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梓「律先輩は私のこと嫌いなんですか?」
律「……え?」
澪(あれからさらに二本空けて、いまは五本か。大丈夫か…?ひどい絡み酒だし、話題ももはや意味がわからなくなってる…)
梓「だ、か、ら、律先輩は私のこと嫌いなんですか!?」
律「いや…嫌いじゃないけど……」
梓「だったらもっと抱きつくなり頭撫でるなり何とかしたらどうですか!?」
律「なっ…!い、いきなり何を言ってんだお前は///」
梓「いいから聞けです!」
紬(これだ……こういうのが欲しかったのよ!)ツー
澪(なんかムギが泣いてる!?)
澪「大丈夫か、ムギ?どうして泣いてるんだ!?」
紬「へへ…旦那ぁ、あたしゃ嬉しいんだ…これは感涙ってやつでさぁ…」
澪「誰だ!?」ゴチン
澪「ハッ!反射的に殴ってしまった」
紬「アイタタタ…」(澪ちゃんに殴られた…ハァハァ。澪ちゃんに…ハァハァ)
澪「ごめんムギ!痛かっただろ?ここら辺か」ナデナデ
ムギ「大丈夫よ澪ちゃん、私も半ばトリップしたのがいけなかったわ…」(はああああああああああああん!なでなできたあああああああ!)
澪「そうか…でも本当に悪かったよ」(…トリップ?)
梓「大体律先輩は女たらし過ぎです!」
律「私女なのに女たらし!?」
梓「そうですよ!このじごろ!イケメン!」
律「女にじごろって…イケメンって…」
梓「いいから黙ってききやがれです!!!」
律「………はい」
梓「いいですか?そもそも先輩は自分がどれだけフラグ立ててるのか知ってます?」
律「フラグって…そんなもの私は…」
梓「澪先輩に、ムギ先輩に、唯先輩に、和先輩に、さわ子先生に、憂に、あげくは純にいたるまで、実に多くの…」
律「駄目だ、聞いちゃいねえ」
律「大体、幼なじみの澪や、軽音部メンバーの唯やムギは解るけど…いや解るのもおかしいか、やっぱ解んないや」
律「和や憂ちゃん、純ちゃんはそこまで根深い親交があるわけじゃないだろ、先生にしたって結局は教師と教え子って関係に過ぎないし…」
梓「まったく…これだからイケメンは…」
律「もうつっこまないからな」
梓「いいですか?憂とは先輩方が一年生の時、唯先輩の家で追試の勉強会開いた時に…」
律「まてまてまてまて」
梓「どうしました?」
律「じくうがこんらんしている」
梓「憂から聞いたんです」
律「あ、ならいいや。そうだよな…安心した」
梓「続けていいですか?」
律「いいよ……いややっぱり良くな──」
梓「唯先輩が勉強してるときに一階で二人でゲームしてましたよね?」
律「…ああ」(ちくしょう…)
梓「それです」
律「へ?」
梓「だからそれが憂とのフラグです」
律「……いや、おかしいだろ、たったそれだけ?」
梓「ええ、それだけです」
律「え~…」
梓「不満ですか?」
律「そりゃあそうだろう…私はただ憂ちゃんと遊んでただけだし」
梓「ほう…『憂とはただの遊び』、ついに本性を現しましたね、このイケメン!色情狂!」
律「おい待てや」
梓「やかましいです!実をいうとまだあります、律先輩は『憂ちゃんくれ』って言ったことありますよね?」
律「あ~あったな…あれ?でもそれって梓の入学前じゃあ?」
梓「『くれ』ですよ『くれ』!これはもう立派な告白です!!」
律「もういいや、どーでも」
梓「あいにーじゅーですよ?あいうぉんちゅーですよ?」
律「いや、その英訳はおかしい」
梓「そう解釈する人間もいるんですよ!」
律「お前か」
梓「違います!お母さんはそんな関係認めません!」
律「誰が母さんだ誰が」
梓「ほら、あそこですよ」クイッ
律「ん?」クルッ
澪「む、ムギ?まだ痛いのか?」ナデナデ
