澪「えー、まだやるのか・・・?」
律「いいじゃんいいじゃん、“音合わせたい”言いだしたのは澪だろ?」
澪「もうかれこれ2時間だぞ?そろそろ休んだって・・・」
律「なーに言ってんの!ほら早く早く!」
澪「・・・もう、しょうがないなぁ・・・」
澪「(新しいスネア買ったからって舞い上がって・・・あとどのくらい続くことやら)」]
バン、バン
カツッ
律「・・・疲れたなー・・・」
澪「・・・そうだな」
律「・・・へへへ」
澪「?なんだよ、気味悪いな」
律「だってこれぇ・・・すっげー気に入ったっ」
澪「(・・・本当にうれしそうな顔)」
律「お小遣いためて買った甲斐があったぜ!」
澪「何カ月も、ず~・・・っとショーケースを眺めてたもんな、律」
律「だってこれ・・・すっげー輝いてるし・・・」
バン、バン
律「ほら!まっしろ!」
澪「・・・ははは」
律「澪は新しいベース買わないのか?そろそろ古いだろ?それ」
澪「え?」
律「ほら、ここなんかちょっとはげてるし・・・」
澪「ばっ!み、みるなっ!」
律「へへ、かっこわるー♪」
澪「・・・なかなかさ、良いのが見つからないんだよ」
律「あ、そうか、澪は左利きなんだっけ」
澪「・・・高いしさ・・・数も少ないから、なかなか好みのが見つからないんだよ」
律「大変だなー」
澪「べ、別にお金が足りないわけじゃないんだぞっ」
律「・・・お前わかりやすいなぁ」
澪「・・・で、でも!お金はちゃんとあるからな!買おうと思えばいつだって買えるんだからな!」
律「へぇぇー、そうかいそうかい」
澪「そんな目でみるなよ、本当なんだから」
律「・・・じゃあ今いくらあるの?」
澪「うっ」
律「財布ん中みしてみー?」
澪「わ、こらっ!勝手に見るなっ!」
“2万円”
ごつっ
律「ったぁ!?」
澪「恥ずかしいだろ!」
律「たた・・・ま、まぁ中学生にしては頑張ってる方だよな・・・それは」
バンッ、バンッ
バジャッ
バラバラバラバランッ
律「・・・そうか、でも一応、お金を溜めてはいるんだな」
澪「・・・でも、足りないんだ・・・全然」
律「あー、高いからなぁ・・・」
澪「・・・私だって、すっごい欲しいものくらいあるさ・・・けど」
律「・・・お金がなー」
ザザァ・・・
律「・・・川辺って、風強いなー」
澪「・・・うん」
律「早く高校生になりたいよなー」
澪「・・・・そう?」
律「なんだよ、そんなに中学校が恋しいの?」
澪「・・・・そ、そんなわけじゃない」
律「高校生になればさっ、バイトとかもできるし・・・部活だって軽音部あるし」
澪「・・・軽音部かー・・・」
律「バイト始めればお金たっぷり儲かるじゃない?そんでさそんでさ?それでスタジオ行ったり楽器買ったり・・・」
澪「あ、そっか・・・バイトか・・・」
律「まだ卒業までにもうちょっとあるけどね、それまでには高校生になってからのお金の使い道とか、考えたりしたいなって思うのよ」
澪「・・・律の口から計画なんて言葉が出るとは・・・」
律「ぁん?」
澪「しーらない」
バンバンッ、バババババンッ
律「やっぱ、こういう川辺で芝に腰掛けて練習するよりもさっ」
バンバンバンッ
律「スタジオとかさ、そういうところでやりたいよなっ」
バンッ
澪「確かにそうだけどな」
律「だろ?」
澪「・・・バイトなんて・・・私には無理だし・・・」
律「・・・おいー」
澪「わ、私はいいよ・・・高校生になればお小遣い増やしてあげるって、親からそういう約束してもらってるし・・・」
律「(本当に恥ずかしがり屋だな・・・)」
ピーポーピーポー・・・
律「・・・」
澪「・・・」
律「なんで救急車のあの音ってさ、遠ざかるとなんか、くにゃぁーってなるの?」
澪「・・・サイレンのことか?・・・えっと・・・なんだろう、周波数が・・・」
律「・・・難しそうだからやっぱいいわ」
澪「き、聞いといてなんだそれは」
ピー・・・ポー・・・
律「・・・もう夕方だなー」
澪「・・・だな」
律「・・・最後にもう一度だけやって帰ろっか?」
澪「・・・そうだな、よし、そうしよう」
律「じゃ、澪とはここまでだね」
澪「そうだな」
律「じゃ、また明日な!いつもの所に集合だぞ!」
澪「わかってるよ、じゃあね」
バイバーイ
澪「・・・ばいばい」
澪「・・・」
澪「・・・遅くなっちゃった・・・早く帰らないと」
澪「(・・・うわ、なんかベースが重く感じるなぁ・・・)」
澪「(すごい人だ・・・やっぱりこの時間は人通り多いなぁ)」
澪「(・・・ぶ、ぶつかったりしないかな・・・大丈夫かな)」
澪「(もし肩とかぶつけちゃって・・・怒られたらどうしよう)」
澪「(・・・)」
澪「(・・・こっちの・・・人の少ない道で帰ろう)」
澪「べ、別に怖いわけじゃないぞ」
「ママ、あの人一人で何か喋ってるー」
「あのくらいの女の子にはね、そういう時だってあるのよ」
カツ、カツ、カツ・・・
