タタタ…

律「……お、梓?」

梓「ああ、律先輩!」

律「なーにそんな急いでんの」

梓「今日は部活お休みしますね!」

律「え? 唐突だなぁ……何かあんのか?」

梓「あります! それでは!」

タタタ…

律「変なやつー……」

けいおん!一番くじ! いよいよ発売!

梓「このくじが出るのを待っていた」

梓「クリアファイル戦争から一週間……あの時の私は馬鹿だった」

― 一週間前 ―

梓「これが噂のクリアファイルかー」

純「へ~、お菓子二つ買えば一枚貰えるみたいだよ」

梓「純買うの?」

純「うん。せっかくだし。それにまだ全員分あるうちに好きなのもらっておきたいじゃん?」

梓「(今月厳しいし……)私はいいや。欲しくなったらあらためて買うし」

純「そのころには全部なくなっちゃうんじゃないの~」

梓「あははは、まさかぁ」

……――


― 数日後 ―

梓「うそ……ここも全部ない!」

梓「レジ裏に隠してたりするんじゃないですか!?」

店員「いえいえ」

梓「ここでもう六軒目……なにがどうなってるの」

梓(まさかあのクリアファイルがそこまでレアな品になるなんて思いもしなかったよっ)

梓「なーんであのとき買わなかったかなぁ……うう」

店員「聞くところによると、隣町のローソンにまだ残ってるとか」

梓「本当ですか!?」

店員「本当かはわかりかねませんね」

梓「ありがとうございます! さっそく一漕ぎしてきますね!」

・・・

梓「ない!? 騙されたの……!?」

唯「ほら見てみてー」

紬「あ、クリアファイル。唯ちゃん全部揃えたのね」

梓(!!)

澪「私、梓のだけ揃わなかったんだぁ」

唯「ほぉほぉ、それじゃあ一枚あげよう」

澪「いいの?」

唯「私、別に全部揃えたかったわけじゃないから。いいよ、ほれ」

澪「わぁ……ふふふ」

律「よかったな。澪のやつ、結構悔しがってたんだぜ」

梓「わ、私も――――」

唯「あ、でも後のはあげたくない! 大事に使うから!」

梓「ぐぬぬぅ……」

……――

梓「今回はあんなヘマしないもん」

梓「今までに多くの多々買いを乗り越えてきたこの私がこんな一番くじごときに苦戦するわけがない!」

梓「見よ! このメダルたちとS.H.フィギュアーツたちを!」ババーン!

梓「……ふふ。おっと」

カチッ、ウィーン

梓「スレのチェックも欠かさずに、と」

梓「あ、一応コンビニに電話入れておこう。念のため、念のため……」

・・・

梓「予約箱買いされたぁ!? はぁ!?」

梓「マジキチ……」

梓「近場でやってるところ三軒だけ……大丈夫かな」

梓「まぁ、なんとかなるよね。コンビニには30分前ぐらいに着けばOK」

梓「今のうちにお風呂に入って、仮眠をとっておかなきゃ!」

タタタ…

梓母「あら、お風呂?」

梓「そうだよー」

梓母「まだ湯船張ってないんだけど」

梓「シャワーだけでいいよ!」

梓母「そう? 風邪ひかないでよねー」

梓「大丈夫、大丈夫!」

梓「さささ寒い、寒い……」ブルブル

梓「ね、寝なきゃ……仮眠を……」

梓母「梓ぁー! ご飯できたー!」

梓「いいー! 今日お腹減ってなーい!」

梓母「そうー? じゃあ一応冷蔵庫入れとくからー!」

梓「はーい! ……さて」

梓「目覚ましを十一時にセット。よしよし」

梓「では、おやす―――」

Prrr…

梓「こ、こんなときに……誰? ……ああ、純か」

梓「もしもし、何か用」

純『なんか素っ気ないなぁ……まぁ、いいや』

純『それはそうとけいおん!のくじのこと知ってた?』

梓「!」

梓「う、うん……それが?」

純『今日の十二時ぐらいからやるみたいなんだけど。梓、一緒に引きに行こうよー』

梓「一緒に……」

純『だめ?』

梓「ううん! 行こう、一緒に!」

純『おおぉ~! じゃあ詳しくはメールで! んじゃね~』ピッ

梓(二人で引いた方が効率がいいかもしれない……! 私が五回、純が五回だとして……むふふ)