ムギ「えぇ、すっごく。あ、澪ちゃんが膝枕してくれたら治るかも…」ハァハァ
澪「え?し、仕方ないな。おいでムギ」ポンポン
ムギ「みーおちゅわーん」ルパンダーイブ
澪「えぇ?きゃあああ!」
律「………」
梓「わかりました?ああいう人です」
律「うん、ムギには悪いけど怖いくらい的確な例だな」
梓「さて、じゃあ次は和先輩ですが…」
律「ッチ、まだ忘れてなかったか…」
梓「何か?」
律「なんでもないです」
梓「これはいくら律先輩でも解るでしょう?」
律「あぁ…なんとなく、講堂使用届だな」
梓「ええ、ご名答です」
律「お、おう。よく解らないけど何か嬉しいな」テレテレ
梓「照れてる律先輩かわいい」
律「やめろぉ!」
梓「+二年生の学園祭前、律先輩は、澪先輩と和先輩とひと悶着ありましたよね」
律「うっ…あれは…」
梓「幼なじみを取られちゃうかも~って必死になってましたよね?」
律「うぅ…」
梓「まぁ可愛かったんですけどね」
律「話を続けろ話を!///」
梓「つまりはこういうことですよ。恋のライバルとして一人の人間を追い掛けるうちにいつの間にかその恋のライバルを意識しだしていた、よくある話です」
律「いや、ねえよ」
梓「よくありますー。律先輩が世間知らずなんですー」
律「なんかその敬語で語尾を伸ばすの小学校の頃の口喧嘩を思い出すな」
律「だいたい、それ最終的に同性愛に目覚めなきゃ成立しない話じゃねえか」
梓「え?」
律「だから、男二人でも女二人でも一人の人間を巡る場合たいてい異性だろ?」
律「つまりは、最初はノーマルだけど最後に何故かそっちに目覚めちゃうって、んなことよくある話なわけねえだろって」
梓「いや、そうじゃなくて。先輩ってそっち系じゃないんですか?」
律「え?」
梓「え?」
律「何それこわい」
梓「あれだけタラシてるのに?これだけイケメンなのに?カチューシャとったら通常の三倍のイケメン力を誇るのに?」
律「いや、だからタラシでもねぇしイケメンでもねえよ」
梓「イケメンでタラシですよ!純だって律先輩のこと『かっこいい人』って言ってたもん!」
律「あ、それが純ちゃんとのフラグなんだ」
梓「うん」
梓「それにさわ子先生といると何か不倫現場みたいないかがわしい光景に見えるし…」
律「いやいや」
梓「みんな律先輩とお似合いに見えて…それほど先輩はかっこよくて……」
律「………梓?」
梓「………グス」
律「お、おい梓!?」
澪「ムギは可愛いなぁ、髪も綺麗だしお人形さんみたいだ」ナデナデ
ムギ「恥ずかしいわ///」(ドゥフフフwww拙者wwwいま最高に幸せでござるwwwwドゥフw)
──お、おい梓!?
澪「ん?あんな大きな声出してどうしたんだろう?」
ムギ(このタイミングでおあずけとはwwwみおみおも殺生なことをなさ……る?)
ムギ(あら?梓ちゃん…泣いてる?)
澪「おい、梓どうし──」
ムギ「待って澪ちゃん!」ガシッ
澪「ムギ?」
ムギ「今は、二人だけでお話させてあげましょう…きっと、梓ちゃんもそう望んでるはずよ」
澪「だ、だけど…」
ムギ「信じましょう…りっちゃんを…」
澪「ムギ…」
ムギ「だから…」
澪「わかったよ、ムギ。このまま私たちは見守ることにしよう」
ムギ「ええ、ありがとう澪ちゃん」ニコッ
澪「そ、それでだな、…えと…あの…」
ムギ「?」
澪「もう一度、膝…膝枕をさせてくれないかな?そっちの方が自然だし、もっとムギのきれいな髪に触れていたい…あ、いや!今のは──」アタフタ
ムギ「うふふ…いいわよ」(我が世の春がきたああああああああ!)
梓「………」
律「落ち着いたか?」ナデナデ
梓「………」
律(澪たちは?)クルッ
澪「ふふふ」ナデナデ
ムギ「うふふ…デュフw」
律(良かった、気付いてないみたいだな……デュフってなんだあの音?)
