和「明日までに進路調査表だしてねみんな」
「あ、真鍋さーんこれお願い」
和「園芸部の部費申請ね。わかったわ」
「和ちゃんこれもよろしくぅ」
和「ええ」
唯「むぅ」
律「幼なじみをまじまじと眺めてどうかしたか? 唯」
唯「りっちゃん。和ちゃんってさ……何か弱点ないのかな?」
律「わたしに言うなよ!」
紬「幼なじみの唯ちゃんでも知らないの?」
唯「可愛いとこならいっぱい知ってるけど……弱点は知らないのです」
澪「二年の時同じクラスだったけど…確かに弱点というか欠点がないよな、和は」
唯「澪ちゃんなら怖いもの。律ちゃんはちまちましたもの。ムギちゃんは……?」
紬「太りやすい…かしら」
唯「そしてわたしは一つのこと以外の集中力……他色々」
律「ああ、ちゃんと自覚してるのか」
唯「人はどこかに弱点を持ってるものなんだよ!! なのに……」
澪「和の場合それがないって?」
律「ま~生徒会長だし、成績優秀、運動神経もいい。完璧と言えば完璧だな」
唯「と言うわけで和ちゃんの弱点を探しましょう!」
澪「なんでそうなる」
和「何やってるの? 次移動教室よ」
律「今和の話してたんだよ。な、唯」
唯「くぅ~移動教室をみんなに訴える和ちゃん健気っ」
和「何言ってるのよ……」
澪「あ~気にしない方がいいと思うよ。いつものことだか」
紬「和ちゃんの弱点ってなあに?」
律澪「(直球だーッ!)」
和「えっ? 弱点?」
律「唯がさ、和は完璧で弱点がない~って喚いてるんだよ」
和「そんなことないわよ。ほら、私目とか凄く悪くて眼鏡がないと前が見えないぐらいだし」
澪「ああ、そう言われたらそうだった」
律「和の弱点見つけて良かったな、唯」
澪「唯?」
唯「違うんだよ…りっちゃん」
律「なに…?」
唯「それを補って有り余るものがあるよね……!」
律「はっ!!! 眼鏡か!!!」
和「えっ」
澪「た、確かに眼鏡は和の魅力を更に引き出してる…」
律「眼鏡と言えば和! 和と言えば和……。」
紬「生徒会長で眼鏡さんなんて理想の生徒会長図よね」
和「ちょっと…みんなまでからかわないでよ///」
澪「いつもは凛々しいのにこうやってたまに照れる姿が……!」
紬「いいわ……ッ!」
和「二人ともちょっと落ち着いて!」
唯「つまり和ちゃんに弱点はないんだよ!!!」テレッテッテッテテレレレ~
律「まさにキングオブ完璧……」
澪「これは確かに認めざるを得ないな」
紬「そうね~」
和「もう……。わかったからそろそろ移動しないと間に合わ(ry」
唯「こんな時でもちゃんと私達が遅刻しないように気遣ってくれるその優しいさプライスレスだよ和ちゃんっ!」ビシッ
和「もう好きにして……」
──生徒会室──
和「はあ……」
「どうしたんですか会長?」
和「……。ねぇ、私ってそんな完璧そうに見えるのかしら?」
「見えます見えます! この学校で一番誰が完璧に見えるか? ってアンケート取ったらまず和さんとさわ子先生の1.2フィニッシュですよ!」
和「……そう。……はあ」
「あれ? 嫌でした?」
和「そんなことないわ。そんなことないけれど……はあ」
「気苦労が絶えませんね生徒会長は」
和「ほんとにね…」
「そんなに完璧に見られるのが嫌なら秋山先輩みたいに壇上でパン(ry」
和「やるわけないでしょっ!!!!!」
──帰り道──
和「……あんまり気にしない方がいいわね、こういうことは。普段通りにしよう」
唯「あっ! 和ちゃーん!」
和「あら、唯。今部活の帰り?」
唯「うんっ! みんなも一緒だよ~」
律「おっすぅ」
澪「生徒会の仕事お疲れ様、和」
和「ありがとう澪。あなた達もお疲れ様」
律「わたしにもお疲れ様くれよみ~お~」
澪「ならもうちょっと練習しようなり~つ~?」
梓「今日もほとんど練習してないじゃないですか!」
律「そうだったっけ?」
澪梓「そう(だ!(です!」
梓「全く…和先輩を見習って欲しいです」
和「……」
律「わたしは和みたいに完璧に出来てないもーん」
和「!?」
澪「律! そんな言い方……」
和「完璧……ね」
紬「ごめんなさい和ちゃん。りっちゃんもそんなつもりで言ったんじゃないと思うから」
澪「ほ~ら、律、謝れよ」
律「……」
澪「律!!」
唯「二人とも喧嘩は良くないよぉ…」
和「ごめんなさい…私のせいでこんな空気にしちゃって…」
律「……ぷ、ぷははっ! ほら! 言っただろ? 和は完璧だって」
和「えっ」
梓「絶対怒ると思ってました…」
唯「和ちゃんは優しいんだよぉ」
澪「ごめんな、試すようなことしちゃって。律がどうしてもって言うから…」
