律「・・・な、なんだって?早く言えよなぁ」

澪「・・・私もそれ使ったこと無いからよくわからないけどね」

律「あてずっぽうかよっ」

律「えっと、録音で録音開始、停止が録音ストップ、保存で録音を保存・・・」

澪「早くもスネアほっぽりっぱなしだなー」

律「いいの!今はこっちに集中!」

澪「はは」

律「・・・ふむふむ、なるほどね、ボタンしか見てないけどだいたいは操作わかったよ」

澪「おお、さすが律」

律「・・・」

澪「・・・律?」


律「・・・これ、既に何か・・・録音してあるっぽい」

澪「え?」

律「1分42秒、保存・・・って、表示されてる」

澪「・・・あ、本当だ・・・」

律「澪なんか声録音した?」

澪「・・・してない」

律「っていうことは、これを落とした人が録音した何かが入ってるってことだな」

澪「・・・な、なんかドキドキするな」

律「聞いてみようぜ!」

澪「え、ええー・・・?怖いよ・・・」

律「大丈夫大丈夫、って、ほい」

ポチ





『・・・(ジィー・・・』


律「・・・」

澪「や、やめようよ、なんだか怖いって・・・」

律「しっ!声が聞こえる!」

澪「う・・・うう・・・」


『・・・ああ・・・ええ・・・』

律「・・・涸れた声・・・おじいさんかな」

澪「ね、やめよ?これ絶対だめだって」

律「いいから、すぐだし」

『・・・gの、大将様が、許してくれるなら・・・』

律「・・・」

澪「・・・」

『・・・帰りたいです・・・』

律「・・・?なんだろ、聞きとりにくい声だなぁ」

澪「ううー・・・知らない知らない・・・私は知らないぞー・・・」


『・・・んあ、立派な・・んを、・・さにゃならんかって・・・』

律「・・・」

澪「・・・」

『・・・んの、りく・・・んたいで・・・ガ・・・げほっ・・・ぐ・・・がほっ・・・!』

律「!?」

澪「!!」

澪「り、律っ・・・!」

律「なにこれ!?な・・・何なのよ!」

『げほっ・・・!ぐ・・・!ああ・・・!』

澪「だ、だから言ったじゃないか!呪われてるって!バカ律!」

律「そんなこといったって・・・言ったってぇ・・・!」

『くっ・・・』

『おじいちゃん!?おじ・・・救急車、誰か!』

『! ・・・しまっ・・・げほっ・・・く・・・』


ブツン


律「・・・」

澪「・・・ひっく・・・ひっく・・・うう・・・」


『再生ハ 以上デス』

澪「うう・・・!やだ・・・やっぱり拾うんじゃなかったぁ・・・!」

律「・・・再生、終わったっぽいね・・・」

ポチ

律「・・・ごめん、まさかこんなのとは・・・私もちょっとびびったわ・・・」

澪「ううー・・・夢に出るよー・・・」

律「・・・しかし、この持ち主も大変そうだったな・・・」

澪「・・・くすん、くすん・・・」

律「ごめんってば、もう大丈夫だよ澪」

澪「・・・うん・・・(グスッ」

律「つーか澪、お前とんでもない物を拾っちまったな」

澪「・・・捨てよう、もうそれに触りたくない・・」

律「おい、さっきの私へのげんこつは何なんだよ」


律「捨てるっていっても・・・なぁ、やっぱりもったいないし・・・」

澪「い・・・いや!そんなの私、部屋に置きたくない!嫌だからな!」

律「お、おいおい、そこまで過剰に拒否しなくても」

澪「嫌ったら嫌だから!欲しいなら律が持っててよそれっ!」

律「あ、そう?じゃあ貰っておくわ」


律「・・・さっきの録音を聞くに・・・おじいさんともう一人、若い女の人がいたけれど・・・」

澪「・・・そうなの?」

律「あったでしょ?なんか“おじいちゃん”って」

