朝の新鮮な空気を大きく吸い込み吐く。
唯「やっぱり朝のお散歩って気持ち良いね」
私の三歩前を歩く唯ちゃんが振り返り、微笑みながらそう言った。
紬「そうね~本当に気持ち良いわ」
唯「私、冬の朝って好きなんだぁ~」
寒さのせいか微かに唯ちゃんの声が震えている。数秒後に唯ちゃんの体がブルッと震えた。
寒いのなら私に身を寄せてくれても構わないのに。
唯ちゃんの隣で歩きたいから少しだけ早く歩いて唯ちゃんの横に並ぶ。
紬「唯ちゃん寒いの?」
唯「少し寒いね~」
私から身を寄せて唯ちゃんを暖めたいけど、恥ずかしさに負けてしまい身を寄せられない。
ふっと凜とした向かい風が吹き、唯ちゃんの髪をなびかせる。
唯「おぉう!さぶっ!」
紬「寒いわね~」
朝、唯ちゃんお風呂に入っていたからだろう。
唯ちゃんから微かに石鹸の匂いが香る。
唯「湯冷めしちゃっかなぁ?」
もう一度、唯ちゃんは体を震わせた。
紬「私の上着を着る?」
唯「ううん。それじゃあムギちゃんが寒くなっちゃうよ」
紬「私は大丈夫よ。ほら、風邪をひいちゃうといけないから」
唯「じゃあお言葉に甘えちゃおうかなぁ~」
羽織っていたクリーム色の毛糸で編み込まれた上着を唯ちゃんに手渡す。
唯「ムギちゃんありがとね~」
紬「あったかい?」
唯「あったかだよ~」
上着の袖に手を通しながら唯ちゃんはさっきと変わらない笑顔を私に見せてくれた。
唯「あ!ムギちゃん松ぼっくりが落ちてるよ!」
唯ちゃんは松ぼっくりを拾い上げ私に見せてくれた。
唯「私、子供の頃によく集めてたんだぁ~」
松ぼっくりを見詰める唯ちゃんの目はキラキラと輝いていた。
きっと、子供の頃の思い出を思い出しているんだと思う。
唯ちゃんの小さい頃の面影を見た気がした。
唯「ムギちゃんは何か集めてた物とかある?」
紬「私はビー玉を集めてたわ」
唯「ほぇ~ビー玉かぁ~」
紬「えぇ、綺麗な物が好きだから」
唯「私も綺麗な物は好きだよ~」
紬「はっしゅん!」
唯「ムギちゃん?やっぱり上着返そうか?」
紬「ううん、大丈夫よ~」
唯「本当に大丈夫なの?」
唯ちゃんは私の手を握り息を吹き掛けた。
唯「ムギちゃんの手凄く冷たいよ~何時もはあんなに暖かいのに」
紬「そ、そう?」
唯ちゃんの手も少し冷たかった。
唯「うん!冷たいよ。やっぱり上着返すよ~」
紬「ううん……大丈夫よ」
唯「大丈夫じゃないよ!風邪ひいたら大変だよ」
紬「じゃあ、唯ちゃん私の手……握っててくれない?それなら暖かいから」
少しだけ勇気を出して言ってみた。
唯「うん!いいよ」
紬「本当?ありがとう唯ちゃん嬉しいわ」
唯ちゃんは私の手を握りながらポケットに手を入れた。
唯「暖かいね~」
紬「そうね。本当に暖かいわ」
唯ちゃんのポケットに入った私達の手。
少し窮屈だけど、体の芯からポカポカと温もりが沸き上がって来た。
唯「ムギちゃん何だか顔が赤いよ~どうしたの?」
紬「そ、そう?」
唯「うん、やっぱり風邪なのかなぁ?」
私のおでこに唯ちゃんは手を当てる。
唯「風邪は無いみたいだね!」
風邪はひいてないわよ。顔が赤いのは唯ちゃんのせいだもの。
紬「心配してくれてありがとう唯ちゃん」
唯「うーうん!ムギちゃんが風邪ひいちゃったら嫌だもん!」
紬「私も唯ちゃんが風邪をひいたら嫌だわ」
唯「えへへ~学祭みたいになったら大変だからね~あれから風邪をひかないように色々と気をつけてるんだぁ~」
紬「そうなの?」
唯「うん!蜜柑食べたり、アイスをあまり食べないようにしたりしてるんだぁ~」
紬「唯ちゃん偉いわね~」
唯「えへへ~あ、今何時かなぁ?」
ポケットからケータイを取り出して時間を見る。
紬「今は八時前よ」
唯「そっか~そろそろ帰る?」
紬「もう帰るの?」
唯「お腹空いたも~ん。憂がご飯作って待ってるよ~」
紬「そうね。じゃあそろそろ帰りましょ?」
唯「そうだね~」
紬「ねぇ唯ちゃん?」
唯「なぁに?」
紬「今日も唯ちゃんの家に泊まってもいい?」
唯「え!今日も泊まるの!?」
紬「……ダメ?」
唯「ううん!いいよ!」
紬「本当?嬉しいわ。ありがとう唯ちゃん」
唯「こちらこそ、ありがとうだよ~。じゃあ帰ろっか」
紬「えぇ!手を繋いだまま帰りましょ?」
唯「うん!」
おわり
最終更新:2010年11月25日 05:54