老人「そいつの使い方を覚えるのに苦労したよ、なんせな、書をみても、難しいのなんのってな」
澪「あ、わかりますわかります」
老人「孫はちょい、ちょいっと、使えるんだが、私はどーも・・・」
澪「あはは」
老人「君のようなね、若い子にはできるだろうが・・・私が覚えるのには、2カ月もですよ」
澪「(レコーダーの使い方を覚えるのにそんなにかかるのか・・・)」
澪「・・・え、えっと・・・このレコーダーで、何を録音しようと思ったんですか?」
老人「・・・」
澪「やっぱり何か必要だったから、そんな二カ月も使い方を勉強したわけだし・・・」
老人「・・・ああ、ちいと、な」
老人「・・・私はもうね、体が長く、もたんのですよ」
澪「・・・そんな」
老人「いやいや、もう長いこと生きましたから、十分です」
老人「・・・孫にも不出来な息子にも、私から教えられることは教えた」
老人「もうみんな独立して、安定した生活も、できている」
老人「・・・それが、親のつとめでありますからな」
澪「(・・・良いおじちゃんだ)」
老人「・・・ただ、やり残した・・・ことがあって」
澪「・・・やり残したこと」
老人「ああ・・・やり・・・うん、そうだ、そうですよ」
老人「・・・君もね、若いうちにやりたいことはやっておくといい・・・やり直しは、できんのです」
澪「・・・」
老人「・・・ま、それに、この機械が必要なわけ」
澪「な、なるほど」
老人「・・・」
澪「・・・?」
老人「このレコーダー、欲しいならあげてもいいんだが」
澪「!え、ええっ、いいですいいですっ、悪いですしっ・・・」
老人「はっは、いいのいいの、使い終わったら君へあげよう、どうせ私は、一度しか使わないし」
澪「・・・そ、それ・・・でも・・・」
老人「お礼ですお礼、こんな、死に損ないの私の話を聞いてくれた・・・それが、いや、久々に嬉しくてですね」
老人「それにちゃんと返しにきてくれた・・・最近の子にしちゃね、よくできた、いや、あなたは良い子です」
澪「・・・そ、そうですか・・・?」
老人「・・・けほっ・・・ふう、苦しい・・・」
澪「! あ、そうだ病院から抜け出したって・・・!?」
老人「ふふ、今から戻るから、大丈夫・・・・ゴホッ」
老人「・・・ふっ・・・ちょっと、苦しいだけなんで、大丈夫、病院は近い」
澪「・・・あの、さっき言ってもらった言葉なんですけど・・・」
老人「・・・ん?」
澪「・・・人の体だって、やり直しはきかないんですよ」
老人「・・・はっはっは、そうだな」
澪「労ってください・・・息子さんや、お孫さんもいるんですから・・・もし、もしものことがあったら」
老人「・・・ふ、良い子だな」
老人「・・・ぁー、そうだな、そうしよう、体は大事にするよ、けほ」
老人「・・・では、いや、ご迷惑、おかけしましてもぅしわけな・・・」
澪「い、いえいえ・・・おだいじに」
老人「ええ」
ザッ、ザッ、ザッ・・・
澪「・・・」
澪「(良い人、だったな・・・)」
澪「(正直、声はよく聞き取れなかったけど・・・でも、良い話をしてくれた気がする)」
澪「(・・・あ、名前・・・聞き忘れちゃったな・・・)」
澪「・・・」
澪「(・・・やり直しはできない・・・かぁ)」
澪「・・・よし、明日は学校だな・・・勉強、がんばるかっ」
タッタッタッタッ・・・
澪「・・・(ボーッ」
律「・・・」ヒョコッ
澪「(あの人・・・あのレコーダー使って・・・何を録音しようとしたんだろう)」
澪「(病院を抜け出してまで・・・あんなに、まだまだ苦しそうだったのに)」
澪「(・・・気になるな・・・一体どうして)」
律「わっ」
澪「!!!!」
ガタンッ
澪「っ・・・ったぁああ・・・腰が・・・」
律「はは、すまんすまん、驚いたー?いやーしかし椅子から転げるとは思わなかったわー」
澪「・・・」
澪「この、バカ律!」
ごつっ
律「・・・しっかし月曜日なのに上の空だなー」
澪「え?そ、そうかな・・・」
律「そうだよ、なんかぽーっとしているっていうか」
澪「・・・ちょっと考え事をしててさ」
律「なにっ、まさか・・・」
澪「?」
律「・・・だれだよ、その好きな男ってのはっ」
澪「もう一発欲しいんだな」
律「え、違うの?」
澪「・・・そ、そんなわけないだろっ」
律「(怪しいなぁ)」
律「(あー、数学全っ然わかんねー・・・)」
澪「(えーっと、ここを代入だから・・・あ、こうか)」サラサラ
律「(澪は全然簡単そうに解いてるし・・・テスト勉強はまた澪に教えてもらおう・・・)」
澪「(・・・ここで・・・うん、よし・・・合ってるな)」
澪「・・・」
澪「(やり直しはできない・・・・つまり)」
澪「(青春は戻ってこない・・・ってことかな)」
澪「(・・・確かにそうかも)」サラサラ
