数時間後。
純「あずさぁー…そろそろ休憩しない?」
梓「まだ半分くらい残ってるじゃん…」
純「だからこそだよ!ちょうどいい区切りじゃん!」
率「梓先輩、多分そろそろ休ませないと純先輩死んじゃいますよ?」
ケラケラと笑っているりっちゃんは、始めてから30分ちょいで終わっている。
私が教えたのもあるだろうが、もともと勉強は苦手、ってわけではないようだ。
…そんなの、りっちゃんのイメージじゃないよ。
梓「はいはい…じゃ、飲み物取ってくるから、適当にくつろいでて。りっちゃんは純が寝ないか見張ってて」
率「了解っす!」
純「信用ないなぁ…」
純「そういえば、今日は結ちゃんは何してるの?」
休憩している最中、純がりっちゃんに尋ねた。
まあ、いつも一緒にいるイメージだからな。
率「結は先週から北海道に行ってますよ。避暑ですって」
そっちにも別荘でもあるんだろうか…あるんだろうなぁ…
梓「へぇ…いいなぁ…」
率「友達の危機に勝手に遊んでるなんて…ああ、なんて薄い友情…」
純「まったくだ!」
純はだまってなさい。
率「そういえば憂先輩は?」
りっちゃんが逆に尋ねてくる。
梓「憂は今日は唯先輩の家に遊びに行ってるよ。まぁ、姉妹水入らずってね」
率「ほお…」
率「そういえば私と結はOGの先輩がたには会ったことないんですよね」
純「そういえばそうだね」
この子たちと先輩たちを会わせたら…澪先輩なんか、卒倒しちゃいそうだ。
唯先輩と…結か。
今は、まだ答えは出せないけど、いつかちゃんと、決めなくちゃならない。
率「唯先輩でしたっけ?結とそっくりな…」
梓「そうだよ?」
率「で、梓先輩はその唯先輩のことが好きなんですよね?」
梓純「!?」
率「隠しても無駄っすよー?私の乙女電波受信アンテナはいつでもビンビンですから」ニヤニヤ
梓「ななっ、ななななななな」
何を。
言い出すんだ、この子は。
率「だって梓先輩、唯先輩のこと話すとき嫌そうに言うわりには、ニコニコしてますもん。バレバレっす!」
なんてこった…
率「話してくださいよー!女の子が集まったら、恋バナの一つくらいしとかないと!」
梓「え、えっと…」
すがるように純を見る。
お願い、何かこの現状を打開する策を…!
純「…」フルフル
諦められた。
うっすい友情だなぁ!
率「さあさあ!」ズズイ
梓「うっ…」
でも、このとき。
私は正直、話しておきたかったのかもしれない。
唯先輩と結。
どちらかを選ぶなんて、私一人じゃできないだろうから。
きっと、その重さに潰されてしまうから。
梓「わかったよ…」
梓「卒業式の日にね、唯先輩に告白したの」
好きですって。
ずっと想ってましたって。
私は素直ではないから、いつも唯先輩のスキンシップも嫌がってたけど、それでも唯先輩は、私に構ってくれた。
…最後の日くらい、素直になると決めたんだ。
梓「そしたら唯先輩…」
唯「私も好きだよ」
梓「!」
唯「私もあずにゃんのこと、大好き。あずにゃんが想ってるのと同じ意味で、大好きだよ」
梓「本当に嬉しかった。私の気持ちが、一方通行じゃなかったんだって。唯先輩も、私を想ってくれてたんだって。」
だけど。
唯「だけど、今は付き合うとかはできないんだ」
梓「えっ…?」
ガツン、と。
頭を殴られたようだった。
唯「あずにゃんには、まだもう一年残ってるでしょ。この学校で、やらなきゃいけないことが」
梓「そ、それってどういう…」
唯「またしばらくしたら、新入生が入ってくるでしょ?あずにゃんは部長になるだろうから、その子たちを引っ張って、いい部活にしてほしい」