澪「・・・途中で耳ふさいでたから・・・」

律「・・・お前なぁ」


律「・・・多分、その人が娘か孫かで・・・それで、その子が咳きこんじゃったおじいさんを心配して・・・」

澪「・・・」

律「とにかく、呪いのテープでもなんでもなかったわよ、ただちょっとトラブルあったみたいだけど」

澪「・・・それやっぱり・・・」

律「返さないぞ」

澪「うう・・・」

バンバンッ、バンッ

律「・・・んー、やっぱりなぁ」

澪「ん?」

律「アンプに繋がないと、ベース音が聞きとりにくいな」

澪「ああ、それは仕方ないよ、屋外だしさ」

律「まーそうだけどねー・・・」


澪「・・・」

『・・・』

律「なんだよ、まだ気になってるのかぁ?」

澪「ん、だ、だってさ・・・」

律「まぁ気になるところだけどね」


カチッ

『・・・ああ・・・ええ・・・』

『・・・帰りたいです・・・』

『・・・んあ、立派な・・んを、・・さにゃならんかって・・・』

律「・・・」

澪「・・・」

『・・・んの、りく・・・んたいで・・・ガ・・・』

『げほっ・・・ぐ・・・がほっ・・・!』

澪「ね、ねえ止めてよーっ・・・」

律「うっさいなお前はっ」

『くっ・・・』

『おじいちゃん!?おじ・・・救急車、誰か!』

『! ・・・しまっ・・・げほっ・・・く・・・』

澪「・・・うう・・・」

律「あちゃー、やっぱ辛そうだ」


澪「・・・このおじいさん・・・可哀そうだな・・・」

律「・・・うん」

澪「咳きこんで・・・発作かな、すごく苦しそうで・・・」

律「・・・」


律「どうしてこれに、録音してたんだろうな」

澪「え?」

律「気にならない?」

澪「・・・なるけど・・・怖いよ」

律「私なんだかすっごいわくわくする」

澪「趣味悪いって」


律「・・・前半は何か、テープに向かって語りかけている感じだから・・・」

澪「・・・うーん・・・何か、録音したいような・・・そんな話だったのかな」

律「全然聞き取れなかったけどなー」

ザザァ・・・

律「んーっ・・・あったかぁー・・・」

澪「・・・そうか・・・?」

律「うん、冬にしてはだけど」

澪「・・・まあ、陽もあるし・・・そこそこってとこかな」

律「練習もいいけど、こんな日は服屋とか色々回ってみたくなるよな・・・」

澪「あ、それちょっとわかるかも」

律「でも服買ったらベース買えなくなるな」

澪「うっ・・・・」


澪「・・・やっぱりこのレコーダー売るしか・・・」

律「おい」


ザッザッザッ・・・


律「あーあ、結局今日は何もしてなかったなー・・・」

澪「そうだな、練習はできたけど・・・それだけっていうのも寂しいな」

律「ったくぅ!ここまで必死に練習してるんだから、一度でいいからバンド組んでやってみたいぜ!」

澪「えー・・・そう?」

律「なんだよぅ、澪は私とやりたくないってわけぇ?」

澪「そういうわけじゃないけど」


澪「・・・ライブとか・・・恥ずかしいし」

律「(こいつはどうして楽器を始めたんだ?)」

律「じゃ、明日学校で!」

澪「ああ、うん・・・学校で!」

律「といっても明後日休日だけどなー、はは」

澪「ふふ、そうだな・・・じゃ、また」


澪「・・・」

澪「(・・・明日は学校・・・か)」

澪「(学校・・・そろそろ卒業かぁ・・・)」


ザッザッザッ・・・


澪「(学校は楽しい・・・仲の良い友達も数人できた)」

澪「(それももうすぐで卒業・・・離れ離れになっちゃう)」

澪「(・・・まか律とは一緒だけど)」

澪「(でも、それでも多くの友達がいなくなって・・・高校生になる)」

