唯「……えっと」

憂「お姉ちゃん、なんだよね?」ニコッ

唯「う、うんっ」

憂「近く、いっていい?」

唯「だ、だめだめっ、臭くなっちゃうよ。……あ、そうだ掃除しないと」

唯(……)

憂「えっと、じゃあ私が何か拭くもの持ってくるね!」

唯「うん、よよろしく!」

 ガチャッ パタパタ…

唯(……えっと、えっと)


唯(分かんない……)

唯(夢? でも、さっきのお腹を殴られた感じとか、ゲボ吐く感覚とか、すごく……現実だった)

唯(そもそも私は寝てもいないし……)

憂「お姉ちゃん、雑巾持ってきたよ」

唯「あっ、うん、ありがとう憂!」

憂「……エヘヘ」

唯「?」

憂「ありがとうって言ってもらっちゃった」ニコッ

唯「……う、うい?」

憂「お姉ちゃんは優しいんだね」

唯(……)

唯「そんなワケないよ。私が優しいなんて」フキフキ

憂「ううん。会って間もないけど分かるよ」ゴシゴシ

唯「あの人……憂のお姉ちゃんにゲロかけたけど……」

憂「それは仕方ないよ。お姉ちゃんが乱暴したんでしょ?」

唯「うーん……どうかな」フキフキ

憂「お姉ちゃん……私ね、お姉ちゃんに嫌われてるんだ」

唯「えっ? ……ああ、ゲロをかぶった方」

憂「うん、ゲロのお姉ちゃん。……ややこしいね」

唯「……そしたら、ゲロの唯ちゃんって呼ぼうかな?」

憂「汚いよぉ、その呼び方」クスッ

唯「憂が言ったんじゃぁん」クスクス

憂「えへへ……ねぇ、お姉ちゃん」

唯「うん? なぁに」フキフキ

憂「お姉ちゃんは、どこから来たの? どうしてここに?」

唯「……どう説明したらいいかな。鏡を見つめていたら、吸いこまれたんだ」

唯「憂に……憂の笑顔に会うために、来たんだと思う」

憂「わ、なんだかすごい話だね」

唯「信じてない?」

憂「信じてるよ。お姉ちゃんだもん」

唯「ゲロの唯ちゃんは?」

憂「……誰だって、自分のことを嫌いな人より、好きな人を大事にしたいって思うものだよ」

唯「……確かに」

憂「だから、私は」

唯(……)

憂「すごく混乱してる……」

唯「……うん」

憂「私はね。お姉ちゃん……ゲロのお姉ちゃんが好きなんだ」

憂「昨日から、お姉ちゃんを見てたら急にドキドキして、色々アタック仕掛けちゃって」

憂「それだけでも凄く困ってた。今までは私たち嫌い合ってたのに……今は私が自分を抑えられない」

唯「……」

憂「なのに、ね。こうやっていきなり別のお姉ちゃんが現れて」

憂「こんなに優しくされちゃったら、ね」

 パシャッ

唯(ゲロ踏んでる……)

憂「分かるよね、お姉ちゃん?」

唯「あっ……?」グイッ

唯(なに?)

 チュウ

憂「んむっ」チュッ

唯「……」

憂「……ごめんね」

唯「いまの……キス?」

憂「うん、キス……」

唯「なんで?」

憂「好きなんだもん……自分でも分かんないよ」

唯「そ、そっか」

唯(頭が追いつかないよ……)

唯(なんかクサいし……!!)

憂「……お姉ちゃん、もう一回いい?」

唯「だ、だめっ、やだぁ!」

憂「……」

憂「どうしてだめなの?」

唯「だって……私、さっき」

唯(ファーストキスがこんな酸っぱい味だなんて……)

唯(でも私、憂と……ううん、違う! この子は憂じゃないよ、きっと別人……)

憂「……お姉ちゃん、けっこう乙女だね?」

唯「それ以前の問題だよっ! 憂もちょっとは気にしてよ……」

憂「ん、ごめんね……でも」

唯(ここは私のいた世界じゃないはず、よく似た別世界なんだ)

唯(だからこの子は……憂じゃ)