梓「さて、おやすみ私。がんばれ私」zzz…

ジリリリリ…

梓「ん……はっ!」

梓「時はきた! それだけだ。さて、すぐに支度を……」

梓「外寒そうだし、ちゃんと着込まなきゃね」

梓「お金は……一回六百円だったから……五千円ぐらい持ってけば間に合うでしょ」

梓「携帯でいつでもスレの確認、と。これで十分かな!」

梓「おぉ、そろそろ家を出なきゃ純が……」タタタ…

梓母「ちょっと! こんな時間にどこいくの?」

梓「戦い」

梓母「は?」

梓「負けられない戦いがあるの。行ってきます!」ガチャリ

梓母「……風邪でもひいちゃったのかしら。嫌だわ」

純「ふひ~、着いたね」

梓「まだまだ、安心するのはくじを引いてからだよ」

純「はは、すっかり意気込んじゃって」

ピロリ、ピロリ

店員「らっしゃーせー」

梓「くじくじくじ……んんー」ウロウロ

純「まだ十二時前だって。まぁ、一応聞いておくか……すみませーん。けいおん!の一番くじってやりますよねー?」

店員「あ、終了しちゃったんです」

純・梓「は?」

店員「さっき全部売れちゃったんですよね。ちょうどついさっき。ほんとついさっきなんですねー」

梓「うそ……」

店員「すごい勢いでしたよぉ、マジ戦慄ですわ」

純「まだ十二時なってないのにズルイよ!」

梓「本当だよっ」

梓「でも大丈夫。ここらでならもう二軒のコンビニが扱ってたから希望はあるよ! 純!」

純「そうだったの? それなら大丈夫だね」

純「いや、でも待てよ……」

純「なんか嫌な予感しかしない」

梓「……」

梓(この感覚……覚えがあるよ……)ゾゾゾ

梓「純! 急ごう! こうして話している時間が惜しいっ」

純「お、おう!」

ガヤガヤ…

純「うわぁ……何あれ」

梓(これは……)

純「コンビニの中にあんなに沢山の人が入ってるの初めて見た!」

梓「異常だ……異常すぎる……」

梓(クリアファイルのときもこんなだったのかな……。甘くみてたよ)

純「ちょっと記念に写メ撮っとこ」カシャ、カシャ

梓「そんなことしてる場合じゃないよ! 店の外にも人は一杯いるんだから油断できない」

梓(幸いここはまだ一番くじが開始されていない……! ここが勝負どころ! ファイト、私!)フンス

純「にしてもここなんか酸っぱい臭いがぷんぷんするね……そういや梓は何賞狙いなの?」

梓「そうだなぁ……きゅんキャラは個人的にコンプリートしておきたいし、B、C、D、E……あ、ピンズにグラス、ストラップも!」

純「ほぼ全部じゃん。あれ、でも何か一つ抜けてない?」

梓「気のせいじゃない?」

A「設置されたぞぉー!!」

B「並べ!!」

「おおおおおぉぉぉぉ!!」ドドドドド

店員「ほ、他のお客様の迷惑になりますので、店内で大声は……」

C「はやくくじ引かせてー!!」

D「は、ははははやく! ふぅー、ひぃー、ふぅー、ひぃー、ふがっ!」

純「あわわわわ……」

梓「純、いこう!」

純「こ、怖いよっ! 嫌だよっ」

梓「っ、怖じ気づいたか! いい、私一人でも並ぶ!」

梓(まずいなぁ……)

梓(どんどん上位の賞がなくなっていく……)

B「なに当てた?」

E「魔除け人形当たったよ」

C「すっげー、さわちゃんでけー」

梓(あれがA賞……実物見たら欲しくなってきたかも)

店員「け……けいおん!一番くじ! 残りわずか……です」

「な、何枚だ?」「十枚らしい……」

「さっきの奴が三十枚も引いていくから……」「これじゃあ引けないな、他の店行った方がいいかも」

梓(たしかに……。今の私の順番だと確実に引けない! だったら――)

梓「純! 別の店に行こう! ここはもうダメだよっ」

純「え、えぇー!? う、うう……わかったよ……」

梓「はぁ、はぁ」

純「ここは……さっきの店より人が少ない」

「ありがとうございましたー」ピロリ、ピロリ…

紬「うふふ」

純「あれ、あれってムギ先輩じゃない?」

梓「え? あ……」

紬「あ! 梓ちゃん、こんばんは。二人とも、こんな夜更けにどうしたの?」

純「えっと、くじを」

紬「くじ? ああ、一番くじのこと?」

梓・純「知ってるんですか!?」

紬「もちろんー」

紬「ほら、見て」ドン!

梓(箱ぉ!?)

紬「箱買いしちゃったの。うふふ」

梓「ということは……まさか」

純「梓! くじ、ここも売り切れだって」

梓「む、ムギ先輩……」

紬「どうしても欲しくて~」

梓「……」

梓「か、被ってるやつ……売ってくれませんかね」

紬「え? これのこと? えっと……」

梓(ムギ先輩なら……心優しいムギ先輩なら!)

