チュンチュンチュン
澪「朝……」
日付を確認する
8月17日
澪「またか…」ハァ…
もう何回目になるだろう
澪「……」
ベッドから出て、支度をする
澪母「ごめーん!!お母さんもう出かけるから、ご飯自分で食べてー!!」
知っている
澪「はーい」
毎回と同じように学校に向かう
澪「……」テクテク
私は8月17日から2週間を繰り返している
理由は分からない
8月31日の夜に急激な眠気が襲ってきて
気がつくと8月17日に戻っている
10回目までは数えていた
自覚していないだけでもう何万回も繰り返しているかもしれない
だからこの2週間で何が起こるか知っている
よく遅れるバスが珍しく定刻に来ることも
明後日の補習で抜き打ちテストがあることも
部活でムギが持ってくるお菓子の種類も
唯がするテレビの話も
律が今日の練習で間違える場所も
梓が女の子の日で、やたらテンションが低いことも
全部知っている
澪「いったいどうしたら……もう疲れた……」
と言っても今回で終わるかもしれないので、毎回と同じように暮らす
澪「他に誰かいないのかな…」
このループを自覚している人は私の他にいるだろうか
澪「いつまで続くんだろう…」ハァ…
このまま夏休みが終わらなかったら
私だけ永遠の時間を過ごす事になってしまったら
澪「…嫌」
ずっと夏休みが続けばいいなんて思ったことはあるけど
澪「そんなの…嫌だよ…」ポロポロ
毎回と同じ内容の補習を聞き、部室へ向かう
律「おーす澪」
唯「みおちゃんおそいー!!」
紬「澪ちゃんは特進クラスの補習だから…」
梓「澪先輩、お疲れ様です…」ハァ…
いつも通り私が一番遅い
澪「ごめんごめん」
唯「ムギちゃんお茶早くー!!」
澪「あれ、まだだったのか?」
唯「ムギちゃんが、『澪ちゃんが来るまで待ちましょう』って言うから…」
あれ?
今までだったらもうお茶をしていて
私の分だけムギが後で持ってきて
「澪は太るからな」と言って律に横取りされるはずなのに…
律「澪が来たんだから早くー!!」ジタバタ
紬「はいはい」トトト
ムギがお茶を煎れる
澪(まあ微妙な違いは今までもあったし…)
澪(でも…今回は何かおかしい気が……)
紬「…………」
紬「はいどうぞ」
唯「わーい♪」
律「やっぱっこれがないとな」
梓「食べたら練習ですよ…」ハァ
この会話は初めて聞く
澪「…………」
紬「澪ちゃん、食べないの?」
澪「あ、いや…」
律「食べないなら澪の分もーらい♪」ヒョイパクッ
澪紬「あっ」
律「澪は太るからな」モグモグ
紬「………」ハァ
結局ケーキは食べれなかった
澪(ムギ…今のは何のため息なんだ?)
澪(……あっ!!)
さっきの違和感の正体が分かった
今までは私が言動を変えた結果、周りの言動が変わっていた
でも今回の今日は特にまだ何も変えていない…
なのに
ムギは
ムギから
変わった
と言うことは…
澪「ムギ……後でちょっと話いいか?」
紬「……はい」
律「なんだ澪、怖い顔して?」
唯「二人で何の話ー?」
澪「内緒だ」
唯「えーずるいー」
澪「さ、練習するぞ」
唯「流された…」
練習後
梓「お疲れ様でしたぁ…」ハァ…
唯「?、澪ちゃん帰らないのー?」
澪「あ、私は…」
律「ムギと秘密のお話だもんなー」
心なしか律の機嫌が悪いような
紬「ごめんなさいねりっちゃん」
律「べべべ別に悪いだなんていいい言ってないよ」
梓「ハァ…何に動揺してるんですか?」
澪「そういう訳だ。悪いけど先に帰っててもらえないか?」
律「…わーったよ。じゃあまた明日なー」
唯「ばいばーい」
ガラガラピシャン
澪「……」
紬「……」
澪「なあムギ」
紬「はい」
澪「今から変なこと聞くぞ」
紬「はい」
澪「心当たりが無かったら、忘れて欲しい」
紬「はい」
澪「………何回目だ?」
紬「澪ちゃん、主語がないわ」
澪「無くても分かるだろう」
紬「……10回目までは数えてたわ」
澪「やっぱりムギもか…」
少しホッとした
何の解決にもなっていないけど
一人じゃなかった
それが嬉しい
それからムギと知ってることを色々話した