憂「もうわからないんだ。汚いとかイヤとか、お姉ちゃんにそんな感覚もてないの」

唯(憂じゃないのに……どきどきする)

憂「お姉ちゃん、好き……」

唯「……私も、うい好きだよ」

憂「でも、それは……」

唯「憂とおんなじ意味で言ってるよ」

唯「好き。好きだよ、憂ぃ」ギュッ

憂「ふぁっ……」

 チュッ

唯「憂……好き好き、大好きぃ!」チュ チュッ

憂「ん、ぅぁ、はっ……」

唯(やっちゃった)ボー

唯(どんどん戻れなくなってるよ……)

唯「……」

憂「お姉ちゃぁんっ」ギュー

唯「うい……」

唯(ごめん、ごめんね……)

唯「大好き……ずっとずっと好きだった」

憂「……ずっと?」

唯「……」ギュッ

唯「だって、別人なんて思えないよ。こんなにそっくりで……」

唯「……私のこと、愛してくれるんだもん」

憂「私は、あっちの私の代わり?」

唯「代わりなんかじゃ……」

憂「いいんだよ、私なんて代替品で。お姉ちゃんに愛してもらえるなら、それで」

唯「ちがうよ……」

憂「そうやって否定してくれるってだけで、嬉しいよ」チュッ

唯「んむぅ」

唯(……いいのかなぁ)

唯(こんな、何も考えずに幸せになっちゃって)

 バタンッ

唯「!!」サッ

憂「あ……」

ゲロ唯「……掃除はありがたいけど、換気くらいして欲しかったな」

唯(……見られてない?)

唯(見られたからってなんだって言うんだろ……)

ゲロ唯「憂は早く私の部屋から出てって」

憂「……はぁい」

 スタスタ

唯「う、憂!」

憂「また後でね、お姉ちゃん」パタン

唯「……うん」

唯(後って、いつ?)

 カチャン ギッ…

ゲロ唯「ふー、今日も外暑いね」

唯「……」

ゲロ唯「……」ハァ

ゲロ唯「君は、私なんだよね」

唯「……」

唯「そんなの訊かれても、わかんないよ」

ゲロ唯「そっか。そうだね」

唯(別世界の私……どうして憂にひどいことするんだろう)

ゲロ唯「とりあえず、これからどうするか考えないと」

唯「これから……」

ゲロ唯「行くあてとか、ないよね?」

唯「……」コクン

ゲロ唯「じゃあまあ、暫くはうちに居ついていいよ」

ゲロ唯「さすがに他人って気はしないもん。見捨てるのは寝覚めが悪いしさ」

唯「……何か企んでる?」

ゲロ唯「第一印象は悪いかもしれないけど、私そんな悪人じゃないよ」

ゲロ唯「ほら、私としても君が知らないとこでちょろちょろ動くと厄介だし」

唯「確かにそうだけど……」

唯(憂を嫌うような人なんて信用できない)

唯(けど、この世界だと他のみんなも同じように信用できるかは分からないしなぁ……)

唯(憂もいるし、ここに留まった方が良いかな)

唯「ん、じゃあ……お言葉に甘えて」

ゲロ唯「よかった」ニコッ

唯「……」

ゲロ唯「……で、その代わりと言っちゃなんだけど」

唯(もう憂しか信じない)

唯「……私にできることならいいけど」

ゲロ唯「ありがとう。……っとね、あの妹、憂なんだけど」

唯「憂がどうかしたの?」

ゲロ唯「なんかね、昨日からおかしいんだ」

ゲロ唯「私の寝てるうちに部屋に忍び込んでベッロベッロしてきたり」

ゲロ唯「バイオハザードかってくらい物陰から現れて抱き着いてきたり」

ゲロ唯「とにかくまあ、気持ち悪いんだ……」

唯(なに言ってるか分かんない)

ゲロ唯「だから、よければ憂の相手をしてくれないかな」

唯「どうしてそういう風になったか、心当たりはないの?」

ゲロ唯「……あったら、自分でなんとかしようって思うよ」フイッ

唯「? そっか」

唯(何か隠してる……)

