「私が二日間をプレゼントしたのは、この『中野梓』に対してだよ」
古河原「私は君達が存在するであろう二日間について」
「彼女に君達と会わないような場所を教えた」
「さすがに私もドッペルゲンガーを作ったり消したりまではできないからね」
え
君達?
ドッペルゲンガー?
古河原「まあ実際は、君達が意識的にしろ無意識的にしろ彼女を探し動き周るから」
「安全な場所をいくつか教えただけなんだがね」
梓「でも」
古河原「でも彼女はそこから出てきてしまったようだ」
「そして、君に出会ってしまった」
「あれだけ忠告したにもかかわらず、残念だ」
何を言ってるんだ、この人は
これではまるで、私がドッペルゲンガーで
私が私を……
鏡に映っている私は相変わらずピクリとも動かない
これは私?
違う?
古河原「さて、もういいか」
そういうと彼は本殿を閉じた
古河原「さて、君達もそろそろ時間であろう」
「本体が滅びて目的を果たした以上ね」
ドッペルゲンガー?
本体?
考えがまとまらない
視界が白い靄に包まれていく
君達?
一体何の話をしているの?
一体誰の話をしているの?
彼女?
私?
視界を白い靄がさえぎり始める
最終更新:2010年11月22日 23:01