紬「やだ」

梓「え……」

梓「な、なんで!?」

紬「言ったでしょ? どうしても欲しかったって」

紬「それじゃあ、もう遅いし。じゃあね、梓ちゃん。純ちゃん」

純「あ、お疲れ様です」

梓「……」

純「梓、この調子ならどこもこんな感じだよ。諦めようよぉ」

純「それに私、なんか色々疲れちゃって……」

梓「……やってやろうじゃない」

純「え?」

梓「やってやろうじゃない! これは試練。過去に打ち勝てという試練と私は受け取った……!」

梓「人の成長は……未熟な過去に打ち勝つことだとね。純もそう思わない?」

純「よく分かんない……」

梓「むーっ……」ムス

梓「はぁ、はぁ」

梓(勢いで隣町まで来ちゃったけど……もうこんな時間。本当にあるかな、くじ)

梓「ううん! 諦めちゃだめ! 負け腰はよくないよ、梓! ファイト、ファイト!」

梓「よし!」

ピロリ、ピロリ

店員「らっしゃーせー」

梓「あの、すみません。くじは……」

店員「けいおん!一番くじですか? 申し訳ありません。実は……」

梓「ストップ」

店員「は?」

梓「もうその先は聞きたくないです……」

店員「はぁ。えっと、お疲れ様です」

梓「次!」

店員「うちでは取り扱ってませんね」

梓「そうですか」

・・・

店員「くじ? ああ、エヴァの……」

梓「結構です」

・・・

店員「けいおんって何ですか?」

梓「えっとですね……」

・・・

梓「だめだぁ。どこにもないよ……どうしてかな」ガクリ

梓「……今日のところは出直して明日探そう」

警官「君、何してるの? こんな時間に。一人?」

梓「げっ」

警官「君、学生さんだよね? 何歳?」

梓「は、二十……」

警官「……どこの学校かな? 何年生?」

梓(ま、まずいよ……これは)

梓「も、黙秘権を!」

警官「ないから。とりあえず交番に行こっか。危ないし」

梓「うう……お願いですっ、両親と学校にだけは……」

警官「こんな時間にうろついていた君が悪いの」

警官「女の子がこんな時間に何してたのかな? 友達の家? バイト……なわけないか」

梓「……くじ」

警官「は?」

梓「い、一番っ、くじを……引きに…ぐずっ、回っていたん、でずっ…ぐすん…」

警官「はぁ?」

警官「何? くじ? 一番?」

梓「ぐすっ…一番……ぐじ……」ポロポロ

警官「そんなのどこでやってんの? お祭り?」

梓「ゴン、ビ、ニィ…」

警官「わっかんないなぁ」

梓「けい、おんの…一番く、じ……だったんでずっ……」

梓「どごにも……ないんでふっ…どこも売り切れ、なん、です……」

梓「だから、悔しくて……めちゃくちゃ…悔しくて……」

梓「うえぇーんっ」グスン

警官「そっか、そっか。まぁ、寒いから交番の中入ろうな」

ブゥーン、ピタ…ガチャリ

梓「すみません……家まで送ってもらって」

警官「歩いて帰らすわけにはいかないでしょ?」

警官「自転車は明日取りにきなさい。預かっておくから」

梓「はい……」

警官「いい? 今回は見なかったことにしておくから、今後はこんな時間にウロウロしないように」

梓「はい……」

警官「くじだか何だか知らないけど。女の子が無茶しないでくれよ(苦笑)」

梓「申し訳ないです……」

警官「はい。それじゃあもうウチの中に入りなさい。それじゃあね」

梓「お勤めご苦労さまです……」

ブゥーン…

梓「死にたい……」


次の日

梓(眠い……)

憂「梓ちゃん元気ないね。心配……」

純「あの馬鹿は」

憂「え?」

純「梓、昨日ずっと一番くじ探しまわってたの?」

梓「……悪い?」

純「い、いや、悪いとかじゃなくて」

純「無理して体壊したらどうするのさ?」

梓「たとえこの身体朽ち果てようと……」

純「……」

憂「な、なんの話?」

憂「あ、そういえば」

梓・純「?」

憂「じゃじゃーん」ス

梓「!?」

純「あ、そのストラップ! 一番くじの!」

憂「うん。昨日お姉ちゃんと引きにいったんだよ~」

純「いいなぁ、唯先輩と梓のじゃーん」

梓(馬鹿な……馬鹿なっ)

梓「ど、どこで引いたの」

憂「んと、近くのコンビニかな」

梓「ぐぬぬっ……」

純「私らが行ったときにはほぼ全滅してて引けなかったんだよ、それ」

憂「そうなの?」


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最終更新:2011年07月04日 20:36