唯「私たちがあずにゃんにしてきたように、優しくしてあげてほしいんだ」
梓「…」
言っていることはわかる。でも、それが私たちが付き合えないってことに関係あるのか、って思った。
そしたら、唯先輩はニコッ、て優しく笑って、
唯「きっとまた、いろんな出会いがあると思う。私たちが、あずにゃんに出会ったように」
唯「もしあずにゃんが自分のやるべきことを終えて、そのときにまだ私が一番好きでいてくれたら」
唯「また、私に会いにきて。私はずっと、待ってるから」
梓「…って言われたんだ」
純「へぇ…そこまでは聞いてなかったな…」
率「なんかドラマみたいっす…」
梓「でも、私はいまだに唯先輩のことばっか考えちゃうし、唯先輩に言われたとおり、ちゃんと先輩できてるか…」
率「大丈夫っす!」
梓「?」
率「梓先輩は…もちろん他の先輩もですけど、私たちにすごい良くしてくれるし、仲良くしてくれるし!私は、先輩たちに出会えてよかったっす!」
率「きっと結も、そう思ってます」
梓「…ありがと」
純「なによー、りっちゃんもたまにはいいこと言うじゃない」
率「たまにってなんすかー!」
そんな2人のやりとりを見て、クスリと笑う。
私はまだ、唯先輩のところには行けない。
この笑顔を絶やさないように、まだまだがんばらなきゃいけない。
だって、部長だもん。
率「いやーしかし…」
りっちゃんが気まずそうに笑う。
梓「ん?どしたの?」
率「いや、梓先輩と唯先輩がそういう関係だったとは…」
なにをいまさら。見抜いた、って自分で言ったんじゃないか。
率「私はてっきり、嫌そうに言ってるけど本当は仲いいんでしょ?みたいな…ライクとか友情とかそういう意味で言ってたんですけどね」
え?
え?
梓「…」
純「…」
率「…?」
梓「うわああああああああああ!!!!!!!!!」
純「あ、梓!梓が壊れた!!!」
率「え?なに?どうするのこれ?」
顔が熱いなんてもんじゃない。顔が火だ!そう、私は火!何言ってんだ私!!
まさか…そんな…
これじゃ私、ただのろけ話を話しただけじゃないか!いくらなんでもそんなのありえない!
梓「はあ…はあ…」
純「あ、梓…?」
率「大丈夫っすか…?」
梓「…宿題、しよっか」
純率「はい」
宿題をしました。
その後なんとか宿題を終え、二人は帰っていった。
今日の話は他言無用と、念を押したのは言うまでもない。
その日の夜、結からメールがとどいた。
広い草原で微笑む、結の写真とともに。
そういえば北海道にいるって言ったか…
その写真を見ながら、ベッドに寝そべり、考える。
ねえ、唯先輩。
私、ちゃんと先輩できてるみたいですよ。
でも、私はまだ、あなたのところには行けません。
出会いって不思議なものですね。
あれだけあなたしか見えてなかったのに。
今はまだ、私には選べないんです。
そして、夏休みが終わった。
私にとって、いろんなものをもたらした夏休みが。
ある日、いつものように練習前にお茶を飲んでいるときに、学園祭の話になった。
率「いよいよ学園祭も近づいてきました!!」
わかっとるわい。
憂「2人にとっては初めてライブだね?」
結「はい!私、がんばります!」フンス
後輩2人は、特に気合いが入ってる。
…唯先輩とか律先輩みたいに、風邪なんてひかないでよ?
純「そういえば、先輩たち学園祭見にくるって?」
梓「うん、みんな大丈夫だって。律先輩なんかは、授業サボってまで来るとか言ってたけど…」
憂「でも、そこまでして来てくれるなんて嬉しいな」
それはそうだけど…
純「そういえば梓、今年はなんか衣装ないの?」
梓「ない!」
あっても着るもんか!
