こんにちは!平沢唯です!
今日はムギちゃんと朝から公園で遊ぶ約束をしています!

でも、私はというと……
つい土曜日だから、お布団から中々出られなくて……
憂も今日は朝からあずにゃんと遊ぶみたいで、朝からいなくて……

寝坊、しちゃいました!携帯電話の時計を見ると、もう午後になっています!
ディスプレイにはムギちゃんからの着信が10件とメールが2通入っていました

2通とも『待っているね』という内容だったけれど……待ち合わせからもう7時間経っています

起きてそれを確認して、すぐ、ムギちゃんに電話をかけましたが――
電波が届かないのか電源がはいっていないのか、何度かけてもつながりません

仕方なく、電話は諦め、メールで、ごめんなさいとこれから行くという内容を送信しました

シャワーを浴びて、体をよく洗って――急いで身支度を整えて
こたつの上に置いてあったみかんをかじりながら家を飛び出しました

――が
これ、まだすっぱいよ! 違うの持ってこよう
一旦家に戻り、柔らかくて甘そうなみかんを手に取り――再度ムギちゃんのもとへ、出発!


いつもとは違う時間、平日とは違う休日
この時間のバスの中は人がまばらです

私と、片手で数えられるくらいの人数しか乗客はいませんでした

ムギちゃん、まだ公園にいるかな?どうかな?
先に帰っちゃったかな……?もう午後だし……遅刻じゃ済まないよね……

バスの中で、もう一度――本当は、マナー違反だけど……緊急事態なんです!

携帯を取り出し、ムギちゃんに再度コールします
――が、やっぱり電波が届かないのか電源が入っていないのか、つながりませんでした

……携帯の時計を見ると、起きてから1時間が経っていました
急いでいる時に限って、時間の流れって早く感じるんだよね

誰も降りないし、乗ってこない、停留所に停まる事自体が稀なはずなのに
信号で停止することも、今日は少ないはずなのに

だけど、ムギちゃんの待つ公園の停留所までの時間は、いつものそれより、永く感じました


――ムギちゃんは公園のベンチで待っていました

「ごめんムギちゃん!つい、お布団が気持よかったから寝坊してしまいました……」

ムギちゃんの顔を見る前に、頭を下げてごめんなさい
きっと怒っているから、顔を見るのが怖いから……

「おはよう、唯ちゃん」

私の上から投げかけられるムギちゃんの声は、優しいいつも通りのムギちゃんの声でした

「ムギちゃ――」

その声に安心して、私は顔をあげてムギちゃんを見ると……

「――って、ま、眉毛……ど、どうしたの?!」

いつも笑顔のムギちゃんのおでこ近くに居座っている可愛い眉毛が――
両方とも、跡形もなく、ありませんでした

「だって――」

眉毛のない、顔でムギちゃんは笑います

「――唯ちゃん、中々来ないから、先にお昼の沢庵食べちゃったの……でも、安心してね」

ムギちゃんはカバンから新しい沢庵と包丁とまな板を取り出すと、トン、トン、と包丁を入れて
二切れの沢庵を、いつのも場所にぺとり、と付けました


そして残りの沢庵を――

「唯ちゃんも、お昼まだなんでしょう?」

――私に差し出すムギちゃん

「うん!ちょっと急いで来たからお腹減ってるんだよね」

私は差し出された沢庵――ではなく、ムギちゃんの額に付いている沢庵を一枚ぺりっと剥がし
それを……いただきまーす!

「うまい!」
「……よかった♪まだ沢山あるからいっぱい食べてね♪」

ムギちゃんは笑顔で、私が取った場所に、額に沢庵をぺとりと貼りつけました

「やっぱり沢庵はとれたてが美味しいよね♪」
「ねー♪」

公園のベンチで沢庵を食べているだけなのに、ムギちゃんと一緒だと……
寒い公園も、こんなに暖かくなるんだね

体が、ぽかぽかで暖かくて……気持ちよくて――

――と、急に誰かに肩を叩かれました

目を開けると、見慣れない服……スーツみたいな制服みたいな服を着たおじさんが目の前にいました
顔を見ると、私の顔を心配そうに見ているような、でも少し怒っているようにも見えます

「だっ、誰ですかっ?!」

「気持よさそうに寝ているところ申し訳ないんですが――」

少し顔が綻ぶ謎のおじさん、あ、よく見るとちょっと優しそうな顔をしているんだね

「――このバス、ここが終点なんですよ」

……しゅうてん?

