平沢家 夜
唯「わたし……憂のことが好きなんだ」
憂「……う、うん。私も、好きだよ」
唯「憂っ」
唯「ごまかさないで……気付かないふりをしないで」
憂「え、と……」
唯「憂の返事を聞かせてよ」
憂「い、いやっ……」
憂「わたし……違うのっ、お姉ちゃんのことは、そういう好きじゃないの」
憂「だから、ごめん……」
唯「……ほんとに?」
憂「ほんとに。……お姉ちゃんには、特別な気持ちは持ってない」
唯「そっか。じゃあしょうがないや……」
唯「ごめんね憂……困らせちゃったよね」
憂「ううん、気にしてないよ」
憂「お姉ちゃん、今まで通りに……ね?」
唯「うんっ、仲良くしよう!」
唯(……とか、ね)
――――
翌朝
唯「……つぅ」ズキン
唯(あたま痛い……)
コン コン
唯(……憂が起こしに来た)
コンコンッ
唯「起きてるよぉ」
唯「……憂?」
唯「……」
唯(なんで入ってこないんだろ)
唯(私が……怖くなっちゃったのかな)
唯(レズだから……憂が好きだから)
唯(襲われる、とか思っちゃうのかな?)
唯(憂はもっと頭いい子だって思ってたのに)
ギュ…
唯(……寂しい)
唯「……」
唯「憂、入って来てよ」
唯「どうして入って来ないの?」
唯「なんか憂、いつもどおりじゃないよ」
…カチャ
憂「……起きてないじゃん」
唯「起きてますー」ブー
憂「起きないと、学校遅刻するよ?」
唯「んー」
唯(なんだろ、この感覚……)
唯「いいや。どうせ今日、終業式だけだし」
憂「そうだけど、さ……」
憂「……」
憂「お姉ちゃんこそ、いつも通りじゃないじゃん」
唯「……普通でいられたらよかったけどね」ハァ
憂「今日は休むの?」
唯「うん。めんどくさい」
憂「そう……じゃ」
バタンッ
唯(……そんな強く閉めなくたっていいじゃん)
唯(なに苛々してるの、憂?)
唯(……私もか)
――――
キィ パタン
タ、タ…
唯「……」
唯(憂、行っちゃった)
唯「……ばーか」
唯(天井がとれて、空が見れたら気持ちいいだろうなぁ)
ハァ
ブー ブー ブー
唯「ん」
唯(メールかぁ……)
唯「よいしょ……」カチ
澪『来ないのか?』
唯(……澪ちゃん)
唯(私が休んだ理由、わかってるんだ。……当たり前か)
唯(欠席したことじゃなくて、欠席した理由を心配してくれてる)
唯(「来れないのか?」じゃなくて「来ないのか?」だもんね)
唯『うん、休む』カチカチ
唯「そーしんっ」ポチ
ブー ブ
澪『そうか。ゆっくり休んだ方がいいと思う』
澪『今、みんなで唯の家に見舞いに行こうって話が出てるんだけど、止めようか?』
唯「……」
唯『澪ちゃんとだけ、お話したいかな』
澪『わかった。学校終わったら、一人で行くよ』
唯『ありがとう』カチコカチコ
――――
唯(11時かぁ……お腹減ったな)
唯(朝ご飯食べてないや。……憂、作ってくれてるかなぁ)
唯「……」
唯(もし、憂が朝ごはん置いといてくれなかったら)
唯(それって……)
唯「……頼んじゃおうかな」
カチカチ…
唯『お昼ごはん買ってきてくれない? 澪ちゃんのぶんも出すから』
唯(……ほんとなら、憂に頼むべきことだよね)
唯(というか、帰ってきたらお昼ご飯になる、のかもしれないし)
唯(これを澪ちゃんに送ったら、私は……憂を拒絶するってことに)
唯「……えいっ」ポチッ
唯「押しちゃった」
唯「……」
ブーッ ブーッ
澪『構わないけど、唯にたかるわけにはいかないよ』
澪『心配しないで待ってること。いいな?』
唯『りょーかいです』
唯「……えへへ」
唯「澪ちゃんもいいかも」
唯(……なんて言ったら、鉄拳飛んできそうだけど)
唯(こういうことが言える気分には、長い事なってなかったかも)
グゥーッ
唯「……なに買ってきてくれるかなぁ」
――――
キィッ…
唯「……」
唯「憂、おかえり……」ボソ
唯「……」
唯(澪ちゃん、まだかな)
ピンポーン
唯(来たっ!)