澪「(・・・勉強はやっといて損は無い・・・よなー・・・)」サラサラ
キーンコーンカーンコーン
律「あぁぁあー、やっと終わったぁー!」
澪「最後の一時間は辛そうだったな、律」
律「いやーだってもうね、ぜんっぜんわかんなかったし」
澪「そこ、胸を張るとこじゃないぞ」
律「でさでさ、今日はどうする?」
澪「え?今日?・・・今日か」
律「なんだか最近は川辺でじゃかじゃかやるのもマンネリ化してきたしさ、気晴らしにどっかいこうよ!」
澪「あー・・・うん、そうだなー・・・」
律「楽器屋ねー」
澪「ごめんな、付き合わせちゃって・・・」
律「んー?いいのいいの、どうせ暇だし、澪の新しいベース見てみたいし」
澪「ま、まだ今日は買えないんだぞ?」
律「それでもいいって、ささ、入ろ入ろ」
澪「・・・おー・・・」
律「・・・いやー、この、独特のにおいがたまんないよねー・・・」
澪「あー・・・なんかそれわかるー・・・」
律「幸せになるよなー・・・」
澪「うん・・・」
澪「・・・」
律「なるほど、これが目標なのね」
澪「・・・7万・・・」
律「・・・たっけーな・・・やっぱり数無いからかな」
澪「うう・・・中学生の財布じゃ届かないよ・・・」
律「まあまあ、買うなら私もお金出してあげるから」
澪「・・・ほんとー・・・?」
律「少しはね」
澪「うう・・・ありがとうりつー・・・」
律「よしよし」
律「ところでさ、あれ、どうなった?」
澪「あれ?」
律「昨日のレコーダーだよ」
澪「・・・ああ・・・うん」
律「? いざとなれば・・・やっぱりちょっと苦しいけど、あれを売ればすこしはお金の足しにはなるでしょうし・・・」
澪「・・・あの、律、あのな・・・実は・・・」
律「?」
律「・・・えっと、つまり・・・老人にストーキングされて怖かったけど実はそんなんじゃなくて」
澪「うん」
律「その人が実はレコーダーの持ち主で・・・」
澪「うんうん」
律「十分くらいお話してから、そのおじいさんは病院に帰っていったと」
澪「そうだよ」
律「・・・病院を抜け出してねぇ・・・パワフルなおじいさんだこと」
澪「・・・あんまり、元気そうじゃなかったけど・・・」
律「ああ・・・そっか」
澪「レコーダーに声を入れたのは、その人だったよ」
律「・・・なんでまた、死にそうなときに声を入れるかねぇ・・・」
澪「・・・それは・・・私にもよくわからないな」
律「老人の考えることはわかんないなー」
澪「・・・」
ブロロロロ・・・ブロロロ・・・
律「・・・遺言、かな」
澪「え?」
律「だってそれしかないでしょ、よぼよぼのおじいちゃんが死にそうなときに残したいものっていったらさ」
澪「・・・そ、そんなこと言わないでよ、怖いだろ・・・」
律「そうか?怖くはないと思うんだけどな・・・」
澪「うう・・・」
律「レコーダーに残しておきたい・・・自分の口からは言えないことだったり」
澪「・・・」
律「あり得るよね?」
澪「・・・かも、しれないけどな・・・」
律「だろ?」
澪「でもだからって・・・」
律「ん?」
澪「だからって、どうするっていうんだよ」
律「・・・そうだな」
律「あはは、遺言とかだったからって、私たちには関係ねっか!」
澪「・・・そう、だな」
律「あはは、ばからし、早く行こうぜ、もう信号青だよ!」
澪「あ・・・・律待ってー」
タッタッタッタッ・・・
澪「(・・・あのおじいちゃん・・・一体何を、レコーダーに入れるんだろう)」
澪「(ちょっと・・・気になる・・・な)」
ごろん
澪「(・・・ふー・・・やっぱりベッドは落ち着くなぁ・・・)」
澪「(今日は沢山歩いたから・・・へとへとだ・・・)」
澪「(・・・)」
澪「・・・疲かれた・・・けど」
ガバッ
澪「・・・時間を無駄にしたくない」
澪「(・・・何かするか・・・作曲・・・作詞・・・)」
澪「(あまりやったことないけど・・・)」
澪「(・・・やってみよう、チャレンジしてみよう)」
カリカリ・・・
澪「(やっぱり詞は可愛くないと・・・うん、良い感じ)」
澪「(“おひさまのにおいのベッドであったかく包んで”・・・うん、筆が進む)」
ヴーッ、ヴーッ
澪「! (メールだ)」カパ
『律:よーっす、明日どっかいかない??』
澪「律か・・・・別に・・・いいよ・・・っと」
澪「・・・」
澪「(明日か・・・どこ行こうかな・・・)」
『律:どこにする?』
澪「・・・あ、やっぱり来たか・・・うーん・・・」
澪「ファーストフード店でもいいけど・・・なんだかな」
澪「・・・」
澪「・・・そうだ」
澪「・・・・病院・・・に、立ち寄って・・・みたいん・・・だけど・・・っと」
澪「・・・律、怒るかなー・・・」
最終更新:2010年01月25日 23:53