結率「?」
しかし、先輩たちに会うのも久しぶりだ。
先輩たちは、私たちの演奏を聞いて、喜んでくれるだろうか。
緊張はする。
しかし、それ以上に…やりがいがある。
梓「みんな、がんばろうね」
改めてみんなと決意を新たにする。
みんなそれぞれ、思い思いの顔をしている。
…うん。気合いはばっちり。
そして学園祭までの間、みんな練習にも力が入り、とてもいい状況で本番を迎えられた。
…そして、学園祭前日の練習。
ジャジャ、ジャジャ、ジャーン
純「ふう。みんないい感じだね!」
憂「うん、息もばっちりあってきたし!」
梓「よし、それじゃ今日はちょっと早いけどこれで終わり、各自ちゃんと休んで、明日忘れ物のないようにね」
結率「はーい!」
…忘れ物は、前例があるからなぁ。
そして、帰り道。
私は、結に話したいことがあると言われ、二人きりで帰っている。
結「…」
梓「…」
なんだろう、この沈黙は。
…いや、私には分かる。
同じことをした私には。
結「あの、梓先輩」
梓「ん」
ゆっくりとした時間が流れる。
…懐かしいな、この感覚。
結「私、先輩たちとバンド組めて、本当に幸せです」
梓「…うん」
結「先輩たちは優しいし、りっちゃんは面白いし…軽音部に入ってから、楽しいことばかりでした」
結「でも、一番嬉しかったことは」
梓「…」
結「梓先輩、あなたに出会えたことです」
結「新歓ライブで初めてあなたを見て、かっこいいなと思ったんです」
結「こんなこと言ったら失礼ですけど、私より全然小さい体で、ステージで歌うあなたが私には輝いて見えました」
梓「はは…」
確かに失礼だぞ、結ちゃん。
結「私が軽音部に入った理由の大半は、あなたなんです。梓先輩」
梓「…」
それは…初耳だ。
結「実際に軽音部に入ってみても、あなたは私が思ってたとおり、優しくて頼りになる、でもかわいい先輩でした」
結「そこで唯先輩たちの存在を聞かされて…びっくりしましたけど、そのとき私は思ってたんです。」
結「梓先輩…唯先輩のこと、好きなんですよね?この前話を聞いて、なんとなくわかりました」
…結にもバレバレか。
結「唯先輩に似てる私なら、私のことも好きになってくれるかなって」
梓「それは…」
結「わかってます、それがずうずうしいことだって」
結「私は唯先輩ではないし、そんなことで好きになってもらっても、意味がないって」
結「だから、今なら言えます。唯先輩ではなく、私を見てほしいって」
結「梓先輩」
結「私、梓先輩が好きです」
梓「…」
結「ライブ前にこんなこと言うべきではないとは思うんですが…唯先輩が来るって聞いたらいてもたってもいられなくなって」
結「返事は、学園祭のあとでいいです」
結「話聞いてくれて、ありがとうございました。…それではまた明日!」
梓「…うん、また明日」
そうして明日、学園祭を迎える。
当日、私たちが部室にいくと、そこには…
唯「あーずにゃーん!!!!」だきっ
梓「ゆ、唯先輩!?」
憂「お姉ちゃん!」
澪「久しぶりだな」
律「おーみんな!」
紬「元気そうでなによりだわー」
先輩がたが、勝手にお茶していた。
紬「ここでお茶淹れるのも久しぶりだわぁ」
澪「大学行ってからはこういうことしてなかったからな」
純「そうなんですか?」
律「そうなんだよ、あんまりまとめて集まれる時間がなかったからな」
憂「へぇ…」
唯「あずにゃーん!会いたかったよー!」スリスリ
梓「ちょっと、離れてください!」
律「あそこはいつも通りだな」
澪「ああ」
紬「いいわぁ…」ホクホク
最終更新:2010年12月08日 02:23