澪「(そこからまた・・・友達も、新しく作り直しだ)」

澪「(・・・うう、緊張するなぁ・・・また自己紹介しなくちゃいけないんだ)」

ザッ・・・

澪「!」


ヒュゥゥゥウウ・・・

澪「・・・さむっ・・・」

澪「(・・・無意識にまた・・・この人通りのない道に入っちゃったな)」

澪「(近いといえば近いんだけど・・・)」

澪「・・・」

澪「・・・うう、怖い・・・」

澪「(・・・でもいいや、こっちから帰ろう・・・怖くても、慣れなきゃ)」

澪「(今のうちから慣れないと・・・新しい事に、色々と)」


ザッザッ・・・


ザッ・・・

澪「・・・」

澪「・・・確か・・・ここだ」

澪「(ここでレコーダーを踏んづけて・・・へんな音出しちゃって)」

カチャ

『・・・』

澪「(・・・どうして、これはここに捨てられていたんだろう)」

澪「(やっぱり、声が怖いからかな・・・うーん、でもこれ高そうだし)」

澪「(捨てるというよりも、落とした・・・?どうなんだろう・・・)」


??「・・・」


澪「・・・(ブルッ」

澪「(思い出したらちょっと怖くなってきた・・・さっさと帰ろうっと!)」


タッタッタッタッタ・・・・タッ、タッ、タッ・・・


澪「・・・・え?」

タッ、タッ、タッ、タッ・・・

澪「(足音)」

澪「(私じゃない)」

澪「(後ろ・・・)」


澪「(誰か・・・いる・・・?)」

??「・・・おい」

澪「ひっ・・・!」

??「止まれ、ゆくな」

澪「や・・・やあっ・・・!?」

ダッ

澪「(ストーカーだ!尾けられてたっ・・・!)」

澪「(やだ・・・やだよ・・・!怖い・・・!)」


がしっ

澪「あっ・・・!?」

??「待てと・・・言って・・・」

澪「や、やだ!離してっ!やめ・・・!」

??「こ、こら・・・うぐっ」

澪「・・・!?」


老人「ぐ・・・ごっ、・・・ふっ・・・ふーっ!ふー・・・!」

澪「!・・・あ・・・ああ・・・」

老人「待て・・・あまり大きな声を・・・出・・・げほっ、・・・く・・・」

澪「(・・・あれ、この声って・・・)」

老人「たのむ、から・・・っ・・・はっ、はっ・・・」

澪「!」

澪「わ、わかっ・・・わかった、静かにしますから・・・!」

老人「・・・はっ・・・は・・・!く・・・」


老人「・・・・それを」

澪「・・・え?」

老人「・・・私の・・・げほっ」

澪「だ、大丈夫ですか・・・!?」

老人「・・・ふぅぁ・・・いくらか・・・落ち着い・・・」

澪「ひっく・・・うう・・・」

老人「・・・ぁんで、お前がベソかく・・・」

澪「だ、だって・・・怖い・・・」

老人「・・・驚かせちまった・・・すいません」


老人「・・・ちょい、ここでは・・・話せない、事なので・・・」

澪「・・・?」

老人「あっちの、小さい公園の・・・ベンチで」

澪「・・・」

澪「(パジャマ姿・・・しわくちゃな顔・・・顔色はよくない)」

澪「(・・・けど、悪い人じゃなさそうだ)」


老人「くふっ・・・おっほ・・・っ・・・」

キシ

澪「・・・大丈夫ですか?どうしてこんな・・・」

老人「・・・病院からな、抜け出した」

澪「え」

老人「・・・どうしてもな、やらにゃ、ならないことが・・・あって」

澪「し、死んじゃいますよ、無理しないでください」

老人「・・・」

老人「そいつがな」

澪「?」

老人「その、レコーダー・・・そいつにな、私の・・・残さんとな、死にきれんのだよ」

澪「・・・このレコーダー、ですか?あ、じゃあやっぱりあなたは」

老人「・・・」


3
最終更新:2010年01月25日 23:51