「へ?」
「ここが最後の停留所になんですよ、この後は車庫にもどるので……」

ムギちゃんと一緒――だった気がする、ぽかぽかしていた気分が一気に覚めて、冷めていきます

「こ、公園まえのバス停は!?」
「申し訳ないですが、だいぶ前に通過しましたね……」

――私、寝てたの?

――ってことは、さっきのムギちゃんは夢?

……バスで寝ちゃって、しかも夢まで見ていたなんて……ごめんねムギちゃん……


優しそうなバスの運転手さんは

「運賃は公園前までの金額でいいですよ、今度は乗り過ごさないように気をつけてくださいね」

と言ってくれたので、私はお礼に、家から持ってきたみかんも運転手さんにあげました
ずっと手に持っていたし、バスの中の暖房のおかげでちょっと暖かくなっていたけれど……

ありがとう!優しい運転手さん!

公園前の停留所に向かうためのバスは、すぐに来ました
乗る前にも一回ムギちゃんに電話しましたが――やっぱり電波が届かないのか電源が入っていないみたいです

早く行かないとムギちゃんもおかんむりだよ……
さっきの夢みたいに、何事も無いといいけれど……

何箇所かの停留所に停まりながらだったけれど
家から公園前の停留所に行くよりは早く到着した気がします

バスから下りて、公園の中に入り――
まずは見える範囲でムギちゃんの姿を探します

――でも、見える範囲には……いませんでした
夢に出てきたベンチにも、ムギちゃんの姿はありません

奥の方にいるのかな?
電話が通じないので、まだ公園にいるのかすら定かではないけれど――

――まだムギちゃんがいることを祈って、公園を一通り探してみることにします



土曜日の午後の公園の光景――

――小学生低学年くらいの子や、それより小さな子たちが楽しそうにて遊んでいたり
それを見守る親や、散歩に来ている大人、偶然に会ったご近所さん同士で話し込む主婦――

――と、いう光景があると思っていましたが……この公園にはそんな光景は一切ありませんでした

静かな、静かな公園でした
本当に休日なのか疑いたくなるくらいに、人がいません

鳥の鳴き声や、風が木々を揺らす音、耳を澄ませば聞こえてくるような音――

普段の時は意識しないと聞こえてこないような音しか、今は聞こえません

太陽もだいぶ傾いてきているし……
すこし肌寒くなってきました……僅かに出ている手や、顔に冷たい風があたります

ムギちゃんは――
公園の半分は探したと思うけれど――

……まだ、見つかりません

今この公園に居るのは私だけなのかもしれない、と思うと……
私の手や頬、衣服から出ている肌にあたる空気が――風が強くなったわけでもないのに……――

少しだけ、冷たくなった気がしました

「ムギちゃん……」

名前が口から溢れます
呼ぶように言ったわけでは無いけれど、一言だけ、ムギちゃんの名前を呟きます

あまりにも人の声が聞こえないから
あまりにも人の気配が感じられないから
本当に、私ひとりだけになった気がしたから

ムギちゃん……やっぱり、帰っちゃったのかな……

静かな公園を、それでも、何一つ見逃さないようにムギちゃんの姿を探します

遠くからではわからない遊具の中――
公園の周りを囲む木々や茂みの奥まった場所――
公衆トイレの中……
男子トイレも……最初からいないとは思っていたけれど一応――

歩いて、探して、歩いて、探して――

探すだけ探して、最後に辿り着いたのは……私が最初に入ってきた、公園入り口でした

ムギちゃんは――いませんでした

・・…で、でも!もしかしたら、私、まだ探していない場所あるかもしれないし!
もう一回、もう一周、しっかり探してみたほうがいいよね!

