和「あっ、ああっ! 駄目っ!」
和の目から見てもそれは危なっかしくて見てられないと言った具合だった。
数秒後、
ドシャーン──
和「憂っ!!! 大丈夫!?」
転倒先に急いで駆け寄る和。
憂「だいじょうぶだよ……。自転車ごめんね」
和「いいのよそんなことは! もう……なんでこんなこと」
憂「二人だよ」
和「えっ……」
憂「世界で一人じゃないよ。乗れないの」エヘヘ
そう言って笑う憂。
一人じゃない、だから……大丈夫だと。
和「憂……」
この時、和は決意したのかもしれない。
この子の為に絶対に、二人とも自転車に乗れるようになってやると。
和「憂、一緒に練習しましょう。ね?」
憂「うんっ!」
こうして二人の特訓は始まった。
憂に勇気をもらった和と、和のため自分のために奮闘する憂。
二人の決意は何よりも硬く……。
ドシャーン──
硬く……。
ドシャーン──
硬い筈だ……きっと。
ドドシャーン──
──火曜日──
学校が終わってすぐに帰り、自転車を押して近くの川原へ直行する。
頭には白いヘルメット。顎紐も抜かりなくつけられている。
和「憂~待ったかしら?」
憂「今来たところだよ和ちゃん」
和「それが憂の自転車……可愛いわね」
憂にお似合いの淡いピンク色の自転車だった。和の自転車は青っぽく、どちらかと言えば男の子が乗りそうな風体だった。
きっと自分には女の子らしい色は似合わないだろうと中学生の和は思ったのだろうことが伺える。
憂「えへへ。ありがと。お姉ちゃんとお揃いなんだ~」
和「ほんとお姉ちゃん子ね憂は」
他愛な会話をしたをした後、いよいよ練習にとりかかる。
和「やっぱりバランスが大事なんじゃないかと思うのよね。漕いだ時にもバランスを保てれば後はその繰り返しだから」
憂「じゃあ私が後ろで支えててあげるね!」
和「頼んだわよ、憂」
自転車に跨がり、いざ行かんと正面を睨み付ける和。
和「は、離していいって言うまで離したら駄目だからね?!」
憂「わかってるよぉ」
和「じ、じゃあ……」
片足で地面を蹴りつけ、ペダルに両足を乗せる。
憂「和ちゃんっ! 漕がないと!」
和「え、ええっ」
あたふたしながら漕ぐも、今にも転びそうな勢いである。
憂が手を離した瞬間、おむすびころりんよろしくな勢いで転がって行くだろう。
自転車の上であたふたしている姿を見ると、ついつい意地悪してしまうのが人の性。
それがいつもは完璧の和なら尚更可愛く見えるのだろう。困らせたくなる。憂も人の子であった。
憂「ふふ、離すよ~?」
和「待ってまってまって離さないでお願いだからっ!」
憂「嘘だよ~」
和「なんだ良かった……」
憂「今だっ!」
手を離した瞬間、
和「あーーっ」
ドシャーン──
和「離さないでって言ったのにぃっ!」
憂「ごめんごめん。でもちょっと乗れてたよ?」
和「ほんとに!?」
憂「うんっ! 後は漕ぐ時にバランスが取れたら乗れたも同然だよ!」
和「憂にそう言われるとなんだかやれる気がしてきたわ! 次、行くわよ!」
憂「がんばって和ちゃん!」
そうして彼女達の訓練は夜遅くまで続いた。
──平沢宅──
憂「ただいま~」
唯「憂いいい~お腹減ったよぉ~」
憂「ごめんねお姉ちゃん。着替えたらすぐ支度するから」
唯「着替えたら? って憂泥だらけじゃないっ! どうしたの!?」
憂「えっ…えっと、ちょっとコケちゃって。えへへ」
唯「も~憂はおっちょこちょいだなぁ」
憂「心配させてごめんねお姉ちゃん」
唯「憂は先にお風呂入りなさい! 今日は私も晩御飯作るの手伝うから! 先に作ってるね!」
憂「お姉ちゃん!?」
唯「じゃがいも剥いとくね!」フンスッ!