唯「そういうことなら、私は全然いいよ」

ゲロ唯「ほんとに?」

唯「うん。わたし憂のこと大好きだし」

ゲロ唯「……」ポリポリ

ゲロ唯「それじゃ、寝床は憂の部屋でいいかな?」

唯「あ、うん。それでよろしく」

唯(憂と一緒の部屋……)

唯(ほんとに夢じゃないのかなぁ? 上手くいきすぎてるよ)ムニー

ゲロ唯「夢みたいって思う?」

唯「……うん。その、幸せで」

ゲロ唯「本当に憂が好きなんだね。……姉妹なのに」

唯「あ、いや、えっと」

ゲロ唯「いいよ。私はそういうの理解してるつもりだから」

唯「……」

ゲロ唯「なんだって、誰かを愛する気持ちには敵わないと思うんだ」

ゲロ唯「だから自由にしていいと思うよ。……せめて夢がさめるまで」

唯「……これは夢なの?」

ゲロ唯「夢みたいなものだよ。きっと、長い夢」

唯「何か知ってるなら教えてよ、ねぇ」

ゲロ唯「唯ちゃんは知んなくていいの! 知ったら不幸になるよ!」

唯(何それ)

唯「……わかった。もう訊かないね」

唯「私だって、この夢から覚めたくないし」

ゲロ唯「うん、それがいいよ」

唯(……なんか不安だなぁ)

唯「もういい? 憂のとこ行きたいんだけど」

ゲロ唯「あ、いいよ。……ごめん、余計なこと言ったね」

唯「なにが?」

ゲロ唯「……」

唯「……それじゃね」スック

 スタスタ

ゲロ唯「……唯ちゃん!」

唯「うん?」

ゲロ唯「あんまり……その、のめり込みすぎないようにするんだよ?」

唯「……それは無理」

ゲロ唯「ちょっ」

 バタン

唯(わけが分かんないよ、あの人)

唯(憂のとこ行こ)スタスタ

 ピタッ

唯(……これが夢だとして)

唯(目が覚めたら、そこには元通りの……私を避けてる憂がいるのかな)

唯(その時に辛くなるから、ゲロの唯ちゃんは私にあんな風に言ったんだろうか)

唯(でも、せめてそれまでは楽しむべきだとも言ってた)

唯(あの子も、どうするべきか悩んでるのかなぁ)

唯(私は……どうしたらいいんだろう)

唯「……ふー」

 コンコン

唯「うい、私だよ。……入るね」ガチャ

唯「……」パタン

唯(あれ、居ない?)キョロキョロ

唯「……いや、いる」

唯「クローゼットの中かな」ガララ

唯「んー……」

 ガタッ

唯「!?」

憂「お姉ちゃんゲットー!!」バッ

唯「うわわああ!!」グイン

 ドタンッ

憂「えへへ、つかまえた」

唯「う、憂かぁ……」ドキドキ

 ガシッ

唯「あうっ?」

唯(顔が両手でがっちり挟まれて……うごかせない)

唯「ちょっと待って憂、私……んむぅ」

憂「ん、ちゅ……」

唯(待って、ダメ、ダメッ!)

唯「んんう、んい……ん、ぐっ」

憂「っ、ふ……んんっ」ニュチュ

唯(舌がっ……息ができない)

 ピチャ レロ…ピチッ

唯「ら、あっ」ピクン

唯(お願い憂、離してっ、しんじゃうよ!)

唯(こんなっ、緊急事態なのに……力が入んない)ボー

憂「ぷはぁっ」

唯(あ……)

憂「はぁ、はぁっ……はぁっ」

唯(憂の口から、涎が垂れてくる……)

唯(まだ酸っぱい臭いがする、のに)コクッ

唯「んく……はぁ、はぁ、ゴホッ」

憂「お姉ちゃん」スッ

唯「待ってよぉ、憂……」

 チュッ

憂「待てないよ」

唯「憂、だめっ!」

憂「!」ビクッ

憂「……お姉ちゃん、どうしたの?」

唯「ごめん……」ムクッ

憂「……」


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最終更新:2010年12月04日 21:27