誰も座っていないベンチをもう一度確認して、私は再度、公園の中を探すことにしました


最初の時より、さらに探して、探して――

ジャングルジムに登って辺りを見回したり――
ムギちゃん見つけやすいように、ブランコを、周囲から目立つくらい頑張って漕いでみたり――
そしてさっき調べた場所ももう一度、遊具の中も、茂みの奥も、トイレの中も――

そしてまた公園の入り口に戻ってきた時、誰も座っていなベンチに腰掛けていたのは――


――私自身でした

どこを探しても、ムギちゃんは公園の中にいませんでした
携帯も、さっきから何度も何度もコールしたけれど、相変わらず電波も届かないし電源も入っていません
ベンチに座ったまま、今もコールしていますが、聞こえてくるのはそれを告げる機械的な女の人の声……

結局――静かな公園で唯一聞いたほかの人の声は
相手の携帯電話の状況を伝えてくれる、この女性の声だけでした

「ムギちゃん……ごめんね……」

太陽はもう殆ど沈みかけているみたいです
見上げた空も、家から出てきた時に見た青から、いつの間にかオレンジへと変わっていました
それに、もうこの時間だと……じっとしていると……寒い……


オレンジ色も薄い藍色に変っていきます
公園の前を通る人は何人かいるけれど、中に入ってくる人は一人もいません
通りすぎる人の中に、ムギちゃんがいないか目を凝らして探すこともしてみたけれど……
やっぱり、ムギちゃんは見つかりませんでした

「…………」

私ひとりだけの貸切状態
夕時の散歩とか、ここを利用する人いないのかな?

