律「……確かに冷静に考えたら私って最低だな……」

梓「今さら気づくとか遅すぎでしょ」

律「ヤバい。自分の発言を思い出して死にたくなってきた」

梓「実際、ムギ先輩は律先輩に殺意を抱いてるでしょうね」

律「ていうかさ。ムギがあんなにエロいからダメなんだって」

澪「なに言ってんだ?」

律「澪は鈍いからわからないだろうけど、ムギのエロさはハンパじゃないって」

唯「そうなの?」

律「ああ。息遣いや喋り方に振る舞い、容姿。どれをとってもエロい」

梓「律先輩、本当はただ単にムギ先輩に欲情してるだけなんじゃないですか?」

律「しぬならムギの胸の中か膝枕の上でしにたい」

唯「りっちゃんが遠い目してるよ」

梓「今のお馬鹿な発言がなければ、なかなかカッコイイ表情に見えないこともないですね」

澪「とりあえず今日は帰ろう」

唯「そだね。ムギちゃんのお茶もお菓子もないし」

梓「軽音部としてどうかと思いますが今日は仕方ないですね」

律「むぎゅう……」


澪「じゃあまた明日な」

唯「バイバーイ、澪ちゃん、りっちゃん」

梓「さようなら」

律「ういー」



梓「……」カチカチ

唯「あずにゃんなにしてるの?」

梓「いえ、ムギ先輩に電話しようと思って」

唯「どうして?」

梓「気の毒だなと思ったのと、律先輩と仲直りしてほしいなと思ったから……」

唯「あずにゃん優しいね」

梓「もしもし」プルルル

紬『はい』

梓「もしもし。梓です。今、時間空いてますか?」

紬『空いてるけど……どうしたの?』

梓「少しムギ先輩とお話がしたいんです」

紬『……わかった。どこで落ち合う?』

梓「先週行った喫茶店でどうですか? あそこなら比較的静かですし」

紬『わかった。30分ぐらいで行けると思う』

梓「わざわざすみません。それじゃあまた後で」

ぴっ

唯「あずにゃん、ムギちゃんと喫茶店行くの?」

梓「そうです。もちろん唯先輩も着いてきてくれますよね?」

唯「もちのろん!
  ……って、ムギちゃんとなにを話すの?」

梓「決まってるでしょ?」

唯「?」

梓「恋バナですよ、恋バナ」

梓「さてさて。さっそく喫茶店に着いたばかりなのにアレですが。
  質問があるんで、聞いてもいいですか?」

紬「うん、なんでもどうぞ」

梓「ズバリ、ムギ先輩は律先輩のことをどう思ってるんですか?」

紬「私がりっちゃんについてどう思ってるか?」

梓「はい。律先輩の感情は一方通行なのかどうか、気になったものですから」

紬「そうね……」

紬「もちろん、りっちゃんのことは好きだよ。でも……」

梓「やっぱ、今日の律先輩には幻滅してしまいました?」

紬「まあ、少しだけね。でも、それぐらいじゃ、りっちゃんのことは嫌いにならないよ」

梓「私ならあんなこと言われたら絶交しようと思いますけど、さすがはムギ先輩。
  私とは根本的に懐の広さが違いますね」

唯「ムギちゃんは天使だね」

紬「りっちゃんは優しいし、頼りになるし、カッコイイしとても魅力的だと思うの」

梓「付き合おうとは思わないんですか?」

紬「……私ね、りっちゃんのことは好きなの
  でもそれ以上に…………」

梓「それ以上に?」


紬「りっちゃんは澪ちゃんと絡んでいるときのほうが魅力的だと思うの」


梓「……」

唯「……」

紬「あれ? 私、変なこと言った?」

梓「べつに。人の感性は十人十色なんで」

唯「私はムギちゃんと仲良くしてるりっちゃんも魅力的だと思うけどなあ」

紬「そう?」

唯「うん」

紬「ちなみに唯ちゃんは和ちゃんと絡んでるときが一番好き」

梓「聞いてないです」

紬「ごめんなさい。
  ……私、ついつい女の子どうしが絡んでるとあんなことやそんなことの妄想ばかりしちゃうから」

梓「……実は律先輩とムギ先輩もタチの悪さではそんなに変わらないのかも」

唯「ムギちゃんは男の子は好きじゃないの?」

紬「男の子……男の子かあ……」

唯「ムギちゃんなら簡単に彼氏とか作れそうじゃん」

紬「正直に話すとね。私、あまり男の子と話したりしたことがないの?」

