そんなことをしていると。

結「おはようございまーす」

律「おはっす!」


一同「…」


唯澪律紬「ええええええ!!!!!??????」


紬「ゆ、唯ちゃんとりっちゃんが二人!?」

澪「…」パタン

梓「み、澪先輩!?」

律「な、なんだ!?私が2人いる!」

唯「ほぇー…」

まあ…こうなることはわかってたけど。

とりあえず場が静まったところで、2人の新入生を紹介した。

梓「…ということで、新入生の結とりっちゃんです」

結「は、初めまして」

率「すげー!ホントにそっくりだー!」

律「ホントにこんなそっくりなのってあるんだな…」

唯「ねー…びっくりしたよー…」


まあ最初に会ったとき、確かに私たちもびっくりしたからな。

純「しかし…改めて見ると本当に似てますね」

憂「うーん、いざ比べてみると、お姉ちゃんと結ちゃんの違いはわかるけどね」

わ…わかるのか。すごいな…。

率「りーつ先輩!記念に写真撮ってくださいよ写真!」

律「おぉ!いいねいいね!」

澪「律が二人か…見ててなんだか疲れるな…」

唯「結ちゃんっていうんだー、名前も一緒だね!」

結「は、はい」

結はなんだかちょっと緊張しているようだ。
…結は今、何を思っているのか。
唯先輩への憧れか。それとも、立ち向かうべき敵と見ているのか。

紬「あの二人は、見ててなんだか和むわね」

澪「そうだな」

二人はこう言っているが…実際、二人の間の事情を知ったら、驚愕するんだろうな。

憂「あ、梓ちゃん、もうこんな時間」

気がつくと、もう本番の時間が迫っていた。

澪「じゃあ、私たちは観客席に行ってるな」

紬「みんな、がんばってね!」

律「おいりっちゃん、緊張してミスるんじゃないぞ?」

率「大丈夫ですって!」

唯「…」

みんな一人一人声をかけてくれたが、唯先輩だけは何も言わなかった。

まさか、今の時間だけで、私と結の間に起こったことがわかったのだろうか。

…でも、唯先輩、こういう時は鋭いんだよな。

梓「唯先輩」

唯「ん?なぁに?あずにゃん」

唯先輩を呼び止める。

梓「ライブが終わったら、話があります」

唯「…うん」

梓「待ってて、くださいね」

唯「うん」


そして私たち5人の、最初で最後の、学園祭ライブが始まる。

ステージのそでから講堂を見ると、すでにたくさんの人たちで溢れていた。

結「うわぁ…すごい人」

憂「お姉ちゃんたちで、桜高軽音部って結構有名になったからね」

純「いまや、学園祭の目玉イベントだもんね」

率「よーし!テンション上がってきたー!」

初めての学園祭ライブというわりには、みんなあまり緊張はしていないようだ。

どちらかと言うと、みんなこれから巻き起こるであろう歓声に期待して、興奮しているようだ。

…私も含め。

観客席を見ると、唯先輩たちのところに人だかりができている。

…本当に、有名人みたい。

あんな人たちと、私は一緒にバンドをやっていたんだなぁと思うと、なんだか自分があの輪にいるようで少し照れくさい。

しかし、今はそれどころではない。
私は、この5人で、バンドを組んでいるんだ。

そして、前の組が終わり、私たち軽音部がコールされる。

梓「よし、行くよ、みんな!」

憂純結率「おー!!」


舞台の幕が上がり、私たちは大きな歓声につつまれる。

と、そのとき、歓声がちらほらとどよめきに変わりつつあった。

…まぁ、恐らく結とりっちゃんのことだろう。

そんなことは気にせず、ボーカルの私はMCを始める。


梓「こんにちは、桜高軽音部です!!」


梓「私たちは新入生二人を加え、新しく再出発しました」

梓「とは言っても、私たち三年生がライブをするのは今日が最後なので、この5人でライブをするのは、最初で最後です」

梓「去年までの軽音部を知っている人からしたら、私たちの演奏は全然未熟なものかもしれません」

梓「それでも、」

それでも。

梓「これが、今の私たちの音楽なんだって、胸を張って言えます」

その言葉に、嘘偽りはない。

梓「バンドの全員が、そう思ってくれていると、私は思います」

純の顔を見る。
憂の顔を見る。
りっちゃんの顔を見る。
結の顔を見る。

みんな、頷いてくれている。


梓「私たち新生軽音部の演奏が、少しでも皆さんの心に届くように、全力で歌います!」



梓「聞いてください、「U&I」!!」


りっちゃんのドラムが鳴り響き、曲が始まる。

この歌は、唯先輩が、憂のことを思って作った歌ということだ。

そうやって、誰かのことを思って作ったものは、ちゃんとその人の心に届く。
私はそう信じてる。


…だからこの歌も、私はあなたを思って歌うんです。

キミの胸に、届くかな?