梓「律先輩はずるいです…」
律「え…?」
梓「誰にでも優しくて、いつでも皆を楽しませて、元気にさせて、でも結局それは万人に向けられるものであって誰か一人を選ぼうともしない…
いっそのこと、先輩が誰か一人と特別な関係になっていてくれたら、とか考えたりもします。
そうすればきっぱり先輩を諦められますから、でも──」
律「あー!もう!」
梓「!」ビクッ
律「面倒くさい奴だなー」デコピン
梓「痛っ…」
梓「うぅ…わかってますよ、自分が面倒くさくて重い女だって…」
律「ちげえよ、バカ」
梓「え?」
律「あのさ~お前なんか勘違いしてるよ」
律「お前、入部して誰が一番最初にお前に抱きついたか覚えてねえの?」
梓「唯先輩でしょ……あ!」
律『確保ー!!』
梓『え、え?き、きゃああああ!』
梓「律…先輩です」
律「……梓に初めて会って、その場で抱きついた時、カワイイ奴だと思った」
梓「……ぇ」
律「こどもみたいにちっこい背してさぁ、おまけに手や足も同じようにちっこくて──」
梓「ち、ちっこいちっこい言わないでください!先輩だってちっこいじゃないですか」
律「あはは悪い悪い、……そんでさ、この子は私で守ってやらなきゃ駄目だな、って思った」
梓「!」
律「もちろん、私だけじゃない。澪や唯、ムギにさわちゃん。待ちに待った大事な新入部員だし、皆がそう思ったと思う」
梓(……やっぱり私はただの『後輩』なんですね、わかっては──)
律「と、こ、ろ、が、だ!」
梓「!!」
律「いざ蓋をあけてみると、可愛い後輩は実はとんだじゃじゃ馬だったんだな、これが!」
梓「な、な…」
律「だってそうだろ?後輩のくせに生意気な口はきくし、所々どころ空気読めないし」
梓「うぐっ…」グサッ
律「あげくは、ここにきて酒に酔って好き放題言いまくりやがって!」
梓「うぅっ…」グサッ
律「おまけにちっこいし、髪は私と違ってさらさらで綺麗だし、貧乳だし、すぐ日に焼けるし……まったく詐欺ってもんだぜ!」
梓「うぐぐっ…」グサッ
梓「──って、髪や胸やすぐ日に焼けるのは関係ないじゃないですか!ていうかまた『ちっこい』って言った!!」
律「……だけどさ、気になっちまうんだよ」
梓「え……?」
律「私も自分でつくづく馬鹿げているとは思うよ?後輩の軽口にいちいち反応してさ、そんなの無視すれば良いのに」
梓「………」
律「そんでさ、何でだろうってずっと考えてた」
律「今の今まで解らないでいたけど、なんか…今なら解る気がするよ」
律「その答えはどうしようもなく単純で、私がいつも感じていた感情そのものだったはずなのに、馬鹿な私は物事を難しい方へ難しい方へと考え過ぎていたんだ」
律「なぁ、梓?お前には解るか?私が何でお前の軽口やなにかに付き合ってやるのか?」
梓「………わかりませんよ、私は、律先輩じゃありませんから」
律「あはは…まぁ、そうだろうな。逆にここで直ぐに当てられたら私も面目がないしなぁ」
梓「……教えて下さい先輩、どうしてこんな私に構ってくれるんですか?」
律「ふふふ、それでは発表するぞ!その答えとは!」
律「私が楽しいから!」
梓「………」
律「あれ?聞こえなかった?じゃあもう一度言うぞ!答えは──」
梓「先輩が楽しいから、ですか?」
律「なんだよ~聞こえたんじゃん。それで、感想は!?」
梓「はっきり言って……」
律「うんうん」
梓「は、はっきり言って……プッ」
梓「しょ、小学生の感想みたいです」プププッ
律「」
梓「だ、だって小学生の作文って絶対最後『楽しかったです』で終わりますよね?」ププッ
律「」
梓「『あずさちゃんのかる口にはんのおするのが、とてもたのしかったです!おわり。さくらがおか高校3ねん田井中りつ』……」プププッ
律「な…の…」
梓「プププ……え、何か言いましたか?」
律「なぁかぁのぉー!!」ガバッ
梓「きゃあ!?」
律「このやろ!このやろ!」グイグイ
梓「ちょ…ギ、ギブです!キまってます!完全にキままって…あ…」グラッ
律「あ、おい!梓!?」ぱっ
梓「……うっ」ドサッ
律「だ、大丈夫か!?ごめん、ちょっとやりすぎた」シャガミ
梓「……しです」
律「ん?何だって?」
梓「おかえしです!!」ガシッ
律「ちょっ、うわあああ!」
最終更新:2010年11月22日 23:47