トン トン トン…
唯「……」
コンコンッ
唯「いいよぉ」
ガチャ
澪「唯。気分は?」
唯「……どうかな」
澪「買ってきたぞ。すき家の牛丼」ガサッ
唯「おー、ありがと澪ちゃん」
澪「……なぁ、唯」
澪「憂ちゃんがいるのに、こうやって私に昼食を頼んだということは……その」
澪「……一番悪いパターンになっちゃったのか?」
唯「それは……分かんない。怖くて確かめられてないから」
唯「でもとりあえず、告白は失敗だった。私のこと、そういう好きじゃないって言われちゃった」
澪「……そうか」
澪「ごめん唯、役に立てなくて……」
唯「ううん。澪ちゃんに相談できただけで、すごく支えになってたよ」
唯「食べよっか」
澪「……だな」
――――
唯「よいしょっと」ガサッ
唯「ゴミはうちで処分しとくよ」
澪「あぁ、ありがとう。……」
唯「……」
澪「唯……これからどうするんだ?」
唯「これからって……」
澪「これからの、憂ちゃんとの付き合い方だ」
唯「付き合い方って……そんな、他人みたいな」
唯「……ううん。他人のほうがマシかもしれないぐらいなんだよね」
澪「そういう場合もあるってだけだ。まだ確かめてはいないんだろ?」
唯「そうなんだけど……」
唯「でも多分、憂は私を怖がってる。私のこと避けてるもん」
澪「怖がってる?」
唯「私の予想でしかないけど……私に襲われるって思ってるのかも」
唯「百合とかボーイズラブのエッチ漫画って、大抵そうやってむりやりのHで成立してそうだからさ」
澪「漫画みたいに襲われるかも、か。……そういうイメージは出来ちゃってるかもしれないな」
唯「うん、だから……」
澪「もう修復できないって、唯は思うのか?」
唯「……無理だもん」
唯「今だって、ゴハンだよって呼びに来てくれない。休むって言っても心配してくれない」
唯「部屋に入って起こしてくれなかった。ちっとも笑ってくれない」
澪「……」
唯「もとに戻りたいよ……あれ以上なんにもいらなかったのに……」
唯「憂の笑顔が見たいよ……」
澪「……唯。顔上げて」
唯「やだ」
澪「いいから」グイッ
唯「なに、もう……」
スッ
唯(ヘアピンが)
澪「唯、前見て」
唯(前を……)
唯「……あっ」
澪「笑って」
唯(……鏡が)
唯(ううん。憂が見てる……)
唯(澪ちゃんが後ろから見守ってる)
澪「……なあ、唯。こんなことで気は済むか?」
唯「……憂」ニコ
澪「唯?」
唯(憂が笑ってる……)
ヒュオオ…
澪「っ」ブルッ
澪「ゆ、唯……なんか寒くないか?」
唯「……」
澪「おい、唯っ!」ユサユサ
唯「憂がいる……」
澪「は……?」
フワッ
澪「浮いっ!?」
唯「うん、憂だよ」
澪「ちがうっ、私たち浮いっ、浮いてっ!」
ゴオオオオッ
澪「吸いこまれるうぅぅ!!」ギュウ
唯「澪ちゃん」
澪「唯っ、手離さないで、絶対手離さないで!」
唯「……フリをありがとう」
パッ
ゴオオオォッ
澪「唯いいぃぃ!!」
唯(ここ、何処なんだろうなぁ)
唯(鏡はガラスと銀の膜を貼り合わせたものだって聞いたことがある)
唯(としたら、ガラスと銀の間なのかな)
唯「……ほんとだ、吸いこまれてってる」
唯「ジェットコー、スタっに、のってるみた……い」
唯「うっぷ」
唯(牛丼が……っ!!)
唯(だめ、もう限界……)
唯「おっ」ピュッ
ゴボッ
鏡の中 唯の部屋
カタン…カタカタ
唯「……ん?」
唯「またどっかに隠れてるのかな……」ギシッ
唯「憂ー、今なら見逃してあげるから出てきなさい」
シーン…
唯「……」チッ
唯「腹に一発で済ませてやるから出てきなさい」
ゴトッ
唯「後ろっ!?」ブンッ
唯「おえええぇぇぇ!」ビョー
唯「うわああああっ!?」
ドムンッ
唯「おごぽっ」
唯「ひっ」
ビッチャア…
ゲロ唯「……」
唯「はぁ、コホッ……」
唯「ご、ごめんなさい、私、あのっ」
ゲロ唯「うーいー……」
唯「う、酸っぱい」
ゲロ唯「本気で殺す、今のは絶対許さない」フラッ
唯「あれ? 君……」
ゲロ唯「黙らあああ!!」ブン
唯「ひゃあっ!」スカッ
ゲロ唯「今度という今度は、もうね、ほんとっ」
ゲロ唯「死ね憂っ!!」
唯(憂……?)
ガチャッ
憂「お姉ちゃん、呼んだ?」ニコニコ
ゲロ唯「えっ?」ピタ
唯「……」
憂「わ、お姉ちゃんゲロまみれだし二人……いるし」
憂「え? 天国?」
唯(憂が……)
ゲロ唯「こんなゲロ臭い天国なんかないよ! ちょ、ちょっと……」
ゲロ唯「だ、誰なのあなたは?」
唯「……私?」
ゲロ唯「……」コクコク
唯「平沢、唯」
ゲロ唯「唯、なんだ。憂じゃなく」
ゲロ唯「……」ビシャ
憂「お姉ちゃん?」
ゲロ唯「近づかない」
憂「……ハイ」
ゲロ唯「……シャワー浴びてくる」
ベチャ ビチャ
バタン
最終更新:2010年12月04日 21:26