憂「じゃがいも使わ……うん、ありがとうお姉ちゃん」
──真鍋宅──
和「やっぱりバランスが大事みたいね……内腿筋で上手くバランスを取る……と」
和「漕がなきゃ慣性が生まれないから転けやすくなるのね……所謂ジャイロ効果ってやつね……」
和「ハンドルは押すんじゃなくて傾けるって感じか……いいこと書いてるわね」
和「ふう、ファイリングしてたら3つにもなっちゃった。ネットって便利よねほんと」
和「これで明日には乗れるわね! 待っててね、憂」ノドンッ!
──水曜日──
和「お待たせ、ちょっと生徒会の仕事があって」
憂「ううん。全然いいよっ! 生徒会長だもん忙しいよね」
和「憂こそ家事とか大丈夫なの?」
憂「朝早く起きて夜の分も仕込んでるから大丈夫だよ」
和「苦労かけるわね……」
憂「お互いのためだもん、平気だよ! 今日も頑張ろっ和ちゃん!」
和「ええ」
憂「離すよ~?」
和「だ、駄目! もうちょっと支えてて……」
憂「だーめ♪」
和「あーーーーっ」
ドシャーン
憂「凄いよ和ちゃん! 昨日より乗れてたよ!」
和「結構スパルタよね憂……」
憂「まだ腰が引けてるよ和ちゃん! こうやって体は真っ直ぐにして怖がらずに前を見て漕ぐんだよ!」
お手本を見せるように自分の自転車を乗って見せる。
和「なるほど…腰はまっすぐにした方が全体のバランスがいいのれてるうううう!???」
憂「えへへ~。昨日で大体コツ掴んじゃった」
和「……これが天才と凡人の差ってやつかしら……」
──平沢宅──
唯「憂遅いなぁ……。どうしたんだろ」
憂「ただいま~」
唯「あ、憂。おかえり~ってまた泥だらけー!?」
憂「えへへ。純ちゃんと砂遊びして来たの!」
唯「憂……。高校生になって砂遊びは……どうかと思うよ?」
憂「そうかなぁ? 楽しいよ~砂遊び♪ じゃあお風呂入ってくるね!」
唯「しょうがないなぁ。じゃあまたじゃがいも剥いてるね!」
憂「うんっ! お願いお姉ちゃん」
──真鍋宅──
和「これはあんまりやりたくなかったけど……背に腹は変えられないわね。高校生だけど自転車乗れない……と」
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18:04:44 .54 ID:NODOKA/50
乗り方教えてください(□‐□*)
和「頼んだわよ……!」
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18:05:44 .34 ID:tmadjjga0
(□‐□)
↑何この顔文字うぜぇ
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18:05:54 .21 ID:jmwjajg0
以後、この顔文字で1000目指すスレ
(□‐□)
和「頼った私がバカだった……! 猫にもすがる思いを見事に踏みにじられ……」
121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/18(木) 18:14:44 .44 ID:AZUSA2GO0
恐怖心が一番の敵だと思いますよ。転けることは恥ずかしいことじゃないです。
転けて覚えろ、なんて古くさいことは言いませんが転ける勇気は大切だと思います。
和「……転ける勇気……か」
和「そうよね。転けるからって乗らなかったらずっと乗れないわよね。転けてもいいんだって気持ちが大事ってことね! 良いこと言うわねこの人。ありがとう……と」
──木曜日──
第一種搭乗配置。
一番レッグ、装着。
二番レッグはスタンバイモードへ。
ハンドルは固定、ブレーキ、作動を確認。
脈拍、心拍数、共に正常。
ヘッドギアの防御装置稼働率、97%。
では、発進──
5m……10m突破!!!
補助輪、パージ!!!
補助輪憂ちゃん、パージ!!!
ERROR!!ERROR!!
駄目です!バランス合いません!!
ペダルとレッグとの神経接続、解除されていきます!脈拍、心拍数上昇!!!
いかん!!転けるぞ!! 脱出しろ!!
駄目です!!!間に合いません!!!