同じく今から2週間が繰り返されてること
それを逃れるために色々行動を変えていたけど、どれも無駄だったこと
ムギが経験した2週間の中で、私の行動には変化があったこと
澪「私の2週間でのムギはあまり変わっていなかったけど…」
紬「軽音部では平静を装ってたから…」
澪「てことは、私とムギが過ごした時間は一緒だったってことか」
紬「そうみたいね」
ムギは私の行動が変わったことに違和感を感じていたようだった
澪「だったら、ムギから声をかけてくれれば…」
紬「もし澪ちゃんが気づいてなかったら、私、変な人に思われると思って…」
ムギは十分変な人だ
澪「まあ今となってはどうでもいいことか」
紬「ええ…」
澪「ムギは…」
これは、聞きたいような聞きたくないような…
でも聞かなきゃいけない
澪「他に…この現象に気づいてる人を知ってるか?」
澪「そっか……」
どうやら私の周りにはムギしか仲間がいないようだ
澪「ムギは…何が原因だと思う?」
紬「…ここまで非現実的だと、皆目検討も付かないわ」
澪「だよな…私もだ」
自分で聞いておいて、ちょっと落ち込む
紬「……魔法使いがやってるとか」
澪「はぇ?」
紬「あ、いや…どうせなら思いっきり非現実的なことを考えようと思って…」
澪「……」
確かに
非現実的なものの答えは非現実的かもしれない
紬「その人たちが卒業するまで永遠に続く…とか」
澪「モニターの前の魔法使いとその予備軍、今すぐソープ行ってこい」
澪「…まあさっきのは置いといて、そうだとしたら何が目的だろう」
紬「やり残したことがある、とか」
澪「単純に終わって欲しくない、とかか」
澪「やっぱり、私達の周りに原因があるはず」
紬「どうして澪ちゃん?」
澪「だって、私とムギしかこの事態に気がついていないじゃないか」
澪「いろんな人が人が気づいているなら、少しくらい他から耳に入ると思う」
紬「…そうね」
澪「私達の周りっていったらやっぱり…」
軽音部しかない
紬「唯ちゃんにりっちゃん、それと梓ちゃん…」
澪「先生も」
この中に、この現象を起こしてる人がいる…?
澪「…全然説得力の無い推理だけど」
紬「今はこの方針で行くしかないわね」
それから私達は軽音部のみんなを注意深く観察した
澪(どこかに手がかりがあるはず…)
でも、軽音部のメンバーに特に目に付く行動は無く、再び8月31日を迎えてしまった
澪「何も分からなかったな…」
紬「24時間体制で監視していたんだけどね…」
澪「えっ」
紬「いい口実ができたかr…かわいそうだと思ったけど、仕方なく家に監視カメラと盗聴器を仕掛けたの」
澪「…私の所もか?」
紬「うふふ///」
澪「…まあ一応どんなだったか聞かせてくれるか?」
紬「りっちゃんと唯ちゃんはゴロゴロしてるか何か食べてるかテレビ見てるかで、梓ちゃんは勉強かギター」
澪「先生は?」
紬「唯ちゃんの生活にやけ酒か追加されてるわ」
澪「先生…」
紬「また、繰り返しちゃうのかな…」
澪「分からない…でも多分明日は8月17日だろう…」
紬「……もう嫌」グスッ
澪「ムギ…」
紬「なんで……気づいてしまったの…?」
紬「みんなみたいに気づかずいられたら…こんなに辛くないのに……」ポロポロ
澪「………」
そうだ
私も気づいてなかったら
苦しむことは無かっただろう
でも
澪「ムギ」、それじゃダメだ」
紬「…」グスッ
澪「次も、次の2週間も、一緒に解決策を探そう」
紬「澪…ちゃん…」
澪「探して、夏休みを終わらせよう」
紬「…昔は、終わるのがあんなに嫌だったのに、今は早く終わらせたいなんて。おかしいね」フフッ
澪「私も、朝同じこと考えてたよ」
紬「そうだ、合図を決めておこう、『ちゃんと繰り返しに気がついてますよ』っていう」
澪「いいなそれ。どんなのにしようか?」
紬「じゃあ、『8月17日の部活は髪を結んで行く』っていうのはどう?」
澪「よし分かった。じゃあ、また17日に」
紬「…今度こそ、終わらせよう」
澪「うん」
最終更新:2010年01月26日 00:16