紬「一芝居したの。ごめんね和ちゃん」
和「もう……みんなしてからかうなんて酷いわね」
律「ごめんな、和。もうしないから。それにしても完璧だな~和は」
梓「ほんとに完璧なんですね」
澪「ああ。和は完璧なんだ」
紬「完璧さんね」
唯「さすが和ちゃんだよ!」
和「……完璧」
って……何かしら。
私はただ苦手なことは克服するようにしてきただけなのに。
いや、普通完璧と言われたら喜ぶべきところなのだろう。けど……今はそれが酷くつまらない気がした。
和「私、そろそろ帰るわね。みんな遅くならないようにするのよ」
律「ハーイ」
和「……ッ!」
唯「和ちゃん……?」
和「な、なんでもないわ。じゃあね、唯」
唯「あ…っ! ちょっと待って!」
和「ん?」
唯「今度の日曜日みんなで隣町に買い物しに行くんだけど和ちゃんも来ない?」
和「えっ、いいのかしら?」
澪「何言ってるんだよ和。いいに決まってるだろ」
梓「はい。勿論です」
紬「人数が多い方がきっと楽しいわ」
唯「ね! いこっ! 和ちゃん!」
和「みんながそう言うなら……」
唯「じゃあ決まり! 今度の日曜日駅前に集合だから!」
和「ええ、わかったわ」
律「自転車で行くから忘れずに乗ってこいよ~。って言うまでもなかったか」
澪「そうそう。和がそんな忘れ物なんてするわけ…」
和「」ガタガタガタガタ
澪「えぇっ!!?」
和「だ、だ、大丈夫よ。辞典車ね、わかったわ」
律「なんか発音違ったけどほんとに大丈夫か?」
紬「和ちゃん凄い汗よ?」
ハンカチで顔を拭ってくれる紬に不気味な笑みを浮かべながら礼を言う和。
和「じゃ、じゃあ私生徒会室行くわね」
澪「えっ、帰るんじゃないの?」
明後日の方向に歩き出した和、しかし、
ドサッ──
梓「あっ、和先輩お財布落としましたよ!」
和「あ、危ない危ない。ありがとう梓ちゃん。じゃあこれ届けて来るわね」
律「どこにだよ」
しばらく動揺を隠しきれない、と言った感じで右往左往する和をみんなで見守った後、和は無事帰って行った。
律「……見たか?」
澪「ああ……」
紬「ええ……」
梓「はい……」
唯「うん……。あんなに動揺する和ちゃん初めて見たよ」
律「一体何が彼女をそうさせたのか……何か思い当たる節あるか?」
澪「う~ん…あったかな…」
梓「……もしかして自転車がキーワードじゃないですか?」
律「……」
澪「……」
律澪「まさかぁ~」
梓「ですよね~」
紬「でもあの汗のかきかた…尋常じゃなかったわ」
律「……ってことはなんだ。和が……自転車に乗れない……とか?」
澪「あはは! 面白いこと言うなあ律は! このこのぉ~」
律「やめろよ~」
梓「ありえませんよそんなこと。唯先輩じゃないんですから」
唯「あずにゃん!? わたし自転車乗れるよ!?」
梓「……えっ!!!?」
唯「乗れないと思われてたんだ!!? 凄い心外だよあずにゃん!!!」
紬「私達はとんでもないものを見てしまったのかもしれないわね……(それにしても動揺する和ちゃん可愛かった……)」
律「で、唯。和は自転車乗れないのか?」
唯「……そう言えば乗ってるの見たことないよ! 中学も高校も徒歩通学だったし」
梓「謎は深まるばかりですね……」
澪「ちょっとみんな待って! 今誰の話をしてると思ってるんだ? 和だぞ? 生徒会長で人望もあってみんなの人気者の和だぞ?!」
律「そ、そうだった! 和は完璧だったな!」
梓「唯先輩が生徒会長になるぐらいありえないです」
唯「今日のあずにゃんクール……」
紬「自転車に乗れないならそれはそれで…」
澪「きっと録画し忘れたのを思い出したとかだよ! そうに決まってる!」
律「何録ろうとしたのかすっごい気になるっ!」
律「まあ日曜日になったらわかるしな」
澪「そうだな」
梓「きっと杞憂ですよ」
紬「どっちでもどんとこいね」
唯「和ちゃん……」
今は居ぬ友を思い空に思いを馳せる唯……。
その友はというと……。
────
和「」ガタガタガタガタ
部屋で震えていた。
和「じ、じ、自転車で行かなくても良くないかしら? えっ、理由? え……今日は徒歩の気分なのよ!!! 苦しいわね……」
言い訳を考えていた。
和「どうしよう……」
和「こんな歳にもなって自転車に乗れないって……」
普通の人間ならここで袋小路、行けど悩めどで日が暮れると言った具合だろうが真鍋和は違った。完璧故のプライド、と言ったところだろうか。
和「日曜日まで後5日……」
動く───
和「練習よ!」
しかしそれは偽りの奮起……。
そんなもの……乗って5秒で吹き飛ぶっ……!