「お腹減ったなぁ……」

残りのみかんは探している途中に殆ど食べちゃったし……
最後の一個は……ムギちゃんにあげるんだから、絶対食べたら駄目……

「………………」

携帯は――ずっと同じ状況
怒って、電源切っちゃったのかなぁ……

「ムギちゃん……怒っているだろうなぁ……結局8時間の遅刻だし……あ」

――きゅぅ、とお腹が小さく鳴きます
お昼から、みかんしか食べていないからね……そ
れに、少しだけど動いてカロリー消費しているし……

「お腹減ったなぁ……」

最後の一つのみかん……食べちゃおうかな……

「うう……寒い」

もう太陽は沈んで、公園の中は外灯が照らす明かりのみになりました
待ち合わせ時間から――10時間が過ぎました

電話は――もう諦めたので、かけていません

なんで……遅刻しちゃったんだろう

昨日、ムギちゃんすっごく楽しみにしていたのに……

お弁当も作ってくるね、って言ってくれたのに……

ごめんねムギちゃん……

「……っく……ぅ、っ……」

――頬が、冷たい……

「んっ……ムギ、ちゃん……ぃっく、ごめんね……」

ハンカチで頬と目を拭うと、微かにみかんの匂いがしました
ムギちゃんと一緒に、食べたかったなぁ……
最後の一個、とっても甘くて美味しかったのに……


「……唯ちゃん?」

ムギちゃんの事を考えて、後悔して、謝って、目を拭って――
と何度か繰り返していたら、いきなり名前を呼ばれました

急に聞こえた人の声と、私自身の名前を呼ばれたことに体がびくっ、っと反応してしまいました
周囲に気を配っている余裕が無かったみたい

でも、驚いた後に顔を上げると――

「唯ちゃん、寒そうだけど……大丈夫?」
「ぃっく……」

……声が、でませんでした
嬉しいのと申し訳ない想いが、喉まで込み上がってきて……

「むぎ……ぢゃ、んっ……」
「え、ゆ、唯ちゃん?な、泣いてるの?ど、どうしたの?!」

ムギちゃん……ごめんね、ごめんね――

「ごべんでむぎぢゃんっ……!ごべんだざいぃぃ!」
「え、唯ちゃん?唯ちゃん??唯ちゃん……」

ムギちゃんの、体がすごく暖かくて、声が心地良くて
でも、それ以上に、そんなムギちゃんとの約束を破ってしまった自分が悔しくて申し訳なくて
――涙がとまりません

「唯ちゃん?大丈夫だよ?唯、ちゃん――大丈夫、大丈夫だから、泣かないで?」


「――唯ちゃん、落ち着いた?」
「……うん」

私たちはベンチで二人並んで座っていました
私がムギちゃんに謝罪している間
ムギちゃんは片方の手で私の手を握って、もう片方の手で頭を撫でてくれていました

「ごめんね、ムギちゃん……本当に、ごめんね……」
「うんうん……でもね、その……」

頭を撫でながら、ムギちゃんは優しい声で、私に話しかけてくれます
寒いはずなのに、さっきまで寒かったのに――今は、心も体も、すこし暖かくなりました

「なぁに?ムギちゃん?」
「唯ちゃんさっきから私に、ごめんね、って謝っているけれど……
 私に謝るような事、唯ちゃんはなにもしていないよから大丈夫だよ?」

優しい声と手でまた私を撫でてくれるムギちゃん
――それが優しすぎて……また涙が溢れます
私は片方のムギちゃんの手をすこしきゅっ、と握って

「でも……わっ、ぃっく……わた、し……寝坊しちゃって8時間も遅刻、しちゃって……
 ムギちゃんの事、待たせちゃったから……ムギ、んっく……ちゃん、に、悪いことしちゃったから……」
「…………?」

手は撫でてくれていましたが、優しいムギちゃんの声に、少しだけ変化があった気がしました

「……8時間?」
「うん……朝7時に待ち合わせだったのに……わたっ、し……公園についたのは……4時だっ、たんだよ……」

「唯ちゃん、4時からずっと公園で待っていたの?!」
「ふぇ……?」

ムギちゃんが急に、あまりにも驚いたので、私もちょっと間の抜けた声が出てしまいました

「ご、ごめんね唯ちゃん!もしかして朝送ったメール、もしかして私間違えてた?」

私の頭と手からムギちゃんは手を離し、自分の顔の前で手を会わせて――何故か謝るムギちゃん

「メール?朝の?」
「そう、2通、1通目が……時間変更のメールなんだけど」
「……うん、しっかりと――」

連絡を取るのを諦めていた電話を、バッグから出して、そのメールを画面に表示させて――

「――届いていたよ?……ほら」
「…………」

私の携帯に表示されているメールを、まじまじと見るムギちゃん

「間違えては……いないみたい。それで、唯ちゃんが返信してくれたんだよね」
「へ?返信?」
「……あれ?確か――」

今度はムギちゃんがムギちゃんの携帯を操作して、画面を私に見せます

「ほら、了解しましたー、って、朝の……6時10分頃に」

画面に表示されていたのは、私が送信者になっているメールでした
そこには『了解しました!』の一言だけ書いてあり、受信時間が6時11分になっています

私も自分の携帯を操作して、送信履歴を確認すると――

「……あった?!送っているよ!!」

――私の携帯の送信メールフォルダにも、6時11分に送信した同内容のメールがありました
いつの間に?!でも、6時……?6時……――

――……あ

送った、ような気がする……っていうか送ったよ!

アラームかな、って思って、確か消そうと思ったらメールで……・
時間が変わったって書いてあったから、それを確認して……
一言だけど、了解しました、って送って……
8時から7時に変更になったから、ああ、そろそろ用意しないとだめだよね、って思って……

思って……
思ったまま……
起きることが、できなくて――に、二度、寝を……

殆ど寝ぼけて無意識にメール返していたんだね!無意識って怖い!怖いよ!
次に起きたとき、全部忘れているし――

――ってあ、れ?でも私、時間は覚えていたんだよね?結局、遅刻しているけれど……


4
最終更新:2011年10月18日 13:36