唯「なんだか意外」

紬「そうかな? 私って彼氏がいそうに見える?」

梓「まあ、いてもおかしくはないでしょう」

唯「うん! ムギちゃんすごくかわいいし!」

紬「……」ポッ

唯「ムギちゃん? 顔赤くなってるよ?」

紬「ありがと……」

梓「こらこら、唯先輩。ムギ先輩があなたに惚れたらどうするんですか?」

唯「えへへ、照れちゃうなあ」

紬「まあ、将来的には男の人と結婚するつもりなんだけどね」

梓「……そうなんですか」

唯「ムギちゃんの結婚する人ならきっとカッコイイんだろうなあ」

梓「しかし、どうして百合百合しい光景を眺めるのが好きなムギ先輩が男の人と結婚したがるんですか?」

紬「聞きたい?」

梓「ぜひ」

唯「あ、私も気になる」

紬「それはね……」

唯「それは……?」

紬「私ね、自分の子供を産むのが夢なの」

梓「ぐはっ……!」ブフォオ!

唯「うわ! あずにゃん紅茶吐き出さないでよ」

梓「ゲホゲホッ……すみません。思わずむせてしまいました」

紬「変なこと言ったかな、私?」

梓「いえ、素晴らしい夢だと思います」

紬「梓ちゃんもそう思う?」

梓「は、はい」

紬「百合は確かに素晴らしいと思うの。でも、どんなに頑張っても子供は産めないでしょ?」

唯「言われてみると赤ちゃん産めないね」

梓「だから男の人って結婚したいんですか?」

紬「……よくわからないけど、理由はそんな感じ」

梓「そうですか……」

梓(まさかレズビアンだと思っていたのムギ先輩からそんな台詞が出てくるなんて……)

紬「梓ちゃん、どうかした?」

梓「な、なにもないですよ」

紬「そう?」

梓「はい!」


~~

梓「……ってなわけです」

律『マジかよ』

梓「はい。ムギ先輩は将来的には男の人と結婚したいそうですよ」

律『ありえねえだろ。
  私の知ってるムギは男なんて全員滅びればいいとか、そんな考えを持ってたはずなのに』

梓「その発想のほうがありえませんよ」

律『私に男性器があればいくらでもムギを……』

梓「考え方が最低ですよ」

律『なあ梓。梓はどうしたらいいと思う?』

梓「……さあ?」

律「あー、やっぱり諦めるべきなのかな……」

梓「……」

律「いや、自分でも変だってわかってんだ」

梓「変って……なにが変だって言うんですか?」

律「私自身もレズビアンだってこと」

梓「律先輩もレズなんですか?」

律「だってムギも女なんだぜ? そのムギを好きな私はやっぱりレズビアンそのものだろ」

梓「変じゃないですよ」

律「え?」

梓「律先輩は変じゃないですよ。だって私も……」

律「ま、まさか……」

梓「私 も レ ズ ビ ア ン で す か ら !」

律「!!」

梓「レズビアンなんてそこら中にいるんですよ」

律「そ、そうだったのか……! まさか梓までレズだったとは……」

梓「私から提案があります」

律「提案ってなに?」

梓「もう一度告白しましょう!」

律「え!?」

梓「無駄に考えても仕方ありませんよ。律先輩の思いをぶつけるしかありません」

律『やるしかないのか……』

梓「性欲ではなく愛をぶつけるんですよ……律先輩の!」

律「わかった。もう一度挑戦してみる」

梓「私も応援してます。律先輩の恋が実ることを」

律『おう!』

律「ムギ、結婚してくれ!」

紬「……」

律「安心してくれ。
  私は前も言ったように体力あるからいくらでも仕事して、ムギを養ってやれる」

紬「お金はけっこうあるんだけど……」

律「そういやムギん家って金持ちじゃん」

紬「うん」

律「じゃあ私、働かなくていいみたいな!?」

紬「……」

紬「とりあえずりっちゃん。お茶でも飲んで落ち着きましょ」コト

律「そうだな……うん、やっぱりムギのお茶はうまい!」ズズズ……

紬「どう? 少しは落ち着いた?」

律「まあな。ムギのお茶を飲んで落ち着かないわけが……」

律(ムギが煎れたお茶……ムギのお茶……ムギの手で煎れられたお茶……)