一曲目のU&Iを成功させた私たちは、そのまま波に乗って、二曲目、三曲目も問題なく終えられた。

観客の反応も、上々だ。

梓「ありがとうございました!…それでは、次が最後の曲になります」

先輩たちを見る。

梓「私は、今の軽音部の中では一番の古株になりますが、この曲はやはり、桜高軽音部の原点であるように思います」

梓「私は気がつけばこの曲を口ずさみ、いつでも頭の中でこの曲を歌うところをイメージしていました」

梓「…ある意味では、私はこの曲とともに、過ごしてきたといってもいいかもしれません」

先輩たちを見る。
作った本人である澪先輩とムギ先輩は、少し照れくさそうにしている。

梓「その曲で、私の軽音部生活を終わらせられることを誇りに思います」


梓「最後の曲、「ふわふわ時間」!!」


もう何度聞いたかわからない、出だしのイントロを結が奏でる。

それを聞くと、ああ、これで終わりなんだな、としみじみ思ってしまう。


思えば、先輩たちが卒業して、私一人になった軽音部に入ってくれたみんな。
りっちゃんなんかは、尊敬できる先輩、なんて言っていたけれども、私はみんなに、いくら感謝しても足りないくらいなんだ。

みんながいたから、今こうして、大勢の人の前でライブができる。

先輩たちに、立派になった私たちの姿を見せられる。

みんなに支えられて、私はここまで来れたんだ。


本当に、ありがとう。


歌いながら、この数ヶ月の生活が、走馬灯のように蘇ってくる。

純のこと、憂のこと、りっちゃんのこと。

そして、結のこと。


みんなと過ごした大切な日々が、これからも続いてほしいと、心から思う。

そして、それが決して叶わない夢であることも。

…そのとき私は、去年先輩たちが学園祭のあとに流した涙がどんなものだったのか、理解できた気がした。


「ふわふわ時間…」

ジャジャ、ジャジャ、ジャーン

最後のピッキングは、いつも以上に強く。
この時間が、少しでも長く続くように。


そして、長く響いたギターの音が終わると、地鳴りのような拍手が響いた。

先輩たちも、立ち上がって拍手してくれている。

見てくれましたか?先輩たち。


私は、先輩たちがいなくても、ここまでやってこれました。
ここにいる5人、みんなの力で。


ステージの幕が降り、ライブの終わりを告げる。

…そのとき、私は一つの問題に、答えを出した。


ライブが終わって、部室。
みんなそれぞれに、互いを誉めあったり、まだやり足りないとでも言うように、楽器を鳴らしたりしている。


…みんな、とてもいい顔をしていた。

そんなとき。

律「おっつかれさまー!!」

唯「すごいよかったよー!」

澪「とても春できたばかりのバンドとは思えないくらい、息もばっちり合ってたな!」

紬「みんな素晴らしかったわぁ!」

先輩たちが、ねぎらいに来てくれた。

純「ありがとうございます!」

憂「お姉ちゃん、見ててくれた?」

率「ほーら律先輩!失敗しなかったでしょ?約束通り、ジュース一本ですよ!」

結「り、りっちゃんたら…」

いつの間にそんな仲良くなったのか、先輩たちと交流するみんなを見ていると、律先輩に声をかけられた。

律「お疲れさん」

梓「どうも。皆さん、楽しんでいただけました?」

一番気になるところだ。

律「ああ、すごくよかったよ。MCのとこなんか、澪のやつ少し涙目だったしな」

そうか…精一杯、考えたかいがあったな。

律「それも踏まえて、梓、お前はよくがんばった」

いつの間にか、みんな私の周りに集まっていた。

律「お疲れさん」

梓「どうも。皆さん、楽しんでいただけました?」

一番気になるところだ。

律「ああ、すごくよかったよ。MCのとこなんか、澪のやつ少し涙目だったしな」

そうか…精一杯、考えたかいがあったな。

律「それも踏まえて、梓、お前はよくがんばった」

いつの間にか、みんな私の周りに集まっていた。

澪「正直、失礼な話だけど梓のことは心配だったんだ」

紬「一人で大丈夫かって。部長という重責に、潰されてしまわないかって」

律「でも、お前はがんばった。そして、バンドを一つにまとめあげた。これは間違いなく、お前の力だ」

唯「あずにゃんは、部長という仕事を、完璧にこなしたんだよ」

憂「経験のある梓ちゃんは、私たちにとってとても頼りになる存在だったんだよ」

率「入ったばかりの私たちにも、馴染みやすいように優しくしてくれました」

純「バンドとして一つになることを押しつけるんじゃなく、自分たちでそう思えるようにできたのも、梓が一番にそう思っていたから」

結「梓先輩がいたから、今日の私たちがいるんです」


「だから、ありがとう。そして、おめでとう」



誰が言ったかはわからない。みんなが言ったのかもしれないし、幻聴だったのかもしれない。


私はそのとき、すでに泣き崩れていたから。


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最終更新:2010年12月08日 02:25