自転車はな、甘くないんだ……。
と、誰かが言った気がした。
和母「和~。ちょっとお醤油買ってきてくれない?」
和「うんわかった(肩慣らし(ファーストミッション)にはちょうどいいわね)」
──庭──
庭に止めたまま埃を被っている自転車を引っ張り出す。
和「中学の時以来かしら……」
懐かしむように撫でる。
和「後にも先にも……諦めたのはこれだけね…きっと」
和「うん。問題なさそう」
和「よいしょ……」
サドルを跨ぎ、ハンドルを握り締める。
その頭には白いヘルメット。しっかり顎紐も止めて完全装着といった様子。
和「行くわよ……」
これからまるで合戦に行くかのような面ごちでゆっくりとペダルに足を置き────
ライドオン────
和「あっ」
と思うのもつかの間、バランスが取れない。
これじゃコケてしまうと思った和は本能で漕ぎを選択、その推力で機体を立て直す作戦をとった。
ぐんっ──
和「ふあっ」
ペダルを力強く踏みつける。車体が進むと同時に和の体も風を切った。
和「私……乗れて……」
フラフラ……
和「あ」
ガタガタガタッ!
和「あららら」
ガタガタガタガタッ!!!!
和「あららららららら」
ドシャーン……。
なかった。
無惨にも転倒し、自転車のタイヤは虚しく空転している。
「大丈夫ですか!? お怪我ないですか?」
和「あ、ありがとうございます。あれっ、眼鏡……」
「はい、これ」
和「あ、どうも」
装着(スチャ
和「って憂いいいいいいいいいいいいいい」
憂「ふふ。こんばんは和ちゃん」
和「ほ、ほんとに憂なの!?」さわさわ
憂「憂だよぉ~」
顔の造型を確かめるかのように憂のほっぺたを触ったりつついたりする和。
和「唯じゃなくて良かったわ……」
心底安心したと言った感じで息を吐く、
和「やっぱりどっちも駄目っ!」
ブンブンと首を振り否定。どっちも嫌だったようです。
和「憂……このことは……」
憂「誰にも言わないよ! だから安心して和ちゃん」
和「憂……!」
きっと和から見た憂ビジョンには、後ろから後光が射してるに違いない。
カラカラカラ──
憂「和ちゃん自転車乗れなかったんだ。初めて知ったよ~」
和「そうなのよ……高校生にもなって自転車に乗れないなんて……全世界で私だけよね……」
夕日を背に、一人は買い物バック持ち、一人は自転車を押しながら対になって歩いている。
憂「……そんなことないよ」
和「ありがとう、憂。そうやって慰めてくれるのは憂だけよ。きっと律だったら……考えるだけで怖いわね」
憂「慰めてなんか……」
和「?」
和「はあ……どうしようもないわね私。ごめんね憂。こんな悩み打ち明けられたところでどうしようもないわよね……」
憂「…自転車に乗れないってそんなにいけないことなのかな?」
和「いけない……ことはないと思うけど。やっぱり恥ずかしいじゃない……高校生にもなって自転車に乗れないだなんて。きっと笑われるわ……世界で和だけだって……」
憂「ッ!! ……。……!」
憂「和ちゃん、ちょっと自転車貸してくれない?」
和「ええ、いいけど……」
憂はそう言うと買い物バックをカゴに入れ、和の自転車に跨がる。
和「憂、ヘルメットつける?」
憂「ううん、いいよ……」
和「よね……。ヘルメットなんてコケない人にはいらないわよね……」
憂「上手く転けるからっ!」
和「えっ」
そう言うと憂は両足で地面を蹴り車体に体を預けた。
最終更新:2010年12月04日 03:44