紬「りっちゃん……? どうしたの?」

律(ムギが私の顔を覗きこんで……顔が近い……!)ハアハア、ムギかわいいよお!

ガシッ

紬「りっちゃん!?」

律「ムギ、私……我慢できない……」

紬「!」

律「ムギ。私も初めてだからうまくできないかもしれないけど……」

紬「だ、ダメだよ……りっちゃん……! ここは学校、しかも部室……」

律「じゃあ部室じゃなきゃいいのか?」

紬「そういう意味じゃなくて」

律「ごめん、ムギ。優しくするから許して」

紬「い、いや……!」

律「ハアハア……ムギ、かわいいよお!」


 「お待ちなすって!」




ガチャ!




律紬「え?」

律「お、お前は……!」

 「…………」

紬「あ、梓ちゃん……!」

梓「呼ばれてませんが飛び出てにゃにゃにゃにゃーん!」

澪「一応、私も……」

唯「私もいるよ!」

律「……お前ら空気読めよ」

紬「……」

梓「私も両者合意の上ならナニしようと構わなかったのですが……」

律「どういう意味だよ?」

紬「……」

梓「そのままの意味です。そんな強引に相手の初めてを奪おうなんて……」

律「うっ……」

紬「あ、梓ちゃん違うの! りっちゃんは悪くないの!」

梓「当たり前でしょう」

澪「……え?」

唯「ほえ?」

梓「処女を強引に奪おうとしているのは他でもない!」



梓「ムギ先輩、あなたなんですから!」


澪「いやいや、どう見ても律がムギに襲いかかってるようにしか見えないぞ」

唯「りっちゃんはケダモノだよ」

梓「確かに。律先輩がムギ先輩を襲おうとしているというのは間違いありません」

律「ムギがかわいすぎるから仕方ないだろ」

梓「私もムギ先輩がかわいいという事実は否定しません。
  しかし、問題はそこじゃないんですよ」

澪「なにが言いたいんだ?」

梓「そもそもおかしいと思いませんか?
  ある日、突然友達に欲情したりする女子高生なんてどこにいるんですか?」

律「ここにいるぞ。ムギ……かわいいよお! ハアハア……」

梓「律先輩、少し黙ってください」

律「まどろっこしいなあ。さっさと結論を言えよ」

梓「まあまあ慌てないで。
  私は昨日と今日、律先輩がムギ先輩に欲情する瞬間を目撃しています」

律「……ハズカシイ」

唯「まさにケダモノって感じだったよね」

梓「しかしですね。律先輩は最初からムギ先輩相手に欲情しているわけではなかった」

澪「そういえば昨日も……」

梓「そう。あることをした後に律先輩は突然ハアハアしだしたんですよ」

律「あること?」

紬「…………」

澪「あることってなんだ?」

梓「おや、澪先輩は気づきませんでしたか?」

唯「……あ、もしかして?」

梓「どうやら気づいたようですね、唯先輩」

唯「うん。私なんとなくわかっちゃったよ」

律「おいおい。私を置いてきぼりにすんなよ」

梓「まあこれ以上は引き伸ばす必要もないでしょうし、答えをいいましょう」

紬「…………」


梓「ズバリ、お茶です」

律「……は?」


澪「ああ! そういうことか!」

律「どういうことだよ?」

梓「律先輩が急にムギ先輩に欲情しだした理由は?
  簡単です。薬を盛ればいいんですよ。例えば――媚薬とか」

律「びやく?」

唯「なにそれ?」

紬「…………」


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最終更新:2010年12月01日 19:24