ドシャーン──
和「もう駄目よ……このまま一生乗れないのよ……きっと」
憂「きっと和ちゃんなら乗れるよ! だから諦めないで!」
和「でもこんなに練習してるのに初めの頃とほとんど進める距離は変わらないし……」
憂「そんなこと…」
和「憂はすぐ乗れたからそんなこと言えるのよ……。私は憂みたいに完璧じゃないわ……」
憂「ッ!!!! 和ちゃんのバカッ!!!! もういいっ!!!」
涙を滲ませながら自転車に跨がり去って行く憂。
和「あっ……憂……! もうあんな遠くに……。自転車って凄いわね…」
和「自分が乗れなくてイライラしてるからって乗れる憂に当たって……何やってるのよ私…」
俯くと、眼鏡のレンズに涙が溜まる。
情けなくて、最低で……。
和「何が完璧よッ! てんで駄目じゃない
真鍋和!! 完璧なら完璧らしく自転車ぐらい乗りなさいよ!!!」
和「憂を泣かせてんじゃないわよ!!!」
和「私っ!!!」
自転車を掴み上げ乗り込む。
転けることもいとわず漕ぎつける。
和「絶対ッ! 絶対ッ! 諦めないッ! 諦めてたまるもんですかっ!!!」
──平沢宅──
唯「あ、おかえり~憂。もうちょっとでご飯出来るよ!」
憂「うん……」
唯「今日はいつもと違って元気ないね、憂」
憂「喧嘩しちゃった……」
唯「純ちゃんと?」
憂「……」
唯「憂。憂が何やってるのかは聞かないよ。でも悩み事があるならいつでも言ってね」
憂「お姉ちゃん…」
唯「あっ! カレールーがないや。ちょっと買って来るね! お風呂沸いてるから!」
憂「あっ! お姉ちゃん!」
チリンチリン──
唯「久しぶりの出撃だね~自転太。風が気持ちいいね~」
土手沿いを自転車で走る。景色が後ろへ飛び去って行き、風が体を包む。
まるで羽根が生えたみたいに体が運ばれて行く爽快感。
気持ちがいい、まさにこの言葉が当てはまる。
唯「ん?」
風景を眺めながら自転車を漕いでいると、川原傍で自転車に乗っている人影を捉えた。
ドシャーン──
唯「練習中かな? でも転けても転けても立ち上がって……偉いなぁ」
和「はあ……はあ……もうちょっと……もうちょっと」
唯「あれ、もしかして和ちゃん……?」
和「よっ……とと」よろよろ
和「まだっ……まだよ!」よろよろ
和「後5m!!!」
和「よし20m行っ」
ドシャーン
和「っつた……でも目標達成ね。次は30mにしましょう」
そう言うと和は歩数を使って30mの目安線を引き始めた。
唯「ほんとに乗れなかったんだ……」
木陰でそれを見守る唯。
和「はあっ……はあっ」
唯「和ちゃん……」
唯「(初めから完璧な人間なんていないんだ。和ちゃんはああやって苦手なものは克服して来たからこそ何でも出来るようになったんだ)」
唯「そっか…憂は和ちゃんの自転車に乗る練習を手伝ってたから遅かったんだね…。じゃあ喧嘩したって言うのも………そうだ!」
──真鍋宅──
和「はあ……」
何回目だろうか……、この溜め息は。
溜め息をつく度幸せが逃げると云う言い伝えがあるがそれが本当ならもう一生分の幸せがなくなってしまったんじゃないかと思うぐらい溜め息をついただろう。
和「結局30mはいけなかったし……はあ……」
ブーブー
マナーモードにしてあった携帯が震える。
和「電話……唯から? 何だろ……」
もしかしたら憂のことかなと身構えつつ電話をとる。もしそうならば謝らなくては。
和「もしもし」
唯『もしも~し。和ちゃん?』
和「どうしたのよ唯。こんな時間に」
唯『ご飯もう食べた? 私が作ったカレー食べたくない!?』
和「唯がカレー?! ほんとに!?」
唯『そんな驚くことかなぁ? 憂も和ちゃんも大げさだよぉ』
和「憂……何か言ってた?」
唯『何が?』
和「ううん。なんでもない」
唯『……憂も待ってるから。来てね。じゃっじゃじゃ~!』
和「えっ!? ちょっと唯!? もしもし!? 切れてる……全くもう……勝手なんだから」
最終更新:2010年12月04日 03:45