澪「・・・」
澪「(く・・・暗い・・・)」
澪「(通ったことはあるけど・・・あまり通らない道って・・なんか怖い)」
澪「(なんていうか・・・後ろから・・・誰かいそうで・・・あの影とか・・・)」
澪「・・・」
澪「(や・・・こ、怖いっ!自分で妄想しておきながら怖いっ・・・!)」
澪「(は、速足で帰ろうっと・・・!怖くない怖くない・・・)」
タタタタタタタ・・・
澪「(はっ・・・はっ・・・なんだか、夜道を走るってると・・・)」
澪「(後ろに誰かいて・・・その人も、私を追って走ってるような・・・そんな気分に・・・)」
澪「(ば、ばか言うな私・・・ストーカーなんて・・・)」
澪「(それにここは住宅街だし、誰も・・・)」
『・・・ドウゾ』
澪「!! っひゃぁっ!?」
澪「ご、ごめんなさいごめんなさい!何もないんです許してくださいっ!」
『・・・ヲドウゾ』
澪「許してごめんなさいお金はないんですっ・・・・って」
澪「・・・」
レコーダー『・・・ヲ ドウゾ』
澪「・・・何か・・・踏んでた、これって・・・は、ははなんだ驚かせて・・・」
澪「・・・テープレコーダーか・・・踏んじゃったけど壊れてはない・・・」
『アンドゥ ヲ ドウゾ』
澪「・・・」
『アンドゥ ヲ ドウゾ』
澪「・・・」
澪「(な・・・なにこれ!これはこれで凄く怖いっ!)」
『アンドゥ ヲ ドウゾ』
澪「・・・え、えいっ」
ぽち
『アンドゥ』
『・・・』
澪「・・・よし、止まった・・・ふー、怖かったぁ・・・」
澪「・・・メーカーはどこなんだろ・・・んー、聞いたことないな・・・」
澪「・・・あれ、これってよく見たらテープじゃない・・・MDか」
澪「ていうことは、結構新しい奴か・・・ふむふむ」
澪「・・・」
澪「もってかえろっ」
澪「・・・持って帰ってきちゃった」
『・・・』
澪「・・・んー?・・・すごい!これ録音もできるっ!?」
『・・・』
澪「や、やった・・・買ったら数万はするかも・・・てことは売れば数千円くらいするから・・・」
澪「(・・・ベースを買う、足がかりになるかも)」
『・・・』
澪「・・・いや」
澪「売るのは律に自慢してからにしよ」
『・・・』
澪「まだ知らない機能があるかも・・・どれどれ」ポチ
ジーッ・・・
澪「あ、これが録音かぁ・・・停止は・・・」ポチ
『アンドゥ ヲ ドウゾ』
澪「っひゃぁっ!?」
律「やっほー、お待たせー」
澪「こらっ、律おそいぞー」
律「ごめんごめーん、ちょっちトラブっちゃって」
澪「もう、次遅れたらやってやらないからなっ」
律「ごめんってばぁ」
律「・・・ん?」
澪「・・・ふふ、気付いたか?」
律「お、それってテープレコーダーってやつ?」
澪「ふふ、そ!いいでしょ、録音もできるすぐれものなんだぞ!」
律「ほぉおおお!」
律「す、すげぇ!なんか見た目しょぼいけどすげえ!」
澪「昨日道端で拾ったんだ」
律「すごい、澪それすごいラッキーだよ!」
澪「そ、そうかな?」
律「ちょっとそれ触らせてよ!もしかしてこれ私たちの演奏も録音できたりして!」
澪「多分できるんじゃないかな?」
カチッ
『・・・(ジィー・・・』
澪「・・・」
律「・・・録音中?」
澪「あ、うん、多分ね」
律「え?うそ、じゃあこの声も録ってる最中?はずっ!」
澪「あはは」
律「え、えっと停止停止・・・あ、これかぁ」
ポチッ
『アンドゥ ヲ ドウゾ』
律「うおっ・・・」
澪「ははは・・・」
律「・・・」
律「・・・捨てようぜ、声が何かキモい」
澪「や、やめろー!川に投げようとするなー!」
澪「こ、これは・・・確かに声がちょっと怖いけど・・・売れば少しはお金の足しになるし・・・」
律「え?売るの?」
澪「当然だろっ、私だって新しい楽器が欲しいんだ」
律「もったいねぇー・・・それ結構高性能みたいなのに」
澪「お前さっき投げ捨てようとしただろっ」
ごつっ
律「・・・でもそれさ、本当に売るのはちょっともったいないんじゃない?」
澪「・・・そうかな」
律「そうよー」
律「ほら、たとえばこれを使ってさ・・・」
澪「うん」
律「何か、どこかのプロデューサーとかに、自作の曲とか応募してみたりとか」
澪「じ・・・自作・・・」
律「そうすればデビューとかできるかもじゃん?もったいないよ、売るのはっ」
澪「デビューって・・・自作って・・・」
澪「・・・か、考えただけで恥ずかしいっ・・・!」
律「(こいつなんでベース始めたんだろう)」
律「ん」
“△再生”
律「これが再生ボタンか・・・」
澪「・・・さっきの話を録音したのを聞けるってことだな」
律「うわ、なんかやだなぁ・・・」
澪「・・・あ、でも律、さっき“停止”押したでしょ」
律「え?」
澪「その横っちょに“保存”っていうのがあって、それじゃないと録音にはならないんだと思う」
最終